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セフィロスは、記録の中では死んでいるはずだった。

しかし、各々の意識の中では生きている。

そして今、目の前に横たわるセフィロスは、多分―――――“生きていた”。

なぜならば、誰かがそれをセフィロスと感知し、その人を意識したから。

 

誰かがその人を“生きている”と思ったその時から、その人物は“生きている”のだ。

 

意識が、その人間の精神を、存在を、その人だと証明づけるのだ。

 

 

「そうだ、クラウド。体などどうとでもなるのだ。――ザックス、お前も分かるだろう?お前がお前だと、どうやって証明する?その体でか?そうじゃない、お前の意識こそがお前の証明をしたんだろう」

“セフィロス”の声が、ザックスへと延びる。

突然やってきたその核心的な問いに、ザックスは思わず言葉を詰まらせた。それは、ザックスにとっては生々しい事実を持った言葉だったから。

自分を証明すること。その難しさ。

ザックスはそれを身をもって体験している。

「お前ならもっと理解できるはずだ。例えば、そう、何故お前が生きているのか……その理由もな」

「理由?生きてる、理由?」

それはつまり、“何故目覚めたか”?という疑問への答えなのだろうか。

自分の真実を知りたい。その気持ちは変わらないが、こうしていざ核心めいた部分に差し掛かると、どうにも鼓動が速くなる。

ザックスはそれを感じながら、ごくり、と唾を飲み込んだ。

がしかし、その話の流れを折るように、ヴィンセントが言葉を発する。それはわざとのようにも感じられるタイミングで。

「悪いが話を戻させてもらおう。さっきお前は永遠の命ということを口にした。セフィロス―――いや、ジェム。お前がその研究に携わっていたとなれば、本来、この時代にあのような外観で生きているはずがない。今のお前の外観は…セフィロス。しかしそれ以前の、つまり私達が眼にしていたあのジェムの外観も、恐らくが誰か別人のものということか?」

「ふん、そこに眼をつけたか」

くく、と低く笑ったのは、セフィロスの声をしたジェム。

ジェムは、鋭い指摘をしたヴィンセントを言葉の上で褒めると、それが正しいということを口にした。

「―――そう、私はジェム。魂の保存、永遠の命、私は私の体でもそれを利用した。だから私は今ここに在る」

ジェムという人物。

それは、ザックスの意識からスタートした、元神羅の科学者という人物。

誰もジェムそのものを知る者はおらず、初めてその人をその人だと認識したザックスによって、ジェム像というのは定着していった。

しかし実際は、違う。違ったのだ。

それらの会話を受け、クラウドがザックスを見やる。ザックスも同じようにクラウドを見やっており、そこには共通した認識があるようだった。言葉に出さずとも、言いたいことは分かる。それは勿論、ジェムのことだ。

――――そう、ジェムの自宅と思われるあの場に出向いた時。

あの社宅には、誰もジェムを知る者はいなかったのだ。あの社宅の、あの一室の住人は、ジェムではなくエイクスという人物。

つまり、“ジェムという人間は、元々は生きていなかったはず”なのだ。

しかし、彼は生きている。

そこに彼の意識があり、誰かがそれをジェムだと認識することで、彼が生きているのだ。

「体なんてどうとでもなる…ってことは。ジェム、あんたは…」

クラウドがそう切り出すと、ジェムは特に否定することもなく頷いた。

「ああ、そうだ。お前の想像通りだ。私は私を保つために、容れ物を必要としていた。ある工務店のエイクスという男の身体を借り、私は蘇った。しかしあの身体はいまいち耐性が足りなかった。魔晄中毒に犯されてもいたしな。私には強靭な容れ物が必要だったのだ。だからこそ…」

だからこそ、セフィロス。

この強靭な身体が必要だった。

しかしその身体はジェムが思うよりもずっと強靭だったらしい。

それはジェムにとって予想外の展開に他ならなかった。そしてジェムの予定外は、そもそもザックスの存在それも同様だったのである。

「ザックス」

呼ばれて、ザックスはセフィロスの顔を見やった。

その顔は昔見たままの碧の眼をして、いかにも精悍な様子である。

「お前は、どうして生きていると思う?」

「ど…どうして、って。そりゃ」

それは――――――――――、どうしてなのだろう?

何故、と問われてその答えなど浮かばない。

そもそも、ザックスのような特殊な場合を除いたとしたって、何故生きているなどという問いには答えにくいものだ。まるで哲学の領域じゃないか。

戸惑っているザックスをそのままに、セフィロスは次の言葉を並べた。

「あの瞬間、お前は予定通りに目覚めたと思うか?」

“お疲れ様、ザックス君”

「もしあれを予定通りだとするなら、お前は自主的に眠りについたことになる。お前にその記憶は?そもそも…ふふ、目覚めの瞬間には何も着けていなかったな?」

「そっ!そりゃ、俺だって驚いたっての!」

「じゃあお前はあの状況をどう思っていた?自然だと?それとも不自然だと?」

「そ…れは…」

―――――――不自然だ。どう考えたって。

ザックスは心の中でその続きを呟いた。

それはもはや口に出さずとも、誰もがそう感じていることだろう。だって、“ザックス”は“皆の記憶の中で死んでいた”のだ。それなのに、自分は“生きていた”。

―――――――いや。

生きていたのか?

それともあれは…………人為的に、“生かされた”…?

「俺は…」

ザックスは目覚めたあの日のことをもう一度思い返していた。

あの日以降の出来ごとの方があまりにも濃くて、ともすればその記憶も曖昧になってしまいそうだったが、それでも必死に手繰り寄せる。そして思いだせるところまで思い出してみるが、やはり目覚めの瞬間のあの様子に変わりはない。

確かにあのとき、突然、目覚めたのだ。

死んだことも覚えていない。

覚えているのは、セフィロスと対峙したところまで。そしてその次の記憶は既にジェムとの対面だった。

「…ザックス、覚えているか?あの時お前にはこう言ったはずだ。“お前は二つの実験に関わっている”と。一つは宝条の実験。そしてもう一つは私達のタブーな実験。私達の実験に関わっているということは――――もう大体、察しはついただろう?」

ジェム達が行っていた実験とはどういうものだったか?

それは今さっきまざまざと語られていたではないか。そう、以前だって聞いて知っていたはずなのに。それなのに、今ようやくその事に辿りたいた。そう、つまりその実験に関わったということは―――…。

「じゃあ……俺、も?」

つまり―――――――――“魂の保存”を?

ドクン。

心臓がひと際高く鳴り響いた。

胸騒ぎが止まらない。突然せりあがってきた脂汗が額をじんわりと滲ませる。

ドクン。

ドクン。

鼓動が早まる。

ドクン。

ドクン。

ドクン。

「そういえばお前には謎があったな。私はこの部屋で作業をする間も、お前の記憶の誤差について考えていた。それはずっと私にとって疑問でもあったが、もしかするとお前は――――リンクを間違えたのかもしれない」

「リンク?」

ザックスがそう聞き返すのと同時に、一同が眉根をひそめた。

リンクを間違えた。

それは聞き慣れない語句だったが、しかしともかく何か不可解な感のする物言いである。

そんな不穏な雰囲気の中で、更なる一言が発せられた。

 

 

「お前は―――――“404”だった」

 

 

404”。

その、単なる数字三ケタに、一同は表情を曇らせた。

何なんだ、それは?

その数字は?

まるで暗号のような――――――いや、しかしそれは。

404とは…エラー…か?」

探るように、そんな言葉が落とされる。それはツォンの口から。

どういう意味かと問いたげな顔をしているザックスに気付いたのか、ツォンはザックスの方に向き直ると、

「ウェブでのエラーだ。クライアントの要求に応えられない場合に返される。Not foundということだ」

「平たく言ったら、リンク先のページが無いぞ、みたいな感じ」

ツォンの言葉についてレノが補足をする。

それを聞いてザックスは少し納得をしたが、しかしそのエラーが自分に対して言われていることだと思うと、あんまり深く納得はできなかった。だって、一体何がエラーだというのか。そもそもリンクとはどういうことか。ツォンやレノが口にしているのは、あくまでウェブの、つまりヴァーチャルの世界のことではないか。

自分はそんなものとは関係がない。

だって自分は生身の人間なのだから――――――…、

 

――――――――“生身の”?

 

ふと、その言葉を反芻して、ザックスはゾッ、とした。

一体何を考えているのだ、自分は。

当然のことなのに、どうして一瞬それに疑問を持ってしまったのか。しかし、一瞬感じた疑念は、恐ろしいほどに奇妙な後味を連れてくる。

ドクン。

ドクン。

また、鼓動が早まった。

 

 

 

 

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