SONG FOR US

いたいうた

 

 

 

もう十分苦しんだじゃないか。

もう十分だ――――――そう思う。

あの時流れていた曲だって今では快適なBGMにしかならないと、そう思っていたのに。それなのに現実はそう甘くないらしい。

笑い飛ばせるほど、この心の痛みや悲しみは…小さくなんてない。

そういう時、敢えてその痛い曲を聴いてみたりする。それはまるで自分を更なる痛みに貶める自傷行為に近いのかもしれない。

それでもたまにはこうしてゆっくり考えるのも良いのかもしれないと思う。

痛い痛いと、心が泣き叫んだって。

 

 

 

あれは、ある日の夜だった。

ザックスにとってクラウドは弟分でもあったが、それと同時に、手を繋げばドキドキもするキスの一つもすれば嬉しくなる、そんな二つの意味合いを持つ人物だった。

友達であって、恋人でもある。

そんな具合の関係。

多分それは世間のそれとは違って、かなりフランクな関係だったのだと思う。ザックスは自由が好きだったし、だからこそ相手を束縛するというのもあまり好きではなかった。そんなわけでクラウドとザックスの関係はとても微妙なものであり、それでいてとても自然なものだった。

手を繋いだり、キスをすること…そういう行為の一切は恋人だからするわけではなくて、好きだからするだけ。好きだからそういうことをし合い、その結果がその関係という感じだった。

だから厳密に言えば、恋人という呼び方はおかしかいのかもしれない。

大体二人の間にはそういった始まりの言葉も無かったし、じゃあこうしようというルールもなかったから。それでもお互いが好き合っていればそういう関係でしかできない行為に及ぶことになるし、言葉なんてなくても通じ合えていればそれが目に見えない繋がりだった。

そうして過ごしてきたザックスにとって、あの日の夜だけは、たった一つの後悔となってしまった。

言葉さえあれば、こんなことにならずに済んだのか?、そう思いもした。

いっそ束縛していれば良かったのか?、そう悩みもした。

それでもやはり自分の理想的な付き合いの中ではそういった束縛やらというのはご法度だったし、自分のやってきたことに関しては正しいと思える。思えるけれど、後悔してしまうほどにその夜はショックだったのだ。

まさかこの歳になってこんなこと――――――――そう思った。

けれど、痛みは消えない。

 

“だって約束なんて無かっただろう?”

―――――――――――そうだ、確かに…そうだから。

 

たまには飲みにでもいかないか、そう言ったのは単なる気まぐれだった。

誘った相手はセフィロスで、特にこれといって意味は無かった。いつも一緒にはいるけれど深く語り合うこともなくて、それでも自分に近くて、だからたまには一緒にそういう場を楽しむのも良いだろうと思ったのだ。

しかしそう誘った相手であるセフィロスは、こんなことを言い出した。

だったらお前の大切な相手も連れ出したらどうだ、と。

セフィロスとクラウドというのは間接的な友人といった具合で、あまり話をする機会は無かったと思う。いつも二人の間にはザックスが存在していたし、そもそもクラウドとザックスはそういう関係だとセフィロスに見られていたから、セフィロスが直接クラウドに話しかけるということは無かったのである。

ザックスがセフィロスを誘ったのはあくまでサシでという事だったが、そう言われればそれでも良いか、などとザックスは思った。全く知らない間柄であればさすがに考慮もするが、そういうわけでもない。

三人だったら、それはそれでまた何か違った雰囲気で楽しめるかもしれない。

そう思ったのがキッカケで、その飲みは三人での会となった。

当日は妙な雰囲気だななどと思いながらも、ザックスは少し楽しい気分だった。

自分と親しい二人がいて、そういう中で色んなくだらないことを話す…そういうのはとても幸せだったから。

だからザックスは、敢えて二人に話す機会を与えたりする。

こいつはこうで、こんなことをするんだ。

こいつはいっつもこうだからな。

――――――そんなふうに、二人を互いに紹介などして、ザックスはその場を和ませる。それは勿論ザックスが満足できる状況だからこそできたことであり、そうでなければそんな面倒なことはしなかったろう。好きな二人だからこそ、二人にも仲良くあって欲しい、そんな単純な気持ちがそうさせたのだ。

「お前はザックスなんかで満足なのか?」

話の途中でそんなふうにチャチャを入れるセフィロスに、ザックスは「勘弁してくれよ」なんて言いながら笑う。問われたのはクラウドで、クラウドの方は「え?」というような表情をしていた。まるでその軽い調子が分かっていないという感じである。

「おいクラウド、真に受けるなよ。この人、こういう意地悪な人なんだからさ」

「意地悪とは何だ、失礼な奴だな」

「だってなー?クラウド、駄目だぜ、この人のこと信じちゃ。俺達のことぶっ壊そうとしてんだからさ」

「え?そうなの?」

驚いてそんな声を上げるクラウドに、セフィロスも思わず笑いをこらえきれずに吹き出した。

「本当に素直なやつだな。嘘に決まってるだろうが」

「あ、何だ。そうか」

安心したようにそんな事を言うクラウドを見て、セフィロスは吹き出しながらも感心するように頷いている。そのセフィロスを見たザックスは、何となく満足そうな表情をしていた。

未成年を引き連れての酒場など何だか引くものかと思ったがそうでもなかった、そんなふうに言うセフィロスは、今日のこの場でクラウドについて少しは理解したようだった。それ以前は単に「ザックスの連れ」としか思っておらず、そういう意味からして近付くこともなかった。だからこそ詳しい人物像など知りもしなかったし知る機会もなかったのである。

そこからするとこの場というのは、セフィロスにとって新たな出会いがあった場といっても過言ではなかった。それはクラウドにとっても同じ事で、セフィロスという人物と初めて触れ合う機会といっても過言ではなかったのである。

「ザックスは優しいか?」

ふとそんな嫌らしい質問を投げかけたセフィロスは、そう言った後にザックスの表情を窺った。ザックスは「嫌な奴」と言わんばかりの顔だったが、それでも笑っている。それというのはある種の自信があったからだ。クラウドにとって不満がある状況ではないという、そういった自信。そして、そんな言葉で惑わされて壊れるような関係ではないという自信。

だから、ザックスは笑っていられたのだ。

が。

「…うん、そうだね。優しいよ」

クラウドの答えは肯定的でザックスを満足させるものだった。

――――――――でも、その返答をした時のクラウドが、ザックスは何故だか気にかかった。

一瞬……躊躇ったような“間”があった気がする。

それは酒の席だったし、楽しい空間だったし、多分本来はそんなことを気にするような場面ではなかったのだ。それなのに、どうしてかそれがとても気になった。絶対に反論などないだろうという完全な自信があっただけに、それを強く感じてしまったのかもしれない。

しかしザックスがそんな些細なことを気にする間にも会話はどんどんと流れていて、最早それをゆっくりと考えている暇など無かった。

流れる会話についていって、楽しく笑ったり、しんみりと酒を飲んだり――――――そうしている内に、そんな蟠りはどこかへと押しやられてしまう。

考えるべきことは、目前の楽しい雰囲気に飲まれていく。

気になるけれど…それでも何より大切なのは、今そこにある幸せだったから。笑いあっているその空間でしかなかったから。

だから笑っていた。

幸せを胸いっぱいに感じていた。

―――――――――それが、何かを変えてしまうことすら知らずに。

 

それは単なるキッカケに過ぎなかった。

そのキッカケはやがて、自然の成り行きと変わり、最後には完全に姿を変えた。

消失という姿に。

 

 

 

その夜以降もザックスとクラウドの関係には何も変化が無かった。

もう気持ちは伝わっているものだと思っていたし、勿論手を繋いだりキスをしたりもした。抱き合いもした。だからそれは今までと何ら変わりの無い幸せな生活のはずだったのだが、何かが微妙に変わり始めてきていたのである。

それをザックスが感じ始めたのは、例の夜から一週間ほど経った後のことだろうか。

たまたま三人で会う機会があった。

それは本当に偶然で、ザックスとクラウドが当然のように会っているところに丁度セフィロスが通りすがったというだけのことだった。そんな、本当に偶然の場面なのに、そういう時にザックスはその“変化”を見てしまったのである。いや、そういう時だから分かった、といった方が正しいだろうか。

ザックスとクラウドがいつものように話している中に、すっとセフィロスが加わってくる。そこまでは良かったが、その内どういうわけか会話の中心がセフィロスとクラウドへと移行していったのだ。確かにそれは、無いとは言い切れないものである。何せあの夜にこの二人もまたそれぞれを知り合ったわけだから、そういう事が起こってもおかしくない。

けれど、今のこの状況を考えてみればそれは少しおかしかった。

だって今は、ザックスとクラウドの大切な時間なのだ。

今までセフィロスはそういう時間に関しては身を引いていたし、三人の時は勿論ザックスをたてるようにしていた。セフィロスとクラウドというのは、話ができる関係とはいっても、あくまでザックスを軸とした関係だったからだ。

それがどういう訳かその日は違ったのである。

軸は――――――――ザックスには無かった。

セフィロスとクラウドの間だけで会話は成立し、ザックスはその場にいる聴衆と同じだった。そんな状況はザックスにとって初めてのもので、そして信じられないものだった。その時のザックスに出来ることはといえば、知った振りをして笑っていることだけで。

それは――――――…あまりに空しくて、ザックスの胸に大きな穴をぽっかりとあけた。

それが、変化の始まりだった。

その変化に痛みを感じたこと、それをザックスは忘れてはおらず、だからこそ三人で偶然に会うような機会には訳の分からぬ緊張と維持が発生した。まさか自分が空しさを感じているだなんて思いたくなくて、そういう時は決まって自分から話を吹きかけるようにする。そうして上手く「軸」になることでザックスは何とかその場を切り抜けていた。上手い具合に自分を騙していた。

それでもそういう騙しは結局何にもならず、完璧なる変化を受け入れなければならないときはやってきてしまう。

それは、ザックスが本当の痛みを知るときだった。

 

ある夜。

変わり始めた何かに悶々としたものを募らせていたザックスは、その真相を探るというわけではなかったが、何かを掴みたくて、そして何かを忘れたくて、セフィロスの部屋を訪れた。

そうしてそこで、見てしまったのである。

来なければ良かった―――――――そう思ってしまうような、場面を。

それは――――……

 

“あっ…ん、うっ…セ、セフィロス…っ”

“どうした?ザックスはこれしきのことも教え込んでいないのか?”

“んっ…ちが…っつ”

“違う?”

“ザック…ス、は…”

 

―――――――それは、“そういう行為”に及んでいる二人の姿だった。

 

 

 

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