|
不満の種 --------------------------------------------
「ねえ、ザックス」 「あ?」 「ザックスは今の関係に不満とかって無いの?」 「不満??」 何だそりゃ、そう思ってザックスは首を傾げる。唐突にそんなことを言うものだからついつい声も裏返ってしまうというものだ。 しかしともかくいきなりクラウドがそんな事を言ってくるというのは、ザックスにとって不吉以外の何物でもなかった。 “不満”。 これは付き合っている二人にとって、存在するならばかなり深刻な問題なのは言うまでもない。 「ってかクラウド、お前何か不満あんのか?」 だからザックスは、逆にそれが不安になってそんなことを聞いたものである。 しかし、そんなザックスの不安をよそにクラウドは、へへ、なんて笑ってこう言う。 「ううん、無いよ。不満なんて」 「そうか?」 だったら良いけど、そんなふうに続けてザックスは取り敢えずの納得をする。といっても、それはやっぱり表面上だけのもので、心中では何となく納得がいかない。 だって、もしも不満が本当に無かったら、そんな言葉が出てきたりするだろうか。 そう思うと、クラウドは本当のところ何かしらの不満があって、それを察知して欲しいためにそんなふうに言ったのではないかという気がしてならない。かといって、クラウド本人に聞いたところでその答えは今口に出された通りなのだから確かめようも無い。 何だか、すっきりしない。 そう思いながらもザックスは、隣で笑っているクラウドを見詰めていた。
付き合って三ヶ月。 この数字は実に意味深である。 三ヶ月といったら、世間では何かしら事件が起こると相場が決まっているのだ。過去、ザックスが誰かから聞いた話だと、早ければ倦怠期だとか、浮気だとか、その他にも喧嘩、実体が見えすぎたための 落胆…まあともかくそんなふうに色々あるものらしい。 丁度その魔の三ヶ月目にいたザックスは、やはりこれは何かの予兆なのではないかというふうに思えて仕方なかった。 しかし――――…一体何が原因で? 「はあ…さっぱり検討つかねえよ」 とにかく悩み果てていたザックスは、大事な仕事の話の最中だというのにボーッとしていてそんな事を呟いていた。 明日のミッションはどうのこうのなんていう話は右の耳から左の耳に通過、途中脳辺りを通ったらしいがさっぱり記憶には残っていない。 例えばそのミッションの説明をしているのがどこかのお偉いさんだとか同僚だとかだったらまだ良かったが、非常に遺憾ながらその説明をしているのはセフィロスだった。相手が悪いというのは正にこの事である。 ザックスがボーッとしていることに気付いたセフィロスは、ミッションの説明が記されている紙をすっと降ろすと、脇に携えていた正宗をサクッとザックスに向けた。その剣先はビュンとか何とかいって空を切り、一瞬の間にザックスの眼前1cmに侵入する。 「うおっ!」 思わず仰け反ったザックスは、座っていた椅子を派手にひっくり返すと、椅子もろとも自分も後ろにひっくり返った。 「あっ痛ーっ!!……って。何すんだよ、セフィロス!」 ザックスは、派手に打ち付けた後頭部を心配そうに撫でながらもそう抗議すると、目前で正宗をかざしているセフィロスを睨み遣る。 しかしセフィロスはそのザックスの睨みなどどうということもないようにただ一言、集中しろ、と言い放った。 セフィロスのその言い分は尤もで、今は仕事の最中なのだからそれに集中していてこそ当然なのである。だからそれに集中していなかったザックスに対してセフィロスがそうしたのもごくごく自然なことともいえるだろうし、はっきり言えばザックスには抗議権ナシ、である。 「全く…ロクに仕事の話も聞けないとは…どうしようもないな」 溜息混じりにそう言ったセフィロスは、すっかりヤル気をなくしたのだか、ミッションの説明が書かれた紙をふいとデスクに放った。それから、やれやれ、などと言いながら煙草に火を点ける。 ミッションの説明をするからとザックスは呼び出されたそこは、セフィロスの部屋だった。部屋といっても別段自宅ではない。神羅の中にあるセフィロス専用の部屋で、そこで任務の説明だとかをするようになっているのだ。 因みにその部屋、ミッションの説明をする時くらいしか使用しないものだからとてつもなく綺麗な状態を維持している。それでもセフィロスがぷかぷかと煙草の煙を蔓延させるものだからそろそろ壁あたりは白くなくなってきているような気がしないでもない。 セフィロスはそんなことなど気にもせず、ふう、などとやりながらザックスにこう言った。 「…で。何なんだ、原因は?」 「原因?」 「その呆然面の原因だ」 「あー…そういう事」 なるほど、呆然面ときたか。まあ確かに否定はできない。 ともかくセフィロスはザックスがボーッとしているその原因を知りたいわけで、ザックスにとってそれは悩みを打ち明けるのと同じことだった。しかしセフィロスに悩みを相談するというのはどうなのだろう、なんて事を思わないでもない。何しろザックスの悩みというのはクラウドのことであり、それはつまり恋愛事なのだ。 セフィロスに恋愛事なんかを話して良い物なのか、ザックスにはかなり疑問である。 しかし目前のセフィロスは、言わないと殺す、と言わんばかりの勢いだったので、ザックスは仕方ナシにとぼとぼとその原因についてを話し始めた。 「…まあ、何?いわゆる恋愛事情ですよ。三ヶ月目の恐怖ってやつ」 「恐怖?一体何がどう恐怖だと言うのだ」 さっぱり分からん、というふうにセフィロスが首を傾げる。だからザックスは、いつだったか誰かに聞いた三ヶ月目の恐怖をつらつらと話すと、まあそんな事が俺にも起こってるらしいんだよな、などと言って溜息をついた。 「唐突に聞かれたんだわ、不満は無いのか、ってさ。まあ俺には不満なんてこれぽっちも無いし、クラウドも不満は無いって言ってくれたんだけどさ。…でもどうよ?普通、そんなこといきなり聞くかね?」 「ふふん、なるほど…」 そういう事情か、なんて言いながらセフィロスはタバコの煙を燻らす。しかもその煙で輪っかなんかを作っている辺り、本気で聞いているのか!?とつっこみたい所だ。 しかし悩みの渦中のザックスはそんなセフィロスの姿などどうとも思っていなかったらしく、相変わらずの調子で話を続けていく。 「だもんでさー…もう俺はおセンチな訳よね。何かあるんじゃないかって不安でしょうがないのよ。かといってそれ聞いたって答えはもう出てるわけだし。不満は無いって事に不安になってるってのもどうだかなあって感じだけどさ」 「…そうか、事情は掴めた」 ようやく一本の煙草を吸い終わったらしいセフィロスは、それを灰皿の淵で捻じ消しながらも、じゃあ、なんて言う。 そして、その「じゃあ」の後に続いたのはこんな言葉だった。 「夜の生活の方はどうなってるんだ?」 「ぶっ!!」 瞬間、ザックスは噴出した。 それは当然である。何故って訳が分からない。そもそもセフィロスは「じゃあ」と言ったのだからその言葉からするに続く言葉は今迄の話題への結論か何かでなければならないのに、それではいかにも突拍子無い。 しかも「夜の生活」とは何事だ。 「あ、あのなあ!何でそういうネタ振んだよ!関係ねーじゃん!!」 ザックスは呆れと焦りの表情を見せつつそう抗議すると、落ち着かないといったように髪をくしゃくしゃっとやる。それから床に胡坐をかくと、もっとマトモなアドバイスをくれ、などと言う。 しかしセフィロスときたら、それこそがアドバイスだ、などと果てしなくワケの分からないことを言い、更にザックスを混乱させる始末である。正に、何のこっちゃという具合だ。 「馬鹿者。これが重要なのだ。口で話して分からないなら体で話すのは当然だろうが」 「体で話す、って…。そりゃあ言葉のアヤだろ。そんなんで分かる訳ねえよ」 大体、体が喋るわけが無い。 「全く…お前は分かってないな、ザックス。そもそも不満だとか不安だとかいうのは、突き詰めれば本当に好きかどうかというその一点だけだろうが」 「はあ…まあ、そうかも」 「つまり!本当に好きなのかどうかは、ベットの中でこそ計れる。少しでも嫌であればそれが自ずと態度に出るからな。何、誰だって口では何とでも言えるものだ。しかし体をあわせる時には嘘は言えんだろう」 そう説明され、ザックスは少なからず成る程、などと思った。まあ完全に全てがそれに当てはまるわけではないとはいえ、そのセフィロスの説は納得できないでもない。当らずとも遠からず、といった感じだ。 じゃあ、セフィロスの言ったように……それを実践してみれば良い。 つまりクラウドと抱き合えば良いわけだが、しかしそれをするにはザックスには少々問題があった。しかもその問題とはかなり初歩的な問題で、未だザックスの中では進歩の無い問題でもある。 そんなことを考えザックスはもう一度溜息をはくと、すっとセフィロスを見遣ってボソボソとこう言い出した。 「…あのさ。実はその、それはちょっと出来ない相談って感じなんですが」 「何故?」 「え。何でってそりゃ……」 モゴモゴと口ごもっているザックスに、セフィロスは眉をしかめる。 「何を躊躇っているのだ。いつも通り、二人でベットに入ればそれで問題解決なんだぞ?こんなに簡単なことなのに何がどう問題なのだ」 「いやー…だから。その二人でベットに、って部分がどうもね…」 「嫌なのか?」 恋人同士のくせにそれはけしからん、などと言いながら、セフィロスは二本目の煙草を取り出すと、それにすっと火をつけようとする。 が、しかし。 シュッと点けた火が煙草を燃やそうとしたその瞬間、思いがけない言葉がザックスの口かた発せられた。そしてその言葉は、セフィロスにとって天変地異並の衝撃を与えたのだった。 そう、それは。 「―――――――――――実は、まだ手…出してないんだよな」 ―――シーン…… その場は嘘のように静まり返る。 その中でセフィロスの手からポトリと落ちた煙草だけが、音を立ててコロコロと床を闊歩していた。 「…な…んだと?」 セフィロスは、まるで数百年前の化石か何かを見るかのような目をしてザックスを見遣り、そんなふうに呟く。手を出していない、どうやらその言葉があんまりにも衝撃だったようである。 「おい、ザックス。お前たちはどのくらい付き合っているんだったか?」 「三ヶ月」 「で…何だって?」 「いや、だから。手は出してないんだって」 「手を出してないだと!!?」 「…はい」 「何故だ!?」 「いやー…何か、いかんかなあ…とか思っちゃって」 ははは、と乾いた笑いを見せながらそんなふうに言うザックスに、セフィロスは思い切り不審そうな目を向けた。 三ヶ月付き合って手も出していない――――その事実はセフィロスの中では明らかに在り えないことである。世の中十人十色であるとはいえ、とにかくこのザックスがそんなふうに慎重であるだなんて気味が悪かったし、セフィロスの中のルールで言えば明らかに反則並の事実という具合だ。 とてもじゃないが信じられん、そう口にしたセフィロスは落とした煙草を拾うと、それをデスクに放りながら「全く…」などと文句を言い出す。勿論この文句は、ザックスにしてみれば言われる筋合いの無い類の文句であったが、しかしセフィロスの中ではかなりの正当さをもって放たれた文句だった。 何しろセフィロスのアドバイスからすればその事実は、まず根本がなってないというのと同等だったのだから。 「まずもってそこが問題だ、ザックス。とにかく…やれ!」 「おいおいおい!待ってくれよ、やれってそんな!無理でしょ、だって相手はあのクラウドだぜ?」 「だから何だ?クラウドが嫌だと言ったのか?」 「いや、そういう訳じゃないけどさ…」 でも、クラウドはまだまだ少年の身なのだ。確かにその年頃といえば興味もあろう事だと思うが、それにしたってただの関心と事実は全く違う。そう考えると、まだ14歳の少年でしかないクラウドを抱くというのはどうなのだろうという気がしてならない。ある意味、モラルの点においてそう思うのである。 とはいえ―――――――恋人は恋人、勿論そうしたいという希望はある。 だからこそザックスは自分の希望とモラルの間で悩んでしまい、その結果、純愛としか良いようのない現実に留まっているのだ。 しかしこんな心中をセフィロスに告げたところで、セフィロスはそんな気持ちを汲んでなどくれないだろうと分かっている。そもそもセフィロスという人は大体において型破りなのだ。だからそんなことを言ったら、ぬるいと言われるのが関の山である。 そう思って黙っていたというのに、その関の山は容赦なくザックスに降り注いだ。 「ザックス、ぬるいぞ。クラウドが拒否したのならまだしも、お前自らが制御する必要などなかろう。いや、むしろ犯罪だ。恋人だというのにその仕打ちは犯罪に匹敵するな」 アンタみたいに早々に手を出すのとどっちが犯罪なんだよ、そう言いたいのをザックスが必死に堪えたのは言うまでもない。 「とにかく、やれ!これは嫌らしい意味で言っているわけではないぞ、それも必要だと言っているんだ。良いか、前進あるのみだ」 その前進とは一体何だ?、そう疑問に思ったものだがそれは敢えて口に出さず。 「はあ…まあ、そうだな」 とにかくザックスは気乗りしないながらもそんなふうに答えると、ふう、と息を付いた。 問題はそこじゃないのに、何だか良く分からないことになってきてしまったものである。しかしセフィロスのこと、どうせ明日顔を合わせたら「どうだ、上手くいったか?」なんて聞いてくるに決まっているのだ。 「はあ…」 何だかザックスは気が重かった。
|