Honey Style Tropical : Friday

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 何時の間にやら問題の集結地点となった場所、ゴールドソーサー。
 宿泊施設であるゴーストスクエアでは珍妙な客がごっそりと集まっており、その客らはそれぞれの夜を過ごしていた。
 ある人は妙ちくりんなことに熱意を燃やし、ある人は俄かカメラマンとなってどうでも良いものを撮り続け、ある人はどんより暗く、ある人は神妙に携帯とにらめっこしている。
 まあ詳細は伏せておくが、それぞれがそんな一夜を過ごし、日はまた昇っていったのだった。
 
 
 
「ふあ〜!」
 手を伸ばし大きな欠伸をしたルーファウスは、その勢いで脇で眠っていたロンドンを派手に突き飛ばすと、ガタンと大きな音をさせてベットから落っこちたロンドンに向かって「何やってるんだ?」と首を傾げた。
「お、おはようございます…」
 貴方の手で突き飛ばされたんですけど、とは到底口に出来なかったロンドンは、取り敢えず朝の定番を口にする。
 そうしてずんぐりした体をぴしゃりと伸ばすと、そそくさと服を着込み始めた。
 その様子をべっとの中でじっと見ていたルーファウスは、唐突にこんなことを口にする。
「…おい。お前、昨日俺に何もしなかったろうな?」
「ぶっ!!」
「もし何かあってみろ、俺は浮気の罪で恋人に殺されてしまう。そんなことになったら一生恨むからな。先祖七代の恨みだぞ」
「ひいぃぃぃ〜」
 いかにもな調子でそう言ったルーファウスは持参したハートのパジャマをしっかりと着込んでいた。一方ロンドンは薄っぺらいTシャツで眠っていたのだが、問題は何を着ていたかではなく二人が同じベットで眠っていたという事実だろう。
 未だかつてツォン以外の人間と同じベットで眠ったことのないルーファウスにしてみればこれはかなり大きなことである。
 がしかし、これには実は理由があったのである。
 ルーファウスはすっかりお忘れのご様子だったが、実は昨晩、ルーファウスは自らロンドンをベットに招いたのだ。といってもそれは別におかしな意味ではなく、単なる酔っ払いの行為だった。
 ゴーストスクエアのルームサービスで「危険な実験カクテルセット」だとかいうものを5セット以上頼んだルーファウスは、それを全て自分で平らげた挙句に持参したカメラでロンドンをパシャリパシャリと取り巻くったものである。その泥酔っぷりにロンドンは慌てふためき、もう寝たらどうですかと何度も促したのだが当のルーファウスアは全く言うことを聞かず、最後には「くるしゅうない」だとか言ってロンドンをベットに引きずり込んだ。だもんだから、防御も空しく同じベットで眠るハメになったロンドンはそのまま大人しくそこで眠った次第。
 ――――――――と、これが真実なのだがルーファウスときたらまるで覚えていない。
 困ったものである。まあ今に始まったことじゃないが。
「お、俺は何もしてないですよ!」
「本当か?」
「本当ですって!」
 首をぶんぶんと縦に振りながらそう答えるロンドンに取り敢えず納得を返したルーファウスは、じゃあシャワーでも浴びてくると言ってシャワールームに消えていく。その後姿を見送りながらホッと胸を撫で下ろしたロンドンは、今や収拾がつかなくなってきてしまったこの事態について大きなため息をつく。
「はあ…なんでこんな事になったかなあ」
 元はといえば単にプレジデント神羅からの依頼で仕事をするだけだったのに、そこにジョニーが便乗し、更にはルーファウスまでおまけでついてきてしまった。ロンドンとしては単に仕事というだけだったのに、周囲のおかげでとんでもない大事態になってしまったのである。あんまりにも浮かばれない。
「それにしてもプレジデントの大切な人って…あの女性じゃないとしたら一体…」
 プレジデント神羅もコスタデルソルに来ていることは確かだし、彼の大切な人だとか言う人物もコスタデルソルにいることは確かである。それに、あんな殺人事件の余興を依頼してくるだなんて、プレジデント神羅も何か理由があったのだろう。
 しかしそれが何なのかはさっぱり分からない。
「何であんな余興だったんだろう?もしかしてあの余興で…」
 ロンドンはぶつぶつ呟きながら部屋の中を歩き回ると、ああでもないこうでもないと思考を巡らせる。別に、此処まで大事になってしまったこの事態をどうにかしようというわけではないが、とにかく自分だけでも脱出はしたいと思う。もうこの際ジョニーなどどうでも良い。
「そうだ!プレジデントに電話しよう!」
 ロンドンはポン、と手を叩くと、これは妙案とばかりに目を輝かせる。
 そうだ、その手があったのだ!
 プレジデントに電話をして、この際この事態を全て話してしまえば良い。そうすれば自分は確実に脱出できるし、ルーファウスの誘拐だって明るみに出るだろうから捜索が始まるに違いない。そうすればジョニーも観念せざるを得ないはずである。
「よし、それにしよう!プレジデント、プレジデント、っと…」
 ロンドンは俄か上機嫌になって鼻歌を歌い始めると、早速という具合に携帯を弄り始めた。
 …が、しかし。
「――――――電話番号…知らないんだった…」
 OH MY GOD!!
 ムンクの叫びポーズを30秒ほど続けたロンドンは、自分の不甲斐なさについてその後5分懺悔した。仕事の依頼を受けたとき確かにこの携帯に電話があったというのに、それをすっかりと消してしまっていた自分が情けない。あの神羅のプレジデントだぜ〜!とか何とか言って自慢したその直後に誰にも教えるもんかと自分からプチッと消去したんだから阿呆としか言いようがない。
「し、仕方ない…この際ジョニーに聞くか…」
 確かジョニーはプレジデント神羅に脅迫電話をかけていたはずである。
 あの女性の携帯電話から番号を入手したはずだからこれは確かだろう。ルーファウスからの情報では彼女はルーファウスの女でもないしプレジデントの女でもないことも確定しているが、秘密機関の人間だというからにはその番号は確かだろう。
「何とかして聞き出さないと…」
 もうこの事態を収拾したいと願っているロンドンは、あくまでこの誘拐を強行しようとしているジョニーに向けて、最後の望みとなる電話をかけた。
 
 
 
「発信源はゴーストスクエア内に絞られたぞ、っと」
「そうか」
 ある一室では、スーツ姿の男が二人、一つの携帯をじっと睨んでいた。
 昨日本部へ調査依頼をかけたレノは、自分の携帯にかかってきた電話の発信源…つまり犯人がゴーストスクエア内に潜んでいることを知り、更にはこのゴーストスクエア内にいることを確信していた。
 昨日、閉館間際のゴールドソーサーにダッシュで入館したレノとルードは、取り敢えず泊まるところを確保しようとゴーストスクエアに一泊したのだが、今朝方新たに本部に調査をかけたところ、発信源はこのゴーストスクエア内に絞られたのである。
 要するに犯人は、同じゴーストスクエアにいるという事だ。
「よしルード、おさらいだ。犯人とイリーナは共犯で、誘拐されたのはあくまで副社長。イリーナは副社長の命を狙ってる。あいつも一応タークスだからな、こりゃ危険だろ。で、それを防ぐにはツォンさんがイリーナの要求に応えるしかないわけだ」
「イリーナの要求は何なんだ?」
「そりゃ勿論、ツォンさんが落ちること」
「――――は?」
 表情を崩さないままにポカンとしたルードに、レノは腕組をしながら神妙な顔つきを返す。
 そして、出来ればこんな話はしたくなかったけど…と一つ咳払いをする。
「イリーナがツォンさんのこと好きなのは見てれば分かるだろ。でもツォンさんが落ちないもんだからイリーナはとうとう痺れを切らせて副社長を誘拐したってわけだ」
 そんな阿呆な事件がこの世にあるもんかと思うが起きてしまったからには仕方ない。
 しかしそう説明されてもいまいち理解できなかったルードは首を傾げてレノに問う。どうして副社長を誘拐しなくてはならないのか、と。
 イリーナがツォンを好きなのは良く分かったが、何故そこで副社長が誘拐されるのかがさっぱりと繋がらないのである。
 するとレノは、ごくごく真面目にこう答えた。
「副社長とツォンさんは――――――ただならぬ関係なんだ…」
 ザッパ〜ン!
 ルードの中で激しい荒波が沸き起こる。
 ただならぬ…それは危険な薔薇の匂ひ。またの名をサブ。
「ま、まさか…」
 思わずサングラスがズリ落ちそうになったルードに、レノは慰みとでも言わんばかりにポンと肩を叩く。そして、「相棒よ、泣くな」と言う。別に泣いてない。
「世の中には色々あんだって。俺たちも大人なんだし色々受け入れなくちゃいけない事があるよな、うん」
「っていうか…何時の間に…」
 上司と上司が…って両方上司に変わりないが、とにかくあの二人が只の上下関係の枠を超えていたとは驚きもものきである。まあ確かに何故此処に副社長が?というシーンは何度となくあったが、ルードはそれについても上司だから当然かと思ってきたのだ。
 ところがドッコイ、そうは問屋が卸さない。
「そういうわけだからさ、ツォンさんがイリーナの要求を呑むってのは即ち…」
「副社長と別れるっていう…」
「ビンゴ!」
 レノは深く頷いてそう言うと、そうは言ったものの顔を渋くさせた。そりゃ当然だろう、今までずっと二人の関係を知っていたレノなだけにそんな事は推奨などできるはずがない。それどころかレノはかつて、ツォンに浮気疑惑がかかった折に怒りまでしたほどなのだ。
 しかし…。
「いかにも難儀だろ、そんなの。でも副社長の命がかかってるとなったらさすがに別れるしかないよな…ツォンさんの気持ちを考えると俺もさすがに辛いけどさ」
「まあ、確かに…」
 ルードとしては未だに二人がそんな関係であることが信じられなかったが、どうやらこの状況はそんなルードを待ってはくれないらしい。驚いている暇があるなら対処を考えろといわんばかりの展開だ。
 しかしその対処が「別れ」だというのは、ついさっきその関係を知ったルードとしてもあまり好ましいとは思えない。それしかないとしても、である。
「でも…別れたら、その後が辛い…」
 ルードはぼそりとそう呟く。
 そんなルードの脳裏では哀愁漂う恋愛ドラマが繰り広げられていた。
 
 
『ツォン先輩〜結婚式はドレスが良いですか?それともやっぱり文金高島田?』
『ああ、文金高島田はなかなか好きだな』
『いや〜ん、先輩ったら渋い!そんなところが好きなんですけどね!』
バタン
『―――取り込み中悪い。仕事の話をしに来た』
『!…ルーファウス様…』
『あら、副社長。野暮な事しないで下さい、今結婚式の話してるんです』
『結婚…そうか…6月に結婚するんだったな』
『式には副社長も招待しますから、絶対にきてくださいね!』
『…ああ』
『ルーファウス様、あの…』
『気にするな、ツォン。何だったらスピーチもしてやるぞ』
『そんな…別に私はそんなことを言うつもりじゃ…!』
『素敵〜!ねえねえ、副社長にスピーチしてもらいましょうよ!』
『イリーナ!』
『良いんだ、ツォン。私はお前たちの事を祝福したい…』
『ル、ルーファウス様…』
『私たち、幸せになります〜!!』
 
 
「…なんて残酷な…見ていられない…」
 ルードはよろよろとなると、額を押さえ込んだ。
 職場で誰が別れるのも付き合うのも勝手だが、それによって嫌な雰囲気が漂うのは分かりきっている。それがツォンやルーファウスやイリーナとくれば更に最悪だろう、何せ同じ職場で同じ部署なのだ。
 平和主義のルードとしては、ツォンが辛そうなのも嫌だしルーファウスが辛そうなのも嫌だしイリーナがそんなになるのも嫌だった。どうせだったらこのまま別れずに何とか済んで欲しいという気持ちだった。
「その、別れずに何とかならないのか…」
 思わずそんなことを口に出すと、レノは即座に「無理だろ」と返した。
「確かに俺もその方が良いと思うけど。でもイリーナが納得する方法なんて他にあるか?副社長の命を狙うほどなんだぞ」
 それは大きな勘違いだと言いたい。
 がしかし、それを知る人おらず…。
「確かに…」
 結果、ルードも納得してしまう。
 だもんだから、レノはため息混じりに「仕方ないよな」と呟き、二人の間にあった携帯を手にした。そうしてツォンの携帯へとコールすると、渋い顔をしながら髪をクシャリとかき上げた。
 
 
 

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