君が賭けたもの
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「よーし!クラウド、お前、何賭ける?」
 ザックスはそう言いながら左の手の甲に右の手の平を乗せた。
 今、ザックスの左の手の甲と右の手の平の間にはコインが一枚挟まってる。
 さっきピーンと高く飛び跳ねたコインはザックスの手に挟まれて、さて裏か表か分からない状態だ。それを、どっちが表向きになってるかを当てる。
 良くある普通のゲームだ。
 俺は良くそうしてザックスにゲームを振られるんだけど、そういう時決まってザックスは「何を賭ける?」って聞いてくる。つまりこれはギャンブルの一種だ。
「う〜ん…じゃあ、昼ごはん」
「良し、飯だな!良いぜ、そうしよう。じゃあ俺も昼飯を賭ける!で…」
 俺は、表だって言った。
 そしてザックスは、裏だって言った。
 そうしてきっぱり意見が分かれると、上手い具合に賭けは成立。ここで万が一どっちも同じ方だって言ったら、賭けなんて成立しないわけだ。
 で…結果は―――――――。
「お!」
 ザックスは、俺の目の前で目を輝かせた。
 そうしてにっこり笑うと、
「俺の勝ちだ!」
 そう言った。
 確かにザックスの左の手の甲にちょこんと乗っかっていたコインは、裏を向いていた。
 
 
 
 約束通り昼ごはんを奢った俺は、いかにも満足したようなザックスを午後の任務に送り出した。昼ごはんを奢るといったって兵舎の食堂メニューの一品に過ぎない。普通この食堂は金銭を取らないから…つまり兵士ってのは賄い付きって感じだから、俺がお金を払ったのはとても特殊なことだった。
 食堂のおばちゃんに、ありもしないメニューを頼んだザックスは、そのお礼ってことでギルを渡したわけだけど、それがつまり俺の奢りだったというわけ。でもそれは、本当にチップ程度のもので、全然高いものなんかじゃなかった。
 俺とザックスはこうして良く賭けをする。
 ほんの些細な、ちょっとした賭け。
 それはザックスが突然言い始めたもので、俺は最初、何でそんな賭けを始めたんだか分からなかった。だって大きな賭けをするわけでもないし、何ていったって俺なんか相手にする賭けなんだ。どうしたってちゃんとした賭けじゃない。
 だけど俺は、いつの間にかそれがちょっと楽しみになっていた。
 何を賭けようかって言う事が。
 それから、どっちが勝つのかって言う事が。
 俺は賭けに負けてザックスに昼ごはんを奢った後、自分の為に任務に出かけた。ザックスを快く送り出したのは構わないんだけど、そういえば俺も任務だったんだ。
 だから俺は急いで自分の部屋まで戻ると、任務のための準備をして、あらかじめ決められていた集合場所に急いだ。
 数分後に集合場所に着くと、そこにはもう何人かの兵士が集まっていたらしくて、どうも俺は一番遅かったらしい。それが証拠に、俺が着いた途端に「これで揃ったな」なんて声が響いてきた。…ちょっと居心地悪い。
「クラウド、何してたんだよ!」
 最後の最後に輪に入った俺に、小声で同僚がそう声をかけてくる。俺はそれに対して「だって賭けをしてたから」とは言えなくて、まあちょっと用が、なんて口にした。良く考えると、何がどう「まあちょっと用が」なのか分からないんだけど、それ以外に言い様が無かったんだから仕方ないだろう。そもそも仕事である任務に、小用で遅れる俺のほうが完璧にまずいんだけど…。
「それよかクラウド!お前さっき何か言われてたぜ」
「え?何かって?」
 何だろう。
 俺は気になってその詳細を聞いたけど、そいつはイマイチその内容を詳しく覚えていなかった。だから、何だかしどろもどろな言葉しか聞こえてこない。
 だけどそのしどろもどろの中でも俺が分かったことは、どうやら任務の話らしいって事だった。しかも今日のじゃなくて、今後の任務についてだ。
「それって…」
 俺には、ちょっと思い当たる節があった。
 それは数日前にあった任務地希望のことだ。
 何だか良く分からないけど、任務地が分散するからどこの任務が良いか希望を出せだとか言われたんだ。別に俺は希望なんてなかったけど、できれば自分の故郷だけはちょっと嫌だなって思ってた。だから希望地じゃなくて、不希望地だけを書いて出したんだ。
 多分その関係で、どこどこの任務になったとか、そういう話があったんじゃないかって思う。そう思うんだけど…何せこの同僚はちっともハッキリしたことを覚えていないから分からない。っていうか俺が遅れたのが悪いんだけど…。
「任務地希望のやつかな?」
 俺は試しにそう言ってみたけど、ソイツは首を傾げて「そうだったかなあ」なんて言う。
「自分の事でもないし、あんまりちゃんと聞いてなかったんだよな。でもまあ、何か土地の名前は言ってた気がする」
「気がする、って…」
 おいおいおい、何ていう曖昧な!
 …まあ俺が言えた義理じゃないけど。
 とにかくどっかの土地名が出てきて、それが任務の話だっていうんだから、まあ本当にそのまんまなんだろう。多分俺はその土地の任務に就くんだか、そういうことになるんだろう。任務に関してはどうせ直前に確認が入るんだし、今は曖昧でも良いかって俺はそう納得する。納得して、まずは今日の任務を頑張ろうって思う。
 
 
 
 同僚が曖昧に教えてくれたものが何だったのか知ったのは、それからちょっとした後だった。
 俺は相変わらずザックスと賭けをしていて、珍しく連勝をしてた。
 戦利品はジュース3本程度だったけど、もともと賭けが目的じゃないから俺は満足だった。そもそも俺は、ザックスと賭けをしたりして楽しんでるって事自体が嬉しいんだ。
 俺は戦利品のジュースを有難く貰って、プルトップを開けて飲む。最近じゃ少なくなった缶ジュースだ。ペコペコするアルミ缶のジュースをグビグビっと飲んだ俺は、3分の2くらい飲み干してからちょっと一息ついた。
 任務が終わって、兵舎の前。
 夕暮れ時っていうのかな、空がちょっとだけ暗い。だけど今日は暗くなるっていうよりも赤茶色をしている気がした。多分、夕焼けってやつだ。
 ちょっとばっかり雰囲気があるな。俺はそんなことを思いながら賭けに負けたザックスを見た。ザックスは俺にジュースを渡した後自分でも買ってたけど、すっかりそれを飲み終わったらしくて今ではもう何も手に持っていない。
「なあ、お前覚えてる?一番最初にやった賭け」
「一番最初に?」
「そ。確かお前が負けたんだ」
 ザックスは笑うと、お前が抗議したから何も請求してないんだぞ、なんて言った。
 そう言われて俺は、そういえばそんな事もあったかな?なんて首を傾げる。
 そういえば一番最初に賭けをした時は、それが遊びだと思ってたから…っていうか本当に遊びだけど、とにかく賭けなんていうのは嘘だと思ってたんだ。だから、じゃあ俺の勝ちだ、何か奢れよ、って言われて俺は怒ったんだっけ。
 あんまりハッキリとは覚えてないけど、確かそんなことはあったような気がする。
 その時の俺は、いきなり賭けだって言われていきなり負けて、いきなり奢れって言われたもんだから拒否したんだよな、きっと。
 まあ今じゃ、奢るっていったって大した金額じゃないから良いのにって思うんだけど。
「もしかしてザックス、あの時の賭けの請求しようとしてる?」
 俺はザックスが笑ってるのを見て、もしやと思ってそう聞いてみた。
 するとザックスはこともあろうに…、
「当たり!」
 ―――――――って、言った…。
 うー…という事はつまり、俺は過去の請求を今からされると…。
 俺は渋々顔をワザと作って、何が良いの?ってザックスに聞いた。勿論今の俺は、あの時の俺と違って、ザックスが何を言ってもOKを出せるくらいの余裕がある。だから全然大丈夫なんだけど、あの時みたいに俺はまるで拒否するみたいな顔をしてやった。
 だけど、そんな俺の事は全くお見通しって感じでザックスはちょっと笑ってる。それから、何にしようかな、なんて迷った振りをした。
 何で振りだって分かったかっていうと、それはいかにもワザとらしかったからだ。
 ザックスも俺と同じように、ワザとやってるんだ。
「そうだなあ…じゃあ…」
 ザックスはチラと俺を見て、悪戯少年みたいな笑いをみせた。どうやら何か企んでるらしい。
 で、ザックスの口から出てきた言葉が何かっていうと…。
「――――――じゃあ…デートしてもらおっかな?」
「……は?」
「いや、だから。デートだよ、デート」
「デート???」
 俺の頭の中には、ハテナマークが沢山浮かんだ。
 デート…というと、普通はこう…女の子と一緒に出かけたりするアレのことだろうか?
「あの…ザックス。俺、一応こう…男だったと思うんだけど」
「ああ、俺にもそう見える」
「だよね?って事は、俺とデートっていうのはどうなんだろう?」
 純粋な疑問としてそう聞いた俺にザックスは、どうなんだろうなあ、なんて言う。
 おいおい、ザックスが言ったんじゃないか!
 俺は思わずそう言いそうになったけど、それよりも早くザックスの方が口を開いてた。
「でもさ、別に構わないだろ?デートは女の子としなきゃいけないなんて法律で決まってるわけでもないしさ」
「そりゃまあそうだけど…」
 そんなのが法律で決まってたらおかしいったらありゃしない。
 っていうか、普通ありえないけど。
「だろ?って事は、俺とクラウドがデートしても全く問題はない、と」
「はあ、まあ…そうだね」
 それはそうなんだけど、何か違う気がする。
 別に嫌ってわけじゃないけど、何でザックスは俺なんかとデートしたいんだろう?普通に女の子とデートしてる方がよっぽど楽しそうなのに。それにザックスだったら相手もいっぱいいそうな気がする…。
 俺はそんなことを疑問に思ったけど、別に口にすることはしなかった。だってそれは一応、最初の賭けの請求だったから。ザックスがそれが良いって言うなら別に俺は良いかなって思える。
「よっし、決まり!じゃあデートだ!」
 ザックスが嬉々としてそう叫ぶと、じゃあ日取りはこんなんで時間はこんなんで…って、やけに詳しく説明してきた。それがあんまりにも早すぎだったから俺は驚いてザックスの言葉を遮った。
「ま、待ってよ、ザックス!そんな今すぐ決めなくてもっ」
 予定ってもんがあるだろ、ザックス!
「何言ってんだよ?どうでも良い予定が入る前に決めちまわないと」
「そんな、今すぐ決めること無いじゃん」
「駄目駄目、そんなんじゃ!善は急げって言うだろ?」
 言い換えると"デートの予定は急げ"ってことか。…なんか変なの。
 だけど俺は本当に予定を見てからじゃないとデートの日程なんて決められないと思った。だって大切な任務が入っている日だったら困るし、それはザックスだって同じはずなんだ。もしその日が残業なんかになったらまた最初から予定を考えなくちゃならないんだから、最初からじっくり考えた方が良いに決まってる。
 俺はそう思ってたけど、ザックスはそんな俺を裏切って変なことを言った。
「まあ俺の場合は"善が急ぎすぎ"なんだけどな」
「は?」
 何だそりゃ?
 俺が首を傾げると、ザックスは照れ笑いみたいに笑ってちょっと弾んだ声で爆弾発言をした。
「実はさ、さっき言ったデート日って、大事な任務の日なんだよな」
「はあ!?」
 大事な任務の日!?
 じゃあ何でわざわざその日をデート日にするんだよ!?
「でもお前は気にしなくて大丈夫だぜ。何て言ったって、その日の任務は一緒だからな!」
「ええ!?」
 何だって!?
 そんなの俺は一言も聞いてないぞ!
 何でザックスはそんな事知ってるんだ!
「ま、俺は用意周到だからな。その日の任務が一緒になるように、ちゃんと手配してあるわけよ」
「って…まさか…」
 ザックスは俺の前でうんうん、と一人納得して頷いてる。
 俺はといえば独りぽかんとしてたけど、段々話の筋が見えてきた気
がして、最後には「あ!」と声を上げてた。
 
 
 
 

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