CRYSTAL LIFE

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世界は今、変動していた。

神羅が崩壊したときから、もう5年ほど過ぎたろうか。

一旦は地まで落ちたかのような状態だったこの土地も、徐々に復活の色を見せてきた。それは4年ほど前から進められてはいたが、今この年になってやっと大きな動きを見せたといって良い。小さな町の集合体が、人口の増加によって合併を繰り返す。それが何度か起こり、やっとかつてのような大きさにまで近付いたのは、つい最近のこと。

そうして一番の変革は、ある一つの企業が始動したことだった。

それは当初、小さな町の中での、小さなプロジェクトに過ぎなかった。

それぞれの町がそれぞれの自治で動いていく状態だったこの土地は、その自治の相違で何度もぶつかり合いが起こっていた。それはそれで仕方無いことではあったが、あまりにも相違が激しい部分もあり、隣合った町などでは特に犯罪面での制裁が問題となっていたのである。治外法権だとか、そんな話だ。とはいっても、それほどの事件があるわけではないのだから大した問題ではなかったはずなのだが。

結局それぞれの土地からの権威が寄り集まり、そのプロジェクトは始まった。

最初は、単なる相互間の理解を話し合う。

その次は、ある部分での統一について話し合う。

そうこうしているうちに、どんどんと話は膨らみ、結局一つのシステムを作り上げればいいということになった。

しかしそれに誰が賛成などをするだろうか。そう考えたとき、当然のように過去のある企業の話が出される。それが何かはもう誰しもが理解できるところだろう。

神羅カンパニー、その名を。

本来なら企業が土地を支配するというのは型破りな話である。しかし過去、神羅カンパニーはそれをやってのけたのだ。勿論そうできた裏には、戦争やミッドガルという都市との結託などがあったわけだが、そのような細部は誰も知りはしない。

ただでさえ些細な喧嘩の耐えない町同士に、今日からこういった統一を図るから、といってもそれはすぐに拒否されてしまうだろう。けれど神羅のように、表面上は企業ということにしておけばどうだろうか。  

表面上はこれといってそれぞれの町には関与しない。しかし実際にはシステムの中心をそこにおき、それぞれの町がそれぞれでそのシステムの制御下になれば。

「それぞれは知らず知らずのうちに、同じシステムを使っていくということになる。ある意味では統一、ということだ」

そんな一声から、このプロジェクトは始動したのであった。

それはともかくとして、ツォンにとって一番の問題は自分がそのプロジェクトに関わることだった。企業として始動するならば、それは企業の一員ということになるわけで、ツォンにとっては過去の繰り返しといった状況である。

そんなことは、望んでいかなったのに。

どうしてこうなってしまうのだろうか。

神羅が崩壊したとき、ツォンは一つ自分の中で誓ったことがあった。その頃は隣にルーファウスがいて、とにかくルーファウスと共に生きていくこと、そして何とか新しい環境にルーファウスが適応するようにと思っていたものだが、そういう生活の中で生まれた一つの決心はこんなものだった。

繰り返さない。

ただ、これだけだった。

それは細かくいえば、神羅と同じような大きな支配の中には入らないことや、そういう立場から絶対的に離れること、そしてそういう事を守るために生きること。

そう誓った裏にはルーファウスの存在が大きくあった。今はその存在を失ってしまったけれど、それでも自分に対する誓いを破るようなことはしたくなかった。

ルーファウスは、神羅が崩壊した後、ツォン以外の誰とも会おうとはしなかった。それは神羅という企業の影を残したくない為なのだろうとツォンは今でも理解している。名前を隠し続けたこともそういう理由からであろう。

だからこそ、ツォンもそれを守りたかった。

神羅の影を残したくないと思うなら、自分もそれと同じように全てを捨てて新しくルーファウスと生きていこうと思っていたのだ。ルーファウスが側にいない今、もう頑なにそれを唱える必要性はなくなってしまったのかもしれないが、やはりツォンがそれから開放されることは今でもまだない。

何故かと問われれば、答えは簡単だった。

今でもまだ、ルーファウスを忘れることなど出来ないから。

今でもまだ、想っているから。

きっとルーファウスはそんなことを許しはしないのだろうが、それでも自分の心に嘘をつくことなどは到底できない。

もしできることなら、ルーファウスの元に戻り、そして今を捨ててもう一度側で生きていきたいと願っていた。

けれど、それはできない選択だったから―――――。

だからツォンは、結局今の状況にただ悩むしかできなかった。完璧に拒否することもできず、完璧に賛同することもできぬまま。

 

 

 

綺麗に揃えられていく物を見つめながら何ヶ月か経った頃、ツォンは完全にその企業の一員として迎えられた。

プロジェクトの話し合いの席で、ちょっとしたアドバイスなどをしてしまったのが運のつきだったろうか。

元々神羅の人間だったツォンにとって、企業の核である話はお手の物といって良い。勿論過去は隠したままだったが、その知識と知恵がかわれて今に繋がったというわけである。しかもそういうアドバイスができる点で、立場は最初から跳ね上がっていた。以前では考えられないような立場である。

つまり、企業にとっては必要不可欠な人間ということになる。

しかし、それすらツォンにとっては嬉しいことではなかった。

「システムの方は出来上がっているんだ。とにかくコンピュータの投入だな。それを全部に配置してもらって、そこに管理のシステムを組み込んで…。それぞれの自治体にはそれに則ってやっていくようにしてもらおうと思ってるんだ」

その説明は、それぞれの街からプロジェクト参加していた人間が行うというから心配はない。そもそもプロジェクトに参加していた人間の殆どは町の中でも大層な立場の人間なのだから、鶴の一声の状態だろう。

簡易的な応接室に呼ばれたツォンは、この企業の実質的な取締役となる男に、延々とその構想について語られていた。

ツォンからしたら、かなり年が下の男である。

ある一つの町の、町長の息子。その男にこれから従っていくというのだから、かつての自分を彷彿せずにはいられない。とはいっても、神羅のときとは立場も違うし、人間も違う。

ツォンはこの男にアドバイスをして実際の運営に直に携わることになっているし、この男自体はルーファウスとは180度違うのだ。

けれど。

それでも過去を思い出さずにはいられなくて、それがとても…辛い。

男は、人懐こい性格であるらしい。何かとツォンに相談を持ちかけては、その都度仕事とは関係のない話まで延々と楽しそうにしたりする。それは勿論、嫌な感じを与えるようなものではないし、むしろ好感のもてるものだった。

この日も例外なく、仕事の話の後に世間話が入り込む。とても自然に。

「そうだ。堅苦しいのもなんだし、ツォン、って呼んで良いか?」

笑ってそう言う男に、ツォンは「どうぞ」と返す。

―――――あの人は、そんなことを断りもせずにファーストネームを呼んできたものだが。

「ツォンはこういうことに詳しいけど、昔は何をしていたんだ?」

「昔、ですか…」

「ほら、そういうふうに敬語が板についてる。って事は、だ。それなりの仕事をしてきたんだろ?」

「そうですね、そうかもしれません」

だって、それが当然の世界にいたのだ。それがあるべき姿だったのだ。

ツォンが静かにそう答えると、男は「もしかして」と間髪いれずに言葉を繰り出す。

「神羅カンパニー…の人だった、って事はないよな?」

一瞬ドキリとしたものの、それは外に出さず、ツォンは苦笑しながら

「違います」

と答えた。本当は隠す必要はないのかもしれない。けれど、今までずっと捨ててきたものを今更掘り起こすこともないだろう。例え今またこの企業に従事することになろうとも、それは神羅とは違ったものなのだから。

「そうか、もしかしてって思ったんだけどな。まあ良いか。ところでツォン、これは個人的な話になるんだけど…実は、ツォンの住まいのことで」

「私の?」

ああ、そうなんだ、と言いながら、男は嬉々として話を進める。

「ツォンの今の住まいは遠いだろう?それにこれからは立場も立場なんだし、それなりの配慮をしようってことなんだけど」

条件は良いんだなどと言いながら、男はある図面を取り出す。それはどうやら、男がツォンに対して用意した家の図面らしく、詳細が書き込まれていないとはいえ一見してかなり広いことが伺える。

それと同時に地図も取り出すと、男はあるポイントを指差した。

「此処の辺りなんだ。静かでのんびりした所なんだけど、これから開拓してマンションを作っていこうと思ってる。少し高級になるかもしれないんだけど」

「開拓?ということは、そういった方面も手を伸ばすのですか?」

「ああ。円滑な流通を図るためにもね…って、これは父さんの受け売りだけど。とにかく土地を開拓していくってのは、発展にも必要だろう?」

まるで夢を語るような男の顔を見ながら、ツォンは嫌な気分になる。

やはり、これは危険なことだったのだろうか。

かつての姿を忘れたわけではあるまいに、また同じことを繰り返そうとしている。当然それは神羅に関わっていたツォンが大きく批判できるものではなかったが、それにしても展開が速すぎる。というより、まるで最初からそれを予定していたかのような感じだ。

土地を開拓し、システムを完全なものにし、そして町を制御していく。

そうして段々と、土地とシステムが一体化していく。

全てが把握でき、全ての権力と金を支配する。

つまるところ、それは完全な支配体制へと変わっていくのだ。

もし此処に違う企業があったなら、それは防げるかもしれない。けれど、もし今の状態のまま何年かが過ぎていけば、一つだけ大きな物体があり、小さな物がそれに従うという体制が出来上がっていってしまうのだ。それが定着し、全ての人の共通意識となったとき。

また、始まってしまう。

そしてその時、その支配の中に自分は身をおいてしまうのだろうか。

そこまで考えて、ツォンは息苦しさを感じた。今この土地に生きている人が何を欲しがっているのかは分からないとはいえ、欲しているものがかつての格差の激しい世界でないことだけは確かである。その世界への反省を、ツォンも、そしてルーファウスも知っていた。だから捨てたいと願い、静かに暮らすことを望んだのだ。神羅復興をすることもできたのに、それをしなかった理由はそこにあるというのに、こうしてまた誰かが、その意識や反省をも打ち捨てて、繰り返そうとする。

ツォンやルーファウスの願いを、台無しにしてしまう。

「それはともかくとして、ツォン。ツォンの家は此処が良いと思うんだ。通いやすいし、今までの家より快適だし。実をいうと、他の人間もこの辺りに住んでもらおうかと思ってるんだ」

なるほど、エリートの区画というわけか。

思わず口に出しそうになったのを抑えるとツォンは、そうですか、と適当な返答をした。家は別段どうでも良い。けれどそこに住んでいくことで、自分の中の何かが変わるのは嫌だった。

地図を見ながら、何となくあるポイントを目で辿る。

そこは―――――――2年ほど前まで、ルーファウスと共に暮らしていた土地。

ああ、あの場所から、更に遠くなってしまうのだ。そう思うと少し悲しい気がする。まさかもう会うことはないだろうと思うが、それでも少しでも近かったら安心するような気がしていた。

更に遠くなる。距離も、心も。

「じゃあ、それで決定!で、今日はこの後、機械を搬入するから俺たちの出る幕は無いんだな。明日からシステム稼動テストだって。宜しくな」

「はい、分かりました」

何とも楽天的な目前の男に、ツォンはどういう顔をしていいか分からないままにそう答えた。まさか彼は今後何十年のことまで考えていないだろう。

とにかく明日、明後日…今はそういう段階なのだから。

その話が終わった後、ツォンはその家とやらを見に行こうと思っていた。あんなふうに話を持ちかけたわりには、どうも強制入居という感じだし、どうせ住むことになるのなら心構えくらいしておかねばと思う。

タイル張りの廊下に出て、ふっと窓の外を見る。

地上10階。神羅に比べたらまだまだの高さだ。

けれどこれがいつか、もっともっと高くなるのかもしれない。その時に、こんなふうに外を見下ろすのはやめよう。そんなことを考えながらツォンは、地上を見つめていた。

外には、機械を搬入するための人間が、数人駆けずり回っていた。

 

 

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