Honey Style Tropical : Tuesday -------------------------------------------------------- その日、ラブラブトロピカルに目覚める予定だったツォンとルーファウスは、予定に反してとんでもない目覚め方をした。 何故なら。 「殺人!殺人!殺人起キチャッタヨオオオオ!!!!」 ただでさえどうかと思うジョニー口調に殺人という縁起悪い言葉が重なればそれはもう凄い事である。その上その声量ときたらホテル全体に響かんばかりの勢いだ。 嗚呼、何て寝覚めの悪い――――――…と愚痴を言っていられたのも一瞬の内で、強制的に起こされたツォンとルーファウスは起きて早々、殺人事件を目の当たりにすることとなった。 普通、こんな物騒な事が起きたらコソコソと処理するか警察を呼ぶものである。 がしかしジョニーの目覚まし時計のおかげですっかりホテル全体に知れ渡ってしまったこの事件は大いに観衆を集めた。因みにツアー客は全員ジョニーから招集をかけられていて、当の犯行現場には恐ろしい人数が集まった次第。 ホテルマンの男が後ろの方から青褪めた顔をしてそれを見ていたが、彼の表情が青褪めているのは殺人が起きたからではなくこんなに人数が集まってしまったからである。間違いない。 「皆サン、困ッタ事態ニナリマシタ。殺人ガ起キテシマイマシタ」 何故だかその場を仕切っているジョニーが神妙そうにそう切り出す。 観衆はゴクリと唾を飲み込む。 「ガイシャハ私ノツアーニ参加シテイタ"ロンドン"サン。第一発見者ハ、同ジク私ノツアーニ参加シテイル"ベガス"サン。因ミニ、ベガスサンハギャンブラーデスカラ、犯人ノ可能性ガ高イデス。ッテイウカ犯人デス」 「ちょ、ちょっと待って下さい!どどどどうして私が!」 「ウルサ〜イ!捕マリタクナイカラッテ往生際ガ悪イヨ!吐イチマイナ!」 「うわ〜ん!私は犯人じゃないよ〜!!」 訳の分からない言い分で勝手に第一発見者=犯人だと決め付けたジョニーに、近くにいたベガスが反論する。そりゃ誰だって速攻で犯人扱いされたら嫌である。その上ベガスは気弱な男だったのでこの悲惨な事態をどう切り抜けて良いか分からなかった。 因みに、彼は生まれてこのかた天気予報ギャンブルしかやったことが無い。毎日明日の天気を妻と賭ける(一回10ギル)というささやかなギャンブラーなのだ。 そんなささやかギャンブラーなベガスを前に、ジョニーは「ヒットラエロ!」とか「デヤエデヤエ!」とか訳の分からないことを叫んでいる。どこの出身ですかと問いたいのはヤマヤマだが今はそんな場合ではない。 「ツォン、どう思う?」 「どう、って…何もかも滅茶苦茶ですよ」 ひそひそ話を始める観衆の中、ツォンとルーファウスもひそひそと話をし始める。 ルーファウスは何故だか妙に神妙な顔付きをしていたが、ツォンの方は呆れたような顔をしていた。まあそれも分からないでもない。何しろ最初から最後まで本当に滅茶苦茶なのだ。 普通こういう事態が起きたら順序というものがあるだろうと思うのに、それを丸っきり無視して進んでいる。未だにそこに横たわっている死体をどうにかしようとは思わないのだろうかとツォンは不思議で仕方が無い。 「取り敢えず警察に連絡した方が良いですよ。ジョニーさんが仕切るのも間違ってますし、こういうのはプロに任せるべきです」 「なるほど、お前の考えはそれか」 「当然でしょう」 ツォンの言葉にふむふむと頷いたルーファウスは、じゃあ、と言って観衆の輪から一歩踏み出した。そうしてジョニーの前に進み出ると、声も高らかに叫びだす。 「皆、聞いてくれ!この不遇の事態には慎重な調査を要する。でも安心して良いぞ!ここからは私が面倒を見てやるからな!」 「はあ!?」 驚いて声を上げたツォンを無視し、ルーファウスは気持ち良さそうに演説並みの言葉を口にする。最早バカンスを楽しむ恋人ではなく神羅の副社長だ。 ツォンはそのルーファウスの態度にあたふたしていたが、観衆の方はどうやら違っていたらしい。突如出てきた正体も分からないルーファウスに対して何でだか安心をしたらしく、良かった、とか、これで安心して泊まれるな、だとか言っている。 嗚呼、身に付いているというのは何と恐ろしいことか! 「そうと決まったら皆はバカンスを楽しんでくれ。私はこれから調査を開始するからな。まあ私には優秀な部下もいる。幸い彼はこの道のプロなんだ」 「ちょ!何言っているんですかっ」 この道って何ですか!?、ツォンは咄嗟にそう抗議しようと思ったが、時は既に遅かった。 ツォンの隣にいた幾人かが「おお!」と感嘆の声を上げて、更には「宜しく頼んだ」などと他人事のように言葉をかけてくる。 「OH!ソウダッタノカ、ツォン!心強イヨ!」 「ジョニーさんまで何言ってるんですかっ。そんな訳無…」 「うわ〜ん!ツォンさん、何とか私の無実を証明して下さい〜!」 「だから!私は違…」 「よしツォン!頑張ろうな!」 「ああああ〜!!」 もう何もかもが滅茶苦茶だとツォンが頭を抱え始めたとき、ルーファウスは観衆の輪の中心で腰に手を当ててキッパリとこう言い放った。それはもう高らかに。 「この謎は私が解いてみせる!私の名にかけて!」 地元の頼りない警察機構に連絡を取ったのは、それから数時間後の話である。 何でもっと早く連絡してくれないんですかと散々怒られたツォンは、すみませんと何度も頭を下げたものだが、脇にいたルーファウスが事も無げに事件は私が解決するだとか言うものだから警察機構との話し合いは困難を極めた。 警察機構からしてみれば、民間人でしかない人間が事件に首を突っ込むのはご法度である。しかし、神羅の御曹司であるルーファウスはそんな事はちっとも考えていないらしく、もう既に事件の全容を暴くための準備を始めていた。 取り敢えずその場は神羅の名前が功を奏して何とかなったのだが、旅行としては最悪の状態になったのは言うまでもなく…。 「まずは聞き込みからだな」 妙に意気込んでいるルーファウスの横で、ツォンは並々ならぬため息を吐いた。 何でこんな事になっているんだという気持ちが50%、何でルーファウスはこんなに意気込んでいるんだという気持ちが50%、とにもかくにも納得できない。 予定ではあと6日間まったりと(※あくまでツォンの希望)過ごすはずだったのにちっともゆっくりできやしない。それどころか面倒なことにまで巻き込まれている始末である。 それは肩だってガックリ落ちるというもんだ。 「どうしたんだ、ツォン?」 あくまで不思議そうに首を傾げてくるルーファウスに、ツォンは愛想笑いすらできずに向き直る。そうして、切実なふうに切り出した。 「あのですね、ルーファウス様。確認の為に聞きたいんですけど、私たちは確か旅行に来たんですよね?」 「そうに決まってるだろ?何言ってるんだ」 「でしたら、こんな面倒な事に首を突っ込むのは止めてください。そもそも私たちの旅行だって秘密裏なものなんですよ?いつどこで何が起こるかわからないんですから」 本当だったら今回の旅行も、絶対に休みなんか取れるはずがなかったのである。 そこをルーファウスが裏操作したから何とかなったのだが、それはそれ、あくまで秘密なのだ。もしどこかでバレでもしたら大変なのに、副社長然とした演説をするわ神羅の名前を出すことになるわで、これでは心臓がいくつあっても足りやしない。因みに胃も。 まあルーファウスという名前で普通に呼ばれている時点でちょっとばかり気にはなっていたのだが、今の所はルーファウス=神羅の副社長と気付いている人はいないらしい。 「今からでも遅くありません。警察機構も独自で調査を進めるはずですし、ここはやはり引き下がった方が良いですよ」 「え〜…」 ルーファウスの顔はいかにも不満そうだった。 まああれだけヤル気で宣言してきたのだから当然だろう。 しかし、折角の旅行だし、バレたくないという気持ちもあって、ツォンもここは引き下がらなかった。 「もうハートのパジャマでも何でも着ますから、とにかく今回の事件だけは関わらないで下さい。約束してくれますよね、ルーファウス様?」 「でも…だってもう、俺が解決するって言っちゃったんだぞ。今更取り消すなんて出来るわけないじゃないか」 ツォンに説得されたからか、ハートのパジャマという一言が効いたからか、どちらか分からないがとにかくルーファウスは少し心が動いたようでそんなことを言ってくる。 この心の動きはツォンにとってホッとする動きだった。 「大丈夫ですよ。手に負えなかったから警察機構に任せた、と言えば済む事なんですから。難だったら私がそう言います。だから、手を引いてくれますよね?」 念を押すようにそう言ったツォンに、ルーファウスは少しばかり間をおいた後に小さく頷く。果たして本当に納得しているのか怪しいところだが、少なくともツォンはそれを見て安心をした。 とはいえ、念には念をというものである。何しろ相手はこのルーファウスなのだから。 「では私は、早速それを伝えに行ってきます。警察機構と、それからジョニーさんにも伝えた方が良いですよね。それからええと…」 一応ベガスにも言っておくべきか、ツォンはそう思いながらすっと立ち上がった。 取り敢えず早いところこの事件とオサラバしないと楽しいものも楽しめなくなってしまう。それに、秘密のこの旅行がばれてしまってはマズイ。まあ一番の問題はルーファウスが何かしでかさないかという部分なのだが、何はともあれ先手必勝である。 「ルーファウス様、私は少し席を外します。このまま此処で待っていてくださいね」 「うん、分かった」 物分りの良い返事をするルーファウスにツォンは少しだけ嬉しくなって、 「帰ったら、一緒に海岸にでも行きましょう」 そんな事を言った。 折角の二人きりの旅行だし、こんなふうに物分りの良いルーファウスと一緒ならばそりゃあツォンだって少しは良い雰囲気になりたいというものである。因みに、昨日ジョニーが言った縁起の悪い話はサクッとポイっと海に捨てておく。 「では、また後で」 「ああ、じゃあな」 軽い挨拶を交わして、暫しのお別れ。 そのまま部屋に残されたルーファウスはその場でツォンの帰りを待つことになったわけだが、やはり此処には問題があったらしい。それは、部屋を去っていったツォンには分からない事だった。 ルーファウスはベットに倒れこむと、あ〜あ、などと詰まらなそうな声を出す。 「折角旅行っぽい事件が起こったっていうのになあ」 どこが旅行っぽいんだ、とツッコんでくれる善人はいない。 「ツォンの奴、ご丁寧に警察機構にまで行くつもりだしな。これじゃあ俺の面子も丸潰れだし、俺の好奇心が満足しないじゃないか。あ〜そんなの絶対に嫌だ!」 ツォンの安心を他所にどうにかならないものかと考え出したルーファウスは、そこでとても良い案を思い浮かべた。 そう、それは―――――捏造! 事件が無くなってしまうなら事件を作ってしまえば良いのである。今しがた、というか今正にツォンの手によってルーファウスの目の前から無くなろうとしている事件はこの際仕方ないと諦めるとして、また新たに違う事件を捏造すれば良いのだ。 そしてその事件を解決することで、最終的にHAPPYENDになればOKである。 「ふむふむ、そうだな、それにしよう!難問事件を見事解決、そしてツォンと感動の抱擁…我ながら完璧なシナリオだ」 自画自賛したルーファウスは、それじゃあ早速といわんばかりに事件捏造することにした。何しろ時間は限りがある、何としてもツォンが帰ってくるまでに新しい事件を作らねばならない。これぞビックプロジェクトだ。 ―――――――で、ルーファウスの考えた事件とは。 「よ〜し!早いとこ誰かに誘拐されないとな!」 にっこりと笑ったルーファウスは軽快なステップを踏みながら部屋を後にする。 そんなルーファウスが考えた事件とは、自分が誘拐されるという変てこりんな事件だった…。 |