長靴

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雨の日に、長靴でちゃぷちゃぷと歩いた。

子供でもあるまいに、と思ったが、最近ではこの長靴もお洒落の一環になっているらしくて可愛いのやらクールなのやらが出回っている。まあ、鬱屈だと思われている雨天を少しでも楽しく過ごせるならそれも良いアイディアだろう。

ゴム製の長靴が、降りしきる雨を弾き、水たまりの水しぶきを防いだ。

キュッ、と音がする。

この長靴は、決して高価なわけでもないゴムの体を使って、一生懸命に自分の役割を全うしていた。

 

 

 

「不相応だというのが分からないのか!」

「すみません」

部屋の隅から突然響いてきたその罵声と弱声とのコンビに、そこにいた誰しもが振り返った。

見れば、ソルジャーと、下っ端の兵士が食事のバイキングのレーンの前で突っ立っている。どう考えても邪魔な位置だ。

「何だ、あれ?」

疑問に思ったザックスは、自分の食事を乗せたトレーをテーブルに置きながら、先だってそこに座っていた同僚のソルジャーにそう尋ねた。

「ああ、あれ。この時間の名物。あのバカソルジャーの野郎、いっつも威張ってやがんだよ。自分より立場の弱い兵士が前に並んでるといつもああやって怒鳴って職権乱用するってわけ」

「なんだそれ。要するに割り込みじゃん」

「当たり」

なにが立場を弁えろだよな、そりゃお前だろ、そう同僚は毒づきながら夕食のカレーをつついている。

いつもと違う時間に夕食をとることになったその日のザックスはその光景を初めて目にしたわけだが、なるほど中にはこんなソルジャーもいるものかと驚いたものだ。ザックスの知る中にはあんな横柄な奴はいない。しかし実際ああいう輩がいるとなると、裏でこそこそとソルジャーが悪口を言われるのも理解できるというところである。

「あんなんして何が楽しいんだろうな」

ザックスはそう言うと、夕食として選んだプレートの上のおかずを口に放り込む。

バイキング形式で好きなだけとることができるプレートはザックスだけでなく皆に人気のメニューである。好きなものが好きなだけ食べられるのは良い。

これは誰でも共通で、たとえば一般の兵士であろうとソルジャーであろうと好きなだけ食べることができる。

しかしこういうところでも、責任の重さに比例していないだとか馬鹿馬鹿しい論議を唱える者がいたりするのだ。全く、どうしようもない。

「おい、ザックス。そういえばさっきまでここら辺に一般兵がいてな、お前のことを探してたぞ」

「へ?一般兵で?」

「ああ。なんかこう、金髪でガキみたいな顔した…」

「あ!クラウドか!」

同僚の話によれば、クラウドはザックスと夕飯を食べようと思っていたのだか、きょろきょろと当たりを見回していたらしい。そしてたまたまこの席に腰をおろした同僚に「ザックスを知りませんか」と飼い犬のポチを探しているが如くのことを聞いてのけたのだという。

ここの席はザックスの指定席だから、ここに来れば会えると思ったのだろう。しかし残念ながら、時間が違っていた。

「さっきまでいたんだけどな。プレート食ってたぜ。ほとんど残しやがって帰っていったけどな」

罰当たりだなあ。

そう呟く同僚の隣で、まあ体調でも悪かったんだろ、と軽くザックスは返す。

しかし、わざわざ自分を捜していたなんて何かあったのだろうか?それとも単に夕食だけ?

そんなことを考えながら、ザックスはプレートを平らげていった。

 

 

 

食堂で同僚から聞いたクラウドの件が気になっていたザックスは、とりあえず会いに行こうとクラウドのところを訪ねていた。

夕食後の時間をうつらうつらして過ごしていたらしいクラウドは、ノックの音とザックスの声に慌ててドアを開けたが、その髪はぴょんとはね、口元には涎の痕がついていたものである。

そんなだったから、ザックスは思わず笑ってしまった。

「ひっでえ顔〜」

「ええ〜。だ、だって仕方ないじゃん。眠くてさ…」

どうぞ、と言われ、ザックスは遠慮なしにクラウドの部屋へと足を踏み入れる。部屋の中はなかなか綺麗に片づいていて、何だかちょっともの寂しい感じさえした。

「夕メシ待っててくれたんだ?」

「うん。だけどおなかすいちゃって、結局先に食べちゃった」

「別に謝んなくても」

二人でベッド脇に座り、食堂での出来事を話す。実は何か他に理由があるんじゃ?と思いもしたザックスだったが、聞いてみると本当にそれだけの用事だったらしい。ただ単に夕食を一緒しようとした、というだけだったのだ。

「それにしても食堂はいつも混んでるよね」

「確かにな。あんだけ人数いんだもんな、仕方ない」

神羅には一体どれくらいの人数がいるのだろう。彼ら全員ということはないまでも、弁当族と買い弁族と超ダイエッター以外は全部あの食堂で食事をとるのだ。作り手もさぞ大変だろう。

そう考えると、プレートの順番どうこうでいちいち喚いているソルジャーなんていうのはいかにも阿呆らしい気がしてくる。

「そういやお前知ってる?ソルジャーでさ、なんかいつも怒鳴ってるっていう名物男。俺今日初めてみたんだけど」

そう聞いて見ると、クラウドはその男を知っているようだった。どうやら本当に名物であるらしい。

迷惑だよなあ。

ザックスはそう言おうと思ったのだが、なんということか、クラウドはそれとは全く別のことを言い始めた。それは思ってもみない言葉で。

「なんかね、あの人のことで食堂の責任者も迷惑してるんだって。それでさ、もう時間制限しちゃおうって話になってるみたい」

「時間制限?」

なんじゃそりゃ。

そう思ってきいてみると、どうやらソルジャーと兵士とその他の職員と、時間帯を分けるということらしい。しかしこれをするには随分と大幅にお触れを出さねばならないから、場所で分けるとか、そういう方法も案じているらしい。

「俺ね、なにげにそれって良いんじゃないかって思うんだ。だってあの人に怒鳴られるのって兵士なんだもん。もしそれが決まったら誰も嫌な気持ちにならないでしょ」

まあ、俺はザックスと一緒に食べれなくなっちゃうけどね。クラウドはそう付け加えて、それはもちろん寂しいのだと感想した。

確かにそれが決まれば、誰も嫌な思いをしない。だからそれは合理的なのだろう。

それに、そうすることで今まで一気にやってきてパンクしそうだった食堂も幾分かやりやすくなるかもしれない。

つまり、それによってすべてが言い方向に行くかもしれないのである。

「だからね、あの人って迷惑だったけど、それがあの人の役割だったんじゃないかなって思うんだ」

「役割ねえ」

「だってあの人が迷惑行為をしなかったら絶対そんなことは考えなかったでしょ」

必要悪というのがあるけれど、それと同じようなことなのだろうか。まああのソルジャーはたまたま悪い方向のことをしでかしたから悪と表するわけだけれども。

「それはそれでよかったんじゃないかなって思うよ、俺」

「へえ。おまえって考え方大人だなあ」

「あはは。ザックスよりかはね!」

「こら!失礼だぞそれ!」

このやろ〜!と言いながらザックスはクラウドに飛びかかる。だものだからひゃあ〜、と言いながらクラウドがそれから飛び逃げる。まるで子供の遊びだ。

ベッドの上からどん、とドデカイ音を鳴らして飛び降りる。その反対も然りで、がばっとベッドにスライディングしたりする。

そんなことをしている内に、隣室から怒りの一撃と怒声が響いてきた。

「うるせえぞ!!」

ドン!

それを聞いて、二人の動きは思わずぴたっとしまってしまったものである、まさかそんなにお怒りとは…。

「…ぷっ」

「…はは」

クラウドとザックスは、お互い顔を見合わせて、そうして一緒に笑いだした。

バカ騒ぎをして隣人に怒られるだなんて、一体いくつのガキだというのだろうか。

まったく、年相応ではない。

しかしそれはものすごく楽しくおかしく、一瞬でも全てを忘れて夢中になれる瞬間だった。

「はあ〜暴れたらなんか疲れたなあ」

「ほんっと」

ばったん、と、ザックスが遠慮なくベッドに仰向けになる。ひどいことに狭いベッドで大の字になったもんだから、クラウドはいまいち大きく伸びれない。

「もう、ザックス!俺のスペースあましといてよ」

「なんだ。これじゃ狭いか?」

「狭いよ。日々でっかくなってんだから、俺」

「そっかあ。そうだよなあ」

そう頷きながらもザックスは俄然そこをのかない。全く、実に面倒である。

仕方なくクラウドは、ザックスの上にごろんとなった。一瞬ごほっ、とせき込んだザックスだったが、重なった面積がさほど多くないせいか、すぐに普通の状態に戻る。

「大の字が二つ。なあ、そんな字あった?」

「ないよ。多分」

「ちぇ、残念。だけどさ、これって縦に二つ並べたら炎って字に似てるな。メラメラしてる」

「燃えてるんだ、俺たち?」

「そうそう!俺たちは燃えてんの」

ザックスはそう言うと、がばっと半回転して、クラウドを組み敷くようにしてにいっと笑った。いかにも悪い笑みである。それを見たクラウドは、ザックスが何を言おうとしているかを理解して、呆れたような顔をした。

そして一言。

「変態」

対するザックスも負けてはいない。

「燃えてりゃ、みんな変態になるんじゃん?」

なんだその理屈は?

またく理解できない理屈だったが、まあどうでもいいかと、クラウドは降りてきた唇を受け止めた。

 

 

 

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