Berry with Love
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ザックスがクラウドを連れ出したのは、もう寒い時期だった。 いつもトレーニングをしているから神羅の兵士の面々は大体、薄着が多い。それでも少し肌寒くてクラウドがもう一枚を着込んだその日、よりにもよってザックスはこう提案したのである。 「ちょっと山、行こうぜ」 その言葉に、クラウドは「は!?」と言うしかなかった。唖然として口は塞がらないまま。 「山…って。登山…って訳じゃないよね」 まさか、と思ってそう突っ込むように言うと、さすがのザックスも「違うって!」と反論した。 それはそうだろう。もう寒いのに、しかも普通の一日であるその日に登山家でもないのに、そんなことはするはずない。 ザックスはすっきりした笑顔を見せながら、 「勿論、車で行くから」 と言った。どうやらちゃんと道がある山らしい。 とにかくクラウドは曖昧に返事をして、その日のスケジュールを頭の中で確認した。午後は予定が無いから、問題は無いかな、などと思う。 結局、やや強引めにザックスに引きずられるようにして、クラウドはその山とやらに連れていかれることになった。
ほぼ任務用に使われるその車を運転しながら、ザックスは終始笑顔だった。 そこは山というには語弊がある気もしたが、確かに斜面の急カーブが際限なく繰り返されている様を見ると、山といっても間違いではないのかもしれない。 標高が上がるにつれ空気が薄くなり、クラウドは耳までおかしくなってくる。 「うわあ…キーンってする、キーンって」 耳を押さえながらそんなことをいうクラウドに、ザックスは笑う。 「まだまだ上だぞ?」 「酸素足りないよ…」 クラウドの言葉に、大丈夫だって、とザックスは返し、かなりの余裕で急カーブをくねくねと曲がる。 運転そのものは上手いし、怖いと感じることも無いが、どうもスピードが速い。 「ザックス、スピード出しすぎじゃない?」 「そうか?」 「そうだよ」 「怖いか?」 「…ううん、別に」 「そうか」 そんなやりとりをしつつ、結局はそのハイスピードを保ったままに車はかなり高いところまでを進んだ。 クラウドは助手席に座りながらも、さっぱり意味が分からなかった。 確かにどこか出かけるというのは普通だとしても、何でいきなりこんな場所までやってきたのだろうか。 この先に何があるとも思えなくて、クラウドはただ首を傾げた。 ザックスは時々思いついたように行動することがあったから、今回もそんなものなのだろうと、取りあえずは強引に考えを終了させる。 何処に何をしに行こうが、問題はザックスと共にいるということの方が大きかった。 大体時間はそんなに合うわけでもない。そんな中で少しずつ時間を合わせて、二人の時間というものを何とかして作ってきたのだ。 だからクラウドにとってはこうしてたまに出かける二人の時間はとても大切でもあった。
二十分ほど経ったと思われる頃、ようやく車は停まった。 頂上といえるかどうかは良く分からなかったが、広場のようになっていて、ちゃんと人が遊びに来れるような状態になっているらしい。 辺りは木々に囲まれていて、その上には空が広がっている。正に自然という感じがした。 クラウドは初めて来る場所で、その雰囲気に辺りをキョロキョロと見回す。 そんな様子を見ながら車のキーを抜いたザックスは、すっとクラウドに近寄るとその手をとった。 「クラウド、来いよ」 その広場のような場所からは、また少し小さな階段があって、ザックスはそこに向かっている。まだ上があるのかな、とクラウドは疑問に思いつつもその手にひかれて付いていった。 階段は本当に些細なもので、二十段程度で終わっている。それを一段一段上りながら、クラウドはそっと先を行くザックスの背中を見つめた。 ただでさえ肌寒い日なのに、更に寒い場所。 そんな中で、繋いでいる手は何だかとても暖かくて。 思わずクラウドは、ザックスと繋いだ手をギュッと握り締めた。 「ん?」 それに気付いたのか、ザックスが振り返る。どうした、と言いたげな顔だったが、クラウドはそれに対して微笑み返しただけだった。 そうこうしてるうちに二十段程度の階段を上りきると、そこにはまた広場のような場所が広がっていた。しかし今度はベンチなどがあって、くつろげるようになっている。 それを見回しながら、クラウドは声を上げた。 「こんなとこ、知らなかった」 少し得意げな顔でザックスはそれに返答する。 「だろう?…ま、神羅の中にいたらまず、来ないよな」 そう言ったザックスは、ふとポケットの中に手を入れると、その中で何やらゴソゴソとやりだした。 そして、ある物を取り出す。 それを目にして、クラウドは不思議そうな顔をした。 「何それ?」 「これか?これはな、鍵」 「…見れば分かるよ。でも何で鍵なの?」 ザックスの手の中にあったのは正に鍵だった。しかもそれは部屋の鍵とかそういったものではない。形を見てすぐそれと分かる、いわゆる南京錠だったのである。 普段そんなものは使わないし、そんなものを持つ理由すらない。なのにザックスがそれを持っている意味が、クラウドには分からなかった。 しかもこんな時に。 ザックスはその錠を手の中で転がしながら、 「これにはな、ちゃんと理由があるんだ」 とクラウドを見つめながら言った。それから、「あれを見てみろよ」と、ふと右の方向を指差す。その動きに少し遅れてクラウドが指差された方向に目をやると、そこには。 「あっ…!」 鍵、だった。 無数の、鍵。 それは大木の枝にびっしりとかけられていて、小さいものもあれば大きいものもある。まるで木の実か何かのように鍵がぶら下がっているのだ。 一種異様な風景にも見えたが、それは何だか不思議な感覚をクラウドに起こさせた。 「俺達もかけよう」 そう言ってザックスは、手の中の鍵をクラウドに手渡す。 まじまじと鍵を見つめながら、やがてクラウドはザックスに視線を移した。 「何で木に鍵をつけるの?」 そう聞いたクラウドに、ザックスは少し照れたようにこう言った。 「伝説がな、あるんだ」 「伝説?」 「そう。一緒に鍵をつけると――――――」
“一緒に鍵をつけると、ずっと一緒にいられる”
大木の枝の部分にしっかりと鍵をつけたクラウドは、そうした後にザックスに寄り添った。 空気は冷たく、風も冷たい。 その中で、ザックスの腕だけが温かかった。 「寒いか?」 気にしてそう聞いてくるザックスに、クラウドは首を横に振って、そんなこと無いよ、と返す。 それから、小さくこう呟く。 「ずっと一緒にいよう」 その呟きに返ってくる言葉は無かった。 ただ、クラウドを包む力がほんの少し強くなった気がした。
END
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