truth

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どれくらい好きといえば伝わるんだろう。

どれくらい好きといえば心の中の全てが伝わるんだろう。

この切ない距離の中で、そんな事を考えてる。

「どうした、ボーッとして」

そう言われて、はっと我に返る。

見上げると、すっと笑う顔があった。

その顔に“何でもないよ”と告げながら、どれくらいの愛情がこの空間にあるのか計りにかけていた。

 

 

 

夜、こっそり部屋に行くからと言われていた。

だからまず部屋の掃除などをする。これはそれほど大変でもなく、それというのも普段から部屋はそれほど散らかっていなかったからである。それでも一応と思って部屋を掃除してみるが、それがザックスのためだと思うとクラウドは少し泣けてきた。

ザックスの部屋に以前こっそりと行った時、その部屋の散らかりようといったら凄かった。まあそれには理由があって、その前日に何だか色々やっていたんだとかそういう事だったのだが、それにしてもその惨状には驚くほかなく。

そんな事を思い出しながらクラウドは掃除を進める。その間時計をチラチラと見遣って時間も確認する。もうすぐだから早くしなければ、そう思いながら。

小さなデスクを片付けているとき、クラウドはふとあるものに目がいった。

「あ…」

それは一つのノートである。ボロボロでもう汚くなってしまったノートだけれど、それは大切なノートで、神羅にやってくる前に家から持ってきたものだった。

そのノートに何が書かれているかといえば、ちょっとした気持ちである。

ニブルヘイムにいる時――――――――ある女の子が好きだった。

気持ちを打ち明けたくて、村を出る直前に呼び出したけれど、結局肝心な言葉は言えないまま終わってしまった。ただ単に“ソルジャーになる”という意味込みだけを伝えただけで終わってしまい、実際にその言葉が彼女への告白に繋がったかどうかは定かじゃない。

その彼女への気持ちを…何となく綴っていた。

単純な言葉で、好きだとか、会いたいとか、そんなもの。

けれどそんな淡い気持ちも今はどうやら吹き飛んでしまったらしい。それはソルジャーという夢への道のりの中では仕方なかったのかもしれないと思う。嫌いになったわけではないけれど、意識の向かうところというのは今は彼女の元ではない。

そして、ザックスの存在もその原因の一つだろうと、思う。

「懐かし…」

そう呟いて少し眺めていると、丁度その時にこんな音が耳に響いた。

トントン。

「あ!」

それはどうやら、ザックスの来訪を告げるノックの音だった。

クラウドは慌ててそのノートを隠すと、ドアを開けに走る。

ギイと音を立てて開いたドアの向こうには予想通りの姿があり、その人は「よ」などと言って片手を上げていた。

時計を見ると、時刻は約束の時間ジャストである。それに気付いてクラウドは、

「珍しい。約束守ってる」

などと言って笑った。

「おいおい、酷いな。俺ってそんなにルーズかよ」

「だって待ち合わせとかすると大体、俺の方が早く着いてるだろ」

そう真実を述べると、ザックスは「そうだったかなあ」などと言ってシラを切る。そうだろ!と突っ込みたいのを笑いに変えたクラウドは、取りあえずザックスを部屋の中の方まで招くと、それから先ほどのノートをすっと本棚に仕舞いこんだ。

勿論、ザックスに背中を向けて、見えないように。

別段隠す必要は無かったが、何となくこういうのは気がひける。昔好きだった人のこと…そういうのはザックスとの関係の中で一切話したことがない。正に今起こっているリアルタイムなコトが全てであって、たまに「あの女の子がどうだ」とかそんな話にむきになるくらいのものだ。

そういうのでさえ、大体はザックス側のことであって、クラウド側のことではない。だからクラウドは、自分に関わる唯一の恋愛であるそれを、何となく知られたくないような気がしていた。隠したいのではなく、単なる思い出だから、と。

当のザックスは、そんな素振りに全く気付いていない様子である。

さも普通にそこらに座り込むと、来週はどうだとか、最近あのミッションがだとか、そんな世間話を始める。

こういうのはとても平和だなと、そうクラウドは思っていた。

平穏なそういう日々はそこにあるだけで落ち着く。そういうものは壊したくないしむしろ守っていきたいものである。

「クラウド。そういやさ、俺、この前また告られたんだ」

「え」

平穏な日々には時にそういった小波が立つ。それはほんの些細な、誰かにとっては大切な淡い気持ちで、だけどこの空間では邪魔者でしかない、そんな気持ち。

その告白を聞いてクラウドは、話を催促するが如く「で?」などと聞く。勿論その答えは分かっている。今こうしているのだから断ったに決まっているのだ。

そして、その回答はそのものずばり、当っていた。

が、しかし。

「断ったけどさ、何つーか…。男として守ってやりたいって感じの可愛い子でさ、スラムで花売りしてんだわ。何かちょっと勿体無いとか思っちゃうトコあるな、あれは」

ザックスはうんうん、などと頷きながら勝手に納得している。確かに男の立場からすれば納得以外の何ものでもないし、その気持ちはよく分かる。

だが、クラウド個人の立場としてはかなり微妙な言葉であることは間違いなかった。

「それ…俺がいなかったら良かったのに、って事?」

何だか卑屈だな、そう思いながらもついそんな憎まれ口を叩くと、ザックスは慌てて「そうじゃねえよ」と反論する。反論してくれるのは嬉しいけれど、焦ってそうするのは何だか微妙な気分だった。本当に 何でもないなら、堂々と構えていて欲しいのに。

そうじゃない、俺はお前を信じてるから…そう思ってくれているくらいに。

「ただアレだ。何かさ、そういう気持ちとかじゃなくて、基本的なトコ刺激されるっていうかさ。すんなり入ってくるだろ、女の子ってのは。自分から意識しようと思わなくても勝手に意識しちゃう感じだよな。そういうの久々に感じたから。ちょっとナンパでひっかけたコとは違うわな」

「ふーん…」

確かにそうだろうと思う。

多分ザックスと自分の間にはそういう無意識中にある性的な惹き合いというのは無いのだろうと思う。そういうことじゃなく、どちらかというと個人的に頭で意識した上での感情があるという気がする。

ザックスの言葉を借りるなら、女の子は好きじゃなくても守ってやりたくなる。

だけど自分は、好きだから守らなきゃ、になる。

この違いはそんな大層なものでないように見えて、相当大きい。

そういう壁とかそんなものはいつでも存在していて、それはもう既に知っているし今までだって処置してきたのに、それでも改めてそう言われると多少なりとも落ち込む部分はある。それは仕方無い。

「あ、でもアレだぜ。俺はちゃんとお前のこと好きだから」

カラッとした笑顔でそう言うザックスを見て、クラウドはただ無言でゆっくり頷いた。けれどその表情は、決して柔らかくは無かった。

ザックスはその後また、先ほどと同じように世間話などをし始めたが、その時にはもうクラウドの耳にその話題は入ってはいなかった。ただ頭の中を占めるのは、この空間のこと。

この空間には一体それくらいの愛情があるのだろうか?

好きあっている二人がいる空間なのに、いつだって何か他のものが邪魔をする。その邪魔なものはいつもお互いの頭の中の隅っこにあって、好きだという純粋な感情の裏で他の思考をし始める。それはちょっとした猜疑心とか嫉妬とか、やはり些細なものだったけれど馬鹿にできないものだ。

部屋に来るからというから、今日は部屋を掃除していた。それはザックスの為の行為だったのに、掃除の間に懐かしいノートなどを見て彼女のことを考えていた自分がいる。そしてこの部屋に来たザックスは、クラウドのことを好きだと宣言しておきながら他の女の子の話をしたりした。

想いを数値に変換なんて出来ないけど、嫉妬心とか疑問とかが浮上すると、その瞬間だけは想いのバロメータは下がってしまう気がする。だけど基本的な想いの数値はいつも別のところで一定した数値を保っていて、それは変わらない。その変わらない数値を全部全部伝えられたら便利なのに、と思う。もしその一定した数値を全部上手に伝えられたら、嫉妬しても数値は下がったりしないのに、とも思う。

だけど現実はそういうわけにはいかなくて。

伝えきれない想いがあって、その伝えきれない部分にあるのは多分、恐怖心。相手の心の内を計りきれないことが怖くて、もしかしたら今こうして話している瞬間もその女の子のことを考えているんじゃないかとか、そういう不信感が沸き上がる。

ザックスの話を聞き流しながらそんな事を考えていたクラウドは、ふっと先ほど仕舞いこんだノートのことを思い出した。あのノートに書かれていた言葉はどれも単純な言葉で、好きだとか、会いたいとか、そんな言葉だった。

純粋で、ただただ真っ直ぐな言葉。

あの時も、今だって、誰かを好きなことに変わりない。

けれど今はあの頃のように単純に「好き」だとか「会いたい」だけでは済まなくなってしまっている自分がいて、それがどういうことなのかクラウドには分からなかった。

もっと純粋に単純にいれたら良いのに。

今心にあるこの気持ち全てを伝えられたら良いのに。

あの頃、好きだった女の子に「好き」と伝えるのは確かに勇気のいる行動だったに違いない。だけど多分あの頃の自分なら、その気持ちだけを伝えれば満足だったような気がする。無論それは叶わないことだったけれど。

―――――――でも今は。

「どうした、ボーッとして?」

ふっとそう言われて、クラウドははっと我に返る。

見上げるとそこにはザックスの顔があって、クラウドは無意識にその顔に微笑み返していた。何でもないよ、そう告げながら。

「そうか、なら良いけど」

そう答えて微笑んだザックスの顔を見つめながら思ったのは、今ザックスの心の中で、自分への想いはどのくらいの数値を打ち出しているのだろうということだった。

 

 

 

何でもない他愛のない話を終えて簡易デートが終了する。

にこやかにザックスが手を上げて去っていくのを見送った後、クラウドは部屋のドアを閉めてそっとベットに沈んだ。

折角の二人の時間だったのに他のことを考えていたりするのは勿体無い。だけどそういう事を考えてしまうのは二人でいるからだといえば、それもそうだなと思う。

好きな人と二人じゃなくなった空間で独りになると物悲しかった。だけど不思議なことに、自分のザックスに対する気持ちは、独りになった瞬間にぐんと上昇したような気がして何だか変な気分に取り巻かれる。

暫くそうして沈んでいたクラウドだったが、その内思いついたように立ち上がると、例のノートをそっと手に取った。

ペラリ、と捲る。

「“好きです”かあ…」

好きな女の子に綴った気持ち。それは多分、先ほどザックスが言ったように、男にとっては自然発生する性的な気持ちもあったことだろうと思う。勿論体がどうのとかそういう意味ではなくて、男から見た女の子、という意味で。

ペラリ、また捲る。

「“格好よくなって守りたい”?…何だよ、俺。変なの」

思わずプっと噴出しそうになって笑う。

「“会いたい”、“今頃何してる?”…“元気かなあ”……」

あまりにも沢山の純粋な言葉がそこにはある。

何だか良く分からないけれど、そのノートのページをペラリペラリと一枚づつ捲る毎に、どうやら視界は霞んできていた。

そうして視界がぐちゃぐちゃになって、ようやくクラウドは自分が泣いていることに気付く。涙が目を覆っているから、何だか言葉まで霞んでしまって。

それはあの頃の純粋な気持ちすら滲んでしまうようで、何だか嫌だった。

「あー…どこまで言えば伝わるんだろ…」

どれくらい好きといえば伝わるんだろう。

どれくらい好きといえば心の中の全てが伝わるんだろう。

あまりにも切ない距離だから、そんな事を考えてる。

あの頃とは違って、好きな人は側にいる。相手も自分の気持ちを知っていて、お互い両思いというやつで確かにそれは幸せなはずなのに…それなのに。

好きという気持ちを伝えて、それができれば良かったという頃とは、もう違う。

もう既に好きだということをお互い知っている中で「好きだ」と伝えてみても、返ってくるのは同意の言葉で、それは勿論嬉しいのに、まだまだ足りない気がしてしまう。だからもっと「好き」を言ってみる。けれど返る言葉はいつでも同意の言葉だけなのだ。

行き着くところはいつも、そうして同じまま。

どんなに好きだと伝えても、お互い好き合っていると知っているのだからそこでストップしてしまう。それ以上もそれ以下もない。ただ一定した気持ちの中で、嫉妬とか疑問とかで揺れ動くだけ。その気持ちの揺らぎがある分、今の状況は何だか辛い気もしてしまう。

お互い好きなのに。

それは知っているし、幸せなのに。

それ以上何を求めているのか、自分でも分からない。

分からないけれど何だか「好き」が足りない気がしてしまう。

でもそれ以上にはなれなくて。

だから―――――――あまりにも純粋で、ただ好きであれば良かっただけの昔が、酷く懐かしく気持ち良いもののような気がしてしまう。

相手のことを知りたいと思っていても知ることのできなかったあの頃。

相手のことを知っていて、知りすぎて辛くなる今。

一体どちらが幸せなんだろう。

 

どれくらい好きといえば伝わるんだろう。

どれくらい好きといえば心の中の全てが伝わるんだろう。

もう既に伝わっているはずなのに、距離を感じて、いつでもそんなことを悩んでる。

 

 

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