Travel Trouble
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私の目に留まったのは、クラウドの隣にちょこんと置いてある一冊の本だった。本というか、雑誌だろうか? とにかくそれをふと見る。 『激安!厳選宿〜二人で過ごす安らぎ旅館100選〜』 ……何だそりゃ? 「おい、クラウド。何だ、この雑誌は?」 私が聞くとクラウドは、ああ、とにっこり笑いながら、ジャ〜ン、という効果音つきでその雑誌をかざした。 そして雑誌タイトルをそのまま言ってくる。…そんなものは見ればすぐ分かるぞ、クラウド。 「お前、何か企んでるのか?」 「ちっちっちっ。企みじゃな〜い!計画だよ、ケイカク」 「はあ…なるほど」 ものは言いよう…か。 とにかくその雑誌タイトルから推測するに、クラウドはどこか旅館に行こうと思っているらしい。しかも普通の旅館でなく、激安の上、厳選100に選ばれる、しかも二人で過ごす安らぎ旅館ときたもんだ。 「見てくれよ、ここ!」 そう言って嬉しそうに付箋なんかを貼ってあるページを広げる。 なになに……“極楽亭”? “ツインルームは広々!カラオケ付、プレステ付。サウナ・ジャグジー完備。勿論、コスチューム貸出可!” コ、コスチューム…!? ま、まさかそれはセーラー服だとか黒エナメル素材の服だとか、あわや網タ●ツだとか、そういうグロイ類の物ではあるまいな!? 私は思わずページに食い入った。 と、クラウドが小突いてくる。 「ヴィンセント。何見てんだよ!こっちだよ、こっち!」 そう言ってクラウドは反対側のページを指差す。良く見ると、私が見ていたページからは“ラブラブ!二人で過ごす熱い夜。厳選ラブホテル・30選!”だった。 何と! 私としたことが早まったか。私は急いで頭の中から、セーラー服と黒エナメル服と網タ●ツを消した。 良く見ると、クラウドがチェックしてるらしい宿は、ちょっと小奇麗な和風旅館だった。雑誌のコメントには“広々快適!海の幸・山の幸を取り揃えた料亭風の食事と、夜景が一望できる屋外の混浴風呂が◎。安らぎのひとときに最適!”などと書いてある。ふむふむ、なるほど。 ――――ん? 混浴!? いかん、それはいかん!というか露天風呂など言語道断もっての他だ。 「クラウド。そこは良くない」 私がきっぱりそう言うと、クラウドはいかにもというように不貞腐れた。 「えー何で?良いじゃん、露天風呂だぜ?熱燗なんかクイッとやりながら風呂、入れんだよ?」 「馬鹿者。アルコールが入った後に風呂に入ると、血行が良くなり体内のアルコール分が早く回るので麻痺が助長され、本来ならそれは良くな……」 「ムード無いなあ…」 「うっ……」 私は真実を述べたまでなのに、反対に萎縮する結果に陥った。しかし問題はそこではない。そう、問題は混浴というところにあるのだ。 「お前、そんな事言って本当は混浴が目的なんじゃ…」 こう見えてクラウドは結構モテるのだ。どこかの婦女子がきゃあきゃあ言わぬとも限らない。 それは困る、非常に困るのだ。 そんなふうに疑う私に、クラウドは「あ!」と何か気付いたように声を上げる。…嫌な予感…。 「ヴィンセント〜妬いてるんでしょ?」 ニヤニヤ笑いながら私の鳩尾を小突いてくる。そりゃそうだと言ってやりたかったが、それも何だか癪というか何というか…である。 「知るか、馬鹿」 そう言う私に、ふふっとクラウドは笑った。…お見通しらしい。 それから身を摺り寄せてくると、その雑誌のお目当て旅館の欄を指差して、こんなふうに言う。 「ちゃんと見てよ。ほら、ココ。時間帯で貸し切りOKって書いてあるだろ?」 「あ、なるほど…」 「俺がそんなことするわけないだろ。折角二人で行くのにさ」 そう言ってクラウドは笑っていたが、良く考えると私はまだ行くとも行かぬとも言ってないわけで、クラウドの中ではもう既に行くということになっているらしい。 何という早業…。 「でもクラウド。そんなとこに行ってどうするつもりだ」 「え?だから二人でゆっくり…」 「しかし今だって別に二人だし…」 「あ…そういえば」 訪ねて来る者もいない二人暮らしなのだから、別に何もわざわざそんな所に行かずとも状況は同じなのだ。とはいっても、クラウドの気持ちが分からないでもない。何せ旅行というものは普段と違う感覚になるものだ。 ――――ん? 普段に不満があるのか…!? 「クラウド…まさかお前…何か私に言いたい事があったり…」 「え。何も無いよ?」 「そうか…」 私はホッとした。 「そりゃあさ、俺が500ギル貯金しててこの間10万ギル貯まったとか、それで遊んでてヴィンセントへの連絡忘れてたとか、ヴィンセントの大事にしてる鉢植えぶっ壊して物置に入れっぱなしとか、この前の卵の賞味期限が切れてたとか…とても言えないけどさあ…」 「……」 そうだったのかっ。 私とクラウドで水当番をしているサボテン、通称サボサボ君がどこかに消えたと思っていたら…そんな事になっていたとは。 …何だか続々と出てきそうだな、クラウドの奴…。 そう思いつつ「もうそれは良い」と私は言った。済んでしまったものは仕方無い。 ―――で、問題を元に戻すと、その旅館だ。それが問題だ。 本気で行く気なのか、という私に、クラウドは「勿論!」と嬉しそうに言う。とてもじゃないが反対できそうにない。 仕方無い、たまには二人きりで旅行でも行ってみるか。 「分かった。じゃあ予約はお前に任せる」 「おう!任せとけって!」 私の了承を得たことでクラウドは張り切りだした。すぐさま、何を持っていこうだとか、おやつは何ギルまでだとかいう話になり、すっかり旅行気分になる。 私としては“ラブラブ!二人で過ごす熱い夜。厳選ラブホテル・30選!”でも良かったが…。とか何とかいうと人格が疑われそうだ。しかし…コスチューム…ふっ、まあ良い。 「やっぱさー、二泊三日以上は必要だよな。一泊って落ち着かないし。なあ?」 「ああ、そうだな」 「なんなら一ヶ月とかでも良いよな!」 「ああ、そうだな。………は?」 ウィークリーマンションじゃないんだぞ、クラウド…。 さすがに一ヶ月は違うだろう。まあクラウドと二人きりだし苦にはならんと思うが、その間、他の鉢植えも気になるしな。 そんなやりとりをしつつ、結局日程は三泊四日に決まる。 旅館:やすらぎ亭で、食事は海の幸・山の幸を頬張り、夜は露天風呂(私の意見で貸し切りのみ可)に入る。そしてその後…まあそこは割愛するとしよう。ともかく“それ”×3だ。 ×3!! …ああ、何と言う日々だろう。さすが金は天下の回り物というだけあるな。 「じゃあ俺、連絡する!」 そう言ってクラウドは電話を手に取る。旅館に予約を入れる為だ。何と言っても厳選100に載る旅館なのだから、それはもう要予約だろう。素泊まりとはワケが違う。 私もいつの間にかクラウドにつられてウキウキしていた。何があるという訳でもないが、そこそこ楽しめそうだ。 予約はストライフで取るのだろうか、それともヴァレンタインの方か? ようこそいらっしゃいましたなどと言って女将が出てきた日には、あらお友達同士でご旅行ですのね、という言葉にフッとニヒルな笑みを漏らして“いいえ。これは伴侶です”などと言ってのける勇姿を思い浮かべながら、私はクラウドを見ていた。 しかし、どうだ。 その顔は、どうも芳しくない。 どうしたのだろうと思い私がその旨を聞くと、クラウドは、 「通じないんだ」 と困った顔をした。 「何だ、貸してみろ」 私が確認しつつ、もう一度その旅館に電話してみると、ちゃんとプルルルという音が聞こえた。 きっと間違えていたのだろう。 「かかったぞ」 「マジ!?」 俄か笑顔を取り戻すクラウドに、私も思わず笑んでしまった。 暫くして繋がった電話に、私は意気揚々と予約するべく声を出した。 「あ、もしもし。すまないが予約を――――」 が、しかし。 『こちらミッドガル電話局です。おかけになった電話は現在、使われておりません』 ―――――――なに…? そのキャピキャピしたガイダンスに私は固まった。 まさかそんなことは、あるはず無い。 ちゃんと番号は声にまで出して確認したのだ。 そんな馬鹿な! しかし私の隣で「あっ!」と叫んだクラウドによって、真相は明らかになった。
「この雑誌……発行……五年前だ………」 「………」
私とクラウドは黙ったまま固まってしまったのだった。
電話のツーツーという音が……。 かなり……空しかった………。
END
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