Honey Style Tropical : Saturday

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 トロピカル旅行も早6日目。
 これが神羅社屋の中であれば、週休二日なんて口先だけで全然仕事じゃないかよオイと憂鬱な気分になるものの旅行だったら全然そんなこと無…いわけではない。そう、何故ってこの旅行は最早、トロピカル・ザ・憂鬱ツアーになってしまったからである。
 昨日ツォンに電撃別れ宣言をしたルーファウスは、ホテルで一人きりの夜を過ごしたその翌日、やはり一人ぽつんと海へと出かけていた。
 コスタデルソルの海は細かく綺麗な波をつくっては見るものを楽しませている。
 海岸べりに行くと、そこには幾人かの人間が楽しそうに時間を過ごしていた。
 その大体は恋人たちらしく、水着姿でいちゃいちゃしていたりトロピカルなジュースをジュルルとやったりしている。
 ルーファウスはそれをちらりと見やりながら、大きなため息をついた。
「はあ…」
 もう別れてしまったんだから仕方無い。
 それに、自分を信じてくれないツォンと一緒にいたって、そんなの嬉しくも何ともない。
 ルーファウスはそう心の中に唱えると、そっと左手薬指にはめてあったリングを外した。それは以前ツォンがくれたリングで、貰ってからというもの毎日毎日つけていたものである。
「ちょっと寂しいけど…仕方ないよな」
 ルーファウスはリングを見つめながらそう呟くと、ばっと顔を上げて海を見やった。
 目前にはだだっぴろい海が広がっている。
 きっとこんな広い海ならば、悲しい気持ちも一緒に海の彼方へと運んでくれるに違いない。
「よし…」
 そう一言呟くと、ルーファウスは思いっきり勢いをつけて、手にしていたリングを海へと投げやった。
 ぽーん、と弧を描いて飛んだリング。
「…これで、良いんだよな」
 だって、もう別れたんだから。
 
 
 
 その頃、ゴールドソーサーでは大混乱が起こっていた。
 いや、むしろそれは大解決だったのかもしれない。何せここ数日の、台風の目ならぬ問題の目が、一つどころに集合していたのだから。
 ゴールドソーサー…それは誰しもが望む夢の世界――――のハズだったが。
「今日は急遽休園します〜!!!」
 ―――――――――その日、ゴールドソーサーは創立以来初めて休園した。
 何故なら。
「昨日ここで犯罪者が捕まりましてね。まあ問題はないと思いますけど一応休園って処置を取ってもらったんですよ」
 昨日ジョニーに縄をかけた警察機構は、ブーイングを飛ばす客らにそう説明するので手一杯になっていた。まあそれも当然だろう。何せ客の中には数日も前からゴーストスクエアに泊り込んでゴールドソーサーを満喫していた者もいるのだ。そりゃブーイングも飛ばしたくなるというもんだ。
「おいふざけんなよ!」
「こちとらナケナシの3連休取って来てんだぞ!金返せ!」
「せめてゲームだけでもやらせてよ〜!」
「だああ〜!無理無理!今日は休園ですからあ!」
 次々飛んでくる野次に、警察機構は毛細血管をぷつりと言わせながらそう叫ぶ。因みにゴールドソーサーの店員は、客らを宥めるどころか客らと一緒になって野次を飛ばしていた。これぞゴールドソーサーを愛する店員根性である。
 そんな騒ぎの中、輪から少し外れたところで黒い男たちが佇んでいた。
「まさかこんな大事になるなんて…」
「…どうする?」
「どうするって言っても、もう全部終わってるっていうか…」
 ゴールドソーサー内でツォン探しに奔走していたレノとルードは、結局ツォンを見つけることが出来ないままに一夜を明かしたのだが、翌日になってみれば事態はこんな按配になっていたという…正に浦島太郎状態である。
 因みに、事件の真相はこうだった。
 

1.

ツアーガイド・ジョニーは、数年前、プレジデント神羅に自分の彼女を取られたことを根に持っていた。因みにその事実は、当時知人だったロンドンも知っていた。

2.

スタントマンとなったロンドンは、プレジデント神羅から仕事依頼を受けて浮かれ、それをうっかり知人のジョニーに話してしまった。因みに依頼は勿論スタントだったが、プレジデントの大切な人がコスタデルソルに来るだとかいう情報も一緒に入ってきていた。

3.

ジョニーは、自分がガイドをするツアーにプレジデント神羅の息子ルーファウスが参加することを知り、しめしめとプチ復讐を決意。日取りは、プレジデント神羅が大切な人と会うだとかいう日と重なっていたため、息子ルーファウスの動きに注目。

4.

ツアー二日目、ロンドンは依頼通りに死人スタントを実行。それを本物の殺人だと信じたツアー客らは、ロンドンは死んだものだと認識。因みにロンドンは単に仕事をこなしただけの話である。

5.

その事件後、ルーファウスが一人きりで動き出したのでジョニーはそれを尾行。更に、ルーファウスと一緒にいた女性をプレジデントの大切な人だと勘違いして、二人をそのまま誘拐。ツアーガイドである手前、ツアー日程に合わせてゴールドソーサーに移動。

6.

ゴールドソーサー内では、ジョニーは女性と行動、ロンドンはルーファウスと行動していた。ロンドンはルーファウスの口からかの女性がプレジデントの大切な人ではないという事実を聞いていたが、ジョニーはそれを知らないまま行動を続行。

7.

ゴールドソーサー内で、ツアー客が死んだはずのロンドンを発見し騒ぎになる。客が警察機構を呼んだため、ロンドンはその場で連行され事実を供述。一方ジョニーは、誘拐した女性が実はプレジデントの部下であったため、形勢逆転で捕らわれ警察機構に連行された。
 

 ――――――――というわけで。
 問題は全て解決し実に平和というわけである。まあ平和でないといえばゴールドソーサーが休園になったことと、ジョニーのガイドしていたツアーがグダグダになったことだろう。因みにツアーの方は、ジョニーに変わって新しいガイドが最終日までを勤めることになった。
「どう考えても事件解決してるよな…」
 警察機構に聞いてやっと全容を知ったレノとルードが、今までの奔走は何だったんだと首を傾げざるを得なかったのは言うまでも無い。
 レノとルード(とツォン)にとって問題だったのはひとえにルーファウスとイリーナの誘拐という部分である。プレジデントの大切な人がどうこうという部分は基本的にあんまり関係が無い。
 しかし誘拐されていたイリーナが形勢逆転でジョニーを捕らえたものだからあっという間にやるべきことを失ってしまったのだ。どうせこうなるなら最初から誘拐されるなよ!と心の中で突っ込みを入れたレノだったが、まあイリーナにも何か事情があったのに違いないとそれは口に出さないでおく。
「にしても…やばいよな…」
 レノは肩をがっくりと落としてため息をついた。
 ジョニーから、プレジデント神羅と間違われて連絡を受けていたレノは、イリーナにある事情というのがツォンのことなのだとばかり思っていたものである。というか、電話口で「奪ってみせます!」とか何とか言われちゃったら誰だってそう思うに違いない。
 そんなわけで、ひょっとしてイリーナが主犯!?と勘違いしたのが間違いだった。
 そりゃ大きな間違いだった。
 莫大な間違いだった。
 そして最大に間違いだったのは、いうまでもなくツォンへのアドバイスである。
「あ〜!もう何とかならないかな!」
「ツォンさんは携帯を切ってる…無理だ」
 この大きな勘違いに気付いてから、何とかツォンを探し出そうと奔走したレノだったが、悲しいかなツォンは全く見つからなかった。それどころか連絡を入れても繋がらないのである。
 ツォンに連絡が取れないということは、つまりレノの勘違いを修正できないということだ。
 これはマズイ。
 実にマズイ。
「…レノ」
「ん?」
「ツォンさん…海に浮かんでないと良いな…」
「……」
 レノの脳裏にドザエモンが浮かんだ。
 勿論、身につけているのは薄い着流しである。その着流しの胸の辺りから凹凸に折られた三行半が覗いているのは言うまでもない。この場合、ルーファウスは駆け込み寺に駆け込んでいなければならない。尼ルーファウスの出来上がりである。
「生きててくれ、ツォンさんっ!」
 レノは拳をグッと握ると、心の底からそう言った。
 ――――――――と、その時。
 
 
 

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