サンタとトナカイ

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赤鼻のトナカイは、馬鹿にされて笑い者にされても、たった一人サンタのオジサンが言ってくれた言葉で頑張れたらしい。

赤鼻のトナカイにとっては、サンタのオジサンの言ったたった一言の言葉が、最高のクリスマスプレゼントだったに違いない。

 

 

 

よくもまあ行事をするもんだ。

そう思い、ザックスは溜息を吐く。

この会社は小難しい理屈を並べるのが得意なクセに、こういう時だけ理屈抜きで楽しもうとするから困ってしまう。しかしクリスマスというこの行事に対しては、何故だか皆普段の力を抜きたがるようで、やはり誰も反対なんかしなかった。

クリスマスイベント。

魔晄炉をウリにしている会社がまさかそんな事はしないだろう…そう思うが、それはどうやら策略でもあったらしい。つまり、クリスマスの為に色々手を回して、民衆への好感度を図ろうという訳だ。しかも何だか分からないグッズまで販売して、ついでに儲けようとまでしているらしい。

まったく良くやるよな、そう思いながらもザックスはやはり溜息をつく。

「でも、だからって何で俺が…」

ザックスがそう愚痴るのも仕方ない。

何故って…そう、クリスマスイベントにはサンタとトナカイが必須である。

そんな訳でクジ引きでそれを決めたところ、なんということかザックスがサンタ役を引いてしまったのだ。

皆は口々に、最高の任務じゃん!、などと訳の分からない慰めをしてくれたものだが、ザックスにとってはそんなものはちっとも嬉しくなんか無かった。別にサンタをやることが嫌なわけじゃない。皆が楽しんでくれるならそれで構わない。

が、しかし。

「予定、ダメになっちゃったね」

「ああ。ホントにごめんな」

仕方ないよ、一応仕事の一貫でしょう、そんなふうに笑う顔が隣にある。その顔は笑っていたけれどやはりどこか残念そうな色を見せていた。

それはそうだろう、だって約束したのはもうとうに昔の話なのだから。

確かまだ夏の頃だったか、年末にはある場所に行こうと約束していた。二人とも帰省はしないから丁度良いなんて言って、ずっと前からそれを楽しみにしていたのである。

それだというのにこの状況…泣くに泣けないとはこの事だろうと思わざるを得ない。

どうしてこんな状況になったかというと、元々は二人の関係が秘密理だったことが理由だった。

かねてからザックスは故郷には二度と帰れないというような事を口にしており、だからそれを知る知人達はザックスは年末帰省を絶対しないものだと思っていた。それは実際正しかったが、帰省しないことが神羅に残る事とイコールと取られてしまい、結果的にクリスマスイベントの配役クジ引きに強制参加になってしまったのである。

勿論、帰省予定の者は神羅に居ないのだからクジ引きには参加しないで済む。

もしクラウドとの仲を公言することが出来たなら、約束があるんだ、と事前に断りを入れる事も出来たろう。いや、むしろ周囲が配慮してくれたはずだ。

それなのにこんな事態になった事を、ザックスはさすがに悔いるしかなかった。

クラウドとの約束を、破ることになるなんて。

「俺さ、上に言ってみようかな。サンタやりたくないって」

ザックスはふとそんな言葉を漏らすと、クラウドを見遣る。

その視線に気付いたクラウドは少し笑うと、大丈夫だよ、と会話の線からすればかなりズレた回答を口にした。

クラウドがそんな事を言ったのは他でもなく、ザックスの配慮に対してだった。会社の上まで絡んでいるイベントでの決定事項なのに、そんな事をしたらザックスの評価が落ちてしまう。しかしザックスはそれを理解した上でクラウドを悲しませまいとしてそう言ったのである。

それらを分かっていたクラウドは、だから言ったのだ。気にしなくても大丈夫だよ、と。

「でもさ…」

けれどザックスには何だか納得いかなかった。ずっと前からの約束事をいきなりやってきたサンタに壊されるなんて。

大体サンタといったらクリスマスプレゼントを運ぶ正義の味方みたいなものじゃないか。だというのにそのサンタがクリスマスプレゼントをオアズケにするというのだから、こんなに納得できない事は無い。

クリスマスが何だ、サンタなんて何だ―――――――段々とそんな気分になっていく。

「ザックス、眉間にシワ寄ってるよ」

「そりゃシワも寄るさ。こんな事になったら」

もう既にムスッとした顔になっていたザックスに、クラウドはにっこり笑って言った。

「大丈夫だって!クリスマスがダメでも、年末は一緒にいられるよ。その方がきっと良いよ。ね?」

「でも…」

「俺はそれでも十分嬉しいから」

「むー…」

そうして年下のクラウドにあやされるみたいな状態になったザックスは、もうすっきりと気持ちを切り替えている相手に比べて未だに未練を愚痴にしている自分に何だか妙に虚しくなってくる。

イベントなんて何だと思っていたけど、いざそれがダメと言われると何だかとても悔しい。

しかも相手は仕事だ。サンタだ。

「くそ…」

クラウドがそう言っていても何だかイマイチ納得しきれないザックスは、結局その後もそう愚痴をこぼしてしまうのだった。

 

 

 

日が近付くにつれ、クリスマスイベントの準備は着々と進んでいく。

このイベントは各所で行われるそうだが神羅の中でも行われるそうで、それこそがザックスの一番の杞憂だった。何しろ各所で行われるイベントには自分は関係ない。そちらにはそちら専用のサンタがいて、あやしいグッズ販売の要員もちゃんと揃っている。

つまりザックスが関係するのは身内のイベントの方で、ザックスはそこのサンタをやらねばならないのだ。しかし、残念なことにこの身内サンタこそが一番大変なのである。

何しろ外回りサンタは民衆への好感度を図るだけで良い。つまりそれはサンタとして立っていればそれで良いだけなのだ。

ところば身内サンタはそうはいかない…何せ神羅の人間を相手に愛想を振りまかねばならないのだからコッチの方が余程辛い。その上神羅の人間ときたら、普段会社で悶々としているせいなのかサンタに無理難題をひっかけるらしいのだ。これは昨年の身内サンタ役から聞いた涙なくしては語れない話である。

その内容としては…

“おい、サンタさんよ。万年平とか勘弁なんだよ、プレゼントにソルジャーにしろ”

試験の受験を勧めるほかない。

“サンタさん、お願いです…もう神羅辞めたいんです!!”

退職届をプレゼントするしかない。

“あ、サンタだ!何かちょーだい!”

何が欲しいんだ、何が。

“ウチの子供にサインを下さい”

いや無いから。

“トナカイを誘拐した。返してほしくば神羅を破壊しろ”

お前誰だよ!

――――――――――実に様々である…。

そんな具合で実に大変な身内サンタは、時々ウサ晴らしにチョップをされたりとび蹴りをされたりするものだから今年は頑強なソルジャーの中から選んだらしい。…実に迷惑だ。

とにかくその大変な役回りになったザックスは、サンタとして何をするかという行動過程をみっちり頭に叩き込まれていた。これは当然当日の行動であるが、朝から晩まで神羅を徘徊し夜には神羅中庭に登場して皆の前で何かパフォーマンスをしなければならないとなっている。

そのパフォーマンスとやらも何だか色々規定があるらしく、こう動けだとかああ動けだとか、とにかく何だか頭が痛い。

クリスマスイベント主催である都市開発部の社員は、このイベントの準備会というのを設けており、ザックスは当日までの間毎日そこに出向いては何やらと頭に叩き込まねばならなかった。

都市開発部の一室。準備会の会議。

その中で彼らは血管こそ浮き出そうな勢いでこう言う。

「良いですか、神羅巡回時はプレゼントを配って頂きます。これは全社員へのプレゼントなので絶対渡し忘れがないようにして下さい」

「はあ…」

というか帰省組は完全無視なのかどうかが気になる。

しかし社員はそんなことなど口にもせず、淡々とこの渡し忘れの悲劇についてを語った。

「一昨年は渡し忘れがありましてね…酷い有様でした。貰いそびれた社員はそれを根に持って社内で発砲したんですよ。更に社長を人質にするだとか言い出してタークスまで出向く始末で…タークスから苦情が来たんですよ、仕事を増やすなって」

「はあ…まあ」

っていうか、そんな事で発砲しないで貰いたい。

しかしそんなところにツッコむ余裕もなく社員は淡々と悲劇がいかに恐ろしいかを語りつくすと、その後にはプレゼントの内容を口にした。それによるとプレゼントは3種で、1つは食券、1つはボーナス1000ギル、1つはアイシクルロッジ旅行券らしい。

「毎年、食券はかなりの競争率でして…もうテンテコマイです」

「は?食券が一番?」

「はい」

「……」

――――――――――――何故!?

ザックスにはその気持ちがよく分からなかったが、とにかく食券には何か並々ならぬ魅力があるのだろう。…何でか知らないけど。

とにかくそんなふうに説明を淡々とされたザックスは、衣装合わせをとか何とか言われてとうとうサンタの格好をすることになった。

サンタ衣装はぬくぬく暖かく、着ているだけなら別に問題はない。がしかし、ひとたび鏡で「どうですか?」などと言われようものならその赤々した衣装がやけに恥ずかしかった。

その上、白い髭まで用意されている。

「良く似合ってます」

「はあ…ってソレ、誉めてんのか?」

「当然です」

キッパリそう言い放った社員に首を傾げたザックスは、ともかく自分がやることには変わりないのだからと諦めたふうに鏡の中の自分を見遣った。

鏡の中には勿論のこと、サンタがいる。

ザックスが今年一番憎らしいと言っても過言では無いサンタが。

「ちょっと笑ってみて下さい」

「に〜」

鏡の中では、憎たらしいサンタが笑っていた。

 

 

 

ザックスがクリスマスイベントの準備会会議で忙しくなると、クラウドの方は当然暇を持て余すこととなった。といっても当然、この時期にも任務はある。だからその任務以外の、いわゆる今迄ザックスと会ったりしていた時間が暇なのだ。

そういう時間クラウドは、たまたまセフィロスがいるような場合は彼の所に出向いていた。といってもコレは暇つぶしと同じ行為だったので当のセフィロスとしてはぶつくさ文句を言うことになる。

が、クラウドはそんな事は一向に気にしていなかった。

「またお前か…俺を暇つぶしにするなんて良い度胸だな」

ドタマにきているはずのセフィロスは案外優しいらしく、文句を言う割にはクラウドにコーヒーなどを出してくれる。

それを普通に啜っていたクラウドは、そこがセフィロスのプライベートスペースにも関わらずザックスとの事について色々と口にしていた。

「だってさ、ザックス忙しいし…それにクリスマスもダメになっちゃったし」

珈琲を啜るクラウドは、ザックスの前では何とか頑張って「大丈夫」と言っていたものの、その他の場面ではやはりその事を残念に思っているのが隠せない様子でいる。

何だかんだとかなり楽しみにしていたから、それが無くなるのは辛い。

しかしクラウドまでそう言い出してしまうとザックスは途端に「上に言う」などときかなくなりそうだから、クラウドはザックスの前ではそれを容認するほかなかった。

「ザックスはクリスマスに皆へプレゼントを配るんだって。聞いた?」

「ああ。どうせいつもの食券とかだろう。全くくだらない…」

「ホントだったら俺だけのプレゼントだったのになあ…」

ちぇ、そう言うクラウドにセフィロスは溜息を吐く。

此処最近クラウドがやってきて言い出すのはそういう事ばかりで、セフィロスとしてはのろけ話と同じ状態である。当然クラウドにとってはかなり残念で深刻な話なのだが、第三者のセフィロスとしてはいつまでもグジグジするな、という感じでしかない。

それどころかセフィロスは、任務中のザックスからもその愚痴を何度となく聞かされていたので、自分ではどうでも良い思っているのに否が応にも脳内をクリスマスと化さないわけにはいかなかった。

「お前もプレゼントを貰えば良いだろう。あれは全員配給だ」

「でも、ホントは俺だけのプレゼントだったのに…」

そう言われてもクラウドはあくまでシュンとしている。

 

 

 

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