HARDry TricK -the principle of living only for the moment-
[ 89 : その日まで… ]
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都市開発部門のスラム地区整備のプロジェクト。 それに関して、ツォンは早速尽力することになった。 説明を聞いたのは昨日で、今日から早速というようにスタートしたこのプロジェクトは、まずはスラム地区の地質調査をするのだということでそれなりの人員が動いている。 スラム地区の人間はただでさえ神羅に敵意を持っているものが多く、その辺を踏まえるとまずこの段階からしてかなりの苦労を強いられるといっていい。地質調査をするにも、住人の協力は必要だからだ。 ツォンはその地質調査には実際に関係などなかったが、それに関して住人に一時的な移動をしてもらうだとかそういった細かな作業をすることになっていた。 実際のところ、こういった神羅の動きが始まると、それに乗じて問題を起す人間も出てくる。そういうものは組織化していたりしなかったりと様々だが、ともかく問題が生じた場合の先手としてタークスの配備がなされているのだ。 スラム地区に入り込んでいたツォンは、そこで住人の移動誘導兼護衛などを勤めると、同じくその場所に配備されていたらしい護衛兵に状況の報告などをする。 この護衛兵は先程まで他の任務についていたらしく、遅れてこの場にやってきた。 だから少しばかり状況説明が必要だろうと思ってそうしたのだが、どうやら特別な説明を聞かずとも問題はないと知っていたらしい。 「今まで他の任務に就いていたのか」 次の誘導まで時間が少しある、そう思っていたツォンは、遅れてやってきたこの兵士に向かってそう問うた。すると兵士は、はい、と元気良く答えてその内容についてハキハキと説明したりする。別段聞いてもいないのに、と思ったが、その元気の良さが何だか妙に心を和ませて、思わずツォンはそれに聞き入ってしまった。 しかし、それも思えば何かの縁だったのかもしれない。 「今まで、護衛というか見送りをしていたんです!昨日、社長から報告があった副社長の出張の件です!」 「ル…副社長の見送り?」 ドクン、心臓が鳴る。 「はい!何だか厳かでした。自分は初めてそういう場に参加したんですが、心を込めて敬礼をしてきました。きっと副社長も喜んで発たれたものだと思ってます!」 「ああ…」 なるほど、ルーファウスのような要人にはそういう一種儀式めいたものがあるのも当然だったか。あまりにも近くにいすぎたのか、そんなことは抜けきってしまっていた。 とはいえ、本社最上階のヘリポートから発つことくらいは分かっていたのだから、一瞬は見送りをしようという気持ちが横切らなかったわけではない。しかし、昨日ルーファウスが言った言葉からするに、それをする事はまた違うような気がした。 己の責任を全うすると言ったルーファウスに対し、ではツォンが自身の責任を全うするのだとしたらそれは、今此処にある任務を果たすことである。スケジュール的にルーファウスの発つだろう時間は既にこの任務が入っていたため、仮に見送るとしたらそれは任務を一時的にでも放棄することになってしまう。例えばこの兵士のように、見送りを義務付けられた者だったら話も別だが。 「副社長は…どんな様子だった?」 ふと、そんな言葉を漏らしてしまってから、ツォンはハッとした。 何を聞いているのだろうか、そんなことはこの場では必要の無いものなのに。 そう思ったものの、兵士の方はそう聞かれたことが嬉しかったのだが、ハキハキとしてこう答えたりする。 悲しくなるくらいの純粋を乗せた目で。 「はい!副社長はプロジェクトの成功を祈ると仰ってました!それから笑顔で発たれました!」 「…そうか」 ―――――――――――そうか、笑顔で…。 そう思うと、何故だか自然と顔が緩やかになる。 本当ならば、緊張こそ持っていなくてはならないのに。 「――――」 ふと、上方を見上げた。 しかしそこにはミッドガルのプレートが見えるだけで空というものが見えない。それはいささかツォンの心にチクリと何かを残したが、それでもそのプレートの上にあるだろう空に向けて、そっと笑んでみる。 そうした次の瞬間には、ツォンの表情はタークスのそれへと変化していた。
その日の任務が終わった後、別件で任務を遂行していたレノとルードと合流した。 今日は、いつだか言っていた事を実行に移そうとしていたからである。 それはいつだったかツォンが言った、今度皆で飲みにでも、などという言葉のことであったが、それはツォンの思っていたよりも随分と早く陽の目を見る事になったらしい。 まさかこんなふうに出来るとは思ってもみなかったのに。 それでもその誘いをかけてきたのがレノだったことは、事の大きさを伝えていた。 こんなふうに、溶けていく。 様々なもの。
“いってらっしゃい” その言葉には対があることを、知っているだろうか。 その対の言葉は、心があるからこそ存在することを知っているだろうか。 そこには、心がある。
心は、もう決まっている。
答えは、もう決まっている。
だけれど今それは、プレートの向こうの、その更に上方へ。 過去、現在、未来を繋ぐ空の彼方へ。 遠い場所へ。
いつか心と答えがこの場所に返る時、その対の言葉を告げよう。 その言葉を告げる心こそが答えであるように。
その日まで―――――…神様、どうかこの心に強さを。
Hardry TricK / END
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