クラウドはまずモアイに対して「まあまあ」と言いつつこう宥める。

「あのさ、ヴィ…この人は甘いものとか菓子とか駄目なんだ。俺は大好きなんだけどさ。だからまあココは俺に免じて落ち着いてくれよ」

何がどうクラウドに免じられるのかはかなり疑問だったが、クラウドはそれを言って「どうどう」とやる。

しかし残念ながらモアイはモアイでしかなかった。

ズモモモモ…と立ちはだかっている。実は最強。(?)

「駄目だわさ――――そこの金髪さんは良い。ウチに来るが良い。けど、そっちのネギは駄目だわさ」

「ネギではない!!」

袋の中のネギがピクッと反応する。…ハズは無かったが、ヴィンセントはそれに反論する。

しかしモアイは一向にプンプンとしながらズモモモモと立ちはだかっていて、怒りを鎮める気配など無かった。勿論、ヴィンセントの立入禁止を取り消すつもりもないらしい。

その二人の中間で、ヤバイ、どうしよう、と思ってアッチを向いたりコッチを向いたりしていたクラウドは、突然ガッと腕を掴まれて体勢を崩した。

「のわっ!!」

「クラウド――――帰るぞ」

モアイとの会話で怒ってしまったらしいヴィンセントは、クラウドをズルズルと引き摺って店外に出ようとする。

「わわわ…」

そうされる中、クラウドはその菓子軍隊をちょっと寂しげに見つめることをしなければならなかった。例の菓子はゲットしたとはいえ、まだまだ魅力的な菓子がわんさか…クラウドとしてはもうちょっと居たいというのが本音なわけで。

けれど、ヴィンセントの手前ソレは出来なかった。

「けっ。けーれけーれだわさっ」

モアイはヴィンセントに向かって、「い〜」などと歯を剥き出して言う。

けれどクラウドに対しては反対に、「また来るだわさ」と言った。

 

 

 

手の中に残っているのは、菓子数個。

クラウドは、それには敢えて手をつけず、取り敢えずのところ食事をしていた。

グツグツ…と音を立てているのは鍋である。男二人ということで季節に関わらずこういった大まかな料理が多い。買ってきた野菜をぶっ込むだけ、それで完成である。

そういう、ある意味では簡素といえる料理を食べながら、クラウドはチラリとヴィンセントを見遣った。

「……」

―――――――恐い…。

ヴィンセントは無言で食事をパクパクとやっている。いつもの2倍のスピードである。それはヴィンセントが怒っていることをハッキリ示していたが、クラウドにとってはヴィンセントが一体どういう部分に怒っているかという事が良く分からなかった。

菓子が好きなわけではないヴィンセントのこと、まさか立入禁止ということに怒っているわけではないだろう……でも、じゃあ何に?

そこがいまいち分からなかったが、とにかくあの菓子屋のことは禁句だろうなということだけは分かった。だから取り敢えずのところ、普通の会話をしたりする。

「今日のナベ……ネギ、美味いなっ」

「ネギ……?」

ピクッと、ヴィンセントが反応する。

それを察知してからクラウドは「しまったあああ!!!」と頭を抱えた。ネギは禁句だ、ネギは。

「な、何かさ…たまにはパーッと食いたいよなあ」

「パーッと……?」

「そうそう。こうしてナベ食った後に豪華デザートとかさっ」

「デザート…?」

ピクッ、ヴィンセントまたもや反応。

―――――――――しまったあああああ!!!!

クラウドは心の中で焦ると、いやいや違うんだ、と、一体何がどう違うんだか分からないまま否定し出した。

いかん…このままでは!

どうにか、いつも通りの和やかな雰囲気に戻さねば…そう思いクラウドはアレよコレよと思考を巡らせたが、どう考えても良い案が浮かばず、結果沈黙のままにナベタイムは終了した。

その後、片付けは良いから部屋に戻れと言われたクラウドは、その言葉通りに部屋に戻る。戻った部屋からヴィンセントが皿を洗っている音が聞こえて、それが何だかいつも通りで何となく安心したりした。……が。

ガシャーン……

「うっ」

ザ・破壊音。さらば皿よ。

――――――――やはり、その日のヴィンセントはお怒り気味であるらしかった…。

 

少ししてヴィンセントの気配が消えると、クラウドはやっとホッとすることができた。別にヴィンセントがいると落ち着かない、という訳ではない。そうじゃなくて、今日あの店を出てからお怒りのヴィンセントの隣でずっとドギマギしていたから、その緊張が解けてどっと安心に近い状態になったのである。

ヴィンセントは滅多なことでは怒らない。

なのに今日はそれが起こったから、何だか気が張っていたのだ、無意識の内に。

「変なの…そんなに菓子が嫌だったのかな?」

今やもう自室に戻っているだろうヴィンセントのことを考えて、クラウドはそんなふうに呟く。

呟いてから、思い出した。

そうだ、今日は例の菓子をゲットしてきたんじゃないか。今となっては激レアなその菓子…これを食べずして一日が終わろうか。否、終わらない。ってコトで。

「おお〜やっぱすげえ!!懐かしいな〜」

クラウドは激レアをサクッと取り出すと、まじまじと見詰める。子供の頃といったら、たった1ギルでさえ自分で買う事も出来なくて、買って貰えるか否かは正に激闘だった。いかにして大人をだま…いや、言いくるめるか…これがその日の菓子の運命を変えるのである。大スペクタクルである。…多分。

「しかしなあ…この菓子作ってるトコ、今でもまだあるのか…。一時期すっと消えたと思ったんだけどな」

そんな事を呟きつつ、パクリと一口。

口に広がる懐かしい味。

それは、クラウドをちょっぴり幸せな気分にさせ、更には自分の中のある規制をも緩和させたのだった。

 

 

 

その日以降クラウドはそりゃもう足繁くその菓子屋に通った。見たこともない菓子を大量購入しては抱えて帰り、そして家でむしゃむしゃと頬張った。

中には占い付きの菓子なんかもあって、たまに良いことが書いてあるとガッツポーズを作ったものである。因みに悪い結果のときはサクッと無視する。

で、そんな生活は勿論ヴィンセントには内緒だった。

ヴィンセントは立入禁止になっているから一緒に行っても店に入れないし、そもそもその話題こそタブーな気がしていたから。

そんな訳でその生活は、ちょっぴり秘密、であった。

しかし秘密というものは得てしてバレるものである。

しかも、只でさえ“分かり易い”なんて言われるクラウドのこと、はっきし言ってバレない訳が無かった。

そして、それが発覚したのはこんな時であった。

 

二人暮らし―――――勿論、それなりのことは起こる。

であるから、たまには良い雰囲気が必要である。その良い雰囲気は大概夜に起こり、それはクラウドがむしゃむしゃと菓子を満足そうに食べた後のことであった。

夕食もお菓子も食べて満足満点……そんなクラウドは幸せそのものである。

幸せついでにヴィンセントとも幸せになるべく、たまにその部屋に赴く。

例の菓子屋の件以来あんまり良いカンジになってないな、と思っていたのもその理由の一つだったかもしれない。

そういったことで自分の部屋とは別になっているその部屋へ赴くと、そこはいつもと変わらぬ様子のヴィンセントがいた。

「ヴィンセント…ちょっと良い?」

「ん?ああ」

本を読んでいたらしいヴィンセントは、クラウドの訪問によってその本をパタンと閉めた。それからクラウドに向き直ると「どうした?」と首を傾げる。

その様子は普通そのもので、もうあの件に関して怒ってはいないんだな、ということにまずホッとする。しかしその次には、どうした?、なんて言われてどう返して良いものやら迷った。

何せコレという用事はない。

「んー…っと…その。何となく会いたくなって」

「いつも会ってるじゃないか」

…仰るとおりです。

「いや、そうじゃなくて。何かこう最近コミュニケーション不足かな、とか…」

そのコミュニケーションの言葉に上手い具合にキスとかHとか代入してくれ!と心の中で祈りながらクラウドはそう言った。と、どうやらヴィンセントもさすがにその代入には成功したらしい。

「ああ…それもそうだな」

そう呟いて、ふっと笑ったりする。

来い、そんなジェスチャーをしたヴィンセントに、クラウドは嬉々として飛び込んだ。椅子に腰掛けているヴィンセントの上に、向き合うようにして乗っかる。男二人分の体重を支えてギャーと悲鳴を上げている椅子にはお構いナシで。

それは、いかにも恋人同士の幸せな密着空間だった。

―――――――が。

「…クラウド」

「何?」

「お前――――――太ったか?」

ギクッ。

「そっ…そうかな?」

クラウドはシラッとしてそう切り替えしておいたが、しかし心当たりはバッチリあった。何せココ最近の菓子摂取量は並じゃない。美味しく頂いちゃってるのである。まさかそんなに変わらないだろうと思っていたのに――――どうやら恋人は抜け目ないらしい。

「お前…まさか――――」

「な、何っ!?」

クラウドはドギマギしながら笑う。(※ひきつり度強)

しかし次の瞬間、何ということか唐突にキスされたので、その笑いも遠く42.195キロほど先に飛んでしまった。

こういう唐突なキスというのは得てして嬉しいものであるが、その時ばかりはさすがに嬉しいという気は起こらなかったクラウドである。

何故って。

「――――――菓子の味…が、する」

ギクゥッ。

何という鋭さ…天晴れ!と褒め称えたいところだったが、それでは自分が沈む…。

嗚呼、キス。されど、キス。

まさかそれ一つでココまで分かってしまうとわ。

しかしさすがにココまで指摘されては、まさかそんなこと無いよ、とは返せない。ヴィンセントの方じゃないの?なんて軽いジャブも通用しない。

ヴィンセントはそのままの体勢でクラウドをじっと見詰めると、ややした後にこう告げた。

「―――――あそこには、行くなよ」

それは静かな声だったが、内容的にもクラウドにとって打撃の一言である。あそこに行くななんて――――それは勿論、あの菓子軍隊に会うなということだ。此処最近、毎日のように足を運んでいた事から考えると、それは相当辛い忠告だったろう。

「ど…どうして?」

クラウドは恐々そう聞いてみた。何せヴィンセントが此処まで何かを拒絶するなんて滅多に無い。ということは、それなりの理由があるのだろう。

まさか立入禁止が理由とは思えない。

ズバリそう聞いてきたクラウドに、ヴィンセントは答えを返さなかった。…余程の理由なのだろうか。

結局そんな具合で理由も分からないまま、クラウドはあの店に立入禁止となってしまったのだった。

 

 

 

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