「ルーファウス様!」

 体を揺すられ、目を覚ます。

「…眠っていたのか、私は…」

「お疲れだったようで。最近は随分と忙しかったですからね」

 ツォンだ。

「いや、忙しいのは良いんだ。もっと忙しくて構わない」

「…変わっていませんね」

 ツォンは苦笑する。

「そうやって自分を追い込むと、心が死んでしまいますよ」

 気遣うツォンに、ルーファウスは首を振る。

「大丈夫だ。心はもうずっと昔に死んでいる。…お前の右手が義手になったあの時に…」

 セフィロスによって右手を失った男の名は、ツォンと言った。

 世界で一本しかない正宗という長剣は、セフィロスの手に渡り、右手を失ったツォンは宝条研究所の最先端技術により、本物と寸分違わぬ右手を手に入れた。

「やはりまだ、そのことが心にしこりとなっているのですね?」

 ツォンは困ったように笑う。

「もう気にしなくても良いのです。あのおかげで、部署は違うけれどそれなりのポストを頂けましたし…」

「だが、人生の軌道を変えてしまった責任は、私にあるからな…」

「…人生の責任くらい、自分で取れるものですよ。私も一人前の男なんですから」

「だが…」

「どうせなら、責任を感じてくれるより、愛情を感じていただける方が、私の好みなんですけどね?」

「…随分と不利な愛情だな」

「腕一本で、あなたの愛情が得られるなら、安いものだと申しただけです」

 ルーファウスは泣きそうな顔でツォンを見つめる。

「本当にそう思っているのか?」

「そうですね。そう思っていますよ」

 ニッコリ笑ったツォンの笑顔。

「それなら、私の生涯をかけて、お前を愛していこう」

 ツォンに寄り、その首に腕を巻きつけるルーファウス。

 抱き合った二人の、ルーファウスには見えない場所で、ツォンの笑顔が歪む。

 すれ違いの想いが、交錯する…。

 

 

 

「支社をつくることになったので、私がその管理を行う為に、長くミッドガルを開けることになった」

 ルーファウスはツォンにそう告げた。

「そうですか。それでは、お体にお気をつけて」

 ツォンの返事に、ルーファウスは首を傾げる。

「お前も行くんだぞ?」

「いえ、私は希望出してミッドガルに残ることに致します」

「…なんだって?」

 ツォンは微笑んで、ルーファウスを真正面から見つめた。

「そろそろ、お一人で何でもなさった方が良い。もう子供ではないのです。一時の判断ミスで、誰かの体の一部を損傷させるなんてこともないでしょうから」

 ルーファウスの顔色が変わる。

「どういう意味だ?」

「そういう意味ですよ?」

 悪意のない笑顔で、平然とそう返される。

「お前は、やはり…私を恨んでいるのか?」

 押し殺した声に、おや、とツォンは不思議そうな顔をする。

「私が一度でも、恨んでいないと口にしましたか?」

 ツォンの腕が、ルーファウスの腕を掴む。

「この右手です。これは、精工に出来てはいますが、実は義手なんですよ? 人の体一部を駄目にして、恨まれていないとでも思ったんですか?」

 表情が暗く歪む。

 ツォンはルーファウスを床に放り投げると、その胸の上に、足を下ろした。

「恨まないわけがない。私の希望は、あくまでソルジャーだったんですからね。あの剣は、ソルジャーになった私に、当時の恋人が全財産をはたいて買ってくれたものなんですよ? 今はもう、彼女はいませんが…」

 クッと笑ったツォンは、足に力を込め、懐からナイフを取り出した。

「あなたの右手をね、奪ってやろうかと思った時もありましたがね?」

 ナイフが一閃して、ルーファウスの腕を傷つける。

「傷を負ったソルジャーには、常に恥辱が待っているのですよ。戦いに敗れておきながら、恥じを晒している臆病もの、とね?」

 白いスーツに血がにじむ。

 服を着たままでは、血で汚れてしまいますね?」

 ツォンは倒れたルーファウスを引き起こし、丁寧に服を脱がせて行く。

「そうだ」

 ツォンは突然に声を上げ、ナイフを握った。

「ここを切り裂く、というのはどうです?」

 ナイフの刃が当てられたのは、ルーファウスでも信じられない場所だ。

「どこだかの滅びた国の話ですけどね。死を覚悟して戦いに出る男は、前の晩に少年を陵辱し、ことが済んだ後に、その少年の、自分を受け入れた場所にナイフを入れて、内側から引き裂いて殺したのだそうですよ。狂っていますね?」

「…私を、殺すのか?」

 ツォンはそれには答えずに、ナイフをそこから上へ引き上げて行く。

 白い肌に、一筋の赤い傷がつき、それを愛しげにツォンは舐めた。

「美しい肌に、美しい赤い帯…。感じてきてしまいましたよ」

 その通り、下半身のふくらみが増す。

「させていただいても良いですか?」

 当然、返事を求めての言葉ではなかった。

「直ぐに入れても良いですよね? これよりはきっと、あなたも良くなるはずですよ?」

 ナイフは脇に置かれ、変わりにツォンの高まり切ったものが出された。

 まだ何の準備もされていないルーファウスの、閉じた場所に、遠慮なくツォンはそれをねじ込む。

「うっ…」

 激しい痛みがルーファウスを襲い、意識すら朦朧としてくる。

「駄目ですよ。ナイフよりは余程まともなんですから」

 どこか狂ったように囁き続ける声を、ついにルーファウスは放棄したのだった。

 

 目覚めると、床の上に転がされていた。なんの後始末もしていないままで。

 痛む体に無理をさせて起きあがると、ぬるい流れが足を伝い落ちる。

「惨めだな…」

 愛されてると思っていた。右腕を失った男を、自分も長い間をかけて愛してきたつもりだった。

 なのに、それは全部ウソだった。

「惨めだ…」

 こらえていた涙が頬を伝う。

 心が、凍り付いていくようだった。

 もう何も信じることは出来ない。

 誰も。

 

 数日後、ルーファウスは一人で支部へ向った。

 氷のような無表情を一つ残して。

 

「酔狂だな、俺も」

 見送る社員達の中で、ツォンは呟く。

「もう恨んでなんていない…なんて言わなくても、分かってくれてると思ったんだがなぁ」

 だが、何時も愛情だけでない同情で自分を見るルーファウスの目が嫌だった。

 欲しいのは、同情でも償いでもなく、愛情だったのだから。

「けど、あのままでは、あなたの中の同情はずっと消えない。ならば、恨まれた方が…嫌われた方がマシなんですよ」

 右手を押さえて、ツォンは遠い空を見つめた。

 

END

 

 

 

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