prisoner of SIN

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突然呼び出されたその場で、ヴィンセントはその高い視点からクラウドを見ていた。

クラウドは相当真面目な顔をしている。そうして、はっきりした口調でこう言い放った。

「俺がいないと駄目だって…あんたに言わせてみせる、絶対に」

それにヴィンセントは何も答えなかったが、ただクラウドに見てふっと笑う。何となく感付いてはいたのだ、そんなふうな眼差しには。けれどそれは応えるべきことではなかったし、ヴィンセントにとってみればそういう情熱を彼には注げなかった。

「例えば…私がそう言ったとして、お前は私に何をしてくれるというんだ?」

少しして返された言葉に、クラウドは一瞬焦ったような顔つきになる。が、それを隠すように意気込んでこんな言葉を返した。

「そ…それは勿論。――――責任を持つ」

責任か、そう繰り返して笑うヴィンセントは、どことなく切ない顔つきをしている。何を意味しているのかは、勿論クラウドには分からなかった。

ただ、ヴィンセントの口から出る言葉は何となく重いような気はした。

「―――――人一人の責任を持つということは、そう軽いことではない」

そう、軽い事なんかではない。

時に過ちを犯し、それに対する罪を―――――償い続けるように。

軽くなど、ないのだ。

「分かってる」

響いたクラウドに声に、ヴィンセントが反応する。

クラウドの眼が示すのは、彼自身の強い意思だった。

「それでも俺はヴィンセントが好きだ」

「―――――――そうか」

そういう目が、いつか自分を捉えるのだろうか。そう思いながらヴィンセントは心の中に深く眠る過去へと迷い込んだ。

 

罪はどこにあるのだろうか。

もしかしたらそれは、あの組織に足を踏み入れたその瞬間から始まっていたのかもしれない。

 

 

 

クラウドがそうした宣言をしてから、もう既に七日ほどの時間が流れていた。

それでもヴィンセントからの回答は特には無く、その時に返された言葉だけがクラウドの中にはあった。とはいえ、その小難しい言葉を何だかんだと考えるよりも、クラウドにとっては単純な気持ちの方が余程大切なものだった。

「なあ、ヴィンセント。これ……」

「悪いが、他を当たってくれ」

「え、ちょっと―――――」

すっと自分の側を離れていくその姿を見て、クラウドは溜息を吐く。どうもあの日以降、ヴィンセントから避けられているような気がするのだ。とはいってもヴィンセント自体が元々そう誰かとべったりとする方ではないし、そんなに気にすることでもないのかもしれないけれど、それでもああ言ってしまった手前、それが気になって仕方無い。

今更取り消すこともできないし、勿論、取り消すつもりもないけれど。

そういう状況は何度も訪れ、クラウドはそれなりにジレンマとかストレスを溜めていった。

一体、どう思っているのだろうか。

とはいってもその答えを強制するわけにはいかない。ましてや強引に迫るわけにもいかない。

それはヴィンセントの過去を知ってしまった以上、できやしないことだった。

きっとあのときのヴィンセントの言葉には、そういう過去が含まれているに違いない。それでもそれを凌ぐ何か―――――そういう気持ちをもってすればどうにかなる。

そう思っていた。

思っていたのに……。

 

 

 

そんな日々が過ぎて、それでもクラウドは耐えていた。

何度避けられようが、ヴィンセントに話しかける。しかし結果は同じことで、正にそれは繰り返しだった。

それはどうやら、周囲にも目に見える様子までになってしまったらしい。

とうとう口を開いたのは、どういう訳かシドだった。

相変わらず煙草をプカプカふかしながらすっとヴィンセントに近付く。それから、少し低めにこう告げた。

「…なあ、お前さんよ」

「何だ」

「あーっと…その、よ。何かクラウドのこと、避けてねえか」

「…そうか?」

少し眉をしかめたヴィンセントに、シドは別の方向に顔を向けながらこんなことを言う。

「ま、別に俺様が口出すことじゃねえけどよ、何つーか…なあ。やっぱ仲違いっつーのはどうかなと思うぜ」

「別にそんなつもりはない」

きっぱりとしたその答えに、シドはそれでも不満そうだった。“そんなつもりはない”ようには見えない、そうとしか思えない。

けれどそれ以上言い争うのも難だなと思って口を噤む。何せ言ってる内容が内容である。それでまた自分も変に巻き込まれるのは御免だった。

「ま、良いんだけどよ」

結局そんな言葉を吐き出してシドはヴィンセントの側を去っていった。

それは少しヴィンセントの心に残る。

「…そうか…」

一人呟いて、ヴィンセントは苦笑した。まさか人にまで指摘されるほどとは思わなかった。実際、ヴィンセントとしては無視などをしてるつもりはない。避けているつもりもない。

けれど、どうにもクラウドの顔を見ると気恥ずかしくなる。

あんな台詞を真っ向から言われた身とすれば、それは仕方無いことだった。

多分、クラウドは普通に接しているだけなのだろうが、その自分に対する全ての言動があの言葉の延長上にあるような気がしてならないのだ。

それに―――――答える言葉。

それを探している。

 

 

 

罪は、どこにあるだろうか。

あの組織に足を踏み込んだときに始まったのか。

それとも――――――――――――彼女を、愛したときから?

 

 

想いは、伝わりはしないものだ。

えてしてそういうものだ。

いつからか、そう思うようにもなった。例えその想いが心からの本当の気持ちだったとしても、それが相手に伝わるのかどうかはまた別の問題である。

 

“今の私にできることは、これだから”

――――――そう、そうだったかもしれない。

 

彼女はきっと、彼女自身の信じる道を進んだだけだった。それは結果的に最悪の事態を招いたが、それでも彼女は、それが正しいことだと信じたのだ。

 

だとしたら――――この怒りや後悔は、何だろう…。

 

 

罪は、彼女の決断に対してではない。

止められなかったことにではない。

何故なら彼女自身がそこを選んだのだから。だから権利すらなかった。

止める権利など――――――最初から、無かった。

だから。

この怒り後悔も、本当は自分の想いに対してでしかないのだろう。

 

 

 

罪は、想いにある。

愛していると告げられなかった、この想いに。

 

 

 

数日経ち、ヴィンセントはクラウドの元を訪れた。まともに顔を合わせて話すのは、本当に久々である。

クラウドにとってそのヴィンセントとの対面は、少し緊張を伴うものだった。こうしてわざわざやってきたという事はやはり、答えを言いに来たということだろう。

その答えがどうであれ、クラウドにとってそれは、とても重要だった。

「お前には謝らなければいけないな」

まず最初にヴィンセントが口にしたのはそんな言葉だった。

「別に避けていたつもりは、無かったんだが」

けれど、何となく期待はしていた。

クラウドが諦めてくれれば良い――――そんな期待。

けれどクラウドはそんなふうにはしなかった。ひたすら話しかけてきていたし、その努力といったら凄いものだった。

なるほど、あれだけの言葉が吐けた訳だと思う。

「悪かったな」

最後にすっきりとそう言いったヴィンセントを、クラウドはただ見つめていた。

クラウドにとってはそれは、答えでも何でも無い。つまり、結果がどうであるかが分からない。

でもクラウドは、それを押しのけて、かの日の言葉を繰り返した。

「俺…責任持つって言ったよな」

「…ああ」

「あれ、本気だから」

真面目な顔つきでクラウドは強くそう言う。ヴィンセントはそれから目を逸らしはしなかった。

「俺…俺じゃ役不足かもしれないけどさ―――けど、俺だって人間の重みくらい分かってる」

「…ああ」

そうだな、そうヴィンセントは小さく返す。

確かにクラウドとて過去が無いわけではない。それなりの過去を背負って生きている。

そういう意味合いならば、共に行動する誰しもが一緒だった。

その質は違えど――――重みは、異なる訳ではない。

「だから、過去も、心の傷も全部―――――預けてくれよ」

「……」

はっきりそう言うクラウドに、ヴィンセントはすぐには何も答えないまま、考えていた。

それはとても重い言葉だと思う。

過去や心の傷。

それは誰しもが抱える核で、それを預けることは勿論、容易ではない。それでもクラウドはそう言うのだ。それを預けろと。

その重い言葉を言わせたのは、かつて自分も持っていた“想い”だった。

彼女はあの時、自分自身の選択をした。そしてそれを自分の罪としたのは、それがあったからである。

けれど―――――本当は、そうじゃない。

思いを告げる、その選択が出来なかった。それが、この心に鍵をかけた。

罪を償って生きる、その口実を作って。

必要なことは、本当はいつでも一つだったのだ。

今どうすべきか―――――それに素直に答えを出すこと。

本当の心のままに。

“今の私にできることは、これだから”

――――――そう、だから私に今、できることは……

 

 

多分、罪を罪から解放することだ。

 

 

「そうだな、クラウド」

少しした後に、ヴィンセントはそう言って笑いかけた。

その顔があまりに綺麗で、クラウドもそれに微笑み返す。

そしてクラウドは、残念ながら自分より少し背の高いその人に、そっと口付けた。

 

 

私に人間としての重みがあるのなら、

それがかつての罪より重いなら、

 

 

私はその想いにも応えられるだろう―――――――…。

 

 

 

END

 

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