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PM 3:00 ------------------------ 口伝いに新鮮な果物を渡す。 果汁が溢れ、口の中で噛み砕いた後に舌を絡める。 恒例のティータイムだった。
大体そういう時は、珍しくその部屋は鍵がかかる。 ブラインドは締め切りで、書類にまみれたデスクがベッドに変貌する。 デスクの上での決まり事。 ティータイムは秘密の一時だった。
「ルーファウス様あっ!」
ふと声が響いて、ルーファウスは露骨に嫌な表情になった。 弾かれるように離された体を、回した腕で強引に引き戻すと、躊躇する口を無理矢理に捕らえる。
「ルーファウス様ってばあっ!」
ドンドン、と叩かれる扉に、今度こそルーファウスは怒りを露にした。 「うるさいっ!その内行くから、どこか違う所で待ってろ!」 「へーい」 声の後に、パタパタと去っていく足音が聞こえ、ルーファウスは大きく溜息を吐いた。 「レノですね」 かけられた言葉に、 「ああ。本当にいっつも毎度毎度良いタイミングだ、あいつは」 と呆れ口調で返す。 そもそも自分の立場上、この秘密をこの時間に持つことこそ間違っていた。が、それはもう既に恒例で、そうあらねばならない事柄になっている。 「…どうしますか?」 これからという時にレノの声で中断された“秘密事”に、男はそう聞いた。気分が削がれたのは言うまでも無い事だったし、レノの用件とやらも気にかかる。 だが決定権はいつもルーファウスにあった。 ルーファウスは壊れてしまった雰囲気に嘆息しながら、 「もう良い。レノの用件を聞きに行こう」 とだけ言った。
レノの用事とやらはそう大した事でもなく、それはまたもやルーファウスを不機嫌にさせた。 内容の如何について、というよりはティータイムをじゃまされた事のほうが大きい。 結局、何かがモヤモヤしたまま、その日の執務全般は終了した。 ミットガル郊外にある自宅に帰ろうと荷物を纏めていたツォンは、もう既にガランとしている神羅の中で、ふとかけられた声に顔を上げた。 「何だ、レノか」 相手の顔を確認し、それから気が抜けたようにそう言う。 「俺で悪かったな、っと」 「別に悪いなんて。何か用か?」 「俺も一緒に帰るぞ、っと」 「そうか」 そんな簡潔なやりとりで、二人は一緒に帰宅する事になった。 同じタークスではあったが、プライベートな干渉をする間柄では無く、共に帰宅するという事もあまり無い。 それは単に、ツォンの立場がタークスの中でも特殊だったせいもあり、残業などというのは当然のようにあったからだ。それは神羅の、というよりもルーファウス個人に関係する仕事が大部分を占めていた。
神羅カンパニーから出ながら、レノは大欠伸なんかをする。 それから、隣で黙々と歩くだけのツォンを見た。 「俺は気になってるんだぞ、っと」 ふとそんな言葉をかけられたツォンは、え?、と顔を上げる。 「午後三時。おやつの時間。ルーファウス様に産地直送新鮮果物を届けるのはいっつもツォン。その時間はいっつも鍵。…あ・や・し・い〜!」 「なっ…!」 いきなりそんな事を言われ、ツォンは思わず咳き込んだ。つい焦ってしまったが、これ以上に気を緩ませると返って怪しまれるだろうと思い、ツォンはワザとスーツをなおしたりして気を引き締める。 その態度を横目に見ながらレノはボソリと呟く。 「…昼下がりの情事…」 「馬鹿か、お前はっ!」 遠慮なくレノの頭をピシャリと叩いたツォンは、酷い〜痛い〜などと叫んでいる相手を無視してスタスタと歩を進めた。 レノは、ちょっと待って、などと言いながら慌ててそれに付いていく。 ツォンは正直、焦っていた。 確かに実際、ツォンとルーファウスはそんな事を繰り返していた。レノの言葉を借りれば、“昼下がりの情事”―――正に言葉通りである。 それは二人の秘密ごとであり、誰にも知られる訳にはいかなかった。 「じゃじゃじゃ、俺がルーファウス様に持ってっても良いのか?」 つれない態度のツォンに追い討ちをかけるべくかけられた言葉はそれだった。 「何だと?お前が…?」 思わず足の動きが止まった。 確かにツォンがそれを運ぶのは、暗黙の了解というだけであって、別に決められた事では無い。 しかし、もしそうなったら、ルーファウスとのあの秘密は、ツォンの中から消えてしまう事になるのだ。 とはいえ、元々はその恒例行事自体が不可解なものだったはずだ。 本当ならばそれは“チャンス”といえた。 そう、ルーファウスと自分を引き離す―――チャンス、だった。 ツォンは少し考えてから、口を開く。 「…じゃあ」 そう言いかけた時だった。 ピピピピピ、とツォンの携帯が鳴る。レノに言おうとしていた言葉は途切れ、ツォンはスーツの胸ポケットから携帯電話を取り出した。 レノが隣にいる事で気が散ったせいか、相手の存在も確かめずに電話口に出ると、その向こうから聞こえてきた声に、一瞬体を強張らせる。 『もう家か?』 そう聞いてきた声は、ルーファウスだった。 ルーファウス様、と言おうとして、ツォンは押し黙る。レノが隣にいるのだ。そんな言葉を出しては、もっと怪しまれるに違いない。 仕方なく、聞かれた事にだけ答えるようにする。 「いや、まだですが」 電話の向こうの相手はそれを聞いて、少し安堵したような感じだった。 『そうか。だったら、今からUターンしてこないか?』 「え?」 思わぬ言葉に、ツォンは声を上げる。けれど、隣のツォンをチラリと見て声音を平常に戻す。 「…用件でしたら明日伺いますが」 あくまでこれは仕事の話だ、そうツォンは心に言い聞かせる。 しかし、電話の向こうの相手は、その人物像に相応しくないほどの甘えた声でこんな事を言う。 『つれないな。…嫌なのか?』 「…そんな事は。とにかく今日は帰ります」 きっぱりそう言うと、それ以上の会話を遮ろうと電源に指を伸ばす。 その瞬間。 『…会いたい』 声が出なかった。 未だかつてそんな言葉を言われたためしは無かったからだ。 あのティータイムの関係の間も、そんなふうに感情的なものを出された事は無かった。 どう返していいか分からない上、どういう言葉も返せない状況。 ふと、隣のレノが「女かな、っと」などと言い脇を小突いた。 それに反応して、ツォンは慌てて、 「申し訳ありません。また明日」 とだけ言って電源を切った。 何とも後味が悪い。この感覚は何だろうか。 ある種、命令と同じ上司の言葉を遮ったから? いや、それは違った。もっと違う…奇妙な感覚だった。 戻って来いと言われた時、もし隣にレノがいなかったなら、自分は神羅ビルに帰っていたかもしれない。 そう考えながら通話の切れた携帯を静かに胸ポケットに戻した。 その様子の一部始終を見ていたレノは、 「忘れるなよ。明日は俺がおやつ係だぞ、っと」 と意味深な笑いを浮かべる。 そういえばそんな話の途中だった。今の電話でさっき決心した事が一瞬にして消えてしまいそうだったが、レノの言葉がそれを留める。 ツォンは無表情で一言だけ言った。 「ああ、明日からはお前が持って行くと良い」
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