裏腹恋心

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『ザックス、好きだよ。ずっと一緒にいたい存在なんだ』

―――――――――そう言われたのは嬉しかった。

正直嬉しさで心なんかバクバクいっちまってるって具合だったのに、俺ときたらそういう肝心な時に限って馬鹿やっちまうんだ。

丁度自主トレあけだったからか、それとも嬉しさに照れすぎたのか…とにかくそう言ってくれたアイツに俺って奴は、説教なんかを食らわせちまって。柄でもねえよ。

“そんなこと言ってる暇あんなら他のこと考えた方がお前のためだぜ?”

そんな事言って、俺はクラウドを見てた。

クラウドは少し悲しそうに、笑ってた。

―――――――――俺ってば、馬鹿だよなあ。

 

 

 

俺とクラウドはそれこそ何でも話せる関係だった。

それなのに、あの日以降クラウドの奴もどことなく俺を避けてるように思う。いや、避けてるのは俺の方か?…とにかくあの日以降俺とクラウドの間には、以前みたいな軽く気さくなノリがない。会えば会ったで一応そうしてみるんだけど、どうも上手くいかない。クラウドも笑ってくれるけど、どっかうわの空だし。

いっそ、コッチからもう一度“好きだ”って言ってみれば良いのかもしれないけど、そういう肝心なときに限って言葉ってのは出てこない。

顔見つめて…後は言うだけで済むっていうのに、そんな簡単な事ができないんだ。

オカシクなっちまったのかな、って時々思う。

いつだってすぐ軽く言えた言葉たちも、簡単には出てきてくれないなんて、絶対、変だ。

俺は悩んでる――――――うん、そうだ、悩んでる。

本当のこと言おうとすればするほど、逆の態度取って、結局何も伝えられないから。

胸が、苦しい。

 

運悪くセフィロスと同行中に、クラウドと会ったりなんかする日。

こういうのはまず最悪。

だって俺、セフィロスの前では素の俺だから、そのギャップってのがいかにもバレバレなんだ。

それで、この日もやっぱり最悪だった。

「お疲れ様です」

そう声をかけてきたのはクラウドの方。その言葉が敬語だってことで、それは多分セフィロスの方にかけられた言葉だった。

セフィロスはクラウドの方を見て、そっから何でか俺の方を見て…

「ああ、お前もな」

なんて言う。その隣で俺は無言でいるしかなかった。何でかっていうと、言葉が上手く出てこないからだ。

「これから退社ですか?」

「ああ、そうだ。今日は午前のみのミッションだったからな。書類整理をして、これから帰るところだ。…なあ、ザックス?」

ふと話を振られて、俺は慌てて「ああ」なんて返す。一瞬クラウドの方を見てしまうと、その顔はどっか苦笑気味だった。

「…俺はこの後自主トレ入るんです。…あの、じゃあ気をつけて」

クラウドはあくまで敬語を崩さずにそう言うと、そのまま去っていこうと、俺達の横をすり抜けた。

“待てよ”――――――――そんな言葉をかけられないまま、俺は立ち尽くす。

もどかしい、俺らしくない。…でもどうにもできない。

そう俺が葛藤してる横で、俺が言いたかった言葉をセフィロスが口にした。

「待て」

その言葉に驚いたのはクラウドだけじゃない。俺も驚いた。クラウドはセフィロスにそう言われたことに驚いてたみたいで、急いで「何ですか」なんて答える。そりゃそうだ、セフィロスに何か言われるっつったら、クラウドから見ると凄い話だから。

で、セフィロスが言ったことといえば―――――――。

「お前、今日の自主トレは早めに切り上げろ」

「え?」

「は?」

俺とクラウドは思わず同時にそう声を上げた。

おいおい――――――――…一体何のつもりだよ?

そう思ったのも束の間、セフィロスは淡々としてこう言い切った。

「用がある。自主トレの後、俺の元に来い」

「え…あ、あの。俺に用、ですか…?」

「それ以外に何がある?良いか、時間は午後19:00、遅刻厳禁だ。必ず、来い」

「あ…あのっ」

そこまで言い切ると、セフィロスは俺に向かって「行くぞ」と目で合図した。俺はこの展開が一体何なのか理解できないまま、とにかくセフィロスに従って歩き出す。背後でクラウドがオロオロしてるのは分ってたけど、それにフォロー入れてる暇も無かった。何せ俺の方が大パニックなんだ、余裕も何も無い。

仕方なくそのままクラウドには背を向けて歩き去る。

でも――――――――――気が気じゃない。

クラウドもそうだし、その…セフィロスが「用がある」って言った、その“用”もだ。

一体セフィロスがクラウドにどんな用がある?――――――――考えてみても分からない。説教好きのセフィロスでも、そうそう知らないクラウド相手にそれはしないだろうし、何しろセフィロスがクラウドに自ら話しかけるなんて初めての事だ。

俺は隣のセフィロスを見たりしながら、悶々とそんなことを考える。

途中セフィロスは俺の視線に気づいたのか、何だか良く分からない笑いを浮かべたりして俺を悩ませた。何だよその笑いはよ、そう思うけど気がかりの方がデカすぎる。

長い廊下の突き当たりまで行って、そこを右に曲がった丁度その時、セフィロスはふっと立ち止まって俺を見てきた。

「気になるか、ザックス?」

「は?気になるって…何が?」

一瞬ドキッとしたけど、はぐらかすようにそう言う。でもさすがにそれはバレバレだったみたいだ。セフィロスは「隠すな」なんて言って顎に手を当てると、

「どうもお前はオカシイようだな」

―――――――そう言ってきた。

「あの少年兵に何故それほどうろたえる必要がある?今までのお前からじゃ想像できないが。らしくないぞ」

すっぱりとそう言われて、俺は少し笑う。

そうだ、その通りだよ。

今までの俺からは、今の俺なんて想像できなかったろうし、確かに“らしく”ない。セフィロスにそうきっぱり言われたのは初めてだったけど、さすがに気付いてるとは知ってた。だから何となく俺は、ある意味、ホッとした―――――――――そんな気分。

セフィロスは続けてこう言う。

「何があったのか分からないが、早々に直すことだ」

「ああ…」

そりゃセフィロスにとっては、こんな訳の分らない態度の俺と接していくのは嫌だろう。だから俺は今の状況を本当に“早々に直さ”なくちゃならない。分かってる。

俺は少し考えてから、セフィロスにこんな質問をした。

「なあ、嬉しいと思ってんのに、そう表現できねえってのはさ…その、何だろうな。心ん中で思ってる事と正反対の態度取っちまったり、言葉に詰まるって、何だろうな」

それは質問っていうか迷いだ。俺は俺自身に話しかけてるみたいにそう言って、それでも答えを求めるようにセフィロスを見遣る。

当のセフィロスは、少し黙って、でも暫くしたらこんな事を言った。

「それは上っ面が心に勝っているからだ」

俺は勿論クラウドとの事について…つまり恋愛って観点からそう聞いたわけで、だから良く言う“スキだったら仕方無い”とかそういう答えを無意識に考えてた。でもセフィロスの答えは違くて―――――しかも、甘くはなかった。

“上っ面”―――――――まあ確かに、な。

そうかもしれない。

「隠しようのない時、大体誰でも本心を表すものだ。驚いたときなどそうだろう?いくらお前が悩んでいるからといってもそれは、本心を隠す余地が有るという事だ。その余地をなくせば良い。―――――――きっと自ずと本心を示せる」

説教じみてもいて、でもやっぱその言葉ってのは頷ける。俺はその言葉を考えて、一つ頷いて、でも余地を失くすってことがどういうことか…また悩む。

俺にとっちゃ、余地なんか無いつもりだったけど。でもセフィロスの言うところによると、俺にはまだその余地があるらしい。

「上っ面なんて、お前には余程似合わん言葉だがな」

セフィロスは、悩んでる俺にそう言って、少し笑った。それを見て俺は、そうだな、そう言って情けない笑いを返していた。

だけどその情けない笑いも次の瞬間には消滅。

何でかって、それは。

「―――――――――17:00。お前も来い」

そう、きっぱりとセフィロスが言ったからだった。

 

 

 

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