Honey Style Tropical : Saturday -------------------------------------------------------- トロピカルツアー・ザ・ラストデイ。 泣こうが喚こうが何だろうが、今日がツアーの最後の日である。 一週間という長いようでいて短い旅行は、とんでもない事件が巻き起こったが故にてんでラブラブではなくなってしまったが、それでもやはり時間というのは容赦ない。 そんなわけで、やっとこさ全ての事件から逃れて二人きりになったツォンとルーファウスは、この最後の日をどう過ごそうかと朝から真剣に話し合っていた。 「折角ゴールドソーサー付のツアーだったのに一緒に行けなかっただろう?やっぱり今日はゴールドソーサーじゃないと」 ロンドンなんかとゴンドラに乗ってもちっとも思い出にならないし、と心の中で続けたルーファウスの主張はそれである。そう言っている時点でもう既にツアー行動をしようというつもりは一切ないらしい。 がしかし、ゴールドソーサーは未だ休園中であるらしくどうやらルーファウスのその希望は叶いそうもなかった。 「今回は仕方ありませんよ、あの事件の後始末であと2〜3日は休園するそうですから」 「あ〜あ…ツォンと一緒にゴンドラ乗りたかったなあ…」 残念そうにそう言うルーファウスに、ツォンは仕方なさそうに笑う。 この旅行の間、お互いにゴールドソーサーに行ったことは行ったのに、まるで違う行動をしていたためにその願いは叶わなかった。あんな訳のわからん事件に巻き込まれなければこんなことは無かったのだろうが、まあ起きてしまったことは仕方がない。 ルーファウスはモーニングコーヒーなぞをズズズとやりながら、それにしてもなあ、と感慨深げに呟く。 「まさかジョニーとロンドンが捕まったとはな。まあ自業自得だけどな」 「そうですね。まあアレです、あの警察機構の男も仕事が出来て万々歳でしょう」 っていうか問題はそこじゃない。 まあ何が問題かといえば大元はジョニーであり、その更に元はといえばプレジデント神羅である。その辺りの事情はルーファウスがロンドンから聞き知っていたことだが、その他諸々の事情というのは外部から齎されてやっとこさ二人の脳にまで届いた。 その外部というのは勿論、タークス諸君である。 連絡を絶っていたツォンは、昨夜やっとその連絡を再開した。 ルーファウスとの久々の夜を謳歌すべく準備を推し進めていたツォンの元にやってきた一本の電話は、今回の事件の全てを物語っていたものである。電話を寄越してきたのはレノで、レノはゴールドソーサーからリポートでもするみたいに全てをツォンに告げた。 そうしてやっと、各々の考えと行動と事実とが合致したのである。 「そもそも親父が悪いんだ!過去に他人の女なんか取ったりするからだ。親父のせいで旅行が台無しになったんだから、この際あと一週間くらい休んでやる!」 「ルーファウス様…さすがにそれは無理だと思いますよ…」 「大丈夫大丈夫、私が何とかしてやる。お前の分もな!」 「は、はあ…」 というか私の場合それをやると確実にクビが飛ぶと思いますけど…とツォンは本気で呟く。しかしその呟きはルーファウスの耳にはちっとも届いておらず、ルーファウスは既に画策を始めているのか独りにんまりしていた。というかそういう画策力を仕事に生かせばさぞ良い副社長になるのになあとツォンは思う。まあ経験上無理な話だが。 「それよりルーファウス様、今日はどうしましょうか?ゴールドソーサーが無理となるとあとは海岸か…それくらいしか無いですけど」 「ああ!そうだった、今日が肝心だな。うーん…海岸は昨日行ったしな、もっと別のところが良いけど…お前は何かないのか?」 「いえ、私はルーファウス様と居られればそれで良いですよ」 何だったらこのままホテルでいちゃいちゃしていても良いですし、と本気でツォンが言おうとしたその時、ふとホテルの部屋のドアが開いた。 ガチャ。 「?」 ノックもなしにドアを開けるとは何たる不届き者! 何奴!? この無礼者めが!! ―――――――――と、思ったら。 「す、すすすすみません…っ」 そのどもりよう、その声音、それはどう考えてもベガスのものだった。 突然現れたベガスにツォンとルーファウスは一瞬驚きながらも、取り敢えずは朝の挨拶をする。それから、一体どうしたのかと来訪の理由を尋ねたりした。まあベガスとは今回の事件で少しばかり関係があったわけだが、だからといって部屋を訪ねたりするほど仲良しというわけでもない。 そんな微妙な関係であるベガスは、おずおずしながらもツォンとルーファウスにあることを切り出した。 「あ、ああああの…今日はお二人を是非誘いたいと思ったんですけど、ど、どどどうですか…」 「は?」 「誘い?」 いきなり誘いといわれても、二人にはちんぷんかんぷんである。 というか、誘いも何もベガスはツアーの日程通りに行動しているわけだから、誘い=ツアー日程通りということになってしまう。しかし残念ながらルーファウスの脳には最早そんなものはなかったし、ツォンなぞはルーファウスに従おうと思っていたから問題外である。 因みに、ツアー日程でいけば今日は、買い物ということになっていた。 いわば「お土産」を買うための日である。 「悪いけど俺たちはツアーと別行動をする予定なんだ。これといって土産の予定もないしな」 「そうなんだ、ベガスさん。申し訳ないが私たちは…」 二人がそれぞれ断りを入れようとそんな言葉を放つと、ベガスは手をぶんぶんと振り回し、良いんです良いんです!、と一生懸命に言い放った。 取り敢えず分かってもらえたようだな。 そう思ってホッとした二人だったが、そう思ったのも束の間で、ベガスは意外な言葉を放った。そりゃあもう意外な言葉を。 「い、いいい良いんです!実はぼぼぼ僕も別行動するんです!」 「へ?」 「え?」 ベガスも別行動? というのは一体? そう首を傾げる二人に届いた言葉は、意外というだけでなく、大きな波紋を呼んだ。 これぞ、THE・ビックウェーブ。 「ゴールドソーサーに行きませんか!!?」 アンビリーバボーというのは意外なところから起こるものである。 まさか、このツアーのラストにゴールドソーサーに行けるとは思ってもみなかった。 休園中であるはずのゴールドソーサーに向かった三人は、「休園中」の看板がデカデカと掲げられているにもかかわらずその門を潜り、ゴールドソーサーへの進入に成功したものである。気持ち的には敵地進入ミッション成功くらいの勢いである。 といっても別に無断で進入したわけではない。 侵入ではなく進入である。 まあ無断じゃないといったって園長に挨拶したわけでも何でもないのだが、そこにはある深い事情が隠されていたわけだ。その事情というのが、ベガスだったのである。 「驚いたぞ、ベガス。まさかお前が顔パスだったなんて」 「い、いや、そそそれほどでもないですよ」 謙虚にそう言ったベガスは、少しばかりツォンとルーファウスと行動を共にした後、この後はお二人でごごごごゆっくりどうぞっ、と、やはりどもりながら去っていった。何のこっちゃ?である。何のこっちゃ?だが、それでも彼が只者ではないことだけはハッキリした感じがする。 残されたツォンとルーファウスは、休園中であるためにぱったりと止まってしまっているアトラクションを見つめながらぼちぼちと園内を歩いていた。 ゴールドソーサーに来れたことは嬉しいが、アトラクションが止まってしまっているのでは意味がない。とはいえ、ベガスの話でいけば、アトラクション毎に従業員は配置されている状態だから、頼めば動かしてはくれるということらしい。言ってみればこれは「貸切」というやつである。 「なあ、ツォン。ベガスの奴、一体何者だと思う?ゴールドソーサーを顔パスで入れるなんて絶対にオカシイぞ。俺だって無理なのに」 広い園内を歩いている途中、ルーファウスはそんなことを言い出した。最後の「俺だって無理なのに」の部分に若干の恨みが込められているのは間違いない。 そんなルーファウスに少し笑ったツォンは、 「確かにあの人は只者じゃないですね」 とそう答える。 神羅の幹部でさえ自腹を切らなければ入れないゴールドソーサーなのに、そこまで優遇されているとなれば確かに只者ではない。曲者である。 しかしどこがどういう具合に曲者なのかが問題だろう。 「私が思うに…あの人はもしかしたら…」 「もしかしたら?」 「いえ、これはちょっとした予想なんですけど…」 あの人は、つまり――――――――――… と、そこまでツォンが口にした時、どこからかブッブ〜という音がした。 何だろうかと周りをきょろきょろしてみると、どうやらそれはゴンドラの方から聞こえてくるらしい。しかもその音が告げたのは運転開始の合図だったらしく、続けざまに従業員の声が響いてくる。 「ゴンドラの運転を開始いたします〜!!ご乗車の方はお早めにお願いします〜!!」 ご乗車の方も何も本当は休園中だろうが、と思う。 それとも他にも入園している人間がいるのだろうか。まあベガスは間違いなくいるのだろうが。 そんなことを思ったものだが、何しろもうすぐでゴンドラは運転開始してしまう。ゴンドラといえばルーファウスがツォンと一緒に乗りたいと朝からずっと言っていたシロモノである。 ということは。 「ツォン!早く行こう!」 「はい」 二人はこのゴンドラに乗るために猛ダッシュしたのだった。 休園中であるはずのゴールドソーサーで、ゆっくりと動き始めるゴンドラ。 ガタン、ゴトン、 ガタン、ゴトン、 そう言いながらも少しづつ地上を離れていく。 幾人かを乗せて動き出したこのゴンドラはあまりにも大きくて、ゴールドソーサーの景色は見えるけれども、それぞれのゴンドラの中で何が起きているかは見えなかった。だから勿論、このゴンドラに揺られているのが"誰なのか"も見えはしなかったのである。 大きな円形の中にぶら下がった小さな四角形。 その四角形の中は、密閉された空間でもあった。 【ゴンドラNO.01】 ゴンドラNO.01にはプレジデント神羅が乗っていた。 彼は恰幅が良かったので勿論重量もなかなかのものだった。そんなわけでそのゴンドラは少々バランスが悪くなりギーコギーコと音を立てていたが、さすがに落ちる心配は無かった。さすがは神羅着手のゴールドソーサーである。 「いやあ、良かった良かった。一時はどうなることかと心配だったものだがな〜」 いつになく陽気なプレジデント神羅がそんなふうに言う。 すると、彼の正面に座っていた人間が笑顔でそれに答えた。 「全く貴方はお人が悪いんだから。あまり遊ばないで下さいよ。驚くじゃないですか」 「はっはっはっ。折角だからと思って用意したんだがな、どうも裏目に出たらしい」 「本当ですよ。でもまあ、発見もありました」 「発見?」 目をぱちくりさせたプレジデント神羅に、声はこう答える。 「ええ、あなたのご子息との出会いがね」 |