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町について早々に宿を取ると、出かける者もあれば、宿で休む者もあった。 その中でクラウドは宿に残る方を選択すると、一人部屋にこもろうとした。 それを寸前で止めたのはやはりヴィンセントで、クラウドはその対応に酷く嫌そうな顔を向ける。 「何だよ、ヴィンセント。今は一人になりたいんだ」 「少し話をするだけだ。来い」 どうせ今の段階ではクラウドが自分を拒否するのは分かっていた事だったので、珍しくヴィンセントは強引にそう言い放つ。 その雰囲気に幾分、動揺したようにクラウドの目は揺れた。 そして、やはり少し寂しそうな顔をする。 「何だよ…。まだ、俺に何か言いたいのかよ…」 ヴィンセントの言いたいことは分かったよ、そんなふうに続けたクラウドに、当のヴィンセントは「そうじゃない」とだけ言って、腕を引っ張った。 どうやら完全に誤解されているらしい。 いつもならヴィンセントの物言いについては良く分かっているはずのクラウドが、ここまで拒否するというのはやはり、セフィロスの事を口にしたからだろうか。 そう考えると、ヴィンセントはさらに腹立たしくなった。 セフィロスが何だというのだ。 大体、今この時点でクラウドがその名前に落ち込むなどという方が間違っている。 「良いから来い」 どういう訳か、その時点では感情が逆転していた。
外に出て人気の少ない通りに入ると、ヴィンセントはその隅にクラウドを連れていった。 そのまま路地裏の奥まで連れ込むと、暗いだけの空間でやっと腕を開放する。 「こんなトコまで連れてきて…何だよっ」 良く分からない感情が渦巻く中で、クラウドは無意識にそう強く言った。 「分からないのか?」 苛立ちを隠せないままヴィンセントはそう言うと、さっきまで掴んでいた腕を再び手にとって、クラウドの背を壁に押し付けた。 そして…。 「んっ…!」 突如として唇を塞がれたクラウドは、仰天して目を見開いた。 強く押し当てられた唇から、舌先がクラウドの中に入り込む。 いつもしているのとは少し違うその強引なキスに、クラウドはどうして良いか分からなくなった。 こんな事をしている状況でもないだろうに、何故か心地いい。 その絡まった舌が離れたのは、少したってからの事だった。 さっきまでの嫌な雰囲気が、少しだけ緩む。 腕を掴んだままだった手を頬まで持っていくと、ヴィンセントはその髪から首までのラインに手を当てた。 「…落ち着いた」 目を閉じてそう言うヴィンセントに、クラウドは少しドキリとする。 今まではヴィンセントからこんなふうにされた事は無かった。それだけでも驚いているのに、落ち着いた、などと言われるとは思ってもみなかったのだ。 「…俺」 占い後の話を思い返して、クラウドは口を開く。 ヴィンセントの言った言葉は確かにクラウドに大きなショックを与えていた。それは勿論、色んな意味で。 ヴィンセントの事だから、どうせ呆れたふうに返すか叱咤するのかもしれないとは思っていたのに、あの時やはりどうしても口にしてしまったのは不安だったからだ。 言葉通り、本当にクラウドには先が見えなかった。 だから、そんな自分に、もしかしたらヴィンセントは何か別の答えをくれるかもしれない、そう期待していたのかもしれない。 結局返ってきた答えはあんな言葉だったけれど――。 でも、その後の自分の態度に、ヴィンセントがここまで反応を示すとは思わなかった。 「俺、セフィロスがいなくても大丈夫だよ」 「…ああ」 その言葉に、ヴィンセントはそう返す。自分の言った言葉への、それはクラウドの回答。 「俺は、セフィロスを倒す」 「…ああ」 「だけど、やっぱりそれでも、その先は分からない。もしかしたら本当に俺は…って、さっき考えてた。だけど、平気だ」 かつてどんなに憧れたセフィロスであろうとも、人生の目標だった人であろうとも。 そして今現在での標的であろうとも。 セフィロスという“目的”がいなくなったとしても、自分は自分だ―――何もできないなんて、無い。 「その後だって…俺に残るものって、沢山あるよな?」 確認するようにそう言うクラウドに、ヴィンセントは「そうだな」と返した。 「今だって仲間がいるし、それにいつかこれまでの事が思い出になったら…。それだって俺に残るものだろうし…」 「ああ、お前を支えてくれるものは沢山あるはずだ」 クラウドは少し黙って、それから少し迷ったように言う。 「ヴィンセントは…どうなんだよ?」 「え?」 「…ヴィンセントは、俺に“残って”くれるのか?」 ごく真面目な視線でそう言われ、ヴィンセントは答えに詰まった。 最終戦のその後…この話をすれば自ずと見えてくる話題ではある。前々から少しづつそれは感じていた。それはクラウドと体を合わせる度、想いが強くなる度に。 「…一緒にいられないのか?」 念を押すようにかけられた言葉に、ヴィンセントは何も言わずにクラウドを抱き寄せた。 それは、今まで口にしてはいけないと思っていた言葉だったが、溢れる気持ちに嘘を付く事は出来なかった。 「いよう…お前と、一緒に」 それが、叶う事ならば。 「嬉しいよ、ヴィンセント」 自然と抱きしめ返してくるクラウドに、ヴィンセントは思った。 もう悪い癖は、出さないようにしなくては。 「…ねえ、ヴィンセント」 あまりの心地よさに、このままずっとこうしていたいなどと思ったが、クラウドの言葉がヴィンセントを我に返らせた。 「ん?」 「あのさ、俺の占った事、気になった?」 そういえば事の発端はそれだった、そう思い出して、 「ああ、それはまあ…。というかお前、こっちを見てただろう」 と正直に今度は答える。 やっぱりそうだよな、とクラウドは満足そうに笑ってからこう言った。 「だって、やっぱり気になるだろ。ヴィンセントとこのままうまくいくのか、とか」 「…は?…お前、これからの事が気になってたんだろう?それは戦いの事じゃないのか?」 クラウドはごく軽く、違うよ、と言ってのけた。 「俺はティファと一緒。恋愛」 「な…何!?」 あんな会話になったから、すっかりそういう真面目な話だとばかり思っていたというのに、この展開は一体何だ。 それではヴィンセントは、無かった種を蒔いたに過ぎないではないか。 確かに今の会話からすると、これから先の事が分からない、というのは恋愛でもいえる事ではあったが、しかしヴィンセントは納得がいかなかった。 「お前…私はてっきり…はあ…」 ヴィンセントは心の中で思う。 やはり前言撤回―――悪い癖くらい、良いだろう。 そううな垂れつつもクラウドを抱きしめていたヴィンセントに、穏やかな顔をしたクラウドがこう言った。 「占い結果はな」 そう言って、言葉がヴィンセントの耳に囁かれる。
“秘められた情熱的な想いを受ける人ですね”
END
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2002/06/03 UP