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SUITCASE -------------------------------------------------
スーツケースを買ったんだ。 ある日クラウドはそんな事を言ってきた。 スーツケースなんて…一体何に使うのかもさっぱり想像できない。私にしてみれば、どこかに旅行にでも出かけるのかという感じだ。 だが、どうやらそういう意味ではなかったらしい。 そもそもそういう予定もないし、クラウド自体今の暮らしにはそこそこ満足しているはずだから、それもまあ頷けるというところだろうが。 しかし、そういう意味ではない理由は頷けるとはいえ、買った理由が頷けない。 何しろクラウドはこんな事を言うのだ。 「これ、俺の宝箱だから」 …意味が分からない。 宝箱がスーツケースだなど、聞いたことがない。 まあ感性といえば感性なのだろうが、それにしても変わった奴だと思う。 クラウドは、笑ってそのスーツケースを叩くと、私に向かって更にこう言った。 「今度、ヴィンセントの分も買ってきてあげるよ」 ―――――別に必要ないのだが…私はそれを断れなかった。
数日経って、クラウドは私用のスーツケースとやらを購入してきた。 それは表面の硬い黒革のスーツケースで、そこそこの大きさをしている。多分、クラウドが持っているものと同じくらいだろう。 クラウドはそれを私に寄越すと、じゃあこれはヴィンセントの宝箱、などと訳の分からないことを言った。別に宝箱にせずとも良いのではないかと思ったが、まあそこはクラウドの気持ちを配慮して口をつぐんでおく。 ともかくそうして私用のスーツケース…もとい宝箱が出来たわけだが、私は特別そこに何かを入れるということはしなかった。何しろ入れるものがない。例えば普段使用しているものを此処に入れるとしても、そんなことをすれば取り出すのに手間がかかってしまう。 だから私のスーツケースの中身は、その日以降も依然空っぽの状態だった。 ただしクラウドのスーツケースは何かが入っているらしく、クラウドはたまにそれをパカッとやっていたりする。一体何が入っているのだろうか。…少し気になるが。 しかし私は特別それを聞くことはせずにいた。 勿論、覗きもしない。…さすがにそれはできないだろう。 まあともかくそんな具合にスーツケースは日常の中にあったわけだが、少なくとも私にとっては実用的ではなかった。がしかし、そんなスーツケースもとうとう実用的に活用できる時がやってきたのだ。 それは、一本の連絡で。
その連絡がやってきた時、クラウドは少し嬉しそうにしていた。 「なあ、行くだろ。ヴィンセント?」 「ん?…ああ、別に構わないが」 私はクラウドの言葉にそう返答する。 クラウドは私の受け答えに少々不満らしく、何だよそのヤル気のない声!、などと拗ねたように言ったものだが、そう言われても困る。何せ本心なのだ。 その連絡とは――――――ティファからのものだった。 ティファは現在ではセブンスヘブンを再開させていて、女身一人で頑張っているようだ。さすがだと思う。しかしその評価とは別に、私としては少し微妙な点があって、実のところセブンスヘブンに行くのはあまり…芳しくない。 それは他でもなくクラウドの事だ。 クラウドは気付いているのだろうか? 何だよそのヤル気のない声!、なんて言うが、私がヤル気満々でセブンスヘブンに出向いたらそれこそオカシイではないか。何しろクラウドは私と共にいるのだ。そしてティファはそんなクラウドを必死に止めていたという過去がある。…そう、そんな過去があるのだ。 クラウドはそれに気付いているのかいないのか嬉しそうに準備などを始めているが、私としては少々憂鬱だった。 セブンスヘブン…はあ…。 ティファに何を言われることか…まあ少しは覚悟しておくか…。 まわし蹴り…くらいは覚悟しておくのが良い…だろうな。 私はそんな憂鬱を連れながらも、セブンスヘブン行きの用意を始めた。因みに1泊二日というからまあそれなりの準備が伴う。 何を持っていくか、そう思いながら私は、隣で準備に励んでいたクラウドを見遣った。するとクラウドは、なにやらスーツケースをパカッと開けているところだった。 「クラウド、そのスーツケースで行くのか?」 「え?」 私の言葉を背中で受けたクラウドは、声に反応して振り返ると、笑って「そうだよ」などと言った。その顔ときたらやたらと嬉しそうだ。 「ヴィンセントもこれで行くだろ?まあ1泊だから大したものも要らないだろうし」 「ああ、まあな。しかし…お前、そのスーツケースは宝箱だとか言っていなかったか?」 確かそう言っていたはずだ。 ということは、クラウドは宝箱を持ってセブンスヘブンに行くということか。…まあ別に構わないが。 私がそんなことを思っていると、クラウドはやはりにこりと笑ってこう言った。 「だからだよ。だから持ってくんだ。宝物はいつも一緒じゃないと」 「そ、そうか…」 分からないでもないが、返答に困るというかなんというか…。 しかし私には良く分からなかった。大体クラウドのスーツケースには何が入っているというのだ?宝箱なのだからやはりそういったものが入っているのだろうが、それにしてもクラウドが金銀財宝などその中に入れるとは思えない。というかまずそんなものは持っていないだろうが。 そう思うと、何だか私はその中身が気になってきた。 一体何が宝物なのだろう? 私も見たことがないクラウドの宝物とは…一体なんだろうか? そう思って、私はクラウドのスーツケースの中身をのぞき見ようとした。 …が。 「さーて!終了!」 「……」 なんということかクラウドはスーツケースをパタンと閉めたではないか…! …少し悔しい。 まあ仕方あるまい。そもそもがクラウドのものなのだ、それを知ろうという方が愚かだったのだ…ふっ。 私はそれでも少しだけ「ちぇ」と心の中で残念がると、そんなことなど微塵も思っていないふうにクラウドにこう言った。 「セブンスヘブンに行きが、随分楽しみなようだな」 これは私にとっての大きな疑問だ。 「うん、まあな!だって久々だし…それにティファには一度会わないといけないなって思ってたから」 「会わないといけない?」 何だそれは? 私はピクリと反応してすかさずそう聞いた。それはさすがに聞き捨てならない。 何せクラウドはティファに散々「セブンスヘブンで一緒にやっていこうよ」とか何とか言われていた身なのだ。それを何とか柔和に丸め込んでこうして此処にいるというのに、一度会わなくてはというのはどういう事か。 私の考えが外れていなければ、多分ティファは今もまだクラウド奪還を狙っていることだろう。そうに違いない。何せ今回の連絡も、私と話す時間が1分だったというのにクラウドと話す時間はゆうに一時間を越えていた。…奪還だ、いや、もう絶対にそれだ。 私は僅か興奮気味になっていたらしく、無意識にクラウドを睨んでいた。 別にクラウドが憎いとかそういうわけではない、単にクラウドを見据えたままに表情が硬くなったからそういう構図になっただけだ。 しかし目前のクラウドはそんな私の表情を見て少し困った顔をすると、 「やだな、ヴィンセント。そんな怒るなよ」 などと言った。 いや、別に私は怒っているわけではない、と反論しようとしたが、そうする前にクラウドが次の言葉を放ってきたりする。 「でもヴィンセントの気持ちも分かるよ。そうだよな、俺だってヴィンセントの立場だったら絶対に怒る!」 「いや、私はそういう…」 「良いんだヴィンセント!言い訳なんて良いよ!俺、すごく嬉しいし!」 「いやだから、そうではなく…」 「ごめんな!俺、ちょっと不器用だからさ…でも嬉しいよ。そんなふうに嫉妬してくれるヴィンセントが好きだよ」 「いや、その…」 私は完全にペースを失っていた。というか喋る隙が無かった。 クラウドは何故だかやたらと照れて、ごめん、とか、俺って幸せ者だよな、とか言っている。私としてはそういう展開にするつもりは無かったのだが…まあこれも仕方あるまい。ある意味このようなことは日常茶飯事だ。 私はそう解決すると、ともかく話題の軌道修正をした。 そう…今はそんな事を言っているのではなかった、話題といえば「何故ティファと一度会わなければならないのか」だったのだから。 私がそこに話を戻すと、クラウドは、そうそう、などと言いながら話の続きを始めた。 「実は…ほら、前に俺、誘われてただろ?」 「ああ、セブンスヘブンを一緒に…というアレか」 そう言うと、クラウドは一つ頷いてそうだと言う。 「あの時はヴィンセントと一緒に断って何とか纏まったけど…実はその後にも何度か言われてたんだ」 「何!?」 まさかそんな事があったとは…! 私はそんなことはさっぱり知らなかった。 今回の1泊の件でティファがクラウド奪還を狙っていることは確実だと思ったが、それ以前にもそんな動きがあったとは…さすがは侮れん。 しかしそう感心しているわけにもいかないだろう、何せこれでは奪還作戦は確実ということだ。要するにティファは諦めていないのだ。…まあ分からないでもない。何せそうだ、私とクラウドで断ったあの時は、あまりにも柔和だった。 そう―――――ティファは、私達の関係のことを知らない。 実際こうこうでこういう関係だと言ってしまえば簡単だったのだろうが、さすがにそれは胃が痛むというものだ。あまりのショックにティファが世を儚まないとも限らない。そんなわけだから私とクラウドはあの時、尤もらしい理由をティファに述べたわけだが…それというのが「二人部屋だから一緒に住むことにした」だった。 そう言った時ティファは、契約を一人部屋に変えれば良いと、これまた尤もらしいことを述べてきたりしたが、私とクラウドはそれを必死に「二人じゃないと契約できなかったんだ」とか「その方が安い」だとか「今更契約変更したら殺される」だとか言って止めたのだ。実に涙ぐましい努力だった。 それでやっとティファはクラウドのことを諦めたわけだが…どうやら続きがあるらしい。 「実はあの後何回か連絡が来ててさ、その都度言い訳してたんだ」 クラウドは困ったふうに笑うと、事情を説明してきた。 クラウドの言うことによれば、ティファは、そろそろ契約が切れる頃でしょう、と痛いところをついてきたらしい。そこでクラウドが、一生涯契約なんだと破天荒なことを口にすれば事態は変わったかもしれない が、実際の契約期間が本当にその辺りだった事でさすがにクラウドは焦ったようだ。 そこでまたクラウドは新たな言い訳をすることになったわけだが、それというのが… 「俺…言っちゃったんだよ。“店には向かないから”って」 「店には向かない…って」 「だってティファが言ったんだ。契約切れたなら一緒に店をやろうって。だから…」 まあ確かにそれも分かるが…。 しかしクラウドの言うことによれば、それでもティファは強かったらしい。 「それで暫く収まったけど、今度はこう言うんだよ。店に出なくも良いから来ないかって。店番として人も雇ったし、俺は裏にいるだけで良いって。だから俺、困って…」 「で、今度は何を言ったんだ?」 ここには絶対言い訳が入るはずだ。 そう分かって、私はその当りをクラウドに聞いた。 すると。
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