Shine like so !

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First Picture

 

 

あの人は遠い所に行ってしまった。

本当は…本当は引き止めたかったけど、良い子を演じてしまったんだ。

さよなら、って――――――――。

 

 

 

アトリエ・クーズ。

そこは俺が通ってるアトリエで、結構こじんまりしてる。それでも俺にとっては丁度いい大きさだった。

普通一般に受験だの何だので通うのとは全く違って、そこは本当に趣味だとか技術向上だとかの目的で人が集まってる。

かくいう俺もその一人で、絵を描くっていう事自体が好きであって、それで稼ごうだとかそういう気持ちはあんまり無い。

純粋に描ければ良い。

そういう想いで俺はもうかれこれ3年はこうしてアトリエという場所に通ってる。それでも色々あって、今通ってるアトリエ・クーズは三件目だった。

アトリエ・クーズは妙な人が多い。

なんていうか、外見的に絵なんか描きそうも無い人が多い。皆、描けばそれなりの実力があって、それぞれ凄い個性を持ってる。だけど、そうそう簡単に真面目に取り組まない環境も、勿論あるわけだ。

 

部屋の一角に、談話スペースのようなものがある。そこは何故かいつも満席で、何かにつけて此処の人はそうやって無駄話なんかをしていた。

別に俺にとっては関係無い事だったけど、たまにその会話なんかが耳に入ると、何だかのどかだなあと思わずにはいられなかった。

正直言って、かなり能天気だ。

「十二月、予定無しっ!」

「まじ?どっか行こうぜ、どっか!」

「良いね〜。ってかどこ行くよ?」

「遊園地?」

「ばっかじゃねえの!ヤローだけで遊園地とか、超さむくねえ!?」

ぎゃはは、と笑い声が響く。…本当に平和だよな。

そんな事を思いつつ、俺もかなり平和だった。何ていっても俺も絵を描かずにこうして談話室の隅に立ってたりするんだから。

窓辺に立って、何となく外を見る。

外には背の高い木が数本植わってて、それが三階くらいまで延びていた。風がそよぐとそれが揺れて、その揺れを見ながら俺は思いに耽ることが多い。

何となく此処に立って外を眺めてると、いつも同じ事を考え出してしまう。もう癖って言っても良いほど。

こうして俺が今でもアトリエに通っている理由。それは一つなのに、何だか最近はやる気があまり起きない。ズルズルと今までの生活を続けてるというだけで、何だかそれに意味があるのかどうかも、俺には良く分からなくなっていた。

そう思う原因は、ちゃんと知ってる。

あの傷を、俺はきっと今でも癒せないままなんだろう…。

「どうした?」

ふと、誰かに肩を叩かれ、俺はびっくりして振り返った。振り返ってから、俺ははっきり言ってゲッソリした。

「…ザ、ザックス…」

「よっ!」

ザックスだった。

ザックスは俺と同じ頃、アトリエ・クーズに入ってきた人で、だけど俺達はそんなに仲が良いという訳じゃなかった。というか俺にとっては、はっきりいって苦手なタイプって感じだ。やたら明るくて、やたらサッパリしてる。いつも笑ってる。

はっきり言えば、俺とは人種が違うんじゃないかって思う。

俺がうじうじ悩んでることなんか、きっと馬鹿げてるって笑い飛ばしそうなタイプとしか思えないし、何しろ何を考えてるのかさっぱり分からない。

俺は此処に入ってからこの方、ザックスに話しかけたことなんか無かった。だけど、どういうわけかザックスは、やたらと俺に関わってくる。

今もそうだ。こうして話しかけてきたりする。

「クラウド、どうしたんだよ。元気無いじゃん、お前」

「な、何でもないよ…気にしないでよ」

俺はやたらと至近距離に来るザックスに、無意識に後ずさりながらそう答えた。

するとザックスは、また一歩コッチに歩み寄ってくる。

それからすっきりと笑って、

「嘘付けっ。泣きそうな顔してるぜ?」

なんて言ってくる。

何なんだよ、一体!?

俺は焦りに焦りまくった。もう、本当に苦手だ、この人。

「本当にっ…何でも無いから!あの、じゃあこれでっ!」

俺はそう言って早々にザックスに側から離れた。ザックスといると落ち着かないし、調子が狂いそうな気がする。

俺は振り向きもせずに、ぱたぱたと談話室を後にした。

振り向いたりしなかったから、俺は知らなかった。その後に残されたザックスが、幾分真面目な顔付きをしてたことなんて。

 

 

 

 

夕方になってアトリエ・クーズを後にすると、俺は家には向かわずに真っ直ぐにある場所に向かった。

それは家とは全く逆方向で、その先といったらこじんまりとした建物がポツポツとあるくらいだ。その中で、俺は一軒の喫茶店に足を踏み入れる。

そこはちょっと大人な雰囲気の、洒落た喫茶店。窓はどことなく茶色がかっていて、落ち着いたムードが漂ってる。余程俺には似合わない。

そう思いながらも、俺はその店の中で目的の人物を探した。

少しばかり目をさ迷わせると、すぐにその姿が目に入る。

「遅れてすみませんっ!」

俺はすぐさまその人物にかけよると、その向かいの席にすっと腰を下ろした。体勢を整えてから、ようやくちゃんとその人の顔を見る。

「久しぶりだな、クラウド」

そう言って、相手は笑う。相変わらず柔らかい微笑みで、俺は何だか胸が痛くなった。

俺はそれに答えずに、まず目に飛び込んだスーツ姿にコメントをする。

「スーツ…なんだ。何だか変な感じ…」

「ああ。今年から、サラリーマンも同然だからな」

そうか、そうだった。

俺は何となく感傷的になりながら、そうですね、と答える。

その人は、俺にとって懐かしくて、それでも辛い思い出のある人。ヴィンセントという名前の、とても綺麗な人だった。

ヴィンセントは俺にとってはとても微妙な立場の人で、その思い出はもう一年前に遡る。

それはアトリエ・クーズに通う前の話で、俺はその時もやっぱりアトリエに通っていた。そのアトリエは、クーズよりももっとこじんまりした、本当に個人経営みたいなアトリエで、それでも俺はそこが大好きだった。その時は俺もまだ絵に夢を持っていて、今みたいにボーッと過ごすことなく、頑張っていたような気がする。

けれどその活力は、そのアトリエ自体にあったんだろう。

そのアトリエは、ゼロという名前だった。それはアトリエの責任者でもある人が、常にゼロ地点に立って開拓をしろ、という意味でつけたらしい。さすがだな、と思う。

その責任者でもある人を、俺はとても尊敬していた。

いつもパワフルで力に満ち溢れていて、本当に、太陽みたいな人だった。

いつでも真剣で、真摯な目で、常に前を見ていて、自由で、本当に素敵な人だった。俺が絵を描くという上で、本当に本当に学んだ人だった。絵だけでなく、そのパワーを。

ヴィンセントは、アトリエ・ゼロでアシスタントをしていた人で、俺も仲が良かった人だ。勿論、絵を描く人でもある。

優しくて、綺麗で――――でも、思い出は切ないままだけど。

「クラウド。早速で悪いが…この間の件、どう考えてる?」

「この間の…?」

「この間と言っても、もう一ヶ月は前かな」

「ああ…」

俺は言葉に詰まった。

それからその、“この間の件”について思い返してみる。

そう――――それは、まだヴィンセントがこんなスーツなんかを着てなかった頃の話だ。

 

アトリエ・ゼロを閉める。

そんな話になって、俺は違うアトリエに通い始めていた。それは今のクーズだけれど、その時はまだ俺の中でゼロは大きすぎる存在だった。

それでも責任者を失ったゼロは、もう既に何も無い質素な姿だけしか残してなくて、俺はそれが切なくて仕方無かった。

丁寧に重ねられたイーゼルやキャンバスが、手持ち無沙汰な感じで部屋の隅にある。それはどこか汚かったけれど、どれも感情のこもった色彩の跡を映し出していて、それが一層寂しさを増した。

もう誰のいなくなったゼロの中で、俺とヴィンセントだけが立ち尽くしていた。

「やっと見つかったんだ」

ヴィンセントは少し疲れたふうにそう言う。それが何のことか、俺にはすぐ分かった。

ゼロの責任者・セフィロスのことだ。

セフィロスは、いきなり姿を晦まして、そうした後にたった一つの電話でゼロを閉めろとヴィンセントに伝言した。

実質的にゼロの経営の一端を任されていたヴィンセントはその伝言にしたがってゼロを閉めたけれど、それでもセフィロスがどこにいるのかはさっぱり検討がつかないみたいだった。

けど、それは突然やってきた。

セフィロスからの一本の電話で、セフィロスの居場所が分かったんだ。

「セフィロスの奴、もうこの辺にはいない。かなり遠くだし、いわば山奥だ」

「そう…なんだ」

俺はショックを隠せなかった。俺だってセフィロスが姿を晦ましたときは大ショックだったし、それはずっと気にかかってた。ゼロと離れなくちゃならないことは、俺にとってはあまりにも大きな事だったから。

でも多分、俺以上にヴィンセントはショックだったに違いない。

ヴィンセントはそれでも冷静に話してくれた。俺は相当ショックだったけど、それとは対照的な気さえする。多分その違いは、ヴィンセントはセフィロスの事を良く分かってたからなんだろう。

「あいつは前々から言ってたしな、静かな環境で描きたいって」

そう言いながらヴィンセントは俺に目を向ける。

「それで―――――――セフィロスがお前も来ないか、って」

「え、俺…を?」

ああ、と頷いてヴィンセントは続けた。

「ゼロにいる時からクラウドの事は見込んでたみたいだしな」

悪い話じゃない、ヴィンセントは少し陰りのある表情でそう俺に言った。

確かにそれは、悪い話じゃなかった。静かな環境、それは俺もずっと望んでた。そしてセフィロスもそれを望んでる人だった。

静かな環境で、好きなことを思う存分できること。

本当に夢みたいな話だったろう。

今の生活なんか全て投げ打って、大きすぎる存在のセフィロスと共に絵を描いて。

「返事は良く考えてくれていいから」

その場で返事が返せなかった俺に、ヴィンセントはそっとそう言ってくれた。

少しの迷いはあったものの、その時既に俺の心は決まっていた。

本当は。

 

俺はその一部始終を思い出して、少し笑った。

それから、ゆっくりとヴィンセントを見て、こう返事をした。それはあの時決まっていたにも関わらず、口に出せなかった答えだった。

「いや…俺、行かない」

ヴィンセントは俺の答えに、別段驚きも喜びもしなかった。ただ、そうか、とだけ言っただけで。

そう、俺は行けるはずないんだ。あの人の元になんか。

だって、そうだろう。

俺が行ったところで、あの人に何の利益がある―――――?

何も、無いです。

 

 

 

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