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SACRIFICE ------------------------
「クラウド!ぐずぐずするな、早く行くぜ!」 そうバレットに叫ばれて、クラウドは表面上冷静を装って、 「分かってる」 そう答えた。 滅多に笑わぬ表層。しかしその裏でクラウドは確かな違和感を覚えていた。 場所は、ゴンガガ。 つい今しがた、エアリスの初恋だった男の生家とやらにいった。エアリスは相当驚いていたようだが、クラウドには単なる一般的な話にしか思えなかった。 どちからといえば、壊れた魔晄炉の方が印象的という感じである。 しかし、その魔晄炉を見た瞬間に、何かとてつもない違和感を覚えたのである。 ――――――知っている、この景色を。 そう思ったからだ。 しかし過去己がこのゴンガガに訪れたことなど無いはずだし、そんなことは在り得ない。だから妙な感覚だった。 バレットに呼ばれるまで我を忘れたように静まってしまい、何だかそれは返って自分自身を不安にさせた。 こういうのは、デジャヴというやつかもしれない。
………俺は、間違ってるよな?
「おい、クラウド!」 「…ああ。分かってる」 イライラしたように叫ぶバレットに、クラウドはそのまま付いていった。先は長いのだから、もたもたするのは厳禁。それはわかっている。 けれど…。
………お前にもいつか、分かる日がくるのかもな。
「……」 頭に響く声。 誰のものかも分からない。 ただ、何だか懐かしくて…そして奇妙で。
北に行けば、コスモキャニオンという場所がある。そこはレッド13の故郷でもあるらしく、少々難はあるものの次の目的地はそこだとなった。特にこれといった収穫が見込めるとは思えないが、コスモキャニオンといえばバレットにとっても少し関係がある土地らしい。アバランチがどうのと言っていたが、そこに関してはクラウドはあまり気にしていなかった。 夕食時になって、エアリスが少しボーッとしていたのに気付き、クラウドはふと声をかける。 「どうした、エアリス?」 スプーンは握っているものの、スープには一口も手をつけていない。 他の仲間たちはそれぞれ食事を進めていて、それを特に気にしている様子もない。 クラウドに声をかけられたエアリスは、少し驚いたような顔をしてからそっと笑った。 「ううん、何でもない。ちょっとね、考え事」 「そうか」 なら良いんだ、そう納得の言葉をかけたもののエアリスの様子はおかしいままで、クラウドは本心納得はできなかった。 そのやりとりを聞いていたティファは、横目でチラとクラウドを見遣って、頃合を見計らってこんなことを小声で言う。 「駄目よクラウド。今エアリスは初恋の人のこと考えてるんだから」 「え?」 「ほら、言ってたでしょ。あの家で…」 「ああ」 そういえばそうだ。 訪れた一軒の家屋。 そこはエアリスの初恋の男の生家で、そこに彼の姿は無かった。しかも両親がその身を心配しているところを見ると、連絡は途絶えているらしい。 確か―――――手紙が来たといっていたか。 ガールフレンドが出来ました、という内容の手紙だったと…そう言っていたような気がする。ということはそのガールフレンドというのはエアリスの事だろうか。だとすれば確かに話しかけたのは悪かったと思う。 でもエアリスは当初言っていたはずだ。そう、ちょっと良いなと思った、と。その言葉からはとてもそんな深い仲には思えなかったが、それは思い違いだろうか。 まあどちらにしても、エアリスが今その男のことを考えていることには変わりないわけで、今はそっとしておいたほうが良いということである。 そこは納得できる。 そう思ってクラウドがスープに手をやると、またしてもティファが何か小声で言ってきた。 「どんな人なんだろうね」 ティファの顔を見てみると、少し興味があるらしく微笑んでいる。その顔をつい黙して見続けていると、ティファは急に言い訳をするように焦った声になった。 「違うわよ。単に興味があるだけ。エアリスを惚れさせちゃうような人って、どんな人だったのかなあって」 「ああ」 何故そんなに焦る必要があるのか分からないまま、クラウドは曖昧にそう返事を返す。 確かにそれは興味がある。 確かソルジャークラス1stだとか言っていた…クラウドはその人物に心当たりなど無かったが、とにかくその男はそういう立場であり、そして家を飛び出すときもソルジャーになるのだと言って飛び出したのだと言っていた。 つまり、夢を叶えた男。 クラウドもそれと同じような過去を持っている。そういう意味では少し親近感が沸くというものだ。しかし実際にその男を知らぬ限りはそれが本当か否かを計る術はないし、仮にそれが偽りならば覚えた親近感など馬鹿らしいものである。 そんなふうに考えていた時分、ぽつりとこんな声が聞こえた。 それはエアリスの呟きで。 「夢、叶えても…寂しいことってあるね」 その呟きが耳に入った瞬間。 クラウドの中で、何かが急速に蠢いた。頭の中をふっと過ぎる光や音。景色。
………夢が叶っても、それじゃ寂しいよ。
「…??」 何だ―――――――この景色は…? 寂しげに笑う男の顔。そして周囲には木造の壁。手には硬質の感覚が蘇る。 かちゃん、そう音がして男がスプーンを置く。 俯いて…それから。
………お前にもいつか俺の気持ちが分かる日が来る。 ………分からないよ。 ………今は無理だ。でもいつかは…そういう日が来ると思う。
「クラウド?」 そう呼ばれて、クラウドは我に返った。 我に返り、はっきりと視界に入るものを見てみると、そこにはスプーンがあった。それは勿論自分が置いたスプーンで、皿の中はすっかり空になっている。 ああ、何だ。 あの景色は、今この時の光景だったのか。 何故かそんな安心感が沸いて、クラウドは顔を上げる。それから一応、何でもない、と返答をしておく。変に心配されても返って困るだけだからだ。 「何でもないんだ」 もう一度呟くようにそう言うと、クラウドは食べ終えた皿を重ね始めた。
明日はコスモキャニオンに行くから、そういう打ち合わせをしてからそれぞれの部屋に入る。宿はなるべく格安のところにして、個室を取る。これは何故かというと、細かな理由は存在していなかったものの、大方の原因はクラウドにあった。 男女ニ部屋で、最初はそういう話だったが、そういうのが幾日か続いてからクラウドは段々それに嫌な顔をするようになっていた。別段、仲間と一緒の部屋では嫌だというわけではなかったが、それにしても独りの時間がないというのはとても落ち着かない。 旅の間、四六時中一緒にいるかと思うと、気の休まる場所が無いのである。 勿論そういうレベルの付き合いになれば話は別なのだろうが、残念ながらまだこの状態ではそこまで辿り着くのは難しかった。 だから、それ以降は独り一部屋を取るようになったのである。 最初は金銭面でぶつくさ文句を言っていたバレットも、今は何も言わない。つまり誰しも独りの時間が必要だということなのだ。特にこの旅に関してそれぞれ持つ思いは全く異なるものである。例え目的が最終的に一緒だとしても、その種類や経緯は交わることがない。つまりはそれぞれがそれなりの理由を持ち、それぞれの思いを宿した上でこの仲間は成り立つわけで、そういう人間にとってはこうして物を考える時間が大切だということなのだ。 朝になれば、また一緒に頑張れば良い。 だから夜くらいは、本当の気持ちのままに過ごしたい。 そういう無言の主張、約束。 クラウドは自身の部屋に入ると、ベットに横たわりながら目を閉じた。 何だか今日は変な感覚ばかり覚えたが、あれは一体なんだったのだろうか。一度目はゴンガガで、その次は夕食時に。 誰かの声が、頭の中に反響する。 そして光景が浮かぶ。 そのどれもが記憶にないものなのに、何故かとても懐かしい気がする。…一体何なのだろう、これは。記憶にない記憶。知らないものが懐かしいと思う、この気持ち。 「…変だ」 変といえば、この旅が始まってから変なことばかりが続いていた。頭に響く訳の分からない声はそれだけではなく、もう一つある。それは以前から聞こえていたもので、いかにも勝手知ったるといった口調で。 だが、その声は単なる声であって光景が付随するものではなかった。 今日感じたあのデジャヴのような感覚は、声であり光であり、景色であり…とても巧妙な記憶のような気がする。しかし覚えのない記憶というのも頷けない話で、何だかやたらとむず痒い。 自分であって自分でない、そんな感覚。 疑問であり歯痒いその感覚を抱えながらクラウドは、瞑った目の中で先ほどの光景を想い返していた。知らないけれど懐かしいその光景は、深く踏み入れば踏み入るほど、徐々に馴染んでいくかのような気がする。まるで最初から知っていたかのように。 そうして深く深い場所まで意識を掘り下げた頃、クラウドは、一般的に言うところの睡眠状態に入りこんでいた。 意識は―――――――――見知らぬ記憶の中へ、旅して。
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