LOVE GLOVE

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冬でも神羅というのは容赦ない。

例えば俺のようなソルジャーというやつは、やっぱり駆り出されて色々やらされるわけだが、はっきりいって雑用も多かった。

雪が積もれば「雪かきもよろしく」となるわけだ。

まあそれはそれで良いんだけど、そんな俺たちをよそに帰っていく本社勤務の奴らはどうなんだ?

―――――まあ、良いか。

そんなことを考えながら、俺はちょっと腰を休めた。

因みに今何をしてるかっていうと、至って単純なことだったりする。それは何かっていうと、これまた肉体労働なんだが、神羅のトラックの移動作業。運転すればそれで済むかと思いきや、それは大間違い ってやつで、これは結構面倒な仕事だ。

何せその車達は、寒さでやられてる。

そんなわけで、俺たちソルジャーの一部はその移動を、手で押してやるわけだ。…かなり面倒だ。

それでももう何台かは片付いていて、あと残るは僅か。

だからここらで一気に片付けようかって話になってラストスパートを頑張ってる。

でも、こういうときに限って、気が緩むようなことが起こるんだな。

「ザックスーっ!」

俺はその声に反応して、押していた手を思わず緩めた。何しろその声はクラウドのものだ。

「おお、クラウド。どうした?」

手をパンパンとはたきながら、俺は目の前にまでやってきたクラウドを見遣る。クラウドは厚手のジャケットにマフラーという、かなり暖かそうな格好をしてる。それを着込みながらも走ったりしてくる。

クラウドは俺の前で息を切らせながらも笑顔を作った。それからこんなことを言い出した。

「セフィロスがちょっと休んでも良いぞ、って」

「本当かよ?」

俺はちょっと信じられなくて思わず聞き返してしまった。セフィロス、何気に人使い荒いからな…まさかそんな言葉が出るとは思わなかった。

けれどどうやらその言葉は嘘ではないらしい。クラウドの表情が何よりの証拠だろう。

「ザックス、一緒に休もうよ」

「ああ。…って、アレ?お前そういえば何してたんだ?」

そういえばクラウドの奴は何でこんな寒空の下にわざわざ出てきてるんだろう。一般兵っていえば今日はもうちょっとした休暇に入ってるはずだし、クラウドはといえば居残組で自室学習ってことになってるはずだ。

しかしそんな俺の疑問などは何でもないというように、クラウドはその理由をさっと口にした。

「あのね、俺も今日は手伝ってるんだ。セフィロスに、暇なら来い!って言われて…まあ雑用なんだけど」

「お前なあ…セフィロスの奴は容赦ないんだからさ、言うこと聞いちゃ駄目だっての」

「だって…」

全くどうやらクラウドは良いように使われているらしい。セフィロスもセフィロスだが、クラウドもクラウドだ。でもそんなふうに気軽に引き受けてしまうあたりが、クラウドのいい所かもしれないけど。

とにかくセフィロスに、ソルジャーがやるように言われてる雑用を頼まれているクラウドも、小休憩を許可されたというわけだ。それを俺たちに伝達してるあたりもまた雑用……という気がしないでもないが、まあそこは深く考えないで良いか。

俺はクラウドの言うとおりに休憩を取ろうと思い、作業を完璧に止めた。それから近場にいた同僚連中にも声をかける。

これでやっと休憩に入れるというわけだ。

「さて…と。一息つくか」

俺が伸びなんかをしながらそう呟くと、クラウドは隣で、早く、なんて言ってジタバタしだした。

早くってのは何だ?

俺は意味が分からないで首を傾げる。

と。

「ザックス。早く行こうよ、セフィロスも待ってるし」

「はあ?」

何だそりゃあ?

セフィロスが待ってるなんて更に訳が分からない。休憩を取るというのは、セフィロスと一緒に三人でということなんだろうか。それでも構わないけど、わざわざ集まらなくても良いのに。

そう思ったけれどそれには何も反論せずに、俺はクラウドが言うとおりにすることにした。ジタバタしているクラウドについていこうとすると、何故か自分まで早足になってしまう。別に俺は急いでいるわけでないのに、何だか変な感じだ。

 

 

クラウドの後をついていって数分。辿り着いた場所は神羅の中、そしてセフィロスが作業している部屋だった。俺たちが外で頑張ってるというのに、セフィロスは室内で仕事か…と思うと何だか少し空しい気もしたけど、それもこの際置いておく。

セフィロスのしている作業もまた、いつもとはちょっと違って雑用に近かった。要するにセフィロス自身の仕事でなくて、誰か別の奴の仕事をしてるってわけだ。

「ういーっす!」

俺が顔を出すと、セフィロスはくるりと椅子を回転させて俺とクラウドの方を見た。それから、

「休むか」

とか言いながら何かゴソゴソしだす。デスクに向かってお仕事なセフィロスがゴソゴソやってるのは、デスクの引き出し。休憩とかいいつつ何でそんなところを弄るのか訳が分からないながらも、俺は近くの椅子に腰掛ける。

隣のクラウドは内容を知っているのか、何だか笑ったりしている…何のこっちゃ?

「おいセフィロス、休むんだろ?」

何だかもどかしくなってそう聞くと、セフィロスは「ああ」とまた気のない返事を返す。仕方なくクラウドの方を見て説明を促すと、クラウドは笑ったままで何も教えてはくれなかった。

しかし、暫くするとその謎はようやく解けた。

「ああ、これだ。ザックス、これがお前のだ」

「は?」

何だそりゃ?

そう思って差し出されたものを覗き込むと、それはどうやら何かの鍵だった。鍵っていっても随分と変てこな形をしてる。差し出されてるからには受け取るしかないだろうと思ってそうすると、隣にいたクラウドが、

「これでお揃いだね!」

と、そんな事を言い出した。

「お揃いって…。っていうか何だよ、この鍵」

さっぱり意味不明だ。

そんな俺に向かってセフィロスは、足組み腕組み状態でこんな説明をし始めた。

「つまりお揃いの鍵という訳だ。何の鍵かというと、それは金庫だ。要は俺たちだけが使える金庫って訳だな」

「…き、金庫?何の為に?どうして?」

「さあ、そんな事は原案者に聞いてくれ」

そんなふうに言ってセフィロスはクラウドを見遣った。どうやらその共通金庫を作る案を考えたのはクラウドらしい。というか、だったら最初からクラウドが説明すればいいのに、何て遠まわしな話なんだ。

クラウドは少し笑って、そうなんだ、と嬉しそうな顔をする。…何だか憎めない。

「俺がね、作ろうって言ったんだ。三人の金庫。金庫っていってもお金を入れておくわけじゃなくって、何か記念になるものを入れておくんだ。例えば今だったら冬だから、何か今年の冬の思い出っぽいのを入れておくわけ。そうすると、後でちゃんと思い出せるだろ?」

まあ確かにそうだけど、いまいちそんな事をする理由が微妙だ。でもクラウドがそうしたいと言うんだから別に反論も無いけど。

「一人だけじゃ一人分の事しか思い出せないだろ。だから三人でやるんだ。もしもさ、誰かが辞めちゃっても寂しくないし」

「なるほど。まあ良いけどアレだな。誰かが辞めたらって、誰かさんが一番危ないんじゃないか?」

わざと意地悪な言葉を言ってクラウドの方を見ると、当のクラウドは少し怒ったような顔をする。それが何だかおかしくて俺はつい笑ってしまった。まさかそんな事を本気で思っているわけじゃない。

とにかく共通の金庫とやらが出来たわけで、俺たちは随時その中に何かしらの物体を入れていかなくちゃいけないことになった。

手始めに何かを入れておこうという事で、まずはその金庫を拝むことに。

その金庫とやらはちょっと変な場所にあった。俺たち三人がいつでも行ける場所ということで、本当はいけないんだろうけど、公共の場所に設置されていたわけだ。しかしその金庫ときたらやたらデカい。 まあこれから色々詰め込むんだろうからそのくらいのデカさは必要なんだろう。

そんなこんなでそれぞれ適当なものを入れておく。今のところは本当にどうでも良いようなものだ。

その作業が終わると、やっと当初の目的である休憩に入る事になった。

しかしどうだ。

ホカホカコーヒーでも出てくるかと思いきや、

「そこにあるコーヒーでも飲んでくれ、セルフサービスだ」

そんな言葉をかけられたわけで。

「おい、このコーヒー滅茶苦茶冷たいし」

「朝入れたままだから冷えたんだろ」

「入れなおしは?」

「無い」

…キッパリ。

俺は泣く泣く、セフィロスの部屋でもう既に冷たくなっていたデカンタの中のコーヒーを注いだ。俺も、というのでクラウドの分も。俺にもよこせ、だとか言うからセフィロスの奴にもついでやった。セフィロスはコーヒー片手にもう既に雑用にリターンしていたので、俺はクラウドと二人で冷めたコーヒーをすすることにした。

その上クラウドはこんな事まで言い出す。

「セフィロスの邪魔になるといけないから、外に出ようか?」

「何言ってるんだよ、アイスコーヒー持って外か?」

おいおい、それはさすがに身体も冷えるだろう、そう思ったけれどクラウドが何だか外に出たそうだったから、俺はそれに渋々従うことにした。…アイスコーヒーを持って。

外に出て、寒い中でコーヒーを飲む。

休憩には休憩だけど、何ていうかあんまりにも寒い休憩だ。とはいえ、隣にはクラウドがいるから少しくらいは良い気分だったけど。

適当な階段を見つけてそこに腰を下ろすと、クラウドもそれについてきて座り込んだ。そこでシバシの休憩。

「ザックス、ごめんね。寒いトコで休憩させちゃって」

「いや、良いけどさ」

「何ていうかコレは俺の我侭なんだけど、ちょっとくらい二人でいたいなあ…なーんて」

「なーんてな、はは………は!?」

俺は思わずコーヒーをこぼしそうになった。

何だ、いきなり、それは。

「おいおいクラウド、そりゃもっと良いシーンで言ってくれよ」

俺はちょっとテレ隠しでそんなふうに言う。こんなシーンでいきなり言われてもコーヒーをこぼすのがオチだしな。まあ今日はセーフで良かったけど。

でもクラウドは、だって、などと言い訳なんかをしてくる。

「今日は雑用日だし、一緒の作業してないだろ。外見るとザックスいるのに、会わないんだもん、折角だから休憩くらい一緒にとりたいだろ」

「はあ…まあ、そうだよなあ」

「そんな訳だから…」

そう言ってにっこりと笑ったクラウドは、突然のように俺の腕を掴んだ。コーヒーはいつの間にか地面に置かれている。当の俺はといえば突然そんなふうに掴まれたもんだから、またもやコーヒーをこぼしそうになった。

けど、その次の瞬間に、そんなのはどうでも良くなっていた。

何故って……不意打ちのキスなんか貰っちゃったんだから。

「んー…」

寒い中、ちょっと長めなキス。

―――――――コーヒーこぼれそうだけど、悪くないかもしれない。

そんな至福の時間なんかを貰った後、俺はもう少し浸ってたいなあなんて思っていたが、どうやらクラウドはそうさせてはくれなかった。

何だか慌しいが、スクッと立ち上がって、

「じゃあ、俺もう行くよ」

そんなつれない事をいう。折角の良い気分だったのに、全く残念だ。でもクラウドは意外とやるといったらやる奴だから、きっともう本当に行くんだろう。

仕方無く俺も残ったコーヒーを飲み干すと、スッと立ち上がる。

「ザックス、この後も外で作業すんだよね?」

「ああ、そうだな」

「じゃあさ、これ」

クラウドは何やらポケットをゴソゴソやると、少し丸まった手袋を取り出して、それを俺に差し出した。

「これ使って。手、冷たいだろ?」

「おお、サンキュー!」

俺はそれを受けとって礼なんかを言う。これは本当に有りがたい。いくら鍛えてるからって雪の中では手もかじかむってもんだ。

俺はクラウドの気持ちに、心から感謝した。

「じゃあ」

「ああ」

最後にそんな言葉をかけあって、とうとう至福の時は終わる。

俺はクラウドの後姿を暫く見つめてたけど、それも結構幸せだったかもしれない。

…が。

が、だ。

「…ん?」

そろそろ俺も戻ろう、そう思ってクラウドから渡された手袋をはめようとしたところ、どうもそれはオカしかった。

オカしいというか、足りないって言う方が正しいだろう。

だってソレは…。

「か…片手分…!?」

そう…それは片手分しかない手袋だったんだ。きっとポケットの中に仕舞ってあったのを取り出した時に、片方分しか取り出せなかったんだろう。それか反対側に入っていたとか。まあどっちでも良いけど、とにかくそれは片手分しかなくて、俺は片手だけ温かくて片手だけ寒いという状況になったわけだ。

「……ま、いいか」

何だか微妙だけど、それがクラウドからのものだという事には変わりない。それはそれで幸せな気分になれるし、良しとしよう。

俺は片手にそれをはめたまま、気合を入れた。

「良し、やるか!」

 

 

 

 

 

その後、クラウドはその手袋を返せとは言わなかった。

俺がその話を振ると、プレゼントするよ、とか言う。

プレゼントってったって片方しか無いんだけどな、そう思いつつもそれは伏せておく。

でも季節はそろそろ春になりそうだったから、俺はそれを、例の金庫にしまうことにした。

そう、この冬の思い出ってことで。

でも不思議なことに、その金庫を開けてみると…。

 

 

そこには、もう片方の手袋が入っていた。

 

 

 

END

 

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