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ESCAPE -----------------------------------------------
「見ろ、今年の新入りだ」 そう声をかけられ、ザックスは窓の外を見遣った。 「おっ。初々しいね、良いじゃんか」 窓の外に見えるのは神羅社内にあるソルジャー専用のグラウンド状の土地だった。 一般にはソルジャー以外の立ち入りを禁止されているソコは、新しい兵士が神羅に入る時だけは開放される。 「ふ、お前が言うな」 そう言ってザックスを呆れさせたのは、今や皆の憧れの的となっている英雄―――セフィロス。 彼はソルジャークラス1stの中でもダントツの強さを誇っていたが、ザックスにとっては一ソルジャーに変わりない存在だった。 「あのさあ、誰かさんが初々しかった俺をたぶらかしたんじゃなかったっけ?」 「ほう、誰だろうなそれは?」 「ったく、いけしゃあしゃあと…」 ぶつぶつを文句をたれるザックスに、セフィロスは、ふふ、と笑みを漏らして、 「挨拶でもしてくれば良い」 とだけ言い、その場を後にした。 「挨拶すんのはそっちだろうが」 そう毒付きながらも、ザックスはまた窓の外を覗く。 自分もかつては、あそこにいたのになあ。 そんなふうに思った。 「お?」 ―――と。新入りの一人と目が合った。 まだ少年といえる歳の頃をしたその人物は、真っ直ぐにこちらを見ている。 「何だあ、あいつ?」 睨んでる訳でも無く、笑っている訳でも無く、おどおどしている訳でも無い、その視線。 やがてその少年の近くに神羅兵が近づき、その頭をピシャリ、と叩いた。 余所見をしていたから怒られた―――という具合らしい。 「うへ〜幸先悪いなあ、あいつ」 見ているザックスの方が痛々しい顔をしてしまう。 「まっ。こっからが厳しいんだけどな」 そう誰にともなく呟くと、ザックスはニヤリ、と笑った。
「今日ダルイから抜けるわ」 じゃあ後はよろしく、と続くこの言葉。 ザックスの口癖だった。 訓練生のタイムスケジュールがビッチリと組まれているのとは対照的に、ソルジャーは自由が利く。 治安維持の特殊部隊としてあるソルジャーのその役割は様々だったが、今や神羅は圧倒的な権力を持ち、さしあたって大敵という大敵もいない状態だったので、大方が実力からみて大した事の無い仕事だった。 そもそも完璧に近い造りをしている神羅で、何かが起こるということ自体あまり考えられないことだった。 それでも徹底を期して全てを管理する。 それが神羅のやり方だった。 まだ記憶に新しいともいえる戦争の教訓なのか、それとも元々そういう性質なのか、そこら辺はザックスには分からない。 ただ確かな事は、ザックスにとってこのシステムは暇で暇で仕方ない上、好きではないという事だった。 実の所それは、訓練生の時から感じていた事ではあったが、どうせならやはりソルジャーになって一花咲かせるか、という気持ちもあった。 ザックスの場合はかなりの高ポイントでソルジャー昇格の試験に一発合格をしたので、それは早々に叶ったといってもいい。とはいえ、一花咲かせるという企みは未だ叶ってはいなかった。 その場が、今はもうどこにも存在していなかったからだ。 そんな訳で、ザックスは最近ではこんな事を思う。 訓練生の時の方がバトルシュミレーションなどがあって楽しかったかも、と。 とにもかくにも“サボリ”は十八番だったのである。
「はい、ソコっ!!」 サボリ先で、どういう訳か訓練生らしき姿を発見したザックスは、これは面白いな、と思いながらそう背後から叫んでやった。 「ぎゃっ!ご、ごごごめんな…さいっ!」 その声にビクリとしてそんな風に早々に謝りを入れた訓練生は、ザックスの顔など見ていなかった。 教官か何かと勘違いしているらしい。 思わずその焦る態度に大笑いをしたザックスに、訓練生は恐る恐る顔を上げた。 「…あ、れ?」 見たことの無い顔に、訓練生は戸惑っているようだ。 「はははっ、今お前、瞬時に言い訳考えてたろ?お見通しなんだな。だって俺も一緒だったし」 そう笑いながら言うザックスに、訓練生は「あっ」と声を上げる。 それから、何とも表現しがたい表情になって、こう呟いた。 「その服…ソルジャー…」 そう言われて、その視線が自分の服に注がれている事に、ザックスはようやく気づく。 なるほど訓練生にとっては憧れの服な訳である。それはザックスにとってはどうでも良い事だったが、分からないでもない、と思う。 「ああ、そうだ」 「凄い、んですね。強いんだ…?」 そう問われ、ザックスは返答に困ってしまった。 確かに訓練生に比べればそうかもしれないが、ソルジャーはソルジャーでもクラス毎に強さの如何は異なってくる。 実際の所ザックスはクラス1stへの昇格もしており、身を削る訓練の末に1st昇格したソルジャーに比べれば先天的な戦闘能力があったといっても過言ではなかった。 悩んだ末、ザックスは言う。 「あのな、オリエンテーションでも聞かなかったか?ソルジャーもピンキリなんだぜ。まあ…そりゃクラスは上だけどさ」 「やっぱり強いんだ」 「う〜ん…まあ、そうなるのか?」 全員一致で強いと称されるのはセフィロスくらいのものだったから、ザックスは自分の強さなど良く分からなかった。 「ま、良いや、んな事。で、お前は何でサボってんの?ヤバイぞー、試験に響くぜ。ソルジャー、目指してんだろ?」 「分かってます」 そんなふうに答えてくる訓練生に、じゃあ何やってんだよ、とザックスは心の中で突っ込みを入れた。とはいえ、自分も過去にそんな事をしていた事実がるので、口には出さずにおいた。 暫くすると、その俯きがちな顔が少し上がり、口からこんな言葉が漏れる。 「俺、自信が無くなっちゃった気がして…何か。ソルジャーになるって、そう言ってきたのに」 訓練生はそう言ってザックスをチラリと上目遣いで見遣った。 その視線にザックスは、あれ、と思う。 「お前――」 どうも覚えがある。そんな気がした。 フル回転で記憶を探ると、その中に思い当るふしが一つだけあった。 あの日―――新しい兵士、実際には候補ではあるが、その彼らが列をなしていた、あの日。 それを眺めていたザックスと目が合った―――訓練生。 それにやっと気づく。 「お前さ、神羅に入った時…俺と目、合わなかった?」 「あ。え、じゃあ、あの時の…」 ビンゴか、ザックスは思った。そして、何だお前か、と何をどう納得する部分があるのか分からないままにそんな事を言って笑った。 「そっかそっか!お前何であの時、こっち見てた訳?」 そう聞かれた訓練生は、突如赤面する。 しかしザックスに促され、何だかんだと理由を言わされる羽目になった。 少し口をもごもごさせた後に、彼は言う。 「つまりそのっ―――そう、俺もいつか、その…あそこから見下ろせる存在に…なれるかな、って…」 一生懸命に繋がれた言葉の内容に、なるほどな、と納得をする。 確かにソルジャーを目指す者なら誰しも思う事かもしれない。 「…そ、か」 訓練生は、また「だったらサボるな」というような言葉を返されるのではないかと思っていたが、ザックスはそれ以上何も言わなかった。 その代わりこんな事を言った。 「前言撤回。お前、これからも俺と一緒にサボろうぜ」 「…は?」 何だそれは、と訓練生は思う。 普通、もう二度とするなとか、そういうふうに言うものだろう。 しかも一緒に、とは…この人はソルジャーなのに、何を言ってるんだろうか。 そう思い、サッパリ意味が分からなかったが、ザックスは柔らかく笑っていて、それは彼を安心させた。 「なな!お前さ、名前、何つーの?」 「えっと…クラウド、です」 「クラウドだな、OK!俺はザックス。あ、それからお前、その敬語やめろな。なーんかこう、ムズ痒くなんだよなあ、気持ち悪いしさあ」 「は、はあ…」 やたらテンポ良く早すぎる展開に、クラウドは呆気にとられている。 しかしそんなクラウドにはお構いなしで、ザックスは握手などを求めてきた。 それは二人が「友達」になる、始まりの形式といえた。 ゆっくりと、少し躊躇いながらも手を差し出したクラウドに、ザックスはやはり笑ってこう言った。 「よろしくな、サボリ君」
お互いにね、そう心で言いながらクラウドも笑顔になった。
END
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