窓際の夢

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 眩しくて目が開けられなかった。

微かに流れ込む光が、くすぐったい気がする。

まだまどろんでいたいな、そう思うけれど、頬にかかる手の感触がそうはさせてくれなかった。

 

さあ、もう起きろ

 

そう言われた声で、ルーファウスは目を覚ました。

目を開けると周りには光に満ちていて、とても眩しかった。それでもそれは優しい。

どうやらベットの上にいたようで、横たえたままだった身体をゆっくりと起こす。身体のどこにも痛みは無いし、それどころか気分は清清しい。

部屋を見回すと、そこには普通の家具が最低限の生活ができるくらいに並べられていた。それは木造の質素なものだったが、特にこれといって嫌な感じはしない。

でも、何だか違和感はあった。

自分はこんな所を知らない。だって自分が知っているのは、固いコンクリートや無機質な機械だったはずなのに―――。

そう思っていると、ふと声がかけられた。

「目が覚めたのか?」

声の方向を振り返ってみる。

「…ツォン…?」

それはとても懐かしい声だった。そして懐かしい笑顔だった。

ルーファウスでさえ、滅多にこの笑顔を見た記憶は無い。だけどそれはとても懐かしくて、しかも今、惜しみなく注がれている。

 

どうして、いるんだ?

 

何だか不思議だった。

ツォンはあの時、確かに死んだのだ。駆けつけた時にはもう遅かった。大量に流れ出た血は地面に染み込んでいて、それは死んでからの時間経過を顕著に示していて――――とても、後悔した。

それを覚えてる。嘘なんかじゃない。

本当はあの場で泣きたかった。自分の立場も遂行するべきものも全て捨てて、泣いてしまいたかった。

だけど、できなかった。

泣きたくても、そうしてしまえば自分はそれ以上進めない気がしていた。

押し込んだままだった涙だとか悲しみは身体の底の蓄積されて、何だか病気にでもなったような感じがした。

心が風邪をひくみたいに。

「どうして、生きてるんだ?」

直接そう聞いてみると、目前で何やら片付けていたツォンは不思議そうな顔で笑った。

「……」

何だか、やはりおかしい気がする。

あのツォンが自分に敬語を使わない上に、内容まで否定してくる。そもそも存在があること自体おかしいのに、どういう事なのだろう。

無言で首を傾げるルーファウスにツォンは徐に近付き、その頭を撫でた。

「また怖い夢でも見たのか?」

「夢?そんなはずは無い。私は…」

反論しようとしたその矢先、ふわりと身体を包まれて何も言えなくなってしまう。それは温かくて、とても安心する。

懐かしい、温かさだった。

「もう大丈夫だ。お前は夢を見ていたんだ。そうだろう?」

それは自然と頭の中に浸透し、まるで本当にそうだったのかもしれないという気にさせた。

いや、本当にそうなのかもしれない。

今までのは全部、夢で―――長く長く、暗い夢で、今こうしてツォンと一緒にいる方が現実なのかもしれない。

そう思ったが、心のどこかではその夢想を否定している部分があった。それは違う、と。

だが、それはどうでも良い気がする。

だって今、目の前にはツォンがいて、見た事も無い部屋に二人でいるのだ。

此処には、神羅もセフィロスもメテオも何もかもが、無い。

そんな事に煩わしい思いや悲しい思いをせずに済むなら、それ以上のものは無いのではないだろうか。

そんな思いが、ルーファウスの心を占めた。

「そうだ。わた…俺は、夢を見てた」

そっと背中に腕を回すと、ルーファウスは目を閉じてそう呟く。

 

 

 

長い長い、夢だったんだ。

とても長くて、暗くて、寂しくて、息がつまりそうな…夢。

世界はとても混沌としてて、俺はそこで神羅という会社の社長だった。

そこではツォンは俺の部下で、俺の命令で…死んだ。

悲しかった。でも泣けなかった。やらなくちゃいけない事があったんだ。

でも本当の俺はずっと、何が大切かなんて分かってなかった。

心が風邪をひいて、俺はやっと分かった気がする。

神羅として追うべきものと、俺自身として追うべきものはいつも矛盾してて、だけど俺は立場を考えてた。

だからいつも、神羅を選んできたんだ。

神羅として生きてきた。俺自身として生きる事は、許されなかった。

凄く多くの社員がいて、俺はそのトップだったから。

でも本当に大切だったのは、そんな事じゃなかったのかもしれない。

欲望とか、利益とか、そんなものじゃなかったのかもしれない。

そんなものが無かったら良かったのかもしれない。

 

 

 

開け放たれた窓からは、風が流れ込んでいた。

優しい風が、ルーファウスの髪を揺らす。その髪にかかる手は、とても柔らかだった。

「夢は所詮、夢だ。忘れてしまえば良い」

「うん、そうだな」

真っ白いシャツの中に顔を埋めながら、そんなふうに答える。伝わる体温が、何だか寂しい気がした。

安心するのに、泣きたい気分になる。

「どうした?」

少し震えだした肩に気付いて、ツォンは身体を離しながらそんなふうに聞いた。髪を下ろした見慣れないツォンの顔を、ルーファウスは眺める。

真っ白なシャツに、紺のズボン。軽く太めに折られた袖。

どれも今まで見た事が無い姿だった。まるで別人みたいだ、と思う。

だけどそれどころでは無かった。

夢の中の世界で、閉じ込めたままだった悲しみ、あの時流せなかった涙、それが一気に流れ込んでくるように、涙が零れた。

今、目の前にツォンはいるのに――。

だけど、どこか寂しくて悲しくて、切ない気分になる。

あれは夢だ、夢だったんだ、そう思ってみてもそれは変わらなかった。

そんな様子のルーファウスに、ツォンは困ったように笑う。それからもう一度その身体を抱き寄せると、そっと目を閉じた。

「そんなに怖い夢だったのか。泣きたいなら、思い切り泣いた方が良い」

 

泣きつかれてしまうまで。

 

 

 

 

『なあ、もし私がこんな立場じゃなかったら…』

 

『またそんな夢みたいな事を言って…困った方ですね、ルーファウス様は』

 

『だってそうだろう?私の人生は決まりきっていた』

 

『それでも、貴方は立派な方ですよ。安心して下さい』

 

『そうじゃない、そうじゃなくて…』

 

『何ですか?』

 

『…私がどんな立場の人間でも…それでもお前は…』

 

 

 

 

―――――それでもツォンは、私の側にいたか?

 

それでも近くにいてくれただろうか?

それでも見ていてくれただろうか?

 

それでも。

 

 

 

―――――出会えただろうか?

 

 

 

なあ、ツォン。お前は、どう思う?

 

 

 

 

窓から流れ込んでいた風は、いつの間にか冷たくなっていた。

泣いた後に眠りについてしまったルーファウスを再度ベットに戻しながら、ツォンは窓をそっと閉めた。

風は、遮断された。

 

 

 

 

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