Shin-Ra Syndrome [ 1st section ]
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- register(2) - 親近感…
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さて…ここからどうするか。 そう思ってヴィンセントはまず新しい酒をオーダーした。無断でセフィロスの酒もオーダーしたが、特に何も言わないところを見ると機嫌を損ねるようなことではなかったらしい。 その酒がテーブルに届いてから、ヴィンセントは考え捻り出した話の種を口にする。 「アンタも帰りを待つ人がいるクチか?」 仕事から遠ざかる話題ではあるが、繋ぎとしてはまずまずな話題。そしてそれは、仕事抜きにして考えれば、本当にちょっとした疑問だった。フィルなどというのはあの調子だから直ぐにそれなりの存在ができそうなタイプだが、この目前の男はとてもそんなふうには思えない。それどころか色恋沙汰というものとは無縁なのではないかとさえ思ってしまう。 ヴィンセントも普段はそういった事と無縁に生活をしているが、実際過去にそんなことが無かったとはいえない。 そのヴィンセントの言葉に、セフィロスはやはり無表情な声を返した。 「残念ながら、いない」 端的な返答だったが、いかにも頷ける。ああ、などと答えられたらそれこそ耳を疑っていたかもしれないな、そんなふうに思う。 「へえ、驚いたな。あんたみたいな美男が女の一人もいないなんて」 「つまらない男には誰も付いてこないだろうが」 「自認か?」 なるほど、確かに面白い男ではない。けれどヴィンセントが口にした形容は事実で、このセフィロスという男は言葉の通り美男だった。目鼻立ちははっきりしており、背も高く、聞けば経歴もなかなかのものだ。女が見れば一目惚れすらあるだろうに、その邪魔をしているのはその性格だろうか。しかしそれは性格の良し悪しの問題ではなく、言ってみれば真面目すぎるという所だ。 「自認するほかあるまい。そういうものは苦手なんでな」 「否定はしないな」 そう言ってヴィンセントが笑うと、セフィロスは何を思ったのかこんなことを聞いてきた。 「お前は本当に職を探しているのか?」 「…え?」 ――――――――ばれたか…? 一瞬にして、緊張が走る。 今の今まで俗的な話題をしていたせいか、その急な話題の転換はヴィンセントの顔を少し強張らせた。しかしそうそうそれを晒すわけにも行かず、何とかして笑みに似たものを返してみせる。 そんなヴィンセントに、セフィロスは煙草をふかし始めながらこう続けた。 「以前から気にかかっていたことなのだが、お前…“そういう人間”ではないだろう?」 「…“そういう人間”?」 …危険すぎる。 もしかしたらセフィロスは気付いているのかもしれない。 しかしまだ騙し続ける方に賭けることはできる。 「そうだ。…つまり、お前は自分を作っているようにしか、俺には見えない」 「…作ってるって…それはまた妙なことを言うもんだな」 …危険だ、このままでは。 全てが失敗してしまう。このままどこまで耐えられるかは疑問だ。 ヴィンセントは早まる心音の中、“いつも通り”の口調で“いつも通り”に笑ってみせたが、それを見るセフィロスの眼はその全てを見抜いていそうで心地悪かった。 神羅の手の者だとバレてしまったら―――――そう考えると、気が気ではない。 しかし。 「お前はフィルと同じタイプの人間ではないだろう?どちらかといえば俺に近い気がしたんだ。いつも此処でお前はそうしておどけた調子で話をするが、本当はそういう話し方は苦手に見えるが。大体、職が見つからないというのにそれほど無理な振る舞いをすることはない」 「あ…ああ、そうだな」 ――――――何だ、そういった話か。 ヴィンセントは一気に拍子抜けしてしまった。作っているというから正体がバレテしまったのかと思ったが、どうやらそういう意味ではない言葉だったらしい。つまり性格の部分だ。 確かにヴィンセントは接触のために経歴や性格も別人としてのものを作っていたし、それは事実である。それをそう見破ったところはやはり恐ろしい男だと思うが、その言葉にはいかにもな気遣いが見えていた。 つまり、勘は酷く鋭いものの、肝心な部分はばれていない…ある意味、認められているということである。少し、安心してしまう。 セフィロスはそのヴィンセントの様子を気にしてはいないようだった。 「今のミッドで職を見つけるのは大変だろう。俺もまた同じ身分だがな」 「同じ?ああ…そうか。元、だったな」 先ほどセフィロスがヴィンセントの作った一部分を見抜いたことで、ヴィンセントは本当の自分の口調に戻ってそう返す。それは何となく心の負担が軽くなったかのようにも思えた。 「では今は何をしているんだ?」 そういえば――――その話はしていなかった。 経歴と言うのは過去であって今ではない。セフィロスがいかに凄い人間であろうとも、今現在の彼は身元不明の人間でしかないのだ。 その質問にセフィロスは、立ち上る煙を細めた目で見つめながら、こんなふうに答えた。 その言葉は…衝撃的で。 「―――――――――俺は存在しない人間なんだ」 その意味は、ヴィンセントには分からなかった。 「存在しないとはどういう事だ?」 今目前に姿がある人間にそんなふうに言われても、真実味がないのは当然である。しかしセフィロスは、本当なんだ、などと言って珍しくその詳細を自ら話し始めた。 「さっきも言ったが俺はお前と同じ身分だ。職を失い、未だそれを見つけられない。しかしそれには理由がある。以前俺が市長付きの護衛と秘書をしていたことは…覚えているな?」 「ああ、覚えてる」 「ミッドの市長交代はドミノによって企まれたことだ。つまり前任の市長というのは強制的に辞任させられた」 ああ、やはり…そう思いながらもヴィンセントは頷き、話の催促をする。 「元市長が辞任に追い込まれた時分、その片腕だった俺も強制的に排除されたわけだ。ドミノのやり方は卑劣極まりない。俺は実質的に市の兵士の統率をしてきたが…それはドミノの構想の中では不要…いや、完全に消し去らねばならないものだった」 セフィロスは市長の片腕だった。兵士の統率ができるだけの腕と、そして秘書的な役割が担えるだけの頭を持っていたのだ。前市長による市政構想を良く理解し、それを実現させるべく動いていたセフィロスは、新構想を打ち出すドミノにとっては脅威でしかない。 つまり、新しい政策の中では古きものは邪魔でしかなかったのだ。 特にセフィロスのような――――敵わないような相手は。 「単なる解雇であれば、俺は幾らでもツテがあったのだがな。しかしあの男はそれさえも断ち切るように仕向けたんだ」 「どういうふうに?」 「戸籍消去だ」 「戸籍!?ではお前はこの世に……存在、していない…事になるのか?」 「そうだ。だから俺はこの世から抹消された人間。真っ当なことができるはずもない」 まさか、そんなことがあり得るのか。そう思ったがまさかセフィロスが冗談でそんなことを言うはずはない。しかしそれはあまりにも衝撃的な事実で、ヴィンセントはとても信じることができなかった。 「市の建物に入るには通行証がいる。職に就くにも書類が必要だ。しかし俺の場合はその書類に書くべき名も歴も失ってしまったんだ。存在は此処にあり、こうして話もできるが、それをできても書類上では何の力もない。例え顔見知りでも、それは許されないことだ」 「しかし…それでは、これからどうしようもないじゃないか」 「そうだ。そのものずばり、だな」 否定もせず…いや、できるはずもなくそうセフィロスが言うのを、ヴィンセントは返す言葉もなく見つめる。まさかこの男の裏にこんな事実が隠されていたなんて。 最初は、個人としての所謂憎悪とでもいおうものが、そこに働いているものかと思っていた。エリートの座を剥奪した腹いせとでもいうのか。しかしそんな言葉では言い尽くせないものが、そこにはどうやらあったらしい。 それにしても――――――――何故? 何故突然のようにそこまで詳細な身の上話をしたのか、それはヴィンセントにとって不思議だった。フィルに比べ、どう考えても自分への猜疑心が残っていそうなセフィロスなのに。 暫しの沈黙の中、煙だけが動きを続けている。 その煙がすっと消え去った頃、セフィロスの口からはこんな言葉が漏れた。 「ずっと…この話を誰にもできないでいた」 「……」 「哀れみの眼は、苦手だ」 ああ、そういう事か。確かに、どうすることもできない人間が哀れみの眼で彼を見るのはわかりきっている。 「―――見たところ、お前はそういう人間ではないな」 「…何?」 良い意味なのか悪い意味なのか微妙でそんなふうに聞いてみると、セフィロスは珍しくふっと笑った後に、 「理由は無いが、信頼できそうな気がする」 ――――――そんな事を、言った。 一瞬にして駆け巡ったのは、止めてくれ、という思いだった。 信頼?…そんな言葉を貰っても困るだけだ。それどころか、そんなふうに言われるような人間ではない。例えばこれが普通の出会いで、普通の友人としているならまだしも、状況はかなり違うのだ。とはいってもセフィロスは勿論そんな事実を知りはしない。それは当然、ヴィンセントがそう仕向けているのだから。 騙している、その事実が更に重くなる。 もし正体がバレてしまったら、セフィロスは今の言葉を取り消すだろうか。取り消して、すぐさま敵と認知するのだろうか。それはいずれそうなってしまうだろう事だが、そうなってしまうのは心が痛む。彼らが反乱分子と呼ばれ、そのような行動をしているにも関わらずそれは正統な理由を伴っていること…その事実だけでもう既にヴィンセントは僅か痛みを感じていたが、そんな言葉を貰った日には二重苦だった。 これは仕事で、私情など挟むことは許されないことだったが…でも。 この無口で真面目な男が、そう言ったのだ。 ヴィンセントに向かって。 「…その言葉は在り難く受け取っておく」 結局そんな言葉を返し、ヴィンセントは酒をぐいと押し込んだ。
反乱分子との接触という名目だけの付き合いは、その日を境に、どことなく意味を変えていった。それは本来なら喜ぶべき状況である。信頼されれば怪しまれることは無い。だからより上手い具合に騙すことができる。狡猾にそう思案できれば良かったものの、ヴィンセントにはそんな非情なことはできなかった。 こんなふうに酒を飲み、話し合う。 硬い話抜きにでも話ができる間柄になって、一般的にいう友人と化す。 しかしそれから先は…どうすれば良いか。 騙してきた、だから騙し続ける。それが一番良いに決まっているが、しかしこれはあくまでも期間限定のものだ。隙をみて命を奪えばそれで事は済んでしまうのだ。プレジデント神羅、大元は市からの依頼である「仕事」なのだし、それほど長引かせるわけにもいかないのが現状。 しかし、一度感じてしまった痛みを止めることはできず、ヴィンセントは解決もできず、真実も言えず、ただ騙すことを続けることとなった。
数回、あのセフィロスと飲んだりした。 フィルは相変わらず、時々すっと帰ってしまうことがあり、そういう時は必ず残された二人だけで二軒目の店に移動などをして深酒をした。最初は無口だと思っていたセフィロスは、そうしていくうちに段々と己の話をし、ヴィンセントもそろそろこの男のことが分かり始めてきている。エリートという経歴からして思考は硬いものかと思いきや、実際はそうでもない。意外と柔軟な考えを持っており、ただそれに正義感のようなものが加わってあんな具合になっているようだ。 セフィロスは、かつての話を良く口にした。 自分がエリートだったその頃、ミッドガル市はこんな市で、市長はこんな構想を持っていた、そんな話である。それが飛躍すると、その頃の仲間達の失敗談などもした。それらを語る時のセフィロスは少し嬉しそうで、それがますますヴィンセントを悲しませる。そういった充実した生活や環境を奪った者は、今はきっと椅子にふんぞり返っていることだろう。そしてその男は神羅と手を組んでいる。ということは、ヴィンセントの属する神羅カンパニーという企業は、結局のところセフィロスを地に貶めた存在の一部であるといっても良いのだ。 そう考えると、ヴィンセントの現況報告は段々と滞っていった。 まさか会社に対して反発をするわけにもいかないが、だからといってセフィロスやフィルを叩くというのも間違っているように思える。 つまり――――どちらも騙すしか、無かったのだ。 騙すしか。
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