|
KEY -----------------------
今日は業務終了後に食事に行こうと誘われている。 いつもならオフィス呼び出しで即…いや、その先は言うまい。 とにかく今日は久々にルーファウス様と食事などに行く。 一体どういう風の吹き回しだろうと思いつつも、私はやはり従ってしまうのだろう。 まあ仕方あるまい。あの方の望みなら。
郊外にあるレストランで食事を取る。 午前まで開いているというレストランで、深夜まで勤務している神羅社員の行き着けの店らしい。 とにかくそこでルーファウス様はVIPの個人部屋などを指定して、私たちは2人きりの食事をとった。 午後10時。遅めの食事だ。 アペタイザーの“香草マリネ”などというものを口に運びながら、ルーファウス様は他愛無い世間話などをしてくる。 「最近どうだ。疲れてないか?仕事が増えてるだろう、タークスは?」 「はあ、そうですね。でも大丈夫です。体調管理はしっかりやってますし」 仕事が増えてるのは、ひとえにルーファウス様の提案が多いからではないですか、と突っ込みたかったが、それは敢えてやめておいた。 「ツォン。私は考えたんだが…」 「はい?」 何だか嫌な予感がする。最近のルーファウス様の提案は妙に私事に近いのだ。 「神羅出資のホテルを作ったらどうかと思うんだが」 「…はあ!?」 思わず“香草マリネ”が口から飛び出して、ともすればルーファウス様の顔に張り付きそうだったのを、必死に抑えた。 何でホテルなんか作らなければならないのだ? 「…だって最近は執務室にも現れないじゃないか」 ボソリと呟くルーファウス様は、どことなく寂しそうだ。 私はそれが自分に向けられている言葉だという事が分かり、何とも言葉が返せなかった。確かに最近は忙しかった。以前は呼ばれればすぐにでも駆けつけられたものも、今ではそうそう出来ない。 とはいっても会ってないわけでも無い。 大体、仕事の指示をしてるのはルーファウス様じゃないか? まあ最近はプレジデント様からの用件も多い。それも重なって、時間が取れないのは仕方ない事だった。 「ルーファウス様。良く考えて物を言って頂かないと困ります。大体それは…その、個人的な…感情からの提案なのでしょう?出資するという事は、会社の金が動くんです。ルーファウス様のポケットマネーという訳ではないのですよ」 「分かってる、説教するな!」 少し不機嫌にしてしまったようだ。 はあ…どうしてこんなふうになるんだろうか。 確かに会う時間が少ないのは感じていた。でも、だからといってそんな事までする必要などどこにあるというんだ? 「…このままの忙しさが続いたらどうなる?」 途中で運ばれてきた“チキンステーキ海鮮ソース風味”を小分けにしながら、今度はそんな事を言う。 「そりゃあ、このままのペースで会う事になりますね」 「だろうな」 「…です」 暫く沈黙が続いた。 折角の食事だというのに、かなり雰囲気がまずい。そう思ったが、だからといってルーファウス様を喜ばせるような事は何一つ思いつかなかった。 寒いギャグなど言おうものなら、それこそ逆効果だろう。 「…なあ、ツォン」 「はい?」 「お前はどう思ってるんだ?」 「と、言いますと?」 「だから、その…」 言いよどんで、黙ってしまう。そしてチキンステーキ海鮮ソース風味のひとかけを口に放り込んだ後、もう一度同じ言葉を繰り返した。 「だから、その…あれだ。あまり会えない事について…こう、悲しいとか…」 ああ、なるほど。そういう事だったのか。 ルーファウス様はきっと私が悲しんでいれば良いと思っているのだろう。 確かにそれには一理ある。 だが正直な所、最近の状況ではそんな事を考えている余裕は無かった。 しかしどうだ? そんな事を口にしたら、この方はどうなるだろう? 怒るか、落ち込むか、どちらかだろう。 私は少し考えてからこう答える。 「それは勿論、私も会いたいに決まってるではありませんか。しかし、今は仕事の方が第一です。ルーファウス様も立場上、そうだと思いますが?」 ちょっとした圧力もかけてそう言うと、ルーファウス様は表情を曇らせた。 意地悪かっただろうか? そう思ったが、この忙しい時期に、副社長としてしっかりと仕事をしていただかない事にはこっちも困る。 「…そうだな。仕事が第一だ」 少ししてからそうポツリと呟くと、それ以上はその話題に触れなかった。 結局その後また、差し支えの無い世間話などをした。
午後11:30。食事が終わった。 もう帰ろうというルーファウス様の言葉で店を出て、それから私は明日の予定などを考えていた。 明日も早い。今日これから帰宅して、それから…。 そう考えていた私の横で、ルーファウス様が歩みを止める。 「ツォン。もう少し付き合ってくれないか?」 「え?」 まだどこか行くというのか? 「いや、しかし。明日も平常どおりの出勤ですよ」 「分かってる」 どうにかして断れないものかと思いながらも、目前のルーファウス様の顔が気になる。 副社長モードから完全に切り替わっているルーファウス様は、無意識なのだろうが上目遣いなどをして私を見てくる。 …困った。 これは困った。何といっても私はこの視線には弱いのだ。 仕事第一だとはいえ、時には理性がきかない事もある。 「…無理か、ツォン?」 「…いえ」 はあ。結局こうなるのか。
|