「ザックスって、やっぱり凄いね」

何だか良く分からないけれど嬉しくなったクラウドは、ちょっぴり笑ってそう言った。

「何で?どこがだよ?」

ザックスはそんなクラウドが理解しきれないらしい。首なんか傾げている。

けれどクラウドは、それを細かく説明することは止めて、とにかく凄いんだよ、とそれだけ口にした。

そんな話題をした二人だったが、そういえばいつの間にか本題からズレてしまっている。そもそもは、ザックスがクラウドの家庭教師をやめるとかそんな話をしていたはずだ。

ふとそこを思い出したクラウドは、話題修正と言わんばかりに再度そこに話を戻すと、結局これからどうするのかという所を口にする。

しかし、良く良く考えるとそれは、ザックスに振っても仕方無い言葉だった。

何故ってザックスは、先ほどのクラウドの言葉に不満そうだったのだから。

つまりそれは、ザックスとしては止める意志は無いということになる。

だからクラウドは、結局これからどうするかという話題に戻った時、質問する側のつもりだったというのにいつの間にか回答する側に回ってしまった。

「俺は止めたいとは思わないけど、お前はどうなんだよ?俺の目的云々じゃなくってさ、クラウド自身はどうしたい?」

「俺は…その」

ハッキリとそう聞かれてしまい焦ったクラウドは、先程飲み込んだ言葉を言うか言うまいかを相当悩むこととなった。

ザックスとの勉強は勿論嫌じゃないけど、勉強に身が入らない。ということはつまり、勉強にならないということだ。

それに、ザックスの目的がお金ではなかったことからタダで勉強を見てもらっているという部分はもう良いとしても、実際の目的を考えるとこれもまたクリアできないことになる。だってザックスは、ソルジャーになる為の協力という意味でボランティア状態の行為をしているのだ。でもクラウドときたら勉強に身が入らないのだから、その目的を達成するには程遠いといっても良い。…こう言っては難だが、独りでいる方が勉強しやすいかもしれない。ということは、独りでいる方がザックスの目的達成には近いということだ。

「…あのさ、ザックス」

クラウドは悩み悩んだ挙句、そろそろと言葉を口に出した。

「俺…ザックスと一緒にいると、何かこう…勉強に身が入らないんだ。折角見てくれてるのにこんなこと言うの失礼かもしれないけど、多分独りで勉強した方が身に入るっていうか……ごめん、ザックス!」

きっと怒られる、そう思ってクラウドは、最後に思い切り謝りの言葉を付け加える。きっとこんなことを言ったらザックスは怒るに違いない。目的があってやっているのに、勉強に身が入らないなんて駄目そのものだし、その上独りの方が良いだなんて失礼そのものだ。

―――――と思ったが。

「なーんだ、そうだったのか!」

「え…お、怒らないの?」

「何で怒らなくちゃいけないんだよ?怒るわけないだろ」

「?」

何故だかザックスは、怒ることはしなかった。

それどころか軽快に笑ったりしている――――――…一体、何故?

「むしろ俺は安心した。だってクラウド、それはつまり俺なんかいなくても独りでヤル気出せるってことだろ。それって良い事だって思うし、俺はそういうお前の方が俺なんかよりよっぽど凄いと思う」

「そ、そうかな…」

別にせかせかする程頑張ってないんだけど…そうクラウドは心の中でひっそりと付け加える。期待を裏切るのも難だし、敢えて口には出さなかったけれど。

「それに…もう一つ。お前の勉強見るなんて、最初から俺には無理だったんだよ」

「―――――は?」

何だ、その告白は!?

そう思ってクラウドは呆然とした。

その目前では、やはり軽快に笑うザックスがいる。

「言ったろ、オファーは来てるって。あいつらの勉強を見るんだったら、多分俺だってもっと力が入ってたと思う。多分あいつらは、見返してやる!って気持ちでやるはずだからさ、一緒にいたら俺にもそれが移っちゃうんだよな。見返してやろうって気持ちを共有するっていうか…ま、そんな感じ」

でもクラウドの場合は、その見返してやろうという気持ちが根底に無かったから、勿論ザックスはその気持ちを共有なんかできなかった。というより、無いものは共有などできるはずがない。

しかし一緒にいればそれなりのものを共有していくらしいザックスである、クラウドとならばクラウドとで、何かしらのものを共有していたに違いない。

しかしその場合、その共有思念の根源はクラウドの方になければならないのだから、それはクラウドの気持ちそのものである。

勉強の空間でクラウドが持っていた、気持ちそのもの。

「でもクラウドの場合は、何ていうか…一緒にいるともっと別の気持ちが湧き上がるっていうか…」

「そ…それは何か、分かる…かも」

だって、何しろ集中できない。

何で集中できないかなんて、そんなものは既に分かっている。

一緒に勉強をしているのではなく、一緒にいるというそんな感覚――――そちらの方が強いからに決まっているのだ。

クラウドがずっと抱いてきたその気持ちはどうやらザックスも同様に持っていたものらしく、ザックスは何だかんだと呟いている。だから良いアドバイスができないんだ、とか、勉強教えるよりクラウド見てる方が楽しくなるし、とか何とか…。それを聞いて、だからザックスは勉強を“見ている”だけだったんだと深く納得してしまったクラウドである。

「ハッキリ言うけど、最初から多分こうなるなってのは分かってた。でも俺、正直言って、クラウドが候補に入った時点で他の奴なんてもう選べなかったんだよ」

「あっ…ええと、その…ありがとう」

むしろゴメンと言うべきか、そう思いながらもクラウドはそんなふうに言う。

意味からすると普通の言葉なのに、何だか特別な言葉に聞こえるのは何故なのだろうか。

今更ながらそんな些細な事でドキドキしてしまったクラウドは、目前のザックスを見遣りながら、その先何を言えば良いか分からないままに黙っていた。

すると、その視線の中にいたザックスがふとこんな事を言う。

「俺が何でそう思ったか、分かるか?」

「えっ」

そんなの、分かるはずが無い。

いや…もし胸を張っても良いならば、自分を好きでいてくれるから――――と答えたいけれど。

しかしそれを自分の口から言うのはやはり躊躇われる。まさか、俺のことが好きだからでしょ、なんていうふうには言えない。

そんなふうにある意味では謙虚なことを思っていたクラウドだったが、何ということかザックスはそれを見事に打ち砕いてくれた。それはもうクラウドが赤面して抗議するくらいに。

「何でかっていうと、他の奴らはソルジャーとしての俺が必要だって顔してたわけだ。でもクラウドは違った。お前はな、ソルジャーかどうかじゃなくて、素の俺が必要だって顔してた。―――だよな、クラウド?」

「なっななな何言ってんだよっ!?」

ニヤと笑って響いたその言葉に、クラウドは思い切り抗議する。

一体全体何を言い出すのだろうか。良くもそんな恥ずかしいことを堂々と言えるものだと思うが、それが自分の事となるとどう抗議していいかも良く分からないところが悲しい…。

ともかく、自分がザックスを好きだという事をいかにもな調子で言われてしまったものだから、クラウドは恥ずかしさで一杯になった。しかも本人からそれを言われるというのはどうなんだろう…ちょっと疑問だ。

赤面して抗議するクラウドをよそに、ザックスは更に追い討ちをかける。そうするザックスはいかにも楽しそうだった。

「だってさー、俺がオファーはあるって言ったらお前、すっごく焦った顔してたぜ?」

「な…っ!う、煩いなっ。良いだろ別に!何か知らないけど焦ったんだよ!」

「へっへっ、そっかー、何か知らないけど焦ったわけか。何か知らないけど、ね」

「〜!!もう!何だよ、ザックスのバカ!」

「そうそう、俺バカだからさ。何か嬉しかったんだな、あの反応」

ああ言えばこう言う状態で長らく続いたその会話は、大方クラウドの劣勢であったことは言うまでもない。

その間中クラウドの表情は、焦ってみたり怒ってみたり恥ずかしがってみたりと大忙しだった。その目の前でザックスは相変わらずニヤニヤとしていたものである。

しかしそのニヤニヤがやんわりとした笑みに変わった時、とうとうこの話題の結論は出された。それは、ザックスの口から。

「ま、集中できないのはお互い様って訳だな。じゃあこうしようか、クラウド」

「何だよっ」

散々言われた後だったからか少しムッツリとした調子でクラウドがそう返す。

するとザックスは、そんなクラウドの顔にゆっくり近付いて、それから額に小さくキスをした。

そして……まるで頭上から降り注ぐように響いたザックスの声。

「やっぱりバイトは他の奴を見ることにする。だからクラウドは独りで勉強するんだ。…でも、此処には今迄通り一緒に来る…これでどうだ?」

「え…此処に来るのには何の意味があるの?」

やっぱり他の人を見るのか、そんなふうに思い少し表情が翳ったクラウドは、敢えてそこには触れずに最後の言葉に疑問符を投げかける。勉強じゃなくて此処に来る意味なんかあるのだろうか、と。

するとザックスは、少し黙った後にこう言った。

「それはまあ、アレだ。俺が寂しくなるだろ?」

「……我侭じゃん、ただの」

「我侭言いたくなるんだよ、お前には」

「……」

再度赤面したクラウドは、少し考えた挙句にザックスにこう言い返してやった。

“バイト止めて良いって言ったら不満そうな顔するくらい俺のこと好きだもんね”、と。

 

 

 

END

 

 

back return