ルール

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ヴィンセントとクラウドの愛の巣に人がやって来ることは珍しいことだった。

大体は二人きりでさっぱり生活しているものだから、二人はあまり客人というものに慣れていない。適当に生活を進めている中に客人となれば、慣れてもいない振る舞いをしなくてはならないし、ともかく疲れることは確かである。

しかし、たまにこうして客人はやってくる。

しかも今回それは、ヴィンセントの知り合いという人間であった。

クラウドはなるべくいつもの調子を抜いて“他人用”の振る舞いをしなくてはならず、実はこれは結構に大変なことであった。

しかしこの日の場合はもっともっと大変なことがあったのである。

 

 

 

「クラウド、飲み物を出してくれるか」

そう言われたので、クラウドは仕方なく鳴れない手つきなどで茶とかいうものを淹れた。

ウータイに帰ったユフィが土産品だとか言って一方的に送りつけてきた、ユフィ曰く高級茶葉を使って、こぽこぽと湯を入れる。

しかし、その時クラウドの耳にこんな言葉が聞こえた。

「お前は良くやってくれている。感心してるんだ」

それはヴィンセントの声である。声は良いとしてもその内容が問題……だってそれは、いわゆる褒め言葉という奴だ。

「…ったく。ヴィンセントのアホっ!」

小さな声でそう呟いたクラウドは、高級茶を二つ入れ終えると、しばらくそれを見つめて何やら考え込み、それから何を思ったかニヤリと笑った。―――――企みである。

さっそくその企みを実行したクラウドは、サクッとその二つの茶を手にすると、るんるん気分ツーステップでそれらを二人の前に差し出した。

高級茶…香り立つにほひ。

「お待たせいたしました」

そう言ってにっこり笑ったクラウドは正に天使の如く。もう心底客人を喜んでいるかのような雰囲気である。

「悪いな」

そう返して笑ったヴィンセントに、クラウドはにこにこして“とんでもない”などと口にしたが、その実心の中では“本当に悪いぜ!”と思っていた。何せこの家、愛の巣である。折角邪魔者のいない場所で二人きりの生活ができると思っていたのに、こうして客人が来ると大体その日一日は潰れてしまう。それがクラウドの休日だった日には最悪……クラウドの怒りはマックス、その不機嫌さは大体一週間は尾を引くのだった。

そして運悪くその日は丁度クラウドの休日だったりしたわけで、これはもう大変。

はっきり言ってクラウドは心中噴火していた。

それはともかくとして、クラウドの出したその茶は、上手い具合に高級茶として二人に認識されている。

「すみません」

そう言って頭を垂れたヴィンセントの客人は、ほんわか笑いながらその茶を手に取った。

そして、口に持っていく。

しめしめ…そう思いながら見ていたクラウドの前でその客は派手に口に含んだ茶を噴出した。

「ぶッ!!」

それを見てクラウドは笑いをかみ殺し、ヴィンセントの方は相当焦った。…言うまでもない。

「どうしたんだ!?」

驚いたヴィンセントがそう声をかけると、その客人はゴホゴホと咳き込みながら蒼褪めた顔で笑う。…かなり無理がある表情である。

「い、いや…何ていうか、僕はあんまり高価な茶を飲んだこと無いもので。こういう味だとは知らず…すみません」

律儀にそう謝ったりする客人にヴィンセントは「そうか」などと言って首を傾げる。そんなに不味い茶だったろうか、などと思いながら。

その隣でクラウドはほくそえんでいたが、これは二人には気付かれず済んでしまった。とはいえ、気付かれたとしてもクラウドにとっては大した事ではなかったけれど。

さて、その茶のあと、何かつまみを出そうかなどとクラウドは考えた。考えた後にヴィンセントの耳に小声でその提案をすると、ヴィンセントは「気がきくな」などと言って笑ったものだから、クラウドは相当嬉しくなって、美味しいつまみを作ろうと決心した次第である。

が、しかし――――――世の中そんなに上手くいくわけがない。

さてじゃあ腕は無いけど一応よりをかけて作成開始と思ったころ、正にクラウドにとって悲劇が起こった。

そう…また何か聞こえたのである。

「私が信用しているのはお前だけだ。冷静に物事を判断できなくては話にならんからな」

――――――その瞬間、クラウドの中ではマグマが爆発した。雷が鳴った。地震が起こった。震度7、マグニチュード4くらいの勢いで地面は亀裂を起こした。それどころか氷河期が訪れそうな感じだった。

クラウド、超がつくほどご立腹……である。

喧嘩を売ってるのか、ヴィンセントの奴!―――というのがクラウドの心中だった。何故かといえば、過去二人で生活してきた中で、大失態を起こしたクラウドは「信用できない」だのと言われていたし、トラブルに弱かったクラウドはそういう場面に出くわす度に「注意力散漫」だの「落ち着いて判断しろ」だのと言われてきたからである。

つまり聞こえてきた言葉はとてつもなく、自分とは正反対の人間を褒めている内容だったのだ。

噴火…いや大噴火中のクラウドは、何となく考えていたメニューを止めて、さっと予定変更、ある物体を取り出した。

取り出したるは――――――「さしすせそ」。

そう、調味料の皆さんである。

そして油。

何だか良く分からないままクラウドはそれらの物体を全部取り出すと、片っ端から大きな鍋に突っ込んだ。しかも加えて、豆板醤も入れてみる。

「具は何が良い…」

そうだ、具が必要だ。

というか普通、具が先だ。

ギラギラと光る目で冷蔵庫をサクッと開けてその中をチェック―――が、悲しいことにその中に入っていたのは、ヴィンセントの朝食用ヨーグルトだけだった。そういえば今日は休みだから買い物にでも行くかと思っていたんだったか。

しかし!―――クラウドは躊躇うことなく、そのヨーグルトを鍋に投げ込んだ。

グツグツ…

いかにも――――――――――――デンジャラス。

超がつくほど危険な香り。

「匂いがヤバイか…仕方無い」

そう思って、以前ティファがくれた、ケーキ作成用のバニラエッセンスがどこかにあったと思い出し、それを3、4振りしてみる。

―――――――――甘い香り、加わる。

おどろおどろしい色をした、赤黒い、しかし酸っぱくて辛くて、甘い匂いの物体は、鍋の中で着々と加熱されていった。

そんなことをして、数時間……。

ヴィンセントに言った“つまみ”とやらは出来上がった。しかしそれは“つまみ”とはいっても食べ物ではなかったが、飲み物にも分類できないシロモノである。

それが出来上がったホクホクしたクラウドは、見栄えだけは良いようにと綺麗な皿に盛り、それからフランス料理的盛り付けとして何かを振りかけてみようと考えた。

しかし残念なことにパセリなどというものはない。

―――――――――という訳で。

「ま、いっか」

仕方なくクラウドは、台所の脇に置いてあった、マリンから貰った花の葉っぱをまるまる一枚、皿の上にはらりと落とした。

――――――――涙ぐましい……作品の完成、である。

その作品もといつまみが客人に届けられたのは、それから数分後のことであった。スープにしちゃった、などと笑って差し出した皿の中の液体はおどろおどろしく、しかし客人は、「何です、このグロイ物体!?」とも突っ込めず、とてつもなくチャレンジャーなことにそれを飲んだのだが、茶同様、すぐさまマッハの勢いで噴出したのは言うまでもないことだった。

――――――話によると、その後その客人は腹をこわしたとか……ご愁傷様…。

 

 

 

そんな休日を過ごしたクラウドは、客人撃退ができて少し機嫌が良かった。が、ヴィンセントが怒っていたのは当然、何せそれはヴィンセントの客人だったのだから。

「お前という奴は…どうしてあんなことをしたんだ」

珍しく怒りオーラを発生させているヴィンセントに向かって、クラウドはすんなりと回答したりする。

「だって今日は休日だぜ?何で俺とヴィンセントの間にあーいうのが来るんだよ。そっちの方がオカシイ!」

確かにクラウドの気持ちは分かるが、だからといってそれは一日で済むものだから少し我慢すれば良いだけの話だし、それにいくら何でも変テコ料理を出すのなんてオカシイ話である。大体ヴィンセントの客人は、新しい仕事の仲間だったし、そこから考えればとても重要なことだったのに。

そういう事を理解できないクラウドに、ヴィンセントはさすがにちょっとイライラする。

「あのな、クラウド。客は一日、お前とはずっと。一緒にいる時間は随分と違うだろうが。少し我慢というものを…」

「嫌だ」

さっくり、クラウドの回答。

人これを我侭と称す…。

「嫌だとか言うな!大体、客といってもティファ達ならお前も普通にしてるじゃないか」

ティファやバレットたちが客人としてやってくる時のクラウドは、普段と同じようにしているし、トラブルも特におこさない。料理の腕が良いわけではないが、かといって危険なものなど作らなかった。

そう―――――つまりクラウドは、ヴィンセントの客人というのが、あまり好きではなかったのである。

何故かといえば、ヴィンセントは……。

「当然だろ。ティファ達とは別に慣れてるし……問題はヴィンセントだっ!」

「…は!?」

「だってヴィンセントは客に向かって、すぐ褒めるじゃないか。デキるだとか信じてるだとか……あいつら目いっぱい褒められてて、俺には一言も無いなんてケチだっ!」

「なっ…ケ、ケチって……」

そういう問題ではなかったが、クラウドにとってはそういう問題だった。とにかく自分よりヴィンセントの感心、信頼を得ているようなその客人達がどうしても許せなかったのである。

クラウドとは特別な間柄だから省略されている部分があるのかもしれない、と思ったりもしたが、何度か今日のような会話を聞いていたら、何だかやっぱり嫌な感じがしてきたクラウドである。家の中の仕事は分担制でやっているし、頑張っていることは色々あるのに。

それでもヴィンセントは、そんなクラウドに特に何も言わなかった。

そんな訳で、とっても単純なことに、クラウドは少しでもそんな類の言葉というのを望んでいたのである。しかしそれは客人が来ると今日のような具合になり、結果、更に悪化ということが多かった。

「俺は頑張ってる!」

でん、とそう言ってのけたクラウドに、ヴィンセントは呆然としつつもこう言った。

「…お前。子供じゃあるまいし何を言ってるんだ。そんなに褒められたいのか?」

クラウドはその言葉に、自信満々胸をはってこう答えた。

「褒められたい!っていうか関心持って欲しいよな、もっと!」

「あ…ああ、そうか…??」

良く分からないことに自信を持っているクラウドに少し焦りつつ、ヴィンセントは怒る気力すら失くして口を動かす。

クラウドはごく真面目にそう答えているようだったし、どうやらそれを満たさねば、また客人がえらい目にあうようだ。

まあ確かに――――――褒めるなんてことは、そうそうした事がないように思う。

しかしそれは、そういう次元を超えているといっても良かったからであって、別に関心が無いとか信頼が無いという意味ではない。

関心があるからこそ一緒にいるのだし、信頼しているからこそ言葉は少ない。

しかしどうやらそれを示さなければ、クラウドは駄目らしかった。

そんな訳で。

「一日一誉!ウチの規則にします、今日から!」

「何っ!?」

クラウドは勝手にそんな規則を作り出した。

しかも、しまいにはこんな事まで…。

「一日一誉、一日一キス、一日一H!!」

「おいおいっ」

何でそこまで飛躍する!?と突っ込みたくなるヴィンセントの隣で、クラウドはニッと笑っていた。

 

そんなこんなで二人の愛の巣ルール、制定。

“一日一誉、一日一キス、一日一H”

――――――――――これがちゃんと続いていくかどうかは……不明。

 

 

 

因みにその日の夕食は、クラウドが客人に出した奇妙なスープ(もどき)だったが、あまりのマズさにルール制定のその日は、身体をおかしくして守るどころでは無かった二人であった。

 

 

 

END

 

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