SNOW IMAGE

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「ねえ、ザックス。見て、雪だ」

そう言って肩を掴んでくるクラウドに、ザックスは「え」と驚きながら窓の向こうに目を向けた。

神羅兵舎の一室から見える、チラホラと舞い降りる粉雪。

「キレイだね、ザックス」

そう嬉しそうに言うクラウドに、ザックスは眉をしかめた。確かに雪は綺麗だし、見ていて悪い気分はしない。

けれど問題は、雪が降る、その理由だろう。

何故って今は、まだ夏の終わりなのに。

降るはずがないのだ、雪なんて。

「お前、何で雪が降るか、分かってんの?」

「はあ?雪ってそりゃ…雨が降って。もっともっと気温が下がると…」

「って、そういう理論的な事でなくてだなあ」

「じゃあ、何?」

少し機嫌を損ねたらしく、クラウドはブスリとしてそう聞く。それはとても邪気が無く、本当に純粋そうな問いかけだった。

だからか、ザックスは少し躊躇ってしまう。

天候がおかしいその理由なんて少し考えれば分かることだったけれど、別にそれについて疑問を持たないクラウドを責めるつもりは毛頭無い。別段、同じ感覚でいろとは思っていない。

けれど、ザックスの中でうごめくその感情は、どうしても拭い去れないものだった。

例え、目の前に笑いかけてくれる、守るべき人がいても。

結局少ししてザックスはそれを口にした。

「異常気象なんだぜ、これ。理由は勿論、ココさ」

そう言いながら、指で床を指す。

「ココって…神羅?」

「そうだ」

お前も一年この腐った組織の中にいて分かっただろ、とそう続けたザックスは、さらに吐き捨てるように言葉を放つ。

「魔晄摂取量が過剰なんだ。星のバランスを崩してる――――つまりは、自然破壊だ。だろ?」

その言葉にやっと納得したようにクラウドは頷き、それからすぐに顔を曇らせた。

「ザックス…まさか、本気?」

静かな声が、その部屋にこだまする。窓の外の雪は何も無いかのように振り続き、二人の空間に浸透していく。

「ああ、本気だ。俺は、許せない」

決意したようなその声は、クラウドを不安にさせる。

「やめてよ、ザックス。危ないよ。神羅の事だから、何するか分かんないよ」

「それは承知だ。でもだからこそ問題なんだろ?何すっか分かんねえから…これからも“ココ”はそうやってこの星を崩してくんだろうし…」

「でも…」

ほぼ泣きそうな顔になったクラウドは、縋るような目つきをザックスに向けていた。

既に分かっている。ザックスの言いたいことも、どうしたいかも。

それは常々ザックスが躊躇いながらもクラウドに話してくれていた内容で、それはとても危険だったから、クラウドは覚えていた。

もしいつかザックスがそれを実行しようとしたならば、その時は止めようと心に誓ってもいた。

神羅の裏は、もうクラウド自身もよく知っている。それでも巨大組織はその裏を巧みに隠しており、表面上は親切な優しいものとして人々の目に映っていた。それでもソルジャークラス1stとしてその重い任務をこなしていたザックスの口から聞く真実は、確実にクラウドにも嫌悪感をもたらしており、それを承知してなおこの組織に組み込まれたままという状況だったのだ。

勿論、立場や性格の違いは重く二人の思考の溝に入り込んでいる。

例えばザックスの場合は、それを悪としたならば、絶対的反抗を示すように。

例えばクラウドの場合は、それを悪と知ってもなお、その些細な立場や環境を守ろうとするように。

不安顔を崩さぬままに、クラウドはザックスの手を取った。それからそれに自分の額を当てると、ふう、と重い溜息を漏らす。

苦しくて、胸が痛くなる―――――。

「俺を置いていくのか、ザックス?」

「――――クラウド……」

確かにそれは、クラウドをも巻き込むかもしれない危険性がある。

いや、それよりも――――――。

この安全確実で、幸せな空間すら、崩してしまうかもしれない。

そう思うと、ザックスも胸が苦しくなった。

自分の手を取るその姿を見て、それを守りたいと思うのに、それなのにその一方では崩そうとしている。どちらが正しいことか、こうされると分からなくなってしまう。

ザックスはクラウドの顔をふっと上げると、その唇にそっと自分の唇を重ねた。それは少しして熱を帯び、やがて舌を絡ませる程に深くなる。不安を消すかのように求めてくるクラウドの舌先を、包み込むようにしてやる。

それでもそれはその場凌ぎの熱のようにしか感じられなかった。

 

二人はゆっくりと身を寄せ合うと、窓の外の雪を見つめる。

異常気象の雪。降ってはならない雪。

神羅を象徴する雪。

それはしんしんと降り積もる。

まるでこの神羅の中でいくつもの思い出を積み上げてきたように。

「でもさ…キレイだよね、雪」

そう呟くクラウドにザックスは、そうだな、と返した。

思い出はキレイに決まっている。現在進行形のこの想いも嘘なんかじゃない。

それはとても綺麗で―――――目の前の雪と一緒だった。

「俺はザックスとこの雪を見ていく方を、選ぶ」

そうおもむろに言ったクラウドの肩を、強く抱きしめる。とても答えられそうにない。そうしたいけれど、この雪を消さなければならない。

「ねえ」

ふと顔を上げ、クラウドはザックスを見つめた。

「ザックスは――――どっちを選ぶ?」

クラウドとこの雪を見続けるのか―――それとも。

この雪をやませるのか。

やんだ雪の後には、誰もいないかもしれなくても。

それでも、それを選べるのか?

ザックスは考えた末にふっと笑った。それは決断の笑みではなく、ただ単にクラウドに向けられた笑みだった。

「俺はな、お前を選ぶ」

 

 

 

反神羅カンパニー組織の種は各地で燻っている。栄華の裏で、それは着実に進行しており、しかし実際に行動に移すまでの勢力を持ったものはいなかった。

誰もが疑問を抱いていた。便利になる生活の裏で、犠牲になる自然があることに。その一方で、その強さの前に憧れを抱く者も、勿論いる。

もしこのままこの栄華が続くというならば、より良い生活環境と生活水準がうまれるだろう。けれど、そうすることが全ての破壊に繋がっていることに、一般の人間は気付いてなどいなかった。

「ザックスは参加するのか?」

男に問われ、ザックスは返答に詰まった。

男は反神羅組織の一部の人間で、とうとうその思いを実行に移そうとする者である。神羅に真っ向対決を挑もうとすることは実際、馬鹿げた話だった。けれど、体当たりするしかない、その男はそう言ってのけたのだ。そこには神羅内の反勢力の混入もあり、与えられる情報としては信憑性の高いものが多い。例えば神羅の見取り図などは、そこから提供されていた。

「……考えてる」

実行に移されるその日、きっと神羅は普通に朝を迎えることだろう。被害がどのくらいに及ぶかは分からない。武器開発部門下で働いていた者もいることを考えると、もしかしたら大変なことになるかもしれない。

もしそれに参加すれば、確実に神羅に対抗することになるだろう。

そうなったら“今迄”は崩れてしまう。

ついこの間のクラウドの言葉が脳裏を掠めた。

“俺はザックスとこの雪を見ていく方を、選ぶ”

この星を守らなければ、いずれはそんなことすら言っていられなくなるのは確実で、けれど実行に移せば今すぐにそれは失われるのだ。

あの腐った組織の中で、ほんの少しの光を、少しでも良いから守るのか、それとも―――――ザックスには答えが出せないでいる。

「多少は神羅も傷ができる。これで世間が分かってくれれば、それで良い。皆に気付かしてやるんだ。何が一番大切かって事を」

その男は便利になりすぎた生活には反吐が出ると、そう言ったいた。けれどザックスは思う。

大切なものはこの世界―――――分かっている。分かっているけれど、その生活によって何かを勝ち得た者もいる。例えば今、皆が疑問を持ちつつも抵抗できないでいることの裏には、そういう打算があるのだ。安穏とした、それでも安定した生活を捨てる――――それは、とても勇気のいることなのである。

それはザックスにとっても例外ではない。

世界を守ることは、クラウドを裏切り、敵に回し、悲しませることだった。

命を救うのか、気持ちを救うのか―――――……。

「おい、見ろ。雪がまた、降ってきたぜ」

「ああ…本当だ」

窓の外に目を向けると、白い雪が降り始めていた。その雪の一つ一つに、何かが映る気がする。

大切なもの――――――想いや、思い。

全てのもの。

そして、この世界。

ザックスはふと窓の外に身を乗り出すと、その雪の一つを手ですくってみた。

雪は手の平に落ち、そして、やがて溶けて消えてゆく。

そこには何も……残らなかった。

一瞬だけの綺麗な雪。

いつかは溶けていく雪。

ただ、記憶の中だけで、その雪は降るのだ。

ふとその手の平を握りこむと、ザックスは小さくこう呟いた。

「――――――参加する。俺も、行く」

口元は笑っていた。それは今度は、決意を意味する笑みだった。

 

 

“俺はお前を、選ぶ”

 

 

今まで作り上げてきたものが、いつかこの雪のように溶けて消えていくとしても。

何も残らないとしても。

きっといつでも選んでいく。

星でもなく、この気持ちでもなく、“クラウド”という人を。

だってそうだろう。

その人が生きてさえいれば、そこにずっと二人でい続けられるのだから。

 

心の中に降り続く、雪の中に。

 

 

 

END

 

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