白い手紙

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ああでもない、こうでもない、そう思いながら俺はまた紙を丸める。

ポイ、ポイ、ポイ。

俺の部屋のゴミ箱には、丸められたゴミが山積になってる。

俺はそれを恨めしそうに眺めながら、頭を抱えてまた一つ溜息を付く。

「あー…俺、何やってんだろ…」

目前にあるのは、白いままの紙。

それはイワユル便箋ってやつだ。便箋っていったら勿論手紙を書く紙だけど、俺は珍しくそんな性に合わないものを買い込んで、こうして机に広げたりしてる。

どうしてそんなことをしてるかっていうと、俺はどうしてもこの手紙ってやつで伝えたいことがあったからだ。いや、違うかもしれない。手紙で伝えたいっていうよりも、口じゃ言い難いと言った方がいいかもしれない。

口で言えないなんて、俺にとっては本当に珍しいことだと思う。でもきっと、それだけ俺はその事について本気なんだろうって、そんなふうに思うんだ。

それが何かというと……最近の俺の行動について。

別に不審な行動をしているつもりはないし、仕事をさぼってるわけでもない。じゃあ何かっていうと、それはひとえにクラウドに対する行動だった。

俺は何でだか分からないけど、クラウドに対して過保護らしい。

意識的にそうしているつもりはないのに、きっといつの間にかそうなってしまうんだろう。でも俺はそういう意識を持ってやっているわけじゃないから勿論それが過保護だなんて気付かない。誰かにそう言われてやっと気付くってくらいだ。

しかし問題は、その指摘をしてきたのがクラウド自身だって事だろう。

何が悲しくて本人に「過保護だよ」だとかなんだとか言われなきゃいけないのか…考えるとちょっと悲しくなってくる。けど、本人にそう言われた以上はさすがに何か対処しなきゃって思うわけだ。

……でも。

一体どうやって対処すりゃ良い?

俺はそれを三日くらい考えてみたけどさっぱり分からなかった。だってそうだろう、俺はそんなつもりなくてやっているんだから、どうしたら良いかなんて分かるはずない。といって「そんなの分かるかよ!」って開き直るわけにも行かないし……。

そんなふうに悩んで、結局俺はこの白い便箋を買ってきた。

この便箋に俺が書こうとしてるのは、多分―――――言い訳みたいなもんだ。

そんなの口で言えば良いのに、何だか分からないけど俺はそれを言う気になれなかった。というか、言えないと思った。

でも多分、伝えなきゃいけないんだ。

だってこれを伝えなきゃ俺はいつまで経ってもこのままで、クラウドには苦笑まじりに「過保護だよ」とか何とか言われるのがオチなんだろうって思う。それはいかにも嫌だし、クラウドと一つ話をするにもスッキリしておきたいから、だから俺はこれを書こうと思う。

…と、まあ意気込んだまでは良かったんだ。

良かったんだが、どうも言葉が纏まらない。言いたいことは決まってるのに言葉にできないっていうのは何だか変だけど、何だか上手くいかない。

そんなわけで、俺はさっきから約10枚くらいは便箋をゴミ箱に捨ててるわけだ。

「何でこうなるかなあ…」

言いたいことは、いっぱいある。

お前は何だか危なっかしいんだよ、とか、何だか心配なんだよ、とか…まあそんな内容なんだけど、じゃあこの言葉をそのまま書いたとして果たしてクラウドが理解してくれるかどうかが問題なわけで。

「分かるはず…無いよなあ…」

俺はそう呟いてまた溜息を吐く。眼を落とした先には白いままの便箋があって、それはいかにも俺が何か書くのを待ってますって感じだ。

「…ああ、もう!!駄目だ、駄目!!」

俺は考えすぎて頭が混乱してくると、目の前にあった白い便箋をまたグシャグシャッと丸めてゴミ箱に飛ばした。そいつは上手い具合にゴミ箱に納まると、既にその中にいた仲間と感動の再会を果たす。

もうかれこれ一時間はこんな具合で、俺はそろそろこんなことをやってる自分に疲れてきた。言えないから書こうと思ったのに、何て書いて良いか分からないなんていったら、もうどうすることもできない。どうせ白いまま丸めて捨てるんだったら書こうと努力するほうが無駄ってもんだ。

俺は一つ伸びをすると、眼を閉じて考えた。

俺は何でクラウドが危なっかしいとか、心配だとか、そんなふうに思うんだろう。

俺は何でそんなふうに思ってしまうんだろう。

本当にクラウドは、そんな奴なんだろうか…?

 

 

 

翌日、俺はクラウドを訪ねた。

クラウドは兵士の訓練が行われるデカイ部屋にいて、そこで同僚の兵士と何だか楽しそうに話していた。それを見て俺は、何だか邪魔かななんて思ったけど、折角此処まで来たんだし、と思い直して声をかける。

実際この部屋までわざわざソルジャーが来るなんてことは無いだろうから、これって結構レアなことだと思う。

「よ、クラウド」

「あれ、ザックス?どうしたの?」

クラウドは俺の存在に気付いたらしく、そんなふうに言って驚いた表情を向けてくる。だから俺は、咄嗟にこんなことを言った。

「いや、たまたま近くに来たからさ。覗いてみた」

俺は笑ってそう言ったものの、心の中では思わず苦笑してしまった。だってそんなの嘘だったし、俺はクラウドに会う為にわざわざ此処に来たんだから。

でも、どうやらそんな俺の嘘はすっかりクラウドにバレていたらしい。

「嘘ばっかり!だって此処、ザックスとは全然関係ない場所だよ?ソルジャーの人なんて来たことないし」

「あれ、バレた?」

「バレバレだよ」

笑ってそう答えたクラウドに、俺は少しホッとして笑い返す。万が一此処で、笑顔の一つもなしに「わざわざ何しにきたの」なんて言われたら立ち直れないってもんだ。

クラウドはそこまで顕著じゃなかったものの、それでもやっぱり俺が此処にきた理由が不思議だったみたいだ。だから、何か特別な用事があるの、なんて事を聞いてくる。

でも俺の目的といったらクラウドに会うことで、それは今この状態で叶っているわけだから、これ以上特別に何かをしたいというわけじゃない。

けど、その本音を言ったらどう切り返されるかは眼に見えてるわけで、俺は曖昧にその場を切り抜けた。別に特別な用ってわけじゃないんだけど、とか何とか言いながら。

結局クラウドは、そうして曖昧な言葉しか吐かない俺にそれでも付き合ってくれた。だからそれまで話していた同僚兵士に「ごめん」なんて言って謝りを入れながら俺と二人きりになる。そうしてクラウドの周りに誰もいなくなると、俺は今度こそどうしようかと迷わなきゃならなくなった。

だって理由も無いのに。

「それでザックス、今日はどうしたの?…もしかして、また癖の過保護?」

「おいおい、癖とか言うなって」

「だってザックス、いっつもそうなんだもん。覚えてる?俺がこの前、訓練の成果を見せようと思って剣を構えたら“危ないからやめろ”とか言うし、折角の警護任務の話も“心配だから断れ”とか言ったんだよ?」

「そ、そうだったっけか…」

良く良く聞くと、俺って奴は何だか失礼なことをしているような…だってクラウドにとっては楽しみなことをそんなふうに言って拒否してるんだから。

でも俺はそんなつもりで言ったんじゃないんだ。別に訓練の成果だって、凄いなって言ってやれる自信はあるんだけど万が一に怪我でもしたら大変だし、警護任務だって立派な任務に違いないけど、万が一そこに強敵でも来たら気が気じゃないし…。

と、そこまで考えて俺はハッとした。

やっぱりこれって過保護だろうか。

クラウドは仮にも兵士だ。それなりに訓練も積んでる。いやむしろそれが仕事なんだからそうして当然なんだ。それを「万が一」だとか言うのはやっぱりオカシイに決まってる。それに「万が一」なんてソルジャーになったらいつだってありうる状況だし、ソルジャーになる前だってそのくらいの覚悟は持っていて当然だろう。

そんなふうに思ったら俺は、段々とクラウドの意見の方が正しいような気がしてきた。昨日の晩、言い訳を紙いっぱいに書こうと思っていた俺は、そんなつもりはないだとか何だとか思っていたわけだけど、こうして改めて考えるとどうやらやっぱり変なのは俺の方らしい。

「やっぱり俺が変、か…」

そう呟いた俺は、やっぱり今日クラウドを訪ねて良かったな、なんて事を実感した。何も特別な用は無かったし、単にクラウドに会いにきただけだったけど、実際俺が変なのかどうかって部分について俺は少し確認してみたい気持ちもあったんだ。だからこれは結構好都合かもしれない。

とはいえ、それを認めると今までの俺が変なんだってことを肯定することになるわけで、それはさすがにヘコむけど。

「ねえ、ザックス」

ふとそう呼びかけられて、俺はクラウドを見遣った。どうやら色々考えてて、俺はいつの間にかクラウドから目を離していたらしい。

「ん?何だよ?」

「あのさ…俺ってやっぱ、駄目なのかなあ」

「…え?」

突然少し膨れたような顔をしてそんな事を言い出すもんだから、俺は唖然としてしまった。駄目なのかなあ、って…一体何でいきなり??

そう思ったけど、それはどうやら俺が原因だったらしい。

「だってザックスがそこまで心配したりするのって、やっぱ俺が頼りないからでしょ?ってことは俺、やっぱ全然駄目なんだろうな、って思って」

いっぱい訓練してるのになあ、そんなふうに呟きながら寂しそうな顔をしたクラウドを見て、俺は何だか焦ってしまった。別にそういうつもりでいってきたわけじゃないのに、やっぱりそういうふうに思われてしまうらしい。でも、それも思えば仕方無いのかもしれない。確かに、例えばセフィロス相手にして「心配だ」なんて絶対ありえない台詞だ。

でも――――――…本当に俺はそんなことを心配してるのか?

俺はそんな疑問を頭の片隅におきながらも、口では「そんなことないって」とクラウドを励ました。散々色々言ってきたくせに励ますも何もないけど。

しかしクラウドはもうそれと決めてしまったらしくて、そうだよなあ、とか、俺ってやっぱり…だとか言っている。

その上、こんなことを言いだした。

「良し!やっぱ俺、自主トレ、もっと頑張ろっと!」

その瞬間、俺は咄嗟にこう言っていた。

「そんな頑張ったら体が持たないだろ!危ないって!」

――――――――…しまった…。

そう思った時には、クラウドが俺の顔をじっと見詰めていた。少し冷めた眼で。

俺はそれを見て、虚ろ笑いをするしかなかった。

 

 

 

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