|
忍ぶ愛 ---------------------------------------
忍ぶ愛というのは難しい。 想い合っていると大体、視線やら言動にそういう雰囲気が出てしまうもので、これは忍ぶ愛を実践している二人にとっては誠非常にネックだった。 というわけだから、反対に無視など決め込んでみる。 というか、気付かれたらマズイ!という気持ちが、そういう明らかにおかしい態度を作ってしまうのだ。 これも考えものであることは言うまでもない。 ―――――――で。 ここにもそんなジレンマを抱える二人がいた。
「―――――ねえ。何で5m離れてるの?」 ティファがそう言ったにも無理はない。 ティファの目前で同じ荷物を抱えている二人は、何故だか5m間隔を開けて左右に歩いている。 二人はつい今しがた道具屋に行ってエーテルやらをしこたま買い込んできた後だったが、どう考えても明らかにおかしい態度だった。 「だって…男が二人くっ付いてたら気持ち悪いだろ?」 クラウドはティファにそう言う。 「その通りだ」 ヴィンセントも憮然としてそう言う。 しかし仲間なんだから、男が二人くっ付いてたらおかしいとか何とか言ってる場合じゃないだろうとティファは首を傾げざるを得なかった。 しかしこの二人、思えばオカシイのはコレだけではない。 他の仲間とは笑顔で話すのに、こと二人の会話になると一気に表情が険しくなるのである。 「ヴィンセント。そこのソース取ってくれよ」 すっごく険しい顔をしてクラウドがそう言えば、 「ああ」 と、すっごく睨んだ顔でヴィンセントが言う。 しかし会話の内容こそめちゃくちゃ他愛ない。そのギャップといえばエベレストの如く、これは他の仲間も首を傾げざるを得ないという感じである。 そんな具合のことが続いたから仲間は、“この二人はきっと仲が悪いに違いない”、と思い始めていた。しかし今は仲間なのだから、好き嫌いで判断されても困るし、調和が乱れるなんてとんでもない話である。 だから、どうにかしてこの二人を上手いこと仲良くさせる方法は無いものかと皆は考え始めたのだった。 ―――――――しかし…勿論そんなのは嘘八百の姿である。 何故ってクラウドとヴィンセントというのは実のところ忍ぶ愛を実践しているのであって、仲が悪いだなんてとんでもない話なのだ。仲が良いとか悪いとかの問題ではない、何せ好き合っているのだから。 しかしそんな雰囲気のまま仲間の中に入ってしまったら絶対ヤバイ―――――そう思う心が、逆に険悪なムードを仕立て上げる。これは勿論作り物だったが、仲間の眼からすれば完璧なものだった。とはいえ、ワザとやっているわけではなかったのだけれど。 そんな具合に、二人の間にあるものと、皆の目に映る二人とではギャップが生まれていき、それはとうとう面倒なことへと発展するのだった。
「ねえねえ、私たちちょっと買い物行くから、二人でお留守番しててくれる?」 にっこりしたティファがそう言ったとき、クラウドとヴィンセントは内心とても喜んだ。 お留守番と言っても宿屋の部屋に入るわけではないから、要は二人で待っていてくれという意味である。だから、まったくの二人きりというわけではない。 しかしティファが言う“皆”とは二人以外の全員であるらしいから、まあ顔見知りの中では“二人きり”だろう。 クラウドは一瞬笑顔で「分かった」と語尾にハートマークまで付けて答えそうになったが、はっと我に返り、厳しい顔をした。 いかん――――――――――喜んでなどいたら…!! 「やだよ。何でよりによってヴィンセントなんかと二人で待たなきゃいけないんだよ」 ともすればベロンと落ちそうなほっぺの筋肉をピシャリと引き締めそう言ったクラウドに続き、ヴィンセントも無表情ながらこめかみに怒りマークを浮かび立たせる。 「その通りだ。誰がこんな我侭男なんかと一緒にいられるものか」 「我侭だと!?そっちこそ人間じゃないくせに!」 「ふん。関係ないな」 バチッと散る火花を呆れ顔で見遣ったティファは、困ったように腕組みをし、それでもこう言う。 「ちょっと二人とも!大人げないわよ。良いじゃない、ちょっとの間なんだから。少しは仲良くやれるでしょう?」 「やれるか!」 「やれん!」 ――――――――答えは同時…すさまじい。 しかしその答えを聞いても尚、ティファはこう念を押した。 「良い?お願いね、二人とも」 トドメの一言という具合にそう言い残して去っていったティファ――――その後姿を眺めながら未だに二人は顔を背け合っている。 しかしその実、心の中では「二人きりだ」という事に喜びすら感じていた。 が、表面上此処でニヤニヤしていることもできず、やっぱり顔は険しいまま……何ともアンバランスである。 同じ方向、丁度ティファが去っていった方向を眺めたままの二人は、目だけをお互いの方向に移動させアイコンタクトを取る。それから、口を動かさずに言葉を発する。まるで腹話術師並だ。 『―――――行ったな』 『ああ…』 ともすればニヤけてしまいそうな頬をグッと引き締めて、二人は腹話術を続ける。…最早プロ並だ。 『しかしクラウド、これはどうにかならんものなのか?折角二人きりだというのにマトモに顔も合わせらせん』 『俺も同じこと考えてたよ。…でも俺、気ィ緩んだら絶対ヤバイ言葉とか言っちゃいそうだし…』 『ティファはもう行ったが?』 『甘いって、ヴィンセント』 そう言ってキョロキョロと視線を動かしたクラウドは、それをまだヴィンセントの方に戻すと、ブスッした表情のまま、こう忠告をした。 『ティファの目的は俺達を仲良くさせる事だ。買出しなんて口実で、絶対俺達のコトどっかから見てるぜ――――』 そのクラウドの予想は正しかった。 確かにティファの目的も、それどころかその他の仲間の目的もそれに違いない。 だから、こうして二人だけの時間を増やせば、あるいは仲良くなるかもしれないだとか思っているのだ。そしてそれを心配する身としては、見守らないわけがない。 もし此処で迂闊にはしゃぎでもしたら、喜ぶというかあまりにも急すぎて反対に怪しまれるコトうけあいだ。 しかもクラウドは自分で自覚している。気が緩んだらヤバイ事を口走りそうだ、と。 その部分を自重すれば良いのではないか?、というヴィンセントの疑問は、クラウドの「無理無理」という一言に押されて消えていくのであった…。 さて、一方それを見守る軍団はどうであろうか? 『おかしいわ…クラウドもヴィンセントもそっぽを向いたままね』 『そらそーだろ。何せ仲悪いんだから』 『やっぱ無謀だったかしら』 見守る軍団はそんな事を話し合っていた。どうやら彼らは未だ本当の二人に気付いていないらしい。 これは実のところ辛い以外の何物でもなかったが、どうしても二人を仲良くさせたくて仕方無い一行は、これまた強硬手段を決意するのだった。
それはその日の夜のこと。 今日の宿で一泊となったとき、またもやティファはこう言ったものである。 「はい、クラウド」 そうニコニコ顔のティファの手渡されたものは、簡易的な鍵だった。どうやら普通の宿とは違い、此処ではホテル並にキーが預けられるらしい。 「ああ、ありがと」 そう言ってそのキーを受け取ったクラウドだったが、しかしティファの手にもキーがある事を知って「あれ?」という顔をする。 「ティファ。何部屋、取ったんだ?」 「ん?2部屋よ。最大6人しか入れないって言うから」 「ふうん…」 なるほど。ならば男性陣と女性陣とで2部屋だろう。ということは女性陣はティファとユフィだけだから、それはもう快適に決まってる。ってか、羨ましい。 クラウドはバレットが入っていく部屋へと無言で付いて行った。そしてそのまま一緒にその部屋に入ろうとしたのだが――――――――。 が。 「あ、クラウド。違うわよ!」 「へ?」 「クラウドの部屋はそっちよ、そっち」 そう言ってティファが指し示した部屋は、バレットが入っていった部屋の隣だった。 しかし、バレットと別室ということは、男性陣と女性陣で分かれるのではないのだろうか? はて?―――――――――そう思ってクラウドが首を傾げると、ティファはニッコリ笑ってこう言った。 「一晩、頭突き合わせて和解してよね」 ―――――――――同室、ヴィンセントに決定…!!! クラウドは内心、「ラッキ〜!!!」と踊っていた。もしかしたら喜びのあまりそれはリンボーダンスだったかもしれない。 まあともかくこれほど好都合なことは無いだろう、何せ密室で二人きりコースである。クラウドはともすれば落っこちそうなほっぺをギュムッと結んで、表面上、「えー、そんなの嫌だ」と言わんばかりの表情 をして、 「あっそう」 とだけ返した。
|