「じゃあ個人的にも貰え。あいつもお前にならそれくらい用意してるだろう」

「でもそれじゃ要求してるみたいじゃん」

「要求してるんだろ?」

「ち、違うよ!俺は別に…」

そんなことない、とか何とか言って珈琲を抱えているクラウドは、まるで駄々をこねている子供みたいだった。任務の時には結構しっかりやっているくせに、ひとたびザックスとの事になるとこうなってしまう…そんなクラウドはセフィロスにとってかなりミステリーだった。因みにザックスも任務の時にはかなり頼れる存在なのにひとたびクラウドが絡むと愚痴るものだから、セフィロスにとってはザックスもまたミステリーである。

そんなミステリーを小脇に二つも抱えていたセフィロスは、ホントにお前らは…とか何とか言いながらも、最後には噴出した。

どうやらクラウドを見て何かを思ったらしい。

「お前はアレだな。まるでサンタを待ってる子供みたいだな」

「はあ?」

そう言われて素っ頓狂な声を出すクラウドに、セフィロスはキッパリとこう言う。

「アレが欲しいとかコレは欲しくないとか、そんな事を言うクセにサンタを待ってるんだろう?何しろ今年は、ザックスは正にサンタなんだからな」

言いえて妙なことを言ったセフィロスは、サンタだったら何かくれるだろう、と本当か嘘か分からないような事を口にした。勿論それはサンタのお話の中のことであって実際ザックスが何かを用意しているとかそういう事には繋がらない。

むしろ忙しいのだから用意していない方が考えやすいところだろう。

「…いや、違うな。もしかしたらお前は…」

セフィロスはまたそんな事を口にすると、クラウドを見遣った。

だからクラウドは、一体何なのかと思って首を傾げる。

…と、セフィロスはこう解釈を改めた。

「お前はプレゼントを待ってる子供というより、トナカイだな」

「トナカイ〜!?」

よりにもよって何故それになる!?っていうか人間じゃないけど!?

そう思ってまたしても素っ頓狂な声を出したクラウドに、セフィロスはやはりキッパリこう言った。

「トナカイはサンタがいてこそだろう?さしずめお前は、サンタが子供に付きっ切りだから拗ねてるトナカイだな」

「す、拗ねてる…トナカイ…」

それは果たして誉め言葉なのか…かなり疑問に思ったクラウドだったが、あまり深い所は考えない事にした。

それよりもサンタがいてこそのトナカイという言葉にちょっと引っかかりを覚える。

「トナカイかあ…」

珈琲をずずっと啜ったクラウドは、ザックスがサンタにならなけければ自分はトナカイと言われることもなかったんだろう、などと言う事を考えた。別にザックスを責めているわけではない。そうではないけど、何だかトナカイと言われた事が妙に引っかかった。

だってトナカイはサンタと一緒になってプレゼントを運ぶのだ。

それなのにどうやらトナカイはサンタに置いてけぼりを食らっている。

サンタがちょっと傍にいてくれれば良いだけの話なのに、それだけですごく嬉しくなるのに、それがないから寂しいのだ。

肝心のサンタさんはどうやら皆を喜ばせないといけないという使命についていて忙しくて―――――――そう考えると確かに拗ねてるトナカイ…かもしれない。

「真っ赤なお鼻の…」

「!?」

突如として歌いだしたクラウドに、セフィロスはギョッとした。

しかしクラウドはぼんやりしながら歌を歌っている。例のトナカイのクリスマスソングだ。

真っ赤なお鼻のトナカイさんは、サンタさんの一言で頑張れたらしい。

だけどその一言は、どうやら今の所どこにも無かった。

 

 

 

クリスマスは皆の期待に応えてやってくる。

シャンシャンシャン、なんて鐘を鳴らしながら。

 

 

 

クリスマスイベントの当日、ザックスはとうとうその恐ろしい身内サンタを実行することになった。朝から気合が入るどころか意気消沈し、朝食などは咽喉を通らなかったものである。しかもこの数週間クラウドとマトモに会っていないものだから更に落ち込んでしまう。ヤル気など半減どころが2%くらいの話だ。

「さあ、頑張って下さいね!今までの成果を見せて下さい!」

「はあ…」

成果も何もない。ヤル気は無いし胃に物は無いし。

しかしそうは言っても今日は本番、どんなに嫌といえどその時間が着々と進んでいくのである。

そんな訳でサンタの格好をしたザックスは、とうとう神羅内の巡回を始めることにした。それは本当に恐ろしい、ある意味では任務以上の精神消費行動であることは間違い無い。

ともかく神羅本社ビルからそれをスタートしたザックスは、どう考えてもプレゼントなど要らなそうな、それどころかコッチがプレゼントとしてグルグル巻きにされそうな科学部門に颯爽と駆け込んだ。

予想通り「実験体にならないか?」というスカウトを受けたものだがそこをサクッと無視して食券をばらまく。返る時はダッシュに限る。

そしてその次。

生きているのかいないのか分からない宇宙開発部門に颯爽と走りこんだザックスは、とうとうと愚痴をきかされそうな統括にサクッとプレゼントを渡すと此処もやはりダッシュで逃げ出した。いつまでもいたら神羅への腹いせに宇宙にでも飛ばされそうである。

そしてその次。

まだマトモな…と言いたいがこんなイベントを開催している以上やはり首を傾げたくなる都市開発部門に飛び込む。この部門の人達は何故だか妙に騒ぎ出して仕事中だというにも関わらずクリスマスソングを合唱し出した。一体何なのだろうか?

しかしともかく無事に渡し忘れのないようにプレゼントを渡し終えると、どこから出てきたのかかなり謎のシャンパンなどを無理矢理飲まされつつもザックスはそこを後にした。

次はザックスも関わっている治安維持部門。

今迄通りダッシュしたザックスは、先ほど都市開発部門で飲まされたシャンパンがそのダッシュによってシャッフルされたのだか少々フラついていた。がしかし、そこは持ち前の体力で何とか乗り切る。

あまり好きじゃないこの部門の統括にサクッとプレゼントと渡すと、ガハハハと脳天に響く笑いを受けながらもサクッとそこを去っていく。が、どうやらこの統括はすぐさまそのプレゼントを開けたらしく、その上それが気に食わない商品だからといってザックスを追っかけてきた。

「こら、サンタ!この俺にこれはどういうコトだ!!食券渡しやがれ、ガハハハ!」

「げっ!」

っていうか食券以外の物の方が余程いい商品なのにそれでも食券!?

しかも怒ってるんだか笑ってるんだかどっちかにして欲しい。

ドカドカと追ってくるその統括からマッハのスピードで逃げたザックスは、ともかく一番平和そうな総務部に駆け込むと、息を整えながらプレゼント配布をした。

総務部なだけあって何だか静かなそこは、サンタが来てもしらっとした調子で仕事を続けている。だものだからザックスは拍子抜けしながらプレゼントを配布したのだが、それはどうやら地獄への入口だったらしい…。

何だかんだ言ってプレゼントを開いた社員の一人がポツリと呟く。

「…あ。食券じゃない」

そしてその隣の女性社員までもがこんなことを言い出す。

「何コレ。食券じゃないとかありえないんだけど」

しかもそれまた隣の影の薄い部長までもが半透明ながらもこんなことを言い出す。

「あ…ワシ、食券じゃない…」(←半透明)

その呟きに何だか妙な恐ろしさを感じたザックスは無意識の内にプレゼント配布の手を早めていた。

…が、やはり悲劇は起こる。

「サンタさん!い、い、今僕のデスクを抜かしましたね!?ぼ、ぼぼぼ僕のデスクを!」

「あ!わ、悪い…」

「酷い!サンタさんが僕のデスクを抜かした!!こんな酷いクリスマスは初めてだ!!」

急いでいたせいか1つ抜かしてしまったデスクの男がそう叫びを上げた。どうやら物静かで神経質な社員らしく、彼はその事実に悲壮そうな顔を浮かべ青筋さえ立てている。

やばい、そう思ってすぐさまプレゼントを渡したものの、悲劇はもう収まらなかった。

プレゼントを貰ったクセにその中身が食券じゃなかったことでイラついていた他の社員までもが立ち上がり、その愚痴だけならまだしも日常の愚痴まで口にしながらサンタに襲い掛かってくる。

此処は総務部じゃないのか!?一番恐いのは何故だ!?―――――ザックスの心情はそれに尽きた。

「このサンタめえ!てめえのせえで彼女にふられて今日暇になったんだぞコノヤロー!」

「は!?ってソレ、俺のせいじゃないだろ!?」

「そうよ、サンタのせいで彼に振られたのよ!弁償してよ!」

「いや物じゃないから!」

「じゃあ代わりにサンタがデートしてよ!!」

「はあ!?俺だってホントは好きなヤツとデートしたかっ…」

「サンタ君。ワシが長年影が薄いのは君のせいじゃないかと…」(←半透明)

「知るかあああ!!」

――――――もう何が何だか訳がわからない。

訳が分からないがとにかく食い下がってくるこの部署は危険極まりない。だものだから颯爽と此処を抜けたいと思ったザックスだが、そういえば総務部には調査課という秘密の部署があることを思い出した。そこを忘れたらまた大変である。

ともかくそこに向かったザックスは、そこのドアが厳重にパスコードで締められていたのでドンドンと叩いて「サンタですけど!」と言った。

それが効いたのかそのドアを開けてくれた調査課、通称タークスの人々は、やってきたのがサンタと分かって「お」という顔をする。

「プレゼント置いとくんで!メリークリスマス!」

「どうもご苦労さん。今年はヘマやってないだろうな、っと」

「もう後の祭り!」

「へ?」

それだけ言って去っていった身内サンタは、その後ろに妙な人々を連れていた。タークス諸君がそれを見て呆然としていたのは言うまでもない。

 

ともかくその部署を去ったザックスは、本社ビルの1階までを辿り、とうとう兵舎の方へと向かった。その間も妙な人々が恐ろしい形相で後ろをついてきていたが、さすがにソルジャーのザックスの体力には劣るらしく追いつく気配は無い。

この兵舎に入ると、今まで散々だったザックスでも少しだけ顔に笑みが浮かんだ。なぜかといえば、この兵舎にはクラウドの部屋もあるからである。

クラウドにプレゼントを渡すのだけは何だかちゃんとやりたくて、ともかくクラウドの他はサクリと済ませたいな、などと思う。他の時間を削って、クラウドとの時間を多くしようという、苦肉の策だ。

その為には早いところ全ての部屋にプレゼントを配給せねばならないのだが、この兵舎というのはとても難しかった。それが何故かといえば、帰省組と居残組の区別がつかないからだ。だから部屋に入るともぬけの殻だったり…ということも少なくない。

「またスカかよ!」

何度か残念賞に当たっていたザックスは、開けたドアがまたしてももぬけの殻だったことで顔を渋くさせた。

「ドアに一言書いてあったらいいんだけど…」

ふう、そう一息ついてそんな事を呟く。

が、そうした瞬間に耳にザザザザという音が入り込み、ザックスは慌てて次のドアへと向かった。…そう、総務部の人々がついてきているのだから。

 

そうしてザックスは兵舎内を奔走していると、途中の廊下で物珍しい人にバッタリと出逢った。

「あ!」

身内サンタであるザックスがそう声を上げると、相手も同じように「あ」などと声を上げる。当然相手の目に映っているのはサンタだったが、それでも相手はサンタが誰であるかを知っていた。

「やってるな、ザックス」

「まあな」

相手はサンタ姿のザックスを見て思わず吹き出している。さしずめ、本当にやっているんだな、という心境なのだろう。

そんな相手、セフィロスに対し、大きな白い袋から小さな包みを取り出したザックスは、ポイッとそれを投げ遣った。勿論、サンタからのクリスマスプレゼントである。

 

 

 

back return next