RADIUS of 1m.

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「ヴィンセント、何でいつもこうなんだよ?」

ある日俺はとうとう、ヴィンセントにそれを聞いた。

比較的何でも言い合ってきた俺達だけど、俺、それだけは今迄ヴィンセントに聞けなかったんだ。

だから今日俺がこれを聞いたことは、凄いことだったんだろうと思う。

それが何かっていうと―――――――――…。

半径1メートル。

これだ。

俺がヴィンセントに問いただしたいのは、この半径1メートルだ。

何でか知らないけどヴィンセントは、道を歩くとき半径1メートル以内に俺を入れてくれない。何でだよって思う。だって仮にも俺達は恋人だろう?

それなのに半径1メートルは酷い。酷すぎる。

俺はいつも通り半径1メートルを開けたその距離で、もう一度同じ言葉を繰り返して、酷いだろ、と付け加えた。

するとヴィンセントは何ともないように俺に言った。

「私がそうしたいからだ」

何だそりゃ?

 

 

 

俺は今、ヴィンセントの家に一週間だけ遊びにきている。

元々俺達は別個に住んでいるんだけど、俺の方は再開したセブンスヘブンに下宿している身だから、早々長いことは居られない。だから出来る限りの最大期間で、俺はこうしてヴィンセントの家に遊びにくるようになっていた。

ヴィンセントはそれに対して別に何も言わないし、それが普通だと思っているみたいだ。それでもヴィンセントの方からセブンスヘブンに顔を出さないのは何だかフェアじゃないななんて思うけど…まあそれは仕方無い。

だって――――――惚れた弱みだから。

元々俺がヴィンセントに執着して始まった関係だから、そこは俺も強制はできない。ヴィンセントが受け入れてくれるだけでも喜ばなくちゃって、そう思う。

だけどそういう関係がそこそこ続くとやっぱりそれなりに疑問だって出てくるわけで、その疑問の一つが例の半径1メートルだった。ここまでの期間、関係が続いてきたってことはヴィンセントだって俺を好きでいてくれているはずなのに、それってば少しおかしいと思う。いや、訂正。すっごくおかしいと思う。

だから俺は、この大きな疑問について必死に考えた。

日中ヴィンセントが言ってた言葉を思い出しながら、帰ったヴィンセントの家で必死に考えた。

「私がそうしたいからだ、って…言ってたよな」

俺はその言葉を反復してから、ううむ、と唸る。

ってことは、だ。じゃあ何でそうしたいのかってコトになる。でもそれを考えると、どうしたって答えは憂鬱そのものだ。

だって、半径1メートルを開けるってことは側にいるなって事と一緒だろう。そうすると俺は、恋人なのにヴィンセントに近寄っちゃいけないって事で…それは何だか、世間に対して「ただの友達です」って公言してるみたいだ。

つまりアレだ、そう思われたくないってことだ。

俺はそこまで考えが行き着くと、何だか無性に腹が立った。

だってそれじゃあんまりにも俺が救われないっていうか、何だか認められてないみたいじゃないか。たまに声をかけてくる女の子だってヴィンセントと俺が連れだってことも理解しないままそうしてくるもんだから、ヴィンセントだけに妙に群がる。…って、これは男としてちょっと悔しいけど…。

とにかくそんな事は絶対許せない。許して良い筈が無い。

だって俺達は恋人同士なんだから、それはちゃんと認めて欲しい。

俺はそう思うが早いか、ツカツカとヴィンセントの部屋へと向かった。

そう、このヴィンセントの家も実は結構謎だ。だって俺が遊びに来る時は決まって一つの部屋を用意してくれる。それはある意味嬉しいんだけど、普通恋人同士だったら同じ部屋に二人っていうのもアリだろうって思う。それなのにヴィンセントは当然のように俺に一つの部屋をまるまる提供してくれるんだ。

俺はそんな事にまで腹を立てながら、ヴィンセントの部屋のドアをガラッと開けた。

「話がある!」

俺は道場破りか何かみたいにそう声を張り上げてその中に足を踏み入れる。

と、ヴィンセントは驚いたように俺を見遣った。

「クラウド?」

「話があるんだ、ヴィンセント」

「話…?何だ」

一瞬だけ驚いた顔をしていたヴィンセントは、その次の瞬間には普通の表情に戻っていた。その素早さといったら無い。俺がこんなに怒鳴り込んできたんだから、もっとリアクションが欲しかったんだけどな…。

俺は一瞬そう気落ちしたけど、すぐに心を引き締めると、ヴィンセントに向かってこう切り出した。

「昼の話の続きだけど!…やっぱり俺は納得できない!」

「昼の話?…ああ、あのことか」

ヴィンセントはその話題が例の半径1メートルの事だと悟ってそう口にした。そうするヴィンセントはすごく冷静で、何だか勝手に腹を立てている俺の方がバカみたいな感じだ。

そういう事にまたもや腹立たしくなった俺は、これはもう一気にヴィンセントを攻めようと大口を開けた。それは勿論、叫ぶ体勢を整えての大口だ。

でも。

「まあそこに座れ。落ち着いて話をしよう」

「あ。…はあ、まあ」

ヴィンセントの一言に開いた口をどうして良いか分からなくなった俺は、結局そんな言葉を漏らして、その言葉に従った。…っていうか。もう既に形成逆転な気がするのは俺だけだろうか?

取りあえず落ち着いて話をしようと言ったからには、ちゃんと話は聞いてくれそうだ。それを思って俺は、近くにあったベットに腰掛けると一息を付く。勿論これは、これから討論する為の気合でもある。

俺とヴィンセントは、その部屋の中で暫らく向き合って黙ってた。

でも実際には向き合って黙ってるだけじゃ話は進まないわけで、俺はある程度の時間を見て、とうとう討論の火蓋を切って落とした。

そう…なんとしてもヴィンセントの腰を折る為に。

「俺。やっぱ納得いかないんだけど。何で俺はヴィンセントの隣を歩いちゃいけないんだよ」

俺がちょっと強めにそう切り出すと、ヴィンセントは俺をじっと見ながら、

「いけないとは言っていない。それに、多少距離が開いていようと隣は隣だろう」

そんなことを言ってきた。

ああ、もう!何でそう理屈っぽいんだよ!

俺は何だかじれったくなって、早々に叫びを上げ始める。

「隣って!あれじゃ隣じゃない!1メートルだぞ、1メートル。普通じゃないって!絶対!」

「普通じゃない?では、どういうのを普通と言うんだ」

「どういうのって…そりゃ。恋人同士だったらやっぱり、隙間なんて無くって…」

どういうのを、なんて聞くもんだから俺は一瞬どもってしまった。いざ、どういうのが普通かって言われると、いわゆる定義ってのは無いからちょっと困る。

でも世間では普通、恋人っていったら手を繋いだり腰なんかに手を回しちゃったりするもんじゃないのか?

でもさすがにそれは俺にも言えなかった。まさかこのヴィンセントに、手を繋ぎたいとかそんなふうには言えない。家ならそうしてくれるかもしれないけど、公衆の面前ではやっぱり…男同士ってのもあって、そんなことは無理強いできないから。

「で?納得できないということは、どうして欲しいというんだ」

俺がしどろもどろしてる内に、ヴィンセントはさっさと結論に向かってそう聞いてきたりする。

どうして欲しいかって、そんなの決まってるじゃないか。

「…だから。なるべく隙間無く歩きたいなー…とか。…思うんだけど、俺は」

「隙間無く、か」

「そう。隙間無く」

「ピッタリと?」

「そうそう。ピッタリと」

「どのくらいピッタリだ?」

「できれば半径5センチ以内」

「…肩がぶつかるだろう」

「良いんだよ、それで。何だったら半径6センチでも良いんだから」

大して変わらんだろう、とか何とか言いながら溜息をついたヴィンセントは、改めて俺を見ながら、それは無理だ、なんて言い出した。だもんだから俺は、今迄散々言ってきた言葉は何だったんだよ!と心で毒づきながら反論する。

「酷いぞ、ヴィンセント!何でそうなんだよ。良いじゃないか、ケチ!」

「ケチって…。だから言っただろう、私はあの距離が良いのだ」

「だーかーらー!何であの距離じゃないといけないんだよ!?」

俺はハッスルしながら、一番肝心な疑問を口にする。

そうだ。問題はそこだ。そこなんだ。

何でその距離が良いのかって、それが一番問題なんだよ。だってその理由がもしも俺の予想したものだったら俺、本当にやりきれない。

今こうして一緒にいるってこと自体が嘘になっちゃうんじゃないかって、そんな気にまでなってくるから。

俺はヴィンセントの回答を聞こうと、その顔をじっと見詰めてた。ヴィンセントはそんな俺をやっぱりじっと見詰めてる。それは見詰め合ってる状態で、大体こういう視線っていうのは余程良い時か余程悪い時しか起こらない。言ってみれば、好きだって光線を出してるときか、別れ話の時かってくらいの勢いだ。

で、それがどっちかって言えば―――――。

「――――――――クラウド。一つ言っておきたいことがある」

「何だよ」

「…今日は、お前がこの家にいる最後の日だ」

そう言われて俺は、はっとした。

そうだ、そういえばそうだった。最後といったって別にそれはもう一生会えないとかそういう意味じゃない。そうじゃなくて、例の一週間っていう期限の、今日は最後の日なんだ。

だから俺は明日にはセブンスヘブンに戻ることになる。そうしたら今度いつココに来れるかは分からない。勿論そんなに間隔が開くわけじゃないし、そういうスケジュールの調整は俺自身が出来るから良いんだけど。

でもそれでも、ひとまず今回の一週間は今日で終わりなんだ。

「その最後の日に、こう言い合いで終わるのは難だと思うのだが。どうだ?」

「…まあ、確かに」

それはいえてると思う。確かに…こういう最後の日は、もっと何ていうか――――…二人きりな雰囲気を堪能したいっていうか。

そんな事を言われた俺は、それ以上例のことについて口にできなくなった。例のことで討論するよりも、時間を考えると一緒にいることを重視するべきだって、そう思ってしまったから。でも良く考えるとそれって体よく話題を避けられただけのような気がしないでもないけど…。

「クラウド」

ヴィンセントはスッと俺に手を伸ばすと、頬をグッと引き寄せた。俺の頬は引き寄せられて、それに伴って身体をグイッと引かれる。

そして身体が引かれた先で俺は、ヴィンセントの罠にハマってた。

「う、…んっ」

やばい――――――討論するために来たのに、すっかりヴィンセントのペースだ…。

俺はそれがちょっと悔しかったけど、いきなりされたキスもすごく嬉しくて、とてもそこでそれを中断させて討論再開する気にはなれなかった。

だから、そのまんま身体を預ける。

 

 

 

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