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Over Rail ------------------------------------
“将来は何になりたいんだ?” そういった言葉は昔から自分の中には無かった。 今までの人生の中ですれ違った人々の全ては、自分の将来などはもう決まりきっていると理解していたからである。 彼らは本音か世辞かは分からないが、それについて賞賛だとか羨望の言葉を並べ立てては笑みをもらした。 誰にも言えはしなかった。 誰にも分かっては貰えなかった。 ほんの少し、レールを外れたらだとか、そういう“もしも”さえ存在しなかったから。 道はそう、既に一つしか無かった。
「ほら、駄目ですよ。ルーファウス様」 父親の会社に遊びにやってくるのは最早、日課だった。家に篭りきりの勉強など、はっきり言ってもうマスターしたも同然で、特にそれ以上学べるとも思えない。どうせ将来はこの会社を継ぐのだ、そう思うと立ち入りに関しては自由が利く。 これは特権だ、ルーファウスはそう思っていた。 良く行くのはタークスの屯所である部屋と、父親のいる司令室。司令室は広く快適でワクワクする機能もあるが、そこにいる人といえばやはり父親で、そういう意味からすると色んな人のいるタークスの部屋は、ルーファウスにとっては楽しい場所だった。 ツォン、ルード、レノとはもう既に仲が良い。 後は都市開発部門の統括であるリーブ。この人も優しく接してくれる。 ソルジャーというものを見てみたいとも頼んだが、それは駄目だといわれ、まだあまり良くは知らない。でもそのトップ、責任者であるらしいハイデッカーという男は、父親の前ではヘラヘラしているくせに自分の前では態度を一変させる。 神羅に入った暁には一泡吹かせてやる……最初の標的である。 「あ〜、ルー坊ちゃん。それ、俺のナイトスティック。イタズラしたら駄目なんだぞ、っと」 ついつい弄ったそれに対してそう注意され、ルーファウスは首を傾げた。 「これ、ちょっと使ってみてくれ」 「コレか?任しとけ」 ついつられてレノが部屋の真ん中でソレを振り回すと、デスクに積まれていた書類が風圧で飛び去った。 「ああーっ!レノ、何やってるんだ!!」 「あ、ごめん。つい…」 やれやれ、そんなふうに溜息をつきながらツォンが落ちた書類を拾い始める。ソレを見ていたルーファウスは、一緒になってそれを拾い始めた。 ツォンのことをチラリ、と見遣って、 「ごめんなさい」 そう言う。 「いいえ。ルーファウス様は何も悪くないんですよ」 いつの間にか一緒になって書類を拾い始めていたレノは、そのツォンの言葉に文句を垂れた。 「あ〜あ、主任ヒドイよな。ルー坊ちゃんには甘いんだからさあ」 「お前に甘くしてどうする!」 そんな会話を耳に挟みながら、ルーファウスは笑う。とても嫌だと思う、決められた将来ではあったけれど、こういう雰囲気の中にいると、それも飛び去るような気がする。 「さあ、もうルーファウス様は良いですよ。後はやりますから」 「いや、良い。私も手伝う」 「甘すぎる、主任ーっっっ!!!!」 …何とも平和な一コマである。 こういう雰囲気の中にいられるのだったら良いのに。そう思うが、そうではない。それが分からないほど、ルーファウスも子供ではなかった。
書類を片付け終わり、その後も何かしらの話などをチラホラし、ちょっとした楽しい時間を過ごす。タークスという仕事をしている割に、彼らはそれほど仕事に追われている姿は見せなかった。 そんな中に、ルードが飲み物を運んできて、几帳面に一人づつに手渡した。ツォン、レノ、自分にはいつも通りに珈琲を。ルーファウスには迷った挙句にウーロン茶などを出した。 何せルーファウスは少し大人びたところがあるから、オレンジジュースなどを出してブスリとされては困ってしまう。 多分、ルーファウスじゃなく、ツォンが怒るだろう。 ルーファウスはルードの選択に特にこれといって嫌な顔もしなかった。 が、しかし。 レノの一言が、ルードに衝撃を与えた。いや、正しくはルーファウスの一言だったが。 「ルー坊ちゃんも早く珈琲、飲めるようになれよ、っと」 「?…飲めるよ」 「……!!!!」 ガーン――――――…ルードの心に木枯らしが吹いたのは言うまでもない。それを察知したのか、ルーファウスはフォローの言葉を入れた。 「でもウーロン茶も好きだよ」 「ルーファウス様ぁ……」 じーん……ルードはちょっと感動していた。というか実際は十代半ばの子供にフォローされているというのもどうかというところだったが、何せ未来の上司である。 その傍ら、ツォンは少し笑いを漏らした。 どうやら未来の上司は随分と上手らしい。 「さあ、ルーファウス様。それを飲んだら、今日はもう帰りましょう」 そう優しく声をかけられ、それでもツォンの言葉の内容には納得できなかったのか、ルーファウスは少し寂しそうな顔をする。 どうせ家に帰ってもこれというものがある訳ではないし、かえって会社にいる方が面白い。とはいえ、それがあるのか無いのか分からない仕事の邪魔になることだけは良く分かっていた。 だけど、たまには踏み外したいレールもある。 「邪魔なのか?」 わざとそう言ってみたりする。ツォンは慌てて、 「いいえ」 と言ったが、レノは 「一緒に仕事するなら別なんだぞ、っと」 と訳の分からないことを言った。「こらこら」と突っ込みを入れるツォンの姿。「え…」と真面目に驚くルードの顔。 それは外そうと思ったレールを、カチリ、と元に戻させる。 ルーファウスは少ししてこう言った。 「冗談だよ」
ツォンが送ってくれるというので、ルーファウスはその言葉に甘えて送ってもらうことにした。運転し慣れているだろうその道。それはツォンが、ルーファウスを送るだけではなく、父親をも送っているからである。 その道すがら、ルーファウスはツォンの横顔をチラチラと見ていた。別に意味は無かったが、少し真面目そうなツォンの顔を見ていると、時々、不思議に思うのだ。 自分にとっては決められた道であるそこに、ツォンは自らやってきたのだろうが、果たしてそれで満足しているのだろうか。 それが望んでいたことだったのだろうか。 「…どうしました?」 そう聞かれて、はっとしてルーファウスは目を逸らす。 「何か話したいことがあればどうぞ?」 そう言ってツォンが笑ったので、ルーファウスは少し迷ってから思っていたことを口にした。それはツォンからすれば少し苦笑せざるを得ない言葉だった。 「……将来の夢って、何だ?」 「え?…私のですか?」 「ああ。あるだろ?」 ツォンは少し戸惑った顔をする。将来という言葉は、神羅に入りそれなりの地位についてしまっているツォンにとってはもう既に使うに躊躇われる言葉でしかない。 勿論、目前のルーファウスにとっては、まだまだ使う途のある言葉であるが。 「そ…うですね。あなたが立派になって下されば、それで私は満足です」 迷った挙句にそんな言葉を放つ。ルーファウスを傷つけまいとした言葉だったが、ルーファウスにとってみれば少し悲しい言葉だった。 だってそれは、本心じゃない。 それでも、それを分かっていてルーファウスは笑って「そうか」と言った。 本当は知っている。もうそこには何らかの希望がある訳ではないという事くらい。 それでもそう聞いたとき、何か納得できる言葉が欲しかった。それを出してくれる人が欲しかった。やがてそのレールに飲まれる自分の未来の中にも、少しくらいの光があると、教えて欲しかった。 日常的な安らぎではなく、もっともっと絶対的な――――――もの。 「私の将来の夢を、聞いてくれるか?」 少し迷った後、ルーファウスはそう口を開いた。 わざと口にした言葉。 ツォンはそれに対して表面上は優しく「何です?」と聞く。しかし心の中では分かっていた。そんなものがどこにあるというのか―――――その答えを。 ちょっとくらい苦しみを緩めることはできるけれど、完璧に拭い去ることはできない。 ルーファウスは笑って、こう言った。 自宅を前にして。 「夢を、持つことだ」
車から降り、アリガトウの言葉を口にして別れようとしたとき、ツォンはそっとルーファウスの背を抱きしめた。 言葉は無かった。 けれど、暖かだった。 ルーファウスはもう一度ツォンに、 「ありがとう」 そう告げて微笑んだ。
END
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