START

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そりゃお前、いつだって前向きなんてコトできるはずないだろ。

いくら俺が陽気な人間だからって、そればっかりが正しいってわけじゃないさ。

こんな俺にだって、時々はぶち壊したい壁がある。

そいつに飲まれるんじゃなくて、ぶち壊したくなる時があるんだ。

だけどそれはとてつもなくキツい事で苦しい事で格好もつかない事だから、俺は取り敢えずのところ設定を低くしてその壁を越えようと思うわけだな。

他の誰かを越えるんじゃなくて、今の俺っていう壁を、まずは越えようって。

それは、スタートだ。

 

 

 

カイニューとセバスチャン。

俺にとっては親しい友達だったソルジャー。

ついこの間の任務で、俺はあいつ等を失った。アイツラは二度もアバランチって組織に捕まって、最後には脳も支配されたみたいに俺に飛び掛ってきた。

俺はそんなあいつ等に剣を向けるなんて事はできなくて、任務に同行してたタークスの男にもそれを制してた。

結局アイツラは殉死して、俺は数日間それについて散々悩んだけど…それでもまだ俺は自分が許せないままでいる。アイツラが死んだことは事実、変わりはしない。でもあの任務は俺が指揮を取った任務だったし、そう考えるとアイツラの死は俺の不甲斐なさの証拠みたいな気がしてた。

もし俺がもっとしっかりしてたら、アイツラは死なずに済んだんじゃないかって…何だかそう思う。そうしたら俺だってこんなふうに苦しくなることは無かった。

だから、今俺が悩んだり苦しんだりする理由も、結局は俺が原因なんだろう。

「次の任務?」

俺がまだメンタル的に厳しいって時に、容赦ない任務の要請。

仕方無いといえばそれまでだけど、さすがにキツイ。

「そうだ。お前の次の任務は…」

「ちょっと待ってくれ」

俺は新しい任務を告げるその声を止めると、俺の所属部門の統括に頭を下げた。本当だったらこんな事はしたくないけど、今はさすがに、何も思ってませんって顔はできなかったから。

統括のハイデッカーは、俺がそんなふうに複雑な顔をしていたのが気に喰わなかったのか、いかにも不服そうな顔をして「一体何だ」なんて言ってくる。だから俺は、今の俺の気持ちをそのまま口にした。

今の俺じゃ新しい任務はできない、って。

そうすると、ハイデッカーは更に不服そうな顔をしてその理由を聞いてきた。そりゃ当然だろうけど、俺にとっては少し複雑だっていうのが本当のところだ。何しろこの統括は、この前の任務でアイツラが死んだことを知ってるんだ。しかも、その任務の指揮が俺にあったことも。

「俺は…今は自信ないんで。今回の任務は他当たって下さい」

「何を言ってるんだ、ザックス。お前はもう社長の眼にも留まるソルジャーになったんだぞ。それを何故棒に振るんだ。ん?」

「それは、また俺の指揮で誰かが死んだら…嫌だからです」

俺がしっかりそう言うと、ハイデッカーは笑った。

何だそんなことか、って言いながら。

でも俺にとってのアイツラの死は「そんなこと」なんかじゃない。例え常に危険と隣り合わせだといったって、それでも俺は自分の任務でそういう被害が出たことが許せなかった。しかもそれがあの二人だっていう事は、絶対に許せないことだった。

許せないから、もうそんなことにはなりたくなくて、何となく任務に不安感が付き纏う。特に俺が指揮を取るようにって言われるような任務は本当に不安だった。

また誰かが傷つくんじゃないか、また誰かがいなくなるんじゃないか――――――そう思うと、今まで自信を持って出来たことすら基盤を失ったみたいになる。

いつも口癖みたいに言ってた、“皆で一緒にまだ戻ってこよう”っていう言葉も、今の俺にはもう口にできないような気がして…。

「ザックス、言っておくが今回も社長直々の命令だ。お前ごときに指名がかかったんだぞ?それをそんな下らない理由で嫌だというくらいなら、ソルジャーなど辞めてしまえ」

「…下らない?」

その言葉が妙に腹立たしくて、俺は思わずハイデッカーを睨む。

それでもハイデッカーは怯むことなんてなくて、口を捻じ曲げながら笑って言った。

「そうだ、実に下らん。死ぬような奴は所詮クズよ、ソルジャーの称号すら勿体無いほどのな。お前は生きているんだから少しはソルジャーらしくしたらどうだ。それができないならやはり辞めるんだな」

「……」

俺には、ハイデッカーの言う事が全く理解できなかった。

生きていればソルジャー、死んだらただの人―――そんな理屈、俺は分かりたくも無い。

俺達はソルジャーである前に一人の人間なのに、それは此処では許されない。大切な人が死ねば誰だって悲しいはずなのに、それを悲しむことも許されない。

俺が目指してきたのはそんなソルジャーじゃなかった。

誰一人として傷つくことなく、皆で一致団結して敵に挑み、勝利は全ての者で分かち合う…そういう俺の理想としていたソルジャーは、俺が失敗したことで崩れていく。

俺は、今迄何度も見てきた。

どっかのソルジャーが指揮を取る任務に同行した時、そこで誰が死んでも何も変わらず、次の日にはもうヘラヘラ笑ってるような姿。それから、し止めた勝利を我が物にしようと躍起になって仲間割れをする姿。もっと酷い時には、兵士の一人を捨て駒にしながら勝利を得て、結局その兵士はそのまま除名されたこともあった。

俺はそんなソルジャーにはなりたくなくて、今まで頑張ってきたんだ。

俺が目指す本当のソルジャーを俺自身が演じて、いつか皆がそういうソルジャーになれば良いんだって思ってきた。いつかは本当に皆が一つになれるような任務ができれば良いって。

――――――――でも、此処はダメらしい。

「…分かりました」

俺は一つ頷くと、ハイデッカーの言った皮肉な提案を自ら通した。

「俺、辞めます。ソルジャー」

 

 

 

そんな俺の行動にいち早く気付いたのはクラウドだった。

他のソルジャー連中でさえ半信半疑で「まさか」って思ってる中、クラウドだけはそれを真面目に受け止めてどうしようもない顔をして俺に話しかけてくる。

まあそれも頷ける話かもしれない。

俺はクラウドにこの前の任務の事を全部話してたし、俺がどう思ってるかも話してた。だからクラウドは、俺がソルジャーを辞めるって言ったその裏にあの任務のことがあるんだって気付いてたんだろう。

「ザックス、本当に辞めるのか?」

「ああ」

俺の部屋にまで押しかけてそう聞いてきたクラウドに、俺は簡潔にそう頷いた。必要書類まで揃ってるとくれば、これは嘘も何もない言葉だ。

だけどクラウドは、そんな俺の言葉が気に喰わないらしくてずっと怒ったような表情をしてる。

「…そんなんで良いんだ、ザックスは。俺、ザックスだけは違うって思ってたのに…そんなんで良いんだ」

「何だよ、その言い草は」

「だって…!俺、ずっとザックスの事尊敬してきたんだ。他のソルジャーと違って、皆のこと思ってて、絶対見捨てなくて…」

クラウドは怒ったままの表情で俺にそんなことを言ってきた。その表情はいつになく真剣で、いかにそれが本心かっていうのが分かる。

だからこそ、その言葉は何だか心に痛かった。

クラウドが俺をそう思っててくれた事は、正直嬉しい。でも俺は、クラウドが言うようなソルジャーには結局なれなかったんだ。例えそれが出来たとしても、そうしたら今度はソルジャーを剥奪されるんだから、やっぱり俺は失格なんだろう。

だけどそれを伝えるのは難しくて、俺はとにかくクラウドの頭をポン、と叩いた。それから、なるべく何も考えないようにしながら言う。

「俺だってそうしたかったけどさ、神羅のソルジャーはそれじゃダメなんだ」

それはあくまで会話を緩和させるための言葉だったけど、クラウドにとってはその言葉が返って起爆剤になったらしい。

俺は、時限爆弾を踏んだ。

誰かが聞いたら納得しそうな言葉でもクラウドにとっては爆弾だって事を、俺はその時初めて知ったんだ。それは本来の俺にとっても爆弾と一緒で、そう考えると俺とクラウドはどこかで同じものを見てたのかもしれない。

…いや、クラウドが俺と同じ方向を見てくれただけかもしれないけど。

クラウドは、途端に俺の肩をガッと掴むと、酷い怒り様で俺に向かって叫んだ。

「ダメじゃないって教えてくれたのはザックスだろ!何でそんな事言うんだよ!卑怯だ、無責任だ!…俺が…俺がどんな気持ちでいるかなんて全然知らないくせに!」

「ちょっ…おい!クラウド…!?」

「ザックスだって結局同じじゃないか!皆でなんて言っておきながら一人でどっか行くんだろ?見捨てないって言ったくせに見捨てるんだろ?そんなの、他のヤツラと一緒だ!」

「…なっ…」

俺の肩は、クラウドに全力で掴まれてる。

その肩が、クラウドの手の力で小刻みに震えてる。

それは余程強い力が入ってる証拠だったけど、俺にはそれが痛いとは思えなかった。別に体が丈夫だとかそういう意味じゃない。そうじゃなくて、それは痛いなんて感じちゃいけない力だったんだ。

だってそれは…クラウドの本音だったから。

それを痛いなんて思うわけにはいかない。それは俺が受け止めるべきものだったし、何か返さなきゃいけないものでもあった。

でも、今の俺に返せるものなんて限られてて―――――それは当然、クラウドが望んでるものなんかじゃなかった。その上それは、俺の本音でもあった。

「そりゃお前…いつだって前向きなんてコトできるはずないだろ。いくら俺が陽気な人間だからって、そればっかりが正しいってわけじゃないさ」

「…何だよ、それ…」

俺は、俺の肩を掴んでるクラウドの腕に手を添えると、特別力を込めるでもなくその腕を掴む。それから、怒った表情のクラウドを真っ直ぐに見詰めて言った。

「こんな俺にだって、時々はぶち壊したい壁がある。そいつに飲まれるんじゃなくて、ぶち壊したくなる時があるんだ。だから俺はその為に今迄頑張ってきたんだ。…でも、それはとてつもなくキツい事で苦しい事で格好もつかない事だから…ハードルが高すぎたんだよ、俺には」

「は…」

「人には見合っただけのものしか出来ないんだ、きっと」

「――――」

俺は俺自身の事を考えてそれを口にしたはずだった。でも、そう言ってからハッとあることに気付く。それは、他でもないクラウドのことだった。

見合ったものしか出来ない―――――今のクラウドには一番キツイはずの言葉。

言ってしまってからそれに気付いた俺は、それを修正しようと咄嗟に口を開けたけど、その時にはもう何もかもが遅かった。

クラウドは俺の両肩を掴んだまま俯くと、やがてその手から力を抜いて、ズルズルと俺の胸あたりにその手を落とした。そこでまた俺の服を強く掴むと、僅かに見える唇を強く噛み締める。

それを見て俺は、きっとクラウドは叫ぶんだろうと予見してた。

さっきみたいに俺に怒鳴るんだろうと、そう思ってた。

―――――でも。

「…だから、辞めるんだ?」

クラウドの口から出てきたのは怒鳴り声なんかじゃなくて、震えるような声。

「ハードルが高かったからって、目の前にある低いハードルを飛び越えることも放棄するんだ?」

俺の眼には、怒りと悔しさと、それから悲しみが交じり合ったクラウドの顔が映ってた。

 

 

 

そういうクラウドの顔を見て以来、俺は記入済みの必要書類を眺めてはそれを折り畳むような日々を送っていた。辞めると宣言したんだから、後はこの書類を提出すればそれで万事OK…それは分かってるけど、何でかその決心が鈍る。

別に故郷に帰るのが難だとかそういう訳じゃなくて、あの時のクラウドの言葉が何だか引っかかってたからだ。

俺がこの書類を提出したら、俺はクラウドの言った通りになるんだろう。当然、クラウドはそんな俺に怒りを持つんだろうけど、本当にそれで良いのかっていう気持ちが俺の中にはあった。

クラウドがあんな事を俺に言ったのは、クラウドがそれなりに俺を信じてくれてた証拠だと思う。いや、それなりっていうより、もっと強く信じててくれたんだろう。それなのに俺はこの書類を提出してクラウドの言うとおりになろうとしてる。

皆でなんて言っておきながら一人でどっか行く俺。

見捨てないって言ったくせに見捨てる俺。

他のヤツラとまるきり一緒の俺――――…どれもクラウドの嫌いな俺。

 

 

 

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