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HOTEL ---------------------------------------
ある日のこと、タークス諸君の部屋ではこんな話題が飛び交っていた。 それはひとえに、レノの口から飛び出した話題である。 「最近あそこに出来たホテル。あれ、かなりオススメだぞ、っと」 その一言から始まった話題は、その部屋を盛り上げていた。 がしかし、その部屋にいたのは勿論、レノ・ルード・ツォンの三人だけなのだから、盛り上がったといっても内輪に過ぎない。とはいえ話題の内容がそれで、しかもその場が男だけとなれば、これはもうどんどんと深みに嵌らないわけがない。 そんな訳でその部屋は暫し、所謂「下ネタ」というもので盛り上がっていた。 「俺は意外とあそこのホテルの方が良いと思う…」 ルードがそんなことを言ってあるホテルの名を出すと、レノは咄嗟に「ムリムリ!」などといって眼前で手を横に振る。 「あそこは駄ー目!今時プレステも付いてないなんて使えないって」 「…お前、ホテルに何しに行くんだ…」 「そんなん決まってるだろ。楽しむためだって」 「いや…お前の場合、その“楽しむ”の意味がちょっと違うんじゃ…」 そんな訳の分からない方向に行っている二人に、さっとツォンが加わる。 「お前たち、まだまだだな。ホテルといったら…あそこだ」 いつものマジメな調子からは微塵も感じられないようなホテルの名がその口から語られると、レノとルードは思わず「おお!」と口を揃えて声を上げた。 そもそもツォンがこの話題に乗ってくること自体が何となく不思議である。しかしその名前が出たからにはそうとは言っていられないだろう。何せツォンの口から出たそのホテルの名は、いわゆる穴場スポットともいえるホテルで、あまり知られていない割にはかなりのサービスが付いているのだ。 実のところレノもルードも、そのホテルのことは知っていたが、まさかツォンまでもがそれを知っているとは思わなかった。 「ツォンさん。なかなかやるな、っと。あそこは俺の中じゃあ一番のオススメ」 「…実は俺も」 「ふむ。やはりそうか…」 ――――――――男三人、感慨に耽る。 しかし感慨に耽ったその後は、もう底なしだった。何せ話題は、ホテル。ホテルといっても神羅幹部御用達の高級高層ホテルとはワケが違う、所謂ラブホテルとかいわれるものである。此処最近ではブティックホテルなどという綺麗な呼び方になっているようではあるが、呼び名がどう変わろうが核たる目的は一つなわけであり、やはり話題はそちらの方に移行する。 今迄そこまで掘り下げた会話を繰り広げたことがなかった三人は、その時俄かに白熱した。 「休憩二時間となるとやっぱプレステが必要だぞ、っと」 「レノ…お前もしかして…早―――――」 「ちんたらやってられないんだって。…あ。ツォンさん…長そう…」 「レノ。――――――――殺されたいのか?」 「あはは」 「あはは、じゃない!そもそもお前、毎晩連れ込み放題してるんじゃ…」 「…いや、レノの場合はもう常連すぎて実は受付の人まで食っ…」 「ルード!お前って時々喧嘩売るよな、俺に!」 「…実はこの前の任務の時も仕事中に…」 「おいおい!ある事ない事ある事、言うなよっと!」 「今、“ある事”が一回多かったな。多数決でそれは事実と認めよう。…ん、始末書はどこにやったかな…」 「ツォンさーん!!!」 「…でもツォンさん、確かこの前美女と噂が…」 「ゴホゴホゴホッ!!」 「えー…意外。ってことは、っと。何気にツォンさんも雑食で、色々と食っ…」 「あーもしもし?総務か?始末書を二束ほど欲しいんだがー…」 ――――――――もう既にワケが分からない。 ともかくそのホテルの話題から派生した通俗的に言うところの下ネタは、延々と続いていった。あの時はああで、こういう時はこうで、あの時って実はああだとか…もう既に、こそあど言葉満載でお送り中である。 しかしそんな話題を揚々とできていたのも束の間で、それはある一つの衝撃によってお開きとなってしまった。 その一つの衝撃が何かといえば―――――――それは。
ガラリ
「随分と賑やかだな」 ―――――――ある人の訪問であった。 突然そこに現れたその人物の姿に、一同は一瞬にして身を凍らせた。それは当然だろう、何せその人ときたら三人の上司で、その上、こういっては難だがかなり若かった。いや、若いことは良いことかもしれないが問題はその話題が一般的に青少年に有害だという部分であろう。つまり、この若い訪問者にとってこの話題はいかにも不適切であった。 訪問者、それは―――――ルーファウス副社長。 その姿を見て固まっていた三人は、3分後に同時にハッと我に返り、そそくさと何も無かったかのようにデスクに向かい始めた。正に変わり身、である。 しかしそういうふうにするわけにもいかない事態が巻き起こる。そう、それはルーファウスのある一言によって。 「なあ、さっき何だか面白そうな話をしていたな」 ギクッ ――――――――三人が同時に心臓を30センチ飛び出させたことは言うまでもない。 「実はちょっと前から立ち聞きしてたんだ」 何という事かルーファウスはそんなことを言うと、更には恐れも知らずにこんなことを言う。 「私も混ぜてくれ」 ――――――――混ぜる…!? …どう考えてもありえない。 上司と愉快ツーカイにホテルの話題で盛り上がるというのもさることながら、その相手がルーファウスだというのは正にありえない。そもそもルーファウスなどとそんな話題をしたら何だか調子が狂ってしまう、例え男同士であろうとも。 そんな事をおのおの考えていた三人は、そのルーファウスの言葉に曖昧な笑いを返すと、ちゃんとした答えは何一つ返さないままにデスクにへばりついた。そして、願っていた。 ああ、頼むから早く帰ってくれ――――――と。 といっても別に彼らがルーファウスのことを嫌っているという事実があるわけではない。単に、今の会話の内容からしてご一緒するというのは避けたかったのである。 がしかし、そこでまたルーファウスがこんな事を言い出したものだから、三人は無視するわけにもいかなくなってしまった。 「…私は混ぜてくれないという寸法か。――――――分かった。じゃあ私は今から親父にタークスの本性を話しに行く!」 「ちょっと待って下さいっ!!」 何でそういう方向になるかな、そう思って咄嗟にルーファウスを振りかえった三人の中、まず最初にツォンがそう言い放つ。 ルーファウスの考えそうなことなど大体察しがつく…そう、それは勿論何らかの処分というやつである。勿論それは大層な処分にはならないだろうが、父親に交渉するというのはあんまりであろう。何せルーファウスの父親は社長だ。息子の叫びに何を返すか分かったものじゃない。 ここは一つ穏便に……そう思って細心の注意を払いながら、ツォンはルーファウスに微笑んだ。 「ル、ルーファウス様。私共もルーファウス様とお話したいのはやまやまなのですが、少々話題が不適切かと思われます。つきましては、もっと他の話題でも…」 「何でだ?私はさっきの話題に興味を持った。だからそれが話したい」 「し、しかしですね。それは少々…というか大分問題があるかと…」 「問題ない」 そうキッパリと言い放ったルーファウスに、貴方には問題なくてもコッチには大問題です、と思わず心の中でツォンが叫んだのは言うまでもない。しかし勿論その叫びなどは届くはずもなく、ルーファウスはもうすっかりその話題に入るものと思っているらしい。それが証拠に、ツカツカと部屋の真ん中までやってきて、腰などをすえている。 そんなルーファウスの姿を目にしたレノとルードは、これは危機だと察知したのだか、すっと同時に立ち上がった。そして、クルリと体を回転させるとツォンとルーファウスに背を向ける。 「じゃ!ツォンさん!そういう訳で俺らは任務行ってきます!」 「任務!?」 今日の任務予定は0である。 「いや〜ルード。今日の任務は結構かかりそうだな、っと」 「ああ、全くだ」 参った参った、などといかにもな表情を作りながら言う二人に、ツォンは唖然とするしかなかった。何と言う変わり身の早さであろうか。幾らこの場が危機とはいえ、自分たちだけ逃れようとは不届き千万である。 しかしそれに文句を言っている暇など、ツォンには無かった。 何しろそのレノとルードの行動を目にしたルーファウスは、こともあろうにニッコリと笑うと、 「そうか、任務なら仕方ないな。検討を祈る。私は此処でツォンと話をするから」 そんなことを言うのだから。 はっきり言って検討を祈るも何も無い。一体何の検討なのかと問いたい。 それはツォンにとって、正に地獄絵図のような展開であった。 しかしその地獄絵図のような展開が更に高級な地獄絵図になろうとは考えてもみなかった。 そう…ルーファウスがこの言葉を放つまでは。 「…で。そのホテルっていうのは――――――…一体何だ?」 「―――――は?」 …ツォンの眼は、点になった。
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