色………その鮮やかさは豊かな恵みの象徴。純粋の象徴。

色………だけれどそれは、限りある時間の中でだけ実感できる儚さの象徴。

それを感ずれば感ずるほど、鮮やかさは増していく。

だけれどそれを感ずれば感ずるほど、一瞬の儚さと成る。

 

ああ…今此処は―――――――――とても鮮やかで…

目が眩む様な、鮮やかさ。

 

 

 

 

 

同じ家で暮らす生活。

クラウドは様子見といってルーファウスとの連携で仕事をこなしていたが、あのロッジに戻ることはない。

ヴィンセントもたまにシェルクに会いに出かけるものの、クラウドにそれを「野暮用」などと言うような事は無くなった。

リビングで流れるテレビからミッドガルの医療施設のニュースが流れると、二人は魔晄中毒のことについて語り合ったりする。こうしてニュースになるものの大した騒ぎにならないその病気について、とりとめもなく語り合う。別にそれをしてどうなるという訳でも無かったが、かつて神羅に関わった者同士、それを重く受け止めることは大事なような気がしたのだ。

そうした裏で、ヴィンセントの体調についてをたまに話し合ったりする。

相変わらず体力低下の緩和剤を飲んでいるヴィンセントは、それを飲みながらも「既に気休め程度だな」などと笑った。笑い事ではない事は重々承知だったクラウドだが、そういう時は一緒になって笑ったものである。何しろ此処で怒ったり悲しんだ所でどうにもならないのだから。

でも―――――――――隠せない本心は、やはり悲しいと感じている。

あの左腕は、相変わらず動かない。

 

 

 

「俺達、もしかすると似てるのかもな」

ふとそう言い出したクラウドに、ヴィンセントは首を傾げた。

ある日の夜、食事の後の出来事である。

薬を飲み終わったヴィンセントが習慣でテレビに目をやっていたその時、ふっとクラウドが投げた言葉がそれだった。テレビからは何でもないコマーシャルが流れていたから、それは別にテレビとは関係の無い内容なのだろう。

「どの辺りが似ていると思うんだ?」

「それは…ほら、自分より他の人に恐いと感じてる所」

「?…どういう意味だ?」

ヴィンセントがそう問うと、クラウドは暫く言い難そうにしていたが、やがてぽつりとこう言った。

「俺は、自分が死ぬのなんて怖くなかった。だけどヴィンセントを見てると…」

その言葉は途中で途切れたが、その続きはヴィンセントの口から放たれる。

クラウドの言いたい事が分かったからだ。

「…私は自分の死を恐れないが、お前のことは助けた――――――という事か」

「ああ」

なるほど、そう頷きながらヴィンセントは、確かに似ているといえば似ているかもしれないと納得する。自分の死は恐くない、だけれど他人の死を恐れている。そういう点では確かに似ているかもしれない。

しかし、今この時になってヴィンセントはそれとは違う感情を抱いていた。

それは今クラウドの指摘された「自分」の部分についてである。

確かに以前は自分の死などどうでも良いと思っていた。むしろ自分が死の淵に立ったとしても、それが決意の上のことであるなら正当だと思っていたのである。だからこそ純粋に帰りたいと思い、あの左手の手術をしたのだ。

がしかし、今こうして残る時間を大切にしようと思う中では、さすがにそう言い切れない部位も発生していたのである。

「クラウド、一つ聞いても良いか」

「何だよ?」

「お前は今、この状況で…あのニブルヘイム近くの崖から身を落すことができるか?」

「え…」

別段厳かな雰囲気というわけでもなく問われたそれに、クラウドはそれでも言葉を詰らせた。テーブルの真正面に座るヴィンセントを見詰めながら、まるで止まってしまったように口を開けないでいる。

そんなクラウドを前にして、ヴィンセントは少し笑ってこう言った。

「言葉を裏切るのは好かないが…だが、最近は少し考えが変わった気がするのだ。恐いというのとは少し違うが――――そうだな、強いて言うなら“惜しい”と思う。死ぬのは、少々惜しい。…こんな身だがな」

「惜しい、か…」

変な物言いだ、そう漏らしながらクラウドも少しだけ笑う。

ヴィンセントに左腕の事を初めて聞いた時、死ぬことのできない身故の恐さを考えたものだが、最早そんなこともなくなってしまった。それどころか今では、その逆の事を考えているのだ。

いつかは自分だけが歳をとってしまうのではないか、そうして時間は過ぎてしまうのではないか。そう思っていたものだが、今度は逆に、直ぐにも来てしまいそうな時間に恐いと感じている。止まっていると思っていた時間は、倍速で動き出してしまったのだ。

「それにしても不思議なものだ。時間がないと思うと、何かをしなければと思う。ただ流れるだけの時間の中では大した感慨も起こらないものなのにな」

「そうだな…。なあヴィンセント、今何をしたい?」

何かをしなければと思うなら、その何かをしよう。

そんなふうにクラウドは提案する。

それは別に大仰なものなんかじゃなくて良い。ほんの些細な事でも良いから、何かをしていければそれで良い。例えそれがいつか消えてしまうものであっても、残された時間の間に何かを残せるのならば。

そんなふうに提案された事に対して、当のヴィンセントは良い案も浮かばずに苦笑する。折角の提案なのだが、こういう時に限って何も浮かばないのだ。

「特にこれといっては…無いな」

「何だよそれは。本当に無いのか?」

「ああ」

簡潔なその答えに、クラウドは困ったなというふうに息をつく。まあヴィンセントが望まないなら別に良いのだが、クラウドとしてはどうしても何かが欲しくて仕方が無いのだ。

クラウドのそのような心持は、ヴィンセントにも何となく伝わっている。

何しろクラウドは生き続けるのだ、そうする上でこそそれは必要に違いない。ヴィンセントの為に何かをしたいと思うクラウドは、そう思うと同時に、残される身としてそれを確保したいという心を持っているのである。

だって、残される者の辛さは並ではない。

それは丁度、ヴィンセントを死ねない身だと思ったあの時と同じように。

「……じゃあ、一つ頼み事でもしようか」

「頼み事?」

息を吐いていたクラウドが咄嗟に身を起してそう聞いた後、ヴィンセントの口からは信じられない言葉が発せられた。

「運び屋への依頼だ。―――――気持ちを運んでくれ」

 

 

 

―――――――気持ちを運んで。

 

 

 

そんな不可解な言葉を口にされて以降、クラウドは仕事に精を出した。

勿論ヴィンセントの言ったそれは仕事とは全く関係の無い言葉であるが、ただクラウドは、それと似たような言葉を思い出したのである。

それはいつだったかルーファウスが言っていた人心というやつだ。

人の心、それは気持ちである。

それを運ぶ事が出来るのならば――――――そう思って精を出す。

しかしその一方でクラウドは、ヴィンセントと過ごす時間も重要視していた。何しろ時間がないのだからそれは当然である。そういう時は数日間仕事をシャットアウトする事もあり、ルーファウス辺りは少し不服そうだった。がしかし、本気でそう思っているわけではないらしく、大体クラウドの要求というのは否定されることなく通っている。

そういった連日の休みにやる事は様々で、のんびりと過ごすことだったり、どこかに出かけることだったり、珍しくシェルクを含めた三人で会うことだったりした。昔ながらの仲間にも会いに行こうか、そんな話 もしたが、それはヴィンセントが快い返事をしなかった為に未だに実現していない。

時間がないと分かっていても、昔ながらの仲間に未来を教えるのはどこか胸が痛むことだったからだろう。

そういうヴィンセントにクラウドは、何時の間にかいなくなったら寂しいだろ、などと言ったものだが、ヴィンセントは首を横に振るだけだった。

お前が知っていればそれで良いんだ、そう言って。

 

 

 

――――――大切なことは、誰か大切な人だけが知っていればそれで良いから。

 

 

 

いつだったかクラウドが指摘した二人の類似は、やはり的を得ていたのだか、時折二人の間には長い沈黙が流れることがあった。勿論それは嫌なものではなかったが、それにしても共に饒舌ではないから困ってしまう。何かに対して話をするならばそれなりに会話も続くものの、何もなければそれで済んでしまうのだからどうしようもない。

だから、クラウドはまた一つの提案をした。

それはあの日の提案と同じ類のもので、限りのある時間の中で何かをしようという事。

「なあ、折角今なら沢山話せるんだからさ…」

いつかも言ったその言葉を用いたクラウドは、今度はそれに後悔などすることなく、続きを口にする。

「毎日―――――…一つづつ、告白しないか?」

「告白?」

思いもよらないその言葉に驚いたヴィンセントは、それは一体どんな告白なのかと問う。するとクラウドは笑って、

「大したことじゃない。何でも良いんだ。これが好き、あれが好き…そういう小さい事で良いから、一つづつ告白し合おう」

そんなふうに言った。

一日一つづつ告白をしていったら、最後には沢山の告白がされることになる。そうなった時、それは決して無駄ではない。何故ならば二人は、長い間仲間でありながらも知らない部分を持ち合っていたからである。

例えばクラウドとティファなどは幼馴染であり、ブランクがあるとはいえ共通の行動期間が長い。そういう場合、その時間の中で積み重なったものはあまりにも膨大で、そういう膨大な情報こそがお互いの認識になっていく。

少ない情報だけでそのものをどうこうと判断することは難しく、またそれをしてしまえば酷く傲慢であり陳腐である。がしかし、膨大な情報を得ている中であればそれは深みのあるものと変化する。

ヴィンセントとクラウドの間には、それなりの時間があったものの言葉が足りていなかったから、そういった情報がなかなか得られないという現実があった。言動や仕草から想定されるものならば沢山知っているけれど、本当の心など口を割ってみなければ分かりもしない。

だからこそ、クラウドはそれを提案するのである。

尤も、それをするには時間は既に遅すぎるし、今更「お互いを知ろう」などというのは馬鹿みたいな話だろう。けれどきっと、こういう状況だからこそできることだってあるのだ。焦りのない平凡の中では、どちらでも構わなかったもの…それが、時間の限りによってどうでも良くないことになってしまったから。

「じゃあ…手始めに俺から告白しようか。そうしたら、明日はヴィンセントだ」

クラウドはそう言って、些細な告白を始める。

それは酷く静かな夜のことで、テレビすら付けない部屋の中での告白だった。

ゆったりと向かい合わせの椅子に座りながらの告白。

「俺、初めてヴィンセントに会った時、あんまり信用できなかった。大空洞に入る時も、帰ってきてくれるなんて思わなかったんだ。…良く帰ってきてくれたよな」

「不服だったか?」

笑ってそう聞き返したヴィンセントに、クラウドは首を横に振る。

そうじゃない、と。

「嬉しかったよ。俺はあの戦いで、散々醜態を晒して来たようなもんだった。でも、それでも帰ってきてくれたから」

「それはきっと逆だろう。そういう事を共に見てきたからこそ、帰るべきだと思ったんだ」

それに私にも必要な戦いだったからな、そう続けてヴィンセントは微笑む。

あの戦いで初めて、進む事を知ったから。

「あの時、お前達が神羅屋敷に来なかったら…きっと私はあのままだっただろう。真実を知ることもなく、ただ眠るだけの生活を続けていたに違いない」

「ああ…」

神羅屋敷の地下、確か出会ったのはそこだった。

あの時にはとてもこんなふうに話せるような人ではないと思っていたクラウドだったが、どうやら今では全く違うらしい。こんなふうに告白し会えるのもきっと、この数年があったおかげだろう。

「なあ、ヴィンセント」

目前のヴィンセントを見据えながら、クラウドは幾分かはっきりした口調でそう呼びかける。そして、少しばかり話題のそれた言葉を口にした。

「ヴィンセントは4年前からずっと前進してるんだな。真実を見て、決心して…今もそうだ。…だけど俺はどうかな。俺は、あの時と同じままかもしれない」

未だに抜け出せない迷路の中にいるみたいだ。

そんな事を言いながら苦笑したクラウドは、だから俺は今此処にいるのかな、そんなふうにも言った。

それはニブルヘイム近くの崖で、緑の中に帰りたいと思ったのと同じように―――――色鮮やかさに救いを求める行為のようで。

今この場には、悲しくなるくらいの色鮮やかさを感じるから、だから此処にいるのじゃないかとクラウドは言う。ヴィンセントには色があるような気がすると思ってこの家に来たように、それは今でもまだ続いているのだ。

がしかし、そんなふうに言うクラウドに対しヴィンセントは、静かに首を横に振る。そして、こう問うた。

「――――お前はなぜ色を求める?…そこにはもっと違う意味があるんじゃないのか?」

「意味…って」

「あの崖の下には確かに緑が広がっていた。そしてお前は周りをグレーだと言った。要するに鮮やかな色は少ないという事だろう?…それが何故少ないのか、考えたことはあるか?」

そう問われ、クラウドは首を横に振る。

「だったら、一度考えてみるのも良いだろう。何故それほど色を求めるのか、何故それが少ないのか。――――そして、色とは何なのか」

「…“何なのか”…」

色は色だ、そう思うクラウドにとってそれは難問だった。

もしかすると色という言葉は何か別の言葉に置き換えることも可能なのかもしれないが、クラウドの感覚からすれば色は色以外にないものである。しかしかつて言われたように、それをそのまま誰かに伝えることは難しい。もしそこに違う言葉を代入できたなら、きっと直ぐに伝わるのだろうが。

思わず考え込んだクラウドの前で、ヴィンセントは、話が反れたな、などと言って話題の軌道修正をした。そうしてまた振り出しに戻ったように出会いの頃の話などをしたが、クラウドの頭の中には先ほどのヴィンセントの言葉がグルグルと回っていた。

“色とは何なのか”、その言葉が。

 

 

 

ベットに沈む。

何となく身体がダルイ。

でも大丈夫、薬はまだある。

左腕は相変わらず動かないけれど。

 

 

 

あくる日、それはヴィンセントが告白を担当する日で、ヴィンセントはその告白としてとても重大な事実を告げた。

それは過去の秘密のようなものではなく、直面している現実に繋がるような事実である。

もう寝に入ろうとしたその時、やってきたヴィンセントを部屋に招きいれて、クラウドはその重要な事実を聞き知った。

「今日はリアルタイムな告白をする。薬は―――――もう無い」

その言葉を聞くや否や、クラウドは驚いてヴィンセントの肩を強く掴む。そして必死の形相でこう聞いた。

「無い、って…!新しい薬は?貰えないのか!?」

その必死さとは裏腹に、やけに冷静なヴィンセントの顔がクラウドを直視し、答えを発する。その答えとは、クラウドの言葉を否定するような内容だった。

「元からこれが医者との約束だった。数ヶ月分纏めて処方してくれたものの、その一回が最後だと。…仕方あるまい、見えている結果に対するせめてもの薬だ、それほどする必要性も無い」

「でも…」

反論したい気持ちが渦巻くが、かといって何をどう反論して良いのかクラウドには分からない。それがヴィンセントの決意だと思うと迂闊に反論をするわけにはいかないからである。

そういうクラウドの心持を分かっているのか、ヴィンセントはそこで一つ頷き、そして、

「これからが―――――本当の“色”だ」

そんな事を言った。

しかしクラウドには、何故そこで色という言葉が出されるのかが分からない。

悲しくて、悲しんでも仕方無いと頭では理解しているのにそれでも心が悲しくて、どうしようもない気分になる。

そして、恐いと思った。

 

 

 

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