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「“旅に出るから無理”、って…」 「――――――何?」 「…だからその…旅に出るから、って……言っちゃった」 「……」 ―――――――旅だと!!? 何だその展開は!!? 私は大いに焦った。旅だなんて言ったらどういう展開になるか分かったものじゃない。ティファのことだ、絶対に此処を探し出して尋ねてくるだろう。そうしたときに、もしもまだ此処に住んでいたら全ての嘘が明らかになってしまうではないか。 一体全体どうしろというのだ!? 私は大いに焦っていたが、どうやらそれはクラウドにもしっかり伝わっていたらしい。 「ご、ごめん!本当にごめん!そう言っちゃった後、やばいって思ったけど…もう修正も利かなくて…その…」 「な、なんだ…まだ何か言ったのか…?」 ある意味ビクリとして私はそう聞く。 するとクラウドの口からはこんな言葉が漏れた。それは、明らかに弱気な口調だったが。 「今回のセブンスヘブン行きで、もう会えないからって…最後だって言った」 「な…に…!?」 「…ごめん!実はさ、そんなこと言っちゃったから、スーツケース買ったんだ。旅に出るっていうのが尤もらしく感じられるかなって思って…」 ――――私は、呆然とするしかなかった。
その話を聞いてから、私は再度セブンスヘブン行きの荷物を検討することにした。 ともかくそう言ってしまったものは仕方無い。 私とクラウドはあの後暫し相談をし、ある決断をしたのだ。 ティファが此処にやってきてしまったらば最後、やはり此処は離れてしまう方が良いのではないか、と。それはクラウドにしてみれば突然の提案で、ただの旅行程度のものが大脱走になったくらいの差だったろうと思う。しかしまあ、住む場所はこの先何とでもなるだろうしな。それも悪くはないというものだ。 そういう結論に至って、私とクラウドは、言葉通りセブンスヘブン行きを最後にこの場から去ることを決意した。つまり、セブンスヘブン行きの時点で大切なものは全て持っていくということだ。何しろもう此処には帰ってこないのだから。 こうなってみると荷物の検討にはひどく困る。 一旦は詰めた荷物を再度取り出して、これも必要、これも必要、と更に荷物がかさんでいく。もう帰ってこないのだと思うと家中を探ることになり、そこで発見した物体にもいちいち迷ってしまうぐらいだ。 そうして色々なものを検討していると、荷物は山のように増えていった。 軽いものから重いものまで…何しろ沢山ある。 旅行用バックか何かを急遽購入して入れ込もうと思ったが、しかしそれでは返って不審を仰ぐことになろう。1泊だけなのに何故この荷物なのかとティファが不審に思うのは目に見えている。 いっそ、関係を明らかにしてしまえば良いのでは―――――そんなことすら過ぎった。 しかしそれでは今までのクラウドが嘘つきになってしまうだろうし、それは名誉のために出来れば伏せておくのが良いだろう。それに、世の中には知らぬ方が綺麗に思い出にできることもある。これなどは正にそれだろうが。 私は散々荷物を取り出した後、山のようになったその荷物を前にして小一時間ほど頭を捻った。 さて…この荷物をどうするか。それが問題だ。 全部持っていくわけにはいかない。しかしもう此処には帰ってこないのだと思うと持っていかねばならないように思う。しかしこんな大荷物を?…いや、無理だ。 私はそんな中で相当考えたが、結局最後には完結な答えを出した。
少しばかりのギルと、クラウドから貰ったスーツケース。 ただ、それだけを持っていこう――――と。
出立の日、私の隣にはスーツケースを持ったクラウドの姿があった。 私はそれを見て、 「クラウド。もう此処には帰ってこないんだぞ。それだけで良いのか?」 そう聞いた。どうもクラウドの荷物は最初の時点と何ら変わりがないように見える。 そんな私の勘は当っていたらしく、クラウドは笑ってこう答えた。 「うん、これだけで十分。だってこれは宝箱だ。前にも言ったろ?」 「しかし、お前は言ったではないか。旅に出るというのが尤もらしく見えるようにスーツケースを買ったんだと」 私がそう指摘すると、クラウドは少し困った顔をして「ごめん」と言う。 しかしその後に「でも」などと続けると、少し笑顔を明るいものに変化させた。 「でも、本当に宝箱なんだ。ティファにああ言った手前っていうのはあるけど…でも本当に宝箱。俺はそう思ってる」 「宝箱か…」 私はクラウドのスーツケースをチラと見遣って、今迄疑問に思ってきたことをとうとう口にした。それは、その宝箱の中身が何かということである。 とうとうその疑問を口にした私に、クラウドはきょとんとしていた。 しかしすぐに笑うと、突然、手にしていたスーツケースをパカッと開けたりする。 するとそこには――――――…。 「…これが、宝…なのか?」 私は、目に映った光景に驚いてそんなことを口にした。 多分、大方の人間は私と同じ反応を示すことだろうと思う。 何しろその中身は―――――――――空っぽだったからだ。 宝箱の中身は、空っぽ。これはどういうことだろうか。要するに、大切なものなど何もないと、そういうことなのだろうか。 私はそんなことを思っていたが、どうやらその解釈は違っていたらしく、それはクラウドの口から自然と語られた。 クラウドは、言う。 「宝物なんてそんなに沢山要らないって分かったんだ。沢山詰めようと思ったけど良く考えると詰めるものなんて大して無いんだよな。このスーツケース一つでだってやっていけるんだって、分かった」 そう言って笑ったクラウドを見て、私はふと自分のスーツケースを見遣った。それはクラウドがくれたスーツケースで、クラウドからすれば私の宝箱だ。 私はふとその中身を考えた。 多少のギルは入っているが、その中身は……クラウドと変わりが無い。 「ヴィンセントこそ、良くそれで足りたよな」 ふとそんなふうに声をかけられ、私は顔を上げてクラウドを見遣った。 しかしそうした瞬間、手にしていたスーツケースをグイとクラウドに引っ張られ、私は「おい」と少し焦ったりする。別段見られて悪いというわけではないが、何となく気がひけたのだ。 そんな私をよそにクラウドは、ヴィンセントの宝物は?なんて言いながら勝手にスーツケースを開けたりする。…全く、人の宝箱を勝手に開ける奴があるか? そう思ったが、私は悪くない気分だった。 何しろ、目前のクラウドは私のスーツケースの中身を見て驚いたような顔をしたのだから。 「え…ヴィンセント、これって…」 クラウドが驚いてそう口にしたのを見て、私はすっと微笑んだ。 「お前は言ったじゃないか。宝物はそれほど必要がないのだと」 「そうだけど…」 …悪くないな、こういうものは。 何となくそんなふうに思う。 私とクラウドのスーツケースの中身は共に空っぽで、何も入っていない。 そこには宝箱の意味など無かっただろうが、私はそれでも構わないような気がした。 多少のギルと、スーツケース。 たったそれだけで…そうだな、クラウドの言った通りかもしれない。それだけで、多分やってはいけるのだろう。まあ元はといえばクラウドの言い訳から始まったことだとはいえ、この場所を離れてもやってはいけるのだ。このスーツケースを手にして。 「…へへ。何だか良いな、こういうのって」 クラウドは少し笑ってそのスーツケースをパタンと閉めると、そっと私にそれを返してきた。私はそれを受け取り手にすると、そうだな、と一つ頷く。 「そろそろ行った方が良いだろう。ティファが心待ちにしてるぞ」 私は時間を思ってそんな事を口にすると、先に一歩を踏み出した。 クラウドはその後ろから、一歩を踏み出す。 とうとうこれで此処ともお別れだが、さして切ない気分にはならなかった。もしかするとそれは、空のスーツケースを手にしているからだろうか。中身の無い宝箱を手にしているから、こんなにもサッパリとできるのだろうか。 そんなことを思ったが、少しして私はそれが間違いだと気付いた。 …いや、間違いというより、少し足りないというべきか? 「手、繋いでも良いかな」 「ああ」 ふっとクラウドが繋いできた手は、スーツケースを手にしていない方の私の手を占有した。それは少し暖かく感じる。 クラウドのもう一方の手にはスーツケースがあり、私のもう一方の手にもスーツケースがある。それは共に空だが、内容は十分だったろう。何せ、もう一方の手には正に宝があるのだからな。 「なあ、ヴィンセント。この宝箱、少し小さかったかな?」 ふとクラウドがそんなことを言ってきたものだから、私は思わず笑ってしまった。 まあ…そうとも言えるのか? しかし宝箱の中に詰め込むには、どうもこの宝は大きすぎるようだが。
ティファには悪いが、やはりこの宝は譲れそうにない。 だから私とクラウドは、その日を境に音信不通になった。 いってみれば行方不明というやつか…まあこう言うと微妙だな。 だが、それも悪くは無いだろう。
片手には宝箱がある。 片手には宝物がある。 それだけで、多分、歩いてはいけるのだろうから。
END
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