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闇が覆う部屋で、言葉だけが交錯していた。 そこは、ある組織の司令室である。殺伐とした部屋の中で、時計の針の進む音だけが鳴り響いていた。 時刻は午前1:00。 今この部屋には数十名の組織員がいる。どれも野蛮な輩だが、腕は良いとの噂だった。下手に手をだせば危険なのは確かである。 この部屋の中では、お互いの顔は暗さで見えない。名前も呼び合わない。その代わり、ナンバーが付けられていた。 「No.21608791」 そう呼ばれて、ツォンは立ち上がる。そして声の方向に進む。 声は、この組織のまとめあげるヘッドの物である。身元もその経歴も不明。この男には戸籍というものが存在していなかった。だからこそ、どんなことをしても跡がつかない。 この組織の中心を見つけ出せたのは、奇跡に近かった。 タークスは以前の仕事で、やはり裏組織を一網打尽にしたことがある。それは神羅の正式な仕事として排除した組織だったが、その組織がまた裏で操作されていたことを、ツォンだけは知っていた。最初は報告をしようかどうか悩んだ。けれど、別口の仕事が込み合っている中で、それはあまりにも大事だった。何故ならこの組織は実態が見えないからである。 神羅に影響が無いならばそれでもいいかとも思ったが、ある日手にいれた情報で、その組織のターゲットの1つに、神羅ではなく、ルーファウス個人がインプットされていることが発覚した。 今や社長であるルーファウスは、確かに暗殺標的にはなりやすい。けれどそれはあくまでも神羅をターゲットにした上でそうなるのだ。しかしこの組織は神羅とは関係なしにルーファウスを狙っていた。しかもどうやらそれは、過去10数年に渡ってインプットされていたらしい。 この組織の意味は、組織ではなく、個人抹消。 リストに並べられた人物を、順に抹消していくというもので、その情報元は各地の町民であるとか村民であるとか、一般市民だった。 ルーファウスの情報を引き出したのは、企業の誰かというわけではない。やはり一般市民だった。しかも調べたところによるとそれは、ルーファウスがまだ幼いときに泊まったらしい宿の主人。 まだ戦時中の話である。 宿の主人は、ウータイ出身の男だった。 膨張する神羅に飲まれるミッドガルと、幼い未来の社長。それを見て、彼は何を思ったのだろうか。 とにかくそのリストは、上から順に進んでいき、何十年も前からの依頼を順にこなしていき、下降していく。 裏侵入していたツォンは、その組織の中でも高地位を勝ち取った。神羅とは関係なしに暗殺をするのは気が滅入ったが、やがてくるだろうルーファウスの項が気にかかって仕方無い。何せその残酷なリストには空白が一切無く、一行も飛ぶ事なしに確実に進んでいるのだから。 だから必要だった。この組織の核を知ることが。 「リストの修正を頼みたいんだが」 呼ばれてそう言われ、ツォンは内心驚いた。リストに修正…一体どんな修正をするつもりだろうか。このリストは何十年も前からのリストで、修正などされた形跡は一切無い。 「はい。いかがいたしましょうか」 慣れきった言葉遣いでそう言うと、その男はふっと嫌な笑いを見せた。 「何と言っても初めてのことだ、慎重に頼みたい。…ターゲットの挿入を」 「挿入?…つまり追加ということですか」 「そうだ」 そう言われ、修正作業をする体勢にかかる。また依頼が増えたのだろうが、随分と早急に取り掛からなければならない事項らしい。 ツォンが用意を済ませ、目線をその男に向けると、男は静かにこう言い出した。少し笑いが含まれている。 「…お前は不思議な奴だな」 「?」 「突然現れて、突然トップに上り詰めた。腕が良い…というより、良すぎる。どこで覚えた?」 「…修正を」 話を逸らすようにそう冷静に答えると、男は更に声を低くした。そして――――。 「神羅カンパニー」 その一言に鼓動が跳ねる。まさか、身元が割れたとでもいうのだろうか。しかしこの組織は組織員の詳細を明らかにはしていないはずだった。 危険だ、この状況は。周囲には組織員がいる。 「No.21608791。裏切りは死に値する」 その声が響いたとき、ザッと音がした。 ――――――しまった、そう思う。 十数名に取り囲まれているこの状況での対応は難しい。胸ポケットにある一丁の銃で応戦できるとは思えない。無意識に目線だけを彷徨わせる。 「お前は組織壊滅を狙っていたのだろう?」 どうする? この状況からの回避を? しかし取り囲まれ、背後には窓。 時計を見る。午前1:20。 どうする――――――? 鼓動が早まった。 「さあリストの修正だ―――――お前の名前を書け」
どうする――――――――――――。
ツォンは咄嗟に銃を取り出すと、並ぶ窓を連射した。 破片が飛び散り、それが組織員に降り注ぐ。 「殺せ!」 響く声に舌打ちし、ヘッドである男の額を一発で撃ち抜くと、さっと身を翻す。 次の狙いを。 数名を一発で片付けるには、弾に限界がある。
どうする?
やがて降り注いできた銃弾を避けながら、考える。 何か良い方法を。一発で全てを終わらせる方法。 時計を見る。午前1:25。
どうする?
組織員の一人が、部屋の隅にある戸棚から何かを取り出すのが視界に入る。 微かに見える光は、デジタルの時間。
ああ―――――あれは。
そう思った瞬間に、ツォンは残りの全ての弾を、その戸棚に向けて迷いなく撃ち込んだ。 そして間髪入れずに時計を見遣る。
午前1:26。 爆音がした。それと共に、意識が薄れる。
――――――――あの方は今頃、寝入っただろうか……。
初めて口付けを交わしたときのことを覚えている。 ほんの少し試すみたいに言われた言葉が、とてもとても嬉しかった。 護衛をしながらそっと見つめ続けていたその人の心に、触れられたことが嬉しかった。 家に帰って、その人の寝顔を見ると、とても安心した。 今日も此処にいてくれる、そう思うと嬉しかった。 秘密にしていたことも、そこにその人がいることで救われるような気がしていた。 ―――――だから。
……貴方の待っている場所に、帰りたい……
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