結果的にクラウドがザックスの部屋にたどり着いたのは、兵舎を出てから二時間以上も経った頃の話だった。

男はソルジャークラス2ndだったが、幸いにもザックスのことを知っていた。どうやらザックスの友好関係はかなり広いらしい。その男はクラウドにザックスの部屋まで案内してから、これは秘密だぞ、と一言言った。勿論、口外するつもりはない。というかそれを言ったらクラウドの方が危険である。

ザックスの部屋の前まで来たはいいものの、そこでもしザックスがいつものように自分を拒否したらば、クラウドは兵舎にももう帰れないし、はっきり言えば大変な状況だった。朝になれば、ソルジャーだらけで絶対につかまってしまうだろうから。

だから、目の前のインターフォンを押すのを、クラウドは少し躊躇った。けれど、それを押さなければ始まらない。

「よし…」

意を決して、インターフォンを鳴らす。

ピンポーン…

少ししてから、はい、という声が返ってくる。クラウドはいつになく緊張した。何もなかったように、いつもと変わらないザックスの口調。だけれど、自分を見ても同じように返してくれるだろうか。

ドキドキしてしまう…。

やがてガチャ、と音がした。そして。

「はいっ!お待たせ!…って……あれ…」

光が漏れて、その中にザックスがいる。最初、優しげだったその顔が、みるみる内に変化していくのが、クラウドの眼にははっきり映っていた。

ああ、やっぱり駄目か…

そう思ってクラウドはつい唇をかみ締める。何故だか言葉が出せなかった。

何してるんだ、と怒られるかもしれない。それどころかそのままドアを閉められてしまうかもしれない。そう思うと、何だか少し恐かった。

けれど。

「―――――入れよ」

少しして、ザックスのそんな言葉が、クラウドの耳に入った。

 

ザックスの部屋の入ると、中はあまり片付いてるとはいえなかった。けれど、それが何だかザックスらしいかな、とも思う。

とにかくザックスの後について此処に入ったクラウドだったが、その次に何をしていいのか良く分からなかった。だから何となくその場でただ立ち尽くしている。

「…で?」

そんな中でそんなふうにザックスの言葉が響いた。何しに来たんだ、という意味だろう。此処ではっきり言わなければ、と思うのに、何故だか言葉が詰まって、おまけに心臓まで早まっている。

そんなクラウドをじっと見ていたザックスは、少ししてクラウドに近付くと、突然クラウドの身体を引っ張った。

「えっ?」

そうしてクラウドが何も考えられないうちに、その身体を床に押し倒す。何が何だか分からないと思う間に、目の前にザックスの顔がすっと現れ、クラウドはその顔を見つめていた。

「ザッ…」

「良いよな、別に?」

言葉を遮られ、代わりにザックスの言葉が反響する。それと同時に、下半身の大事な部分をギュッと握りこまれた。

「ちょ…!ザックス!」

突然そんなことをされて、何が何だか分からなくなってクラウドはザックスの肩を押しやる。けれど、ビクともしない。

「何を嫌がるんだよ?此処まで来ておいて」

「違うよ!そんなことしにきたんじゃない!」

「へえ」

ザックスは何だか今まで見たこともないような嫌な笑いを見せていた。これは違う、何だかそうクラウドは思う。こんなザックスと分かり合うためにきたんじゃない、と思う。

けれどやはり抵抗しようとしてもビクともしない。そして、そうする内にもザックスの手は動いている。

違う…!

「や、だ…っ!」

パシン

思わず、ザックスの頬を叩く。

すると、ザックスの手の動きは止まった。それからゆっくりと重なっていた上体が離される。そうして再び光が見えて、クラウドは、はっ、とする。

何だか無意識のうちにザックスを叩いてしまったのだ。いくらその状況を回避するためとはいえ、仲直りにきたのに、それなのにそんなことをしてしまうなんて。

「あ…ザック、ス…。ごめ…っ」

どうしよう、そう思ってそんな言葉を口にしてみたが、今更取り返しはつかなかった。目をやった先のザックスは、冷たい表情をして、クラウドから遠ざかろうと立ち上がっている。

クラウドにはその状況が何だか分からなかった。ザックスのところまでやってきて、仲直りをしようとしたのに、押し倒されて……しかもそれを拒否したら、初めて見るような冷たい表情を向けられる。…これでは、まず話すことすらできない。それどころか嫌われる一方だとしか思えない。

まず話をしなければ、と思うのに―――――――。

クラウドはゆっくり起き上がると、ザックスを見つめた。どうしたら話してくれるのか分からない。分からないけれど、ザックスは……今さっき、自分を……。

「…わ…かったよ…」

クラウドは、もうどうしようもないという表情になると、言葉もなく、そっと自分の服に手をかけた。

そうして――――――ゆっくりと、脱いでいく。

しかしどういう訳か、それを見てザックスは驚いた顔をした。

「馬鹿、何やってるんだ!」

いきなりそう声を荒げると、もう既にズボンにかかっていたクラウドの手を慌ててザックスは止める。

「え、だって…」

「そんなことすんな!」

「……え??」

クラウドはほぼ泣きそうな顔をしてザックスの顔を見た。だってさっき、そうしようとしたじゃないか、と思う。だからそれをしてザックスが満足ならそうしようと思って、だから意を決したのに。それなのに止められ るなんて、それこそ意味が分からない。

そんなクラウドの目の前で、ザックスは大きな溜息を吐くと、クラウドを見遣って苦笑いをした。

それから――――――いつもの笑顔になった。

「ははは、やっぱ叶わないなっ!」

「……へ???」

突然、この何週間かの態度が嘘だったような笑みを見せて、またそんな意味の分からないことをいうものだから、クラウドははっきり気が抜けてしまった。今まで緊張したり、憂鬱だったり、集中できなかったり……あれは何だったのだろうか。

ザックスはクラウドにソファに座るように言うと、適当に缶ジュースなどを持ってきてクラウドに渡した。

あまりの変化に、クラウドはついていっていない。

「嘘だよ、クラウド」

そう言ってザックスは、クラウドの目の前に座り込むと、自分は缶ビールなどを飲みだした。

「嘘…。って、何が?な、何がどの変が嘘なの??」

「だから、全部。今の俺が本当だってこと」

「―――――――え」

ちょっと待て、とクラウドはポカンとした。だって、そんな。今までの気持ちはどこにいってしまうのだろう。というか――――――…。

「ひ、酷いよ、ザックス!俺、すごく辛かったのに!」

安心したら、何だか急激に怒りたくなって、そんなふうにクラウドは抗議する。けれどその声は何だか泣きそうだった。勿論、泣きはしなかったけれど。

「ごめんな」

そう言うザックスは、何だかいつも通りの優しいザックスで、ついついホッとしてしまう。だからつい、クラウドは泣きそうながらも笑ってしまった。理由が何一つ分からないというのに、である。それくらい、何だか懐かしいカンジがした。

けれど、やはり原因は追究しなければいけないと思う。何せクラウドは、その理由は自分が何かをしでかしたからだと思っていたのだから。

しかしそれを聞いてみてもザックスは、別にそんなことはない、と言う。

嫌な事も無いし、何も無い、と。

だからクラウドは首を傾げるしかなかった。何故ザックスがいきなりそんな態度を見せたのか、それではさっぱり分からないではないか。

しかしザックスは、それを何故か、クラウドには教えてくれなかった。ただ、少し照れたように笑っただけだった。

 

結局何も分からないまま有耶無耶になり、何となく世間話などをしてしまった。久々にザックスと色んな話をして、何だかクラウドは開放的な気分になった。

何だかとても――――――素直に怒ったり、笑ったりできる。

それは少し不思議な感覚ではあったけれど、何となくもうクラウドにはその理由が分かっていた。

「クラウド、送るよ」

暫くしてそう言って立ち上がったザックスは、すっかり飲み終わった缶をクシャと丸めた。

「え。だってもう帰れないよ」

何せ兵舎はもう閉まっている。

しかしザックスはにんまり笑うと、甘いな、とクラウドに言ってのけた。

「俺を甘くみんなって。アレはな、実は隙があんだよ。そういうのはバッチリ任せとけって」

「え!入れるの?」

「ああ」

そんな事を知りもしなかったクラウドは、驚いてそんな声を上げた。これはまた、ザックスから新たな知識を得てしまったという感じである。

案内してやるよ、とザックスは言ってくれたが、でもクラウドは何となく立ち上がれずにいた。

「どうしたんだよ。明日、やばいぞ?」

「え…でも…」

チラリ、とザックスを見遣る。それからクラウドは、少し小さな声で、こんなふうにザックスに切り出した。

「あの…さ。泊まっちゃ、駄目…かな…?」

「え…」

戸惑ったのはザックスの方である。すっかりクラウドの悶々も取れて、一通りの話なんかも終え、後は明日に備えて――――そんな感じだったから。

けれど、勿論それは悪くない話だった。というか、ザックスにとってそれは、嬉しいとしかいいようのない話である。

それは誰だって、好きな相手の側にいたいのは当然で――――――。

「ええと…まあ、良いけど」

髪をクシャ、とやりながらザックスはそんなふうに答えた。そして、少し考えてから、ちょっと笑ってこう言う。

「―――――ベットは一つしかないぜ」

だから、クラウドも少し照れ笑いをしながら、こう返す。

「知ってるよ」

 

 

 

「好き」が駄目なら「嫌い」がある。

「一番好きな人」になれないなら、せめて「一番嫌いな人」になれれば良いんじゃないか……と、そんなふうに思っていたけれど、それはやはり失敗だったとザックスは思っていた。

そもそも何が無理かといえば、相手に嫌われるのは簡単でも、自分が相手を嫌いになるのは到底不可能なのだ。だからつまり、それは元々無理な話ということだ。

でも――――この企みは、どうやら違った意味で功を奏しているような気もする。

なんにせよ、結果よければ全てよし。

それで良い。

「任務、失敗…ってとこか」

そう呟いたザックスは、チラリと隣で寝入っているクラウドを見て、笑った。

そしてその髪を柔らかく撫でた。

「やっぱ無理だな」

だって、やっぱり。

 

一番好きな人、になりたいから。

 

 

 

END

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