今はただ…

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 容易に叶うことでもない。

 そうザックスは知っていた。だから、二人の間に口を挟むのをよしたのだ。それなのに・・・。

 

 正式にソルジャーの辞令を受けて、3rdのコンパートメントに移ったザックスは、いまだソルジャー候補生の寮にいるクラウドと、交流を持たなくなった。

 それまで毎日一緒にすごしていたのが嘘のように、顔をあわせない日が続く。

 それとなく様子を探るようにしても良かったのだろうが、そうする気になれなかったザックスは、だから以降のクラウドの様子を知らない。

 一時、セフィロスとの間が社内での噂に上がったようだが、その噂もこの数日では耳にもしなくなった。

 どうしているのだろうか、それすらも、ザックスは知らない。

 それなのに。

 3rdと1stの英雄とでは、住めるコンパートメントの種類が違う。場所も遠く、それぞれ持つプライドも違うので、1stの者がわざわざ3rdのコンパートメントを尋ねてくることは、まず、ない。だが、予想もしなかったある日、セフィロスがザックスを尋ねてきたのだった。

 セフィロスとは、候補生の時、クラウドと一緒の部屋にすごしている時に一度だけ話をしたことがある。

 その出会いの後、クラウドはセフィロスと懇意になり、ザックスは疎外感と共にクラウドから離れるようになった。

 そのクラウドとザックスの間を裂いたとも言えるセフィロスが、何故格下のソルジャーになりたての自分の元にやってくるのか、ザックスは不思議だった。

「頼みがある」

 セフィロスはザックスの顔を見るなりそう言った。

「頼み?」

 よもや、セフィロスからそんな言葉を聞くとは思わなかったザックスは、切り出しの意外さに驚く。

「ああ。クラウドのことなんなんだが…」

 そうだろう。セフィロスは最大最強の、英雄と呼ばれる戦士だ。まさか仕事の上での頼みをザックスに持ちかけるはずがない。

 扉の入り口に立ちっぱなしになっているセフィロスを、己の綺麗とも言えない部屋に通す。

「で」

 部屋で唯一人の座れる場所—ベッドを勧めて、ザックスは話を促す。

 どこか疲れたような顔をしたセフィロスは、唸るように告げた。

「クラウドに、伝言を頼みたい」

「伝言?」

 それこそ、自分で告げた方が良いのではないか、とザックスは思う。

「何で俺に?」

 部屋が分かれてから、一度もクラウドと会っていないのは、クラウドとの付き合いがあるセフィロスなら知っているはずなのに。

「…お前は気付かなかったか? 俺と付き合い出してからのクラウドの異常性に…」

「え?」

 一瞬、一度だけ彼らの逢瀬を覗き見た事を知られたのか、と思った。

 だが。

「お前と一緒の部屋では、クラウドの異常性はその姿を見せなかったというのか?」

「部屋で、異常性が姿を現す?」

「いや・・・そうだな。あの異常性は、俺が引き出すものだ。お前の前ではクラウドは普通だったのだろうな」

 ザックスは眉をひそめる。

「意味が全然判らないんだけど?」

「・・・判らない方が良い。クラウドに会ったら判るかもしれない。だからザックス…クラウドに伝えて欲しい。もう俺はお前に会いにはいかないと。これ以上クラウドの傍にいれば、クラウドが壊れてしまうと…」

「壊れる?」

「ああ。壊れてしまう。兆候が出ている。これ以上は無理だ」

 セフィロスは用件だけ告げると、部屋を出て行こうとする。

 それを呼び止め、ザックスは確認した。

「それはつまり、あんたはクラウドと別れるってことなんだな」

「ああ…」

「それをクラウドに告げれば良いんだな?」

「ああ…」

「なら」

 ザックスは決意を込めてセフィロスを見た。

「二度と、クラウドに近付かないでくれ。あいつは俺が面倒を見るから、だから、あんたは二度と、クラウドに近付かないでくれ」

 セフィロスの目が、大きく見開かれる。

「…お前はもしや…いや。その方が良いかもしれん」

 一人呟いたセフィロスは、頷いた。

「判った二度とクラウドには近付かない。それで良いか?」

「ああ…」

「頼むぞ、ザックス」

 セフィロスは英雄らしく、二度と振り返らずにザックスの部屋を出て行った。

 狂ったようなクラウドとセフィロスの関係。セフィロスの言う、クラウドの異常性。

 もしセフィロスが言うように、クラウドの異常性がセフィロスによって引き出されるものなら、原因と離れればなりを潜めるのだろうか?

 ザックスは急ぎクラウドの元へと向かった。

 

 ソルジャー候補の寮に、クラウドの姿はなかった。なじみの候補生に声をかけると、クラウドはザックスが寮を出た直後に病院棟に移ったと教えられた。

「病気か何かか?」

「まぁ、あれも一種の病気には入るんだろうけど…」

「どういう意味だ?」

「それが、病院棟に移った理由ははっきりしないんだけど、どうも性格異常の判定が出たらしくて。訓練中とか普通だったんだけど、噂によると、セフィロスが病院棟に担ぎ込んだって噂を聞いたよ」

「セフィロスが?」

「そこで検査の結果、性格異常の判定されて、以後帰ってきてない」

「そうか…」

 病院棟。それは、神羅社員なら誰でも使用出来る施設の一つだが、殆ど使われることはないとも聞く。

 普通の怪我や病気なら、医務室だけで間に合うから、というのがその理由だが。

「病院棟に隔離されているということだろうか?」

 性格異常がどのようなものか、ザックスは知らない。だが、一度見た、狂ったようなクラウド。あれが性格異常の症状だとするなら、病院棟への隔離も仕方ないのかもしれない。

 ザックスは病院棟へ向かいながら、とりとめないことを考えている。

 どうして、そこまで自分を壊しながらもセフィロスとの付き合いをやめなかったのだろうか、という不思議と、何故セフィロスが原因となって異常性が現れるのかという不思議。

 普通の人間なら、ストレスから精神異常にはなるだろうが、性格異常というのは聞いた事がない。

 性格異常。どのような症状なのだろうか?

 何もかもが判らない。

 

 病院棟へたどり着くと、まずは受付で、社員証の提示を求められた。

「クラウド=ストライフは重度の性格異常障害と診断され、隔離病棟へ移されたので、そちらの方へ向かって下さい」

 無表情な看護婦が言い、ザックスはそれに従って隔離病棟へ向かう。

 同じ神羅社内とは思えないくらいの無機質な部屋が、延々と続く廊下を、果てしなく歩いた先に、クラウドのプレートがかかった病室があった。

 その扉の前に、一人の白衣の医師が立っている。

 中年のその男は、ザックスを見て尋ねた。

「君は、彼の友達かい?」

「ああ、そうです」

「ならば、今は会わない方が良いかもしれない」

 ザックスは眉をひそめて理由を尋ねる。

「今は、とても興奮しているようだ。まだ薬が利かないようだね」

「薬?」

「脳内物質のバランスを整える為に薬を投与している」

「それって…性格異常は脳内物質のバランスが崩れてる所為で、クラウドは性格異常になったってことですか?」

 突っ込んで尋ねるザックスに、医者は不思議そうな顔をしてザックスを見た。

「君は、クラウドの性格異常がどうして現れたのか、見当がつくのかい?」

「いえ。俺は異常をきたしたクラウドとは会っていませんから」

「だが、君は今、原因が他にあるかのような言い方をしたね?」

「それは…」

「何か原因が特定出来るようなら、教えてくれないか?」

 医者の言葉に、ザックスは戸惑う。

 原因を尋ねるということは、クラウドの性格異常の原因は特定出来ていないということだろうか。

 それならば…。

 自分自身も半信半疑であったが、セフィロスから聞いた言葉を目の前の医師に告げてみることにした。

「セフィロスが、自分が原因でクラウドの異常性が引き出されると言っていました」

「セフィロス? 彼は、セフィロスと会ったのか?」

「はい」

「そういうことだったのか…」

 医師の表情が険しくなる。

「ならば、治療法を変えないといけないね」

「…少しで良いんです。会えませんか?」

「会いたいかい?」

「はい」

「なら、会わせよう」

 医師は白衣のポケットから鍵を取り出し、その鍵でドアを開けた。

「行くと良い」

 医師に背を押され、ザックスは病室に踏み込む。

 白い壁に囲まれた、寮よりも遥かに狭いその空間の中で、クラウドはぼんやりと壁を見つめていた。

 ベッドに腰掛けるクラウドは、最後に会った時よりも、痩せて見えた。

「クラウド?」

 声をかけると、反応する。

「会いに来てくれたの?」

「ああ。久しぶりだなぁ。どうしたお前、こんな所に突っ込まれて」

 出来るだけ、以前の自分のように接しようと、ザックスは言葉を選ぶ。

「本当に長い間、どうして会いに来てくれなかったの?」

「ああ、済まない…」

 謝りかけて、次のクラウドの言葉に、ザックスは絶句する。

「セフィロス…」

 背後で医師の息を飲む音も聞こえた。

 ベッドから降りたクラウドは、一歩一歩ザックスに近寄り、潤んだ瞳で見つめてくる。

 吸い込まれそうだ。

 ザックスが眩暈を起こしかけた時、背後の医師が叫んだ。

「しっかりするんだ!」

「え?」

「それに飲まれれば、君にも異常が出始める。飲み込まれてはいけない。君は誰だ、名前を言うんだ!」

 叫んだ医師の言葉につられるように、ザックスは自分の名前を言っていた。

「俺はザックス。ザックスだ…」

「え?」

 ザックスの名を聞いた途端、クラウドの目に正気の光が灯る。

「ザックス?」

 クラウドは真正面にザックスを見ると、寝起きのように首を振った。

「どうして俺・・・こんな所に?」

「覚えてないのか?」

「ええと…性格異常だと診断された所までは覚えてる」

「その後は?」

 クラウドは考え込んで、首を振った。

「駄目だ。思い出せない…」

 医師がザックスの服の裾を引いた。

「ちょっと来てくれないか?」

 呼ばれるがままに医師に着いて行ったザックスは、そこで意外な言葉を聞くことになる。

「君は、彼の異常性を抑える力を持っているのかもしれない。セフィロスが彼の異常性を引き出すなら、君はそれを抑えることが出来る」

「俺が?」

「彼を君のコンパートメントに住まわせて、絶対にセフィロスに会わせないようにするんだ。そうすれば、彼は普通のままでいられる。薬でも駄目だったんだ。あの異常性を抑えられるものを、君は持ってる。君だけにある、救いの力なのかもしれない」

 医師はすがるようにザックスを見た。

「頼むザックス君。彼を、クラウドを…救ってやってくれ」

 懇願されるでもなく、ザックスはそのつもりだった。

 だから、引き受けた。

 それからどうなるとも知らずに。

 医師の処方の薬を得て、ザックスはクラウドを自分のコンパートメントに引き取った。

 そこで、ザックスは告げる。

「もう二度と、セフィロスはお前に会いに来れないってさ」

 告げられた言葉の内容の割りに、クラウドはあっさりしていた。

「そう。それは仕方ないね」

 苦笑は浮かべたものの、別れにありがちな湿っぽいものは無かった。

 不思議に思うべきだったのかもしれない。だが、異常性を抑える力は自分にある。それに満足していたザックスには、この不思議を問い詰めることに頭が回らなかった。

 ここから歯車は狂っていったのだ。それと本人達が気付かぬ内に。

終わり

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