なつまつり
---------------------------------------------------------

 

 夏祭りがあるんだってさ。
 そう言われてクラウドは、嬉々としてザックスに付いていった。
 夏祭り、夏祭り、夏祭り…
 クラウドの心はルンルンしていた。
 
 
 
「あ。ザックス、これやりたいな」
「ん、どれどれ?」
 そこにあったのは、金魚すくい。
 丸い水の溜まりの中でスイスイスイと泳いでいるのは、赤く小さな金魚である。
 店のおじさんは、しゃがみこんでそれを見遣っているクラウドに、はい、と掬い網を渡した。
 網は弱そうで、とてもじゃないけどスイスイスイと泳いでいる金魚は掬えそうもない。
「えー…これ、掬えるの?すぐ破れちゃいそうだよ」
「ははは。皆それで掬っていくよ。やってごらんよ」
 おじさんは笑ってそう言う。
 クラウドの隣でしゃがみ込んでいたザックスも、笑って同じことを言う。
 だからクラウドはそれを使ってサッと金魚を掬ってみた。
「あっ」
 しかし何と言うことか、金魚を掬うどころか網が破れてしまったではないか。これじゃちっとも出来ない。一匹だって掬えやしない。
「やっぱりコレ駄目だよ。おじさん、特に弱いの渡してるんでしょう?」
 膨れてクラウドがそんなふうに言うと、おじさんは「そんなことないよ」とフルフルと首を横に振った。しかしそれでもまたクラウドが疑うものだから、おじさんは隣のザックスに新しい網を渡して、じゃあ兄さんがやってみておくれよ、などと言う。
 ザックスは突然渡された網に一瞬ビックリしていたが、クラウドが期待の眼をして見ているのに気づいて俄然ヤル気を出した。
 よーし、などといって腕を捲くる。
「いくぞ…それっ」
 すいっ、網が水面とやや平行に動いて、スイスイスイと泳いでいた金魚が網に引っかかる。水から出てしまった金魚は、バシャバシャと苦しそうに体を震わせていた。
「お。やったね、兄さん」
 おじさんがすっと水入りの入れ物を差し出してきたので、ザックスは直ぐにそこに金魚を映した。そしてやっと水を得た金魚は、ほう、と息をつくようにスイスイスイと泳ぎ出す。
 クラウドは、その一連の動作をじっと見詰めていた。
「ほら、どうだクラウド。取れたろ?」
 ご自慢の様子でそう言うザックスに、クラウドは「うん」と頷いたけれど、何だかやっぱり納得がいかなかった。だって自分は取れなかったのに。何だかズルイ。
 おじさんは持ち帰り用のビニールにその金魚を移して、はい、とザックスに渡した。それを受け取ったザックスは、今度はクラウドにそれを渡す。
「…ありがとう」
 嬉しいけど何だか嫌な感じ。
 だって自分は出来なかったのに。
 
 
 
「あ、ザックス。あれ見て!」
「ん?どれどれ??」
 クラウドが目を輝かせて指を差す方向には、射的があった。客は獲物を狙ってパアン、と上手い具合にそれを落としていく。それが当る度にパチパチと周りの観衆が手を叩くので、上手い具合に狙い落とした人は一躍ヒーローという状態である。
「やりたいのか、あれ?」
 ザックスがそう聞くと、クラウドは勢い良く「うん」と頷いた。
 仕方無いなあ、そう答えるザックスもまんざらでもなさそうである。
 二人はその射的に近付き所定の金を払うと、ではこれをどうぞ、と銃を受け取った。これはライフル上の長いやつである。普段二人はこの銃という類のものは使わないから、外れる確率は高いといっていい。
「よし…狙うぞ」
「うん。俺も!」
 二人は、レーン上に右から左に流れていく獲物を捕らえると、同時にパアンと銃を放った。
 そして。
「大当たり!!!」
 店の兄さんがそう叫んだので、どうやら獲物は落としたらしい。けれど二人は、どちらの銃が当ったのかが分からなくて同時に首をかしげた。
 どうやら狙った獲物が同じだったらしい。
 しかしそんな二人に、店の兄さんが親切にもこう言った。
「そっちの兄さん。黒髪の兄さんが当てたんだよ」
 どうやら当てたのはザックスの方だったらしい。
 それを知ってクラウドは、突然つまらないような気分になった。折角今度は自分がしてやったんだと思ったのに、やっぱり成功するのはザックスなのだから。チェッ、そう思って隣のザックスを見遣ると、ザックスは周囲の観衆にパチパチと拍手をされて笑っているところだった。
「お兄さん、それ、くれよ」
 それを見て思わず仏頂面になったクラウドは、店の兄さんにそう言って、ザックスの代わりに、落とした獲物を受け取った。兄さんはニコニコしていたが、それも何だかクラウドには気に食わない。だから、それを受け取ったらすぐにその場を離れるように足を一歩踏み出す。
 ザックスは、慌ててその後を追っていった。
 
 
 
「おい、待てよ!クラウド!」
 つんつんと怒って歩いていってしまうクラウドに追いついたザックスは、しっかり隣までやってきて、
「機嫌直せよ。折角の夜なんだから」
 と困ったふうに笑って言った。
 確かに夏の祭りの夜はちょっぴり特殊な雰囲気である。
 知らない人たちなのに、皆が皆、笑っている。
 皆が皆、楽しそうに道を歩いている。
 こんな時間をぷんぷんと怒って過ごすのは勿体無いことは確かで、それはクラウドも良く分かっていたけれど、手に持っていた金魚も射的で落とした小さなペンダントも、何だかちょっと切なく感じられた。もしこれがプレゼントという名目だったら嬉しいと思えたかもしれないけれど、そのどちらもクラウドは、自ら取りたいと思ったものだったから。
 しかし、良い格好をするのはいっつもザックスなのである。
「つまらないよ、こんなお祭りなんて」
 ヤケになってクラウドがそう言うと、ザックスは、
「つまらないって…だってお前、あんなに楽しみにしてたじゃないかよ」
 そんなふうに返答する。
 それは事実だったので、クラウドは何だかバツが悪くなった。確かに自分はこのお祭りを楽しみにしていたし、ザックスと一緒に遊べることだって嬉しいと思っていたはずなのだ。
 それなのに…。
「そんなことない!つまんないよ」
 それでもやっぱり素直に認められなくて、意地になってクラウドはそう言った。
 するとザックスは溜息混じりに笑って、じゃあ帰ろう、と小さな声で言う。
 そんなふうに言われると何だか勿体無いような気もするし、自分が悪いことをしたような気分にもなったが、それでもやっぱり素直になれなくて、クラウドはそれに同意した。
 帰ろう、と。
 
 
 
 帰り際、最後だからといってザックスは屋台のカキ氷を買った。
 いちごミルクと宇治金時。
 ザックスは何も聞かずにいちごミルクをクラウドに差し出したけれど、クラウドはそれがまたなんだか気にくわなくて、宇治金時が良いと言い張った。だからザックスがいちごミルクである。
 ザックスはそれを食べている間中、甘すぎる、と渋い顔をしていたが、クラウドはまた渋い顔をしていた。
 だって宇治金時は、甘いけれどちょっぴり苦い気もしたから。
 
 祭りから帰ってザックスと別れた後、クラウドは自分の部屋の窓を開けて外を見遣った。
 窓の外は、さっきまで遊んでいた祭りの明かりでぽんわりと白んでいる。
 時折、観衆を騒がせるような花火が上がり、それを見ていると何だか切ない気分になった。
 部屋の中の小さなデスクの上には、ビニールの中で泳ぐ金魚がいる。
 そして、小さなペンダントがある。
 口の中には、宇治金時の味が残っていた。
「…何であんなこと、言ったんだろう」
 変なことに意地にならなければ、今もまだあの白んだ空の下にいたことだろう。
 もしかしたら今度こそ自分で何かを取れたかもしれないし、もっともっと美味しいものも食べれたかもしれない。
 そして何より、ザックスは困ったふうになんて笑わなかったに違いない。
「……」
 クラウドは、小さな窓を、パタンと閉めた。
 
 
 
 金魚を育てるんだ、そう言ってザックスと水槽を買いに出かけた。
 祭りで取るような金魚はすぐ死んでしまうらしい、そう聞いたけれど、生きている間はちゃんと面倒を見たいと思って、クラウドはその金魚を世話することにしたのだ。
 あの小さなペンダントは、今も首にさげている。
 服の下になっていて見えないけれど、クラウドはそれをいつも付けていた。
「来年さ…また行こうよ、夏のお祭り」
 あれだけつまらないと豪語したのにこんなことを言うのは悪いなと思ったが、クラウドはそんなことをザックスに告げる。
 ザックスはそれに対して、特には悪い表情を見せなかった。それどころか笑って、
「そうだな。じゃあ今度はいっぱい食って遊ぼうな」
 そんなことまで言う。
 だからクラウドは何だか嬉しくなって、満面の笑みを返した。
 
 
 
 来年は、自分が金魚を掬おう。
 来年は、自分がペンダントを撃ち落そう。
 来年は、自分がいちごミルクを食べよう。
 そして、楽しいねって、笑おう。
 一緒に。
 
 
 END

 

back