Shin-Ra Syndrome  [ 1st section ]

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- YES - 研究機関の理由

 

 

 

その会社に科学研究機関ができた事に、彼は嘆息した。

馬鹿らしい。

確かに実験や研究には金がいる。金はいるが、たかだか家具製造の会社にそんな研究所を作ることはないだろうと思っていた。

そう、それはある資産家の息子が建てた会社で、家具の製造販売をしている。そこに、研究所があるのだ。そして、彼はその研究所の管理を頼まれていたのである。

発端は、彼の弟だった。

彼も彼の弟も研究者であり、彼が別口の研究所に配属などをされたのに対して、その弟は自分の研究所を建てた。その当初はそれも少し腹立たしい気がしたが、それでも研究者としての本来の目的は同じことであり、そう大した問題ではない気がしていた。とはいえそうして賭けに出るのが好きな弟のことである。

何をしでかすか、分かったものじゃない―――――。

そうは思っていた。

そして、結果がこれである。

『スポンサーを拾った』

そう言った時の弟の顔が今でもはっきり思い出される。とても嬉しそうなのは、研究者としてとても分かる部分だったが、そのやり方といったら少々手荒だった。

『一体どうやって見つけたんだ?』

『簡単だ。ニュースがあっただろ、ミッドガルの資産家が死んだっていう。あれの息子さ。そいつが慈善活動が好きな奴だと聞いて賭けてみたんだ。まあ結果は上々って所だな。ほいほい金を出してくれる』

その言葉に眉をしかめずにはいられなかった。そんな汚いやり方をして良いとでも思っているのか、問いただしたくなる。けれど弟の性格は元から知っていた。こういう人間なのだ、彼は。

自分の可能性のためにはとにかく動く。そうしてそれを確実に手にいれるのが、この弟なのだから。

そんな弟が、良いものを見つけたといったのは、もう数ヶ月前のことだったろうか。

地層から何か怪しいものが発見されたという内容は、確かに彼も引っかかっていた。けれどその研究は未知の物体であるともいえるし、かなりの研究費がかさむのは目に見えていたのだ。

さすがに弟もこれ以上は踏み込めないだろう。

そう思っていた。

けれど、弟はやってのけたのだ。

彼の研究所は近隣から妙な目で見られていたし、あまり派手な動きもできない。それだからこれ以上その場での研究を多くするのは無理だと言っていた。

それなのに、彼はやってのけたのである。しかも、周囲には絶対的にばれない、何の関連性も無い会社の中に研究所を作るという荒業を使って―――――。

彼はそれを振り返りながら、もう一度溜息を吐いた。

「裁かれるぞ…」

そうとしか思えない。

いつか絶対に―――――罪を償わなくてはならない時がやってくるだろう。

 

 

 

結局、彼が答えを出したのは話を受けてから随分経った頃だった。家具製造会社の中に設立された研究機関…そこの責任者になってくれ、という弟からの頼みに対する、返答のことである。

もう既に弟はその承諾を見越して、何人かの研究者を自身の研究所から選別しており、正に彼の形式上の返事だけを待っていたという状況だった。

「で、答えは勿論YESだろう?」

余裕のある笑みでそう言ってくる弟に、彼は「ああ」と幾分低い調子で答える。弟は連日の研究の後だというのに疲れ一つ見せずに、さっとそれに関する書類を広げた。

「じゃあ早速頼むよ。ああ、それから。これは俺の研究所から出す奴らだ。なかなか腕は良い。アシストには役立つだろう」

「随分と手際が良いんだな」

皮肉を込めたつもりだったのに、その言葉にはいとも簡単な答えしか返ってはこない。

「ああ、まあな。何せ研究材料が待ってるからな」

「なるほど」

感服するよ、お前には。

そう返したかったが、彼はその言葉を飲み込んだ。こんなところで争っても意味が無い。大体この弟がそういった道を選んだのも、元はといえば彼が研究者だったからである。

目前の弟は書類を更に広げ、それを彼に手渡した。

「読んでおいてくれ。俺が事前にチェックした項目があるから。…ああ、あと…」

「何だ?」

事を手際良く運ぶ弟がふと眉をしかめたのに気付き、彼は疑問符を投げかけた。どうも気になることがあるらしい。

悩むような顔つきになった弟は少し黙した後に、こう言った。

「…向かわせる研究者の中に…ある男がいる」

「ある男?」

「ああ。そいつは最近雇用した奴なんだけどな、どうも医療系の知識もあるらしい。まあそれはともかくとして、その男は……少し問題が」

問題?、そう聞き返す彼に、弟は溜息をついて頷いた。

「そうなんだ。研究者としても確かに腕は良い。…が、何しろ性格がな。というか基本的に考え方がどうも…こう、合わない」

「ふうん?」

彼は内心少し可笑しくなった。この弟の口から性格に問題があるなどという言葉が出るとは思わなかったからだ。自分を振り返ってみろとも思ったが、それはやはり口に出さないでおく。

その男について弟はそう言うが、大体、研究者やら科学者やらというのは一部おかしいところがあるとは言われている。それというのは褒め言葉に他ならないわけで、そういう部分から考えるにそれは別におかしいことではないような気がする。

考え方など千差万別である。

だから彼は、弟に向かって笑ってこう答えた。

「そんなのはザラだろう?大体、妙な発想が大成功を生むこともあるさ」

その言葉に、まあ、と答えながらも、やはり弟はどこか腑に落ちない顔をしていた。

しかしそれも少しの間で、直ぐに態度を切り替えると、さっきまでのように手際よくその他の説明を仕出した。

全く感服する、彼はもう一度そう思うしかなかった。

 

 

 

彼が、その弟の言葉に納得をしたのは、彼がその会社に腰を据えてすぐの話だった。

その男は、名前を宝条といった。

最初はそう目立ちもせず大人しくしていたものだったが、それは徐々に顕著になっていき、彼はそれについて悩むようになる。

確かに頭は切れる。弟が寄越した他の研究者達よりかは随分と役にも立つ。

だが、問題はそれを凌いでいた。

「ガスト博士」

呼ばれて、彼は振り返る。

「ああ…宝条か。何だ」

「例の件、考えて頂けましたか」

「例の件?」

聞き返してから、ああ、と思い出す。そういえば宝条は独自の研究をしたいと言い出していて、それについての金を回して欲しいと頼み込んでいたのだ。

この研究所の権利は勿論、弟と会社にある。金が出るその元といえばやはり会社であって、だからそれはガスト自身が判断できることではなかった。

「掛け合ってくれてないんですか?」

余裕の笑みを浮かべるその相手に、ガストは顔をしかめる。

「いや…掛け合うとかそういう問題じゃない。不可能に近い。研究所として援助を受けているんだ。君に個人的に回すことはできない」

もうはっきり言った方が良いだろう。そう考えてガストはそんなふうにきっぱりと告げる。が、宝条はそれに対して何故か笑いを漏らした。

「研究所として…ねえ。でもどうです、博士。この状況。分かってますよね?」

「…何が言いたい」

分かってるくせに、そう呟きながら宝条は顔を歪める。

「ビルディ博士から頼まれている例の物体…あの研究についていってるのは、事実上、私とガスト博士だけでしょう。使い物にならない連中にまで金をまわすことはない」

その物言いに、ガストはそれでも反論できなかった。宝条の言うことは、完璧とはいわずとも合っていたからである。弟であるビルディから令を受けてこの研究所にやってきたのは、確かにビルディの研究所内では出来る人間達だった。

が、その得体の知らない物体に対しての研究は、それにも増した能力が必要だったのである。結果、その研究の全体を把握しているのはガストと宝条というまでになり、他の人間はそれにまつわる諜報活動に似た研究をしていた。

確かに――――宝条は、できる。

けれど彼にそのもの全て委ねるのは、危険だった。

「ガスト博士が無理なら仕方無いですがね。直接掛け合ってみた方が良かったかもしれない…社長に」

「何でそこまでする必要があるんだ」

弟は金に執着があるが、宝条はそれとは違う。金というよりかは研究に傾いてはいるが、それでも思想が危険だった。

いつだっただろうか。

その物体の研究を始めてすぐ、他の研究者がそれについていけないのが分かったその頃。仕事の時間が終わってもまだ研究所を離れようとしない宝条に聞いたことがあった。

随分、研究熱心なんだな、と。

けれどその時、宝条はガストの期待する答えを返しはしなかったのだ。かけられた言葉に笑みを漏らし、曇った目で―――――言ったのだ。

『廃人をね、作りたいんです』

その言葉の真意は分からなかったが、それはガストを驚かした。それはガストが以前働いていた研究所でも良く言われていた話だったが、研究に心を奪われるとやがて廃人になるという話である。勿論、普通に研究をする分には真っ当な人間だろうが、人間としての禁忌を犯す研究に手を出すとそうなるというわけなのだ。

例えば、人間を研究媒体とすること――――――それは禁忌だった。

けれど宝条はそれを望んでいるに違いない。そして、その言葉からするに、人間を作り出そうとしているのである。

そんなことは、ルールに反する事なのに。

それを思い返し、そしてガストは宝条から目を逸らした。宝条はいつか何かをしでかす、そんな気がして、その顔を見るとその自信が感じられる。そして皮肉なことに、彼はそれだけの才能を持っていた。

「とにかく、今はあの研究を進めるんだ。良いか、それ以外は考えるな」

「――――そうですか」

宝条は別段、何も気にしないような顔でそう答えただけだった。あまりに呆気なく、返って気になる気もする。

しかし、それ以上、ガストは何も言わなかった。

 

 

 

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