Your favorite

-----------------------------------------------------

 

 

「セフィロスって、やっぱり格好良いよね」

隣でそう言いながらセフィロスの姿を見遣るクラウドに、ザックスは溜息をついた。

「はいはい、そうだな」

もう聞き飽きたな、その言葉は、と思う。

それは確かにザックスも過去にその人に憧れていたから、そういう気持ちも分からないでもないけれど、廊下ですれ違うとか、演習補助などで姿を見せるセフィロスに、その度にぽわんと熱い視線を投げ るクラウドは、どうにもこうにもザックスを苛立たせた。

そんなに良いかな?と、セフィロスを良く知るザックスとしては思ってしまう。

というより――――――少し悔しい。

セフィロスに対してというか、クラウドの中で一番になれないことが、である。

チラリ、とクラウドを見遣ると、少し幼さの残る顔でニコニコしていた。そんなちょっとした笑顔が、ザックスの心を初めて捉えたのは、いつの話だったろうか。

とにもかくにも、そんな笑顔が自分に向けられるものだったら良いなと思う。

しかし――――――。

「わーわー!見た、今の!すごい格好良いーっ!」

「はあ…」

駄目だ、これじゃ。

あんまりにも英雄が大きすぎる。どうやら「好き」の部門ではトップには這い上がれなそうである。

しかし、世の中にはこんな言葉もある。

“嫌よ嫌よも好きのウチ”

―――――何と便利な言葉であろうか。

使用法はいくらでもあるが、それを思い出してザックスはそうか、と思った。要は、インパクトが大切である。インパクトが強ければ心に残る。心に残れば思い出す。そうすれば考える。…となれば、展開が無きにしも非ずという具合。

なるほど、つまり「好き」が駄目なら「嫌い」があるというわけである。

「なるほどなあ」

感心するようにザックスがそう呟くと、クラウドが「ん?」とザックスを振り返った。妙に無邪気である。

そんなクラウドにザックスは「何でもない」というと、心の中でふっと笑った。

 

 

 

ザックスのそんな企みは徐々に始まっていた。

今までクラウドのいう事には快い返事しかしたことがなかったザックスが、突然のようにつれない態度を見せる。それは正にザックスの企みだった。

クラウドが笑顔で“おはよう”と言えば、素っ気無く“ああ”とだけ返す。

“どこかに行こうよ”と言われたら、“他にも誘う奴がいるだろう”と返した。

それは今までのザックスからすれば、考えられないことで、勿論のことクラウドを混乱させた。何せ今まではそんな態度を取られたことがないのだ。

クラウドは一般兵の中にもそれなりに友達がいたが、何故かザックスとが一番仲が良かった。だからそれは、クラウドにとってはとてつもなく厳しいものだったのだ。

一体どうして、そんな態度を取られるようになったかが分からないクラウドは、かなりの混乱を見せる。

どうも訓練も身が入らなくなった。

好かれていると思っていたが、それは違っていたのだろうか。

そう思ってクラウドは、今までザックスと過ごしてきた時間を思い出したりした。しかし、自分が何かザックスに悪いことをしたかといえば、そんな記憶は一切無かった。

もしかして、年上で立場も違うというのに敬語を使わないことがいけないのだろうか、とも思ったが、しかしそんなことで今までザックスが怒ったような事実は無い。

とにかく原因が全く分からない。

だからクラウドは混乱を止めることができなかった。

 

ある日のこと、クラウドと同じようにセフィロスに憧れているという友達がいるので、彼と一緒にセフィロスの演習補助の姿を見に行った。

これは一般兵に対して行われる演習だったが、時々、現役ソルジャーやセフィロスがその補助として戦いぶりをみせてくれるというものである。実はこれは、一般兵を鼓舞するためのもので、大概の一般兵はこの罠にまんまと引っかかっていた。

ガラス越しに、セフィロスの戦いぶりが見える。切れもよく、とても綺麗な剣捌き。

誰が見てもほうっとする姿である。

「うわ〜すげえ!見た、今の!なあ、クラウド!」

そう興奮していう友達に、クラウドは慌てて「あ、うん」と答える。目線をセフィロスに移して、その姿を見ると、確かにそれは惚れ惚れするような姿だった。

けれど、何かがしっくりこない。

隣で騒いでいる友達を見ていると、何だか気が滅入った。確かに凄いけれど、何だかいつものように騒ぐ気になれない。

そう思いながらセフィロスを見ていると、その内キャスッティングがすっと変わった。セフィロスと誰かが交代したのである。

「何だよ。セフィロス、終わりかよ」

残念そうな声を出す友達の隣で、クラウドはそれをじっと見つめる。しかしそれも少しすると、クラウドは驚いて目を見開いた。

「ザックス…!?」

思わず声を出してそう言う。しかし隣の彼にはわからないらしく、何だそれは、と首を傾げている。

ガラス越しに戦闘を繰り広げ始めたのは、確かのザックスだった。

今まで演習補助でザックスが出たことなど無い。それどころか、この場所で一緒にセフィロスを見ていたのだ。

何となく鼓動が早くなって、クラウドはそれに見入る

ザックスの身のこなしはセフィロスとは全く違い、綺麗だとかそういう感覚ではなかった。それでも俊敏で、どこか力強さがある。いつも笑って冗談などを言ってくれるザックスの表情が思い出されたが、そこにいるザックスの表情は、思い出したどれとも違っていた。

クラウドは何となくそれから目が離せなかった。

今まで見たこともない姿がそこにはあるのだから。

しかし隣にいる友達が、突然こんなことを言い出して集中力が無くなってしまった。それは褒め言葉だったというのに、何故かカチン、とくる。

「へ〜。この人もすげーじゃん。あ、今の凄い!」

何だそれは、と思う。この人も、なんて、何だかどうでも良いように聞こえて嫌な感じがする。元々凄いに決まってるだろ、と言いたくなったが、実際に戦いぶりを見たのは初めてだったのでそんなふうに言う権利はないような気もする。

けれどザックスの経歴だけは知っていた。即ソルジャー昇格し、高スピードで1stまで上り詰めたザックス。クラウドからすれば、それは尊敬に値するものだった。

「あー…でもやっぱりセフィロスだよなあ」

「…何だよ、それ」

呑気な声でそういう彼を見て、クラウドは思わずそんなふうに漏らした。そう言われた彼の方は、突然不機嫌な声を出したクラウドにきょとんとしている。

「だってセフィロスには叶わないだろ、英雄だぜ、英雄」

呑気な声でそんなふうな言葉が響く。

何だか、無性に腹が立った。

そんな事を言っても、この彼にはザックスの戦いさえ真似はできない。その力量の差は歴然である。ザックスのことを何一つ知らない人間に、そんなふうに形容されるのは、何だかクラウドには許せないことだった。

だから――――――。

「俺、帰る!」

とにかく許せなくて、クラウドは怒りを露にしたままそんなふうに声を荒げた。

「え、ちょっと!クラウド!?」

何が何だか分からないといったふうに焦る声を出した友達を、クラウドは振り返ることなく後にした。

だって、そう…あまりにも許せなかった。

ザックスが強い人だということをクラウドは良く知っている。しっかり認めている。それを初めて目にして、その場限りの中途半端な褒め言葉や比較の言葉などを口にするのは、そんなザックスに対して失礼なことでしかないと思う。確かにセフィロスは凄いけれど――――――……。

そうしてセフィロスのことを思い出したとき、クラウドはふっと立ち止まった。

「俺…」

そういえばセフィロスを見るとき、ザックスはいつも隣にいた。けれど、今日のように友達とそれを見てみると、何だか騒ぐのも違うような気がした。

それは、何だろうか。

確かに最近、ザックスと何だかギクシャクしていたけれど、それだけじゃないような気がする。何故か…同じような態度ができない。これは…。

「ザックス…?」

もしかしたら、隣にザックスがいたから、あんなふうに騒ぐことができたということだろうか。セフィロスに憧れるのは本心だし、そうできない方が本来はおかしいと思うけれど、友達とではできなかったのだ。

何だかそれは―――――――ザックスの隣だったから、本音を言えたとでもいうような感じである。

丁度、大人とはいえない自分を曝け出すみたいに…。

廊下で立ち止まったまま、クラウドは一人、俯いた。

 

 

 

それから何日か過ぎたが、クラウドがザックスと会うことは本当に稀だった。何せ廊下ですれ違うとはいっても、限られた範囲の廊下でしかない。

それはソルジャーと一般兵が共有する範囲だけの話で、それだけでも確率が少ないというのに、いるかいないかでも確率が下がってしまう。

それだから、もう何週間かクラウドはザックスと話をしていなかった。

友達の一般兵と話すのも楽しかったけれど、何しろザックスはユーモアがある上に、クラウドなどの一般兵では知りえない知識を持っている。それはソルジャー特有のミッションの話だったり、ザックス個人が有する剣技や戦闘法だったり、色々だったが、とにかくそんな話題の全てがクラウドは好きだった。そしてそういった話はいつの間にかクラウドの中のステータスとして、他の一般兵と差をつけるものにもなっていたのだ。

同じ視点での友達との話が、何だか妙につまらなく感じるのはそのせいだったろうか。

とにかく―――――――何だか、つまらなかった。

そして、悲しかった。

何しろ今は、見かけて声をかけてもザックスは、笑いもしてくれないのだから。

何だかこの状況は嫌だ。

そう思ったクラウドは、思いたったその時にふっと立ち上がった。

良く考えたら今まで何故こうしなかったんだろうか、と思う。かつて一回だけ行ったことのある、ソルジャー用の居住ビル。その中のザックスの部屋。そこに行ってみれば良いじゃないかと思ったのだ。

けれどそこは実際には、ソルジャークラスの人間しか立ち入りができないし、もしクラウドなどの一般兵の出入りが見つかってしまったら即刻何らかの処置がされてしまう。だからそれは危険だった。

けれど、ザックスと話したい。話して、一体自分の何がいけなかったのかを聞きたい。今のままの状況はつまらないし、何だか色んな事に集中できないし、結果的に全てが悪い方向に向かっている。

それに――――――単純にザックスと一緒にいたかった。

そう思い、クラウドは立ち上がると、危険を承知でそのソルジャー区域まで足を運んだ。

 

 

 

兵舎から少しばかり離れているその区域についたのは、兵舎を出てから30分ほど経った頃の事だった。

何棟かに分かれていて、それぞれに入口が分かれている。しかも今は夜で周囲も暗く、視界がクリアでない。

「えっと…どこだっけ…」

一度しか来た事が無いし、その時はザックスと話しながらだったので、記憶が定かでない。入り口が違うので、一つ間違えたらそれだけで探しなおしである。しかも地上数階ある中のどこかも分からない。

「聞いておけば良かった…」

あんなに仲が良かったのに、こんなことも知らないなんて。…少し後悔してしまう。話す機会なんて今までいくらでもあったのに、肝心なことは話していなかったのだろうか。

とにかくクラウドはその中の一番手前を選ぶと、そっと入っていった。

中はやはり暗くて、しかも特別な居住者明記がない。

「えー…わ、分からないよ、これじゃ…」

まさか一階づつ、しかも一部屋づつ訪ねるわけにもいかない。大体ソルジャーというのは全てが全てザックスのように優しい人じゃない。中には一般兵を見下す人も大勢いるのだ。それを考えると、いつ密告されてもおかしくない。

どうしようかとも思ったが、仕方なくクラウドは一階づつ上っていった。そして、一件一件をまわってみる。本当に微かな記憶だが、それを思い出して照らし合わせてみたりする。

そうして、多分此処は違う、此処は違う、と可能性を一つづつ減らしていく。

しかしそれは、どうにもこうにも面倒な作業だった。勿論、根気がないと続けられないと分かっているけれど、それでもやるしかなかった。

だって、このままでは嫌だ。そう思うから。

 

そうして一時間近くが過ぎる。

一棟目の最上階までを終えた時、クラウドはふう、と息をついた。どうやらその棟は違うようだったのだ。これでまた次の棟も同じことをするのかと思うと、やはり辛い。時間はもう遅いし、このままではザックスの部屋も見つからず、自分も兵舎から締め出しをくらってしまう。何となく焦ってしまう。

急がないと―――――そう思って、今まできた道を返る。

…と、そうしようとした、その時。

「おい、誰だ」

そんな声が聞こえて、クラウドはビクッとした。見つかってしまった、しかも住民…つまりソルジャーに。

やばい、そう思って咄嗟に逃げようとしたが、その瞬間にぐっと腕を掴まれる。

「待て」

「は、離してくださいっ!」

そう言って必死に振り切ろうと思ったが、あまりに強い力でそれができない。それどころか相手は更に強い力でぐっとクラウドを引き寄せた。

思わず怯え顔でそのソルジャーを見遣ると、相手は勿論知りもしない男で、加えてかなり強そうな顔をしていた。これはまずい。クラウドは反射的にそう思って目を瞑ったが、しかし少しして、意外にもその手は離された。

「え…?」

ビックリして思わず目を開ける。すると目の前には、苦笑した男の顔があった。

「お前、一般兵か?…やばいだろ、此処、入っちゃ」

「あ…ご、ごめんなさい」

取り合えず直ぐに謝りの言葉を入れて、クラウドは頭を下げる。しかし、それと同時にあることを閃いた。何しろこの男はどうも自分を密告する気はなさそうなのだ。

だからクラウドは、すっと顔を上げて男にこう言った。

「ザックスって人の部屋、教えて下さいっ!!!」

 

 

back next