Shin-Ra Syndrome [ 1st section ]
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- RED EYES - 残されたもの
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過去のしがらみは、切り離したはずだったのに。 ただ、そう思う。 そう思う中で、それとは逆行する現実がヴィンセントを襲っていた。 あの忌々しい過去。人を金で買った研究所。その研究所の残した、多分一番最悪のもの――――――「宝条」。
「君たちの行為は実に素晴らしかった」 簡素な研究部屋に連れ込まれ、適当な椅子に腰をかけるように言われたヴィンセントは、そうしながらも宝条の後姿を見ていた。 望まないものとはいえ、久々の再会。その再会の為にと陳腐にも飲み物をこしらえている宝条の後姿は、妙に不気味なものとしてヴィンセントの目に映っていた。 あの宝条が自分をこの場に連れ込み、のんびりと世間話を? ――――――――――考えられない。 飲み物などをこしらえているとはいえ、宝条が実際何を考えているかということを思うと、妙な焦燥感と恐怖感が急きあがってくる。 昔、あの研究所を脱した時、宝条はその場にいなかった。だからこそ今此処で生きているわけだが、それにしても研究所の研究員だった宝条にとって、少なくともヴィンセント達被験者が行った行為は「良い事」ではないはずである。そう、何しろ研究員を殺し、研究所を焼き払い、研究書類全てを破棄したのだから。 それをこの男は「素晴らしい」と言う。 ワケがわからない。混乱する。 「あの無能な研究員…いや、研究所をこの世から消してくれたことは、実にありがたい。君たちがやらねばいつか私がそうしていたかもしれないからな」 「…宝条。お前は一体、何が目的なんだ」 「目的?それは私の研究の目的かな。それとも…今此処に君を連れてきた事?」 「……」 クク、と不気味に笑う宝条を見据えながら、ヴィンセントは眼を細める。 こんな事をしている場合ではない、時間が無い。そう思うのに、この雰囲気から逃れることはできなそうな気がする。 そのヴィンセントの焦燥や恐怖感を他所に宝条は、淹れ立てのコーヒーを手にしてヴィンセントの向かいに腰を下ろした。それからヴィンセントに1つのカップを差し出すと、まあ飲め、などと言う。そのカップの中のコーヒーは黒々としており何も映し出さない。その水面を見詰めながらヴィンセントは、無言でそれを受け取った。しかし、飲む気にはなれなかったが。 「ヴィンセント・ヴァレンタイン君。私は研究者だ。だから研究の為には研究所を点々とする。それが道理ではないか?しかし残念なことに私の眼鏡にかなわない研究所が数多くてね。―――――例えば、あの研究所…“あそこ”もそうだったよ」 「……」 それは、他でもないヴィンセントのいた研究所のことである。 「君たちが怒りを爆発させあの研究所を破壊してくれたことには、感謝している。ロクでもない研究結果などが残っていようものなら、研究者として恥を晒すようなものだからねえ」 書類を処分してくれて良かった、などと言った宝条は、とても尋常な研究者とは思えなかった。元々あの研究に携わっていた研究者などはヴィンセント達被験者にとっては理解しがたい存在でしかなかったが、とかくこの宝条という男はその域を超えているように感じられる。 研究者がその努力の結果たる書類を失って喜ぶなどということがありえるのだろうか。 いやその前に、だったらばあの研究は何だったというのか。被害者たり自分たちは何だったのだろうか。馬鹿らしい。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。 「…結果を望まないのなら、何であんな研究をしたんだ。どれだけの奴が…犠牲になっていると思ってるんだ」 黒々としたコーヒーの水面を睨みつけながら、ヴィンセントは俄か過去の中へと戻りそんなふうに声を出した。少しばかり力が篭ってしまうのは仕方無い。 しかしそんな様子のヴィンセントにさえ、宝条は嘲笑うかのような態度を見せた。コーヒーを啜る音を立てながら。 「“何で”?――――――面白いことを言うな、ヴァレンタイン君。何でも何も無い。研究というのは興味があるからするんだよ。私があの研究に携わったのは興味があったからというだけだ。勿論、結果も望んでたしな。…そして君たちは上手い具合に結果を出したじゃないか。例えば今君が此処にいることがその証拠――――――そうだろう?」 あの研究所で培った能力がこの会社に買われたんだろう、そう続けた宝条は、そう言ってからふっと笑いを漏らした。そして、言う。 皮肉だな、と。 その言葉を聞いた瞬間にカッと何かがヴィンセントの中に上り詰めた。多分それは怒りだったろうと思う。あれだけの過去を持ち、それでもそれをも越えて生きている今の自分。それを彼は、あの過去ありきというふうに言うのである。 確かにその言葉は100%否定できるものではなかった。実際あの研究所で潜在能力を引き出された子供たちは、一般の子供たちに比べれば全てにおいて長けていたのだから。 しかしだからといって、全てが全てあの過去の研究の上に根付いたものとは言われたくない。だってそれでは、自分が自分である意味すらあやふやになってしまうではないか。 まるで、作られた人間のようではないか―――――――。 「ふざけるな…!俺達はそんな存在じゃない。俺達はもう過去を捨てたんだ。それに…そうだ。何を企んでいるかは知らないが、研究結果の書類が無い限りお前の自由にはならないぞ」 水面から視線を宝条に移したヴィンセントは、その顔をきつく睨みつけながらそう声を荒げた。研究の書類さえ無ければ、問題は無い。もしあの過去の研究をどこかに応用しようとしても今では環境も違うし、その詳細すらこの世にはない。勿論ヴィンセント自身がそれに協力するつもりもないのだから、宝条が何を企んでも結果は同じである。 ―――――――と、思った。 が、しかし。 「…そうかな?」 ヴィンセントの声の響きが完全に消えてから、宝条はゆっくりとそう呟くと、ニヤリ、と笑ってそう言った。 「君は忘れていないか、私が研究者であることを。そしてこの会社には研究所があることを」 「なに…」 「例え書類が失われようと、私は“覚えてる”んだよ。脳ミソに書類があるんだよ。あんな研究はまだ欠片に過ぎない。あの研究所での欲しい知識は…」 そう言って宝条は自身の頭を指差すと、 「全て此処に詰ってる」 そう言った。 続けて、この環境は好都合だ、などと口にした宝条は、そう言ったきりヴィンセントをじっと凝視する。 その視線を受けたヴィンセントは、憎憎しげに宝条を見遣りながらもその視線から眼を離せなかった。ただ頭の中に、あの無口な男の顔が浮かび、そしてやがて消えていく。 過去を蘇らせる目前の男。そして、本来を導き出そうとする頭の中の男。 それらが今のヴィンセントの環境に共存しているという事実は、実に痛いことだった。 「ヴァレンタイン君、折角の再会だ。祝そう」 「……」 祝す気になど、なれようはずもない。それなのに宝条は、気分高揚といったふうに鼻歌などを歌いだす。それが静かで簡素な部屋に響き渡り、ヴィンセントの耳に入ってくる。…何だか妙に耳に障る。 やがて宝条は席を立つとヴィンセントの隣に腰をかけ、その肩に腕を回してきた。それは蛇のように絡みつき、これという力が込められているわけでもないのにヴィンセントを動けなくさせる。 何なのだろうか、この感覚は。 「ヴァレンタイン君、覚えているか?」 そっと、耳元でそんな声が響く。 「君たち被験者は、いつだって制御されてた。コントロールさ」 「……!?」 「潜在能力を完全に引き出され、更なる高数値を求められた君たちはそれを成し遂げた。その能力は限りない。しかし…そうだ、君たちはそれを制御されてた。何故か?暴走するからだ」 「…何を言ってる…」 聞いたことがない、そんなことは。 いや、当然だろうか。研究結果など知らされることもなかったし、何しろその書類など眼を通すこともなく処分してしまったのだから。 「能力の限界を無くすとは即ち、自然への冒涜。最早、人間レベルではないんだよ。君たちはその人間レベルを超えたにも関わらずその力を制御されてた。何しろ研究者は皆“人間”だったからねえ」 ドクン、と心音が鳴る。 もう一度、ドクン、と。 「……そんなはずはない…!俺は、俺達は普通の…」 「違う」 強くそういわれ言葉を止められたヴィンセントは、最後に囁かれた言葉に眼を見開いた。 「能力限界を超えた証拠、それが――――――」
「その赤い眼だ」
暫く、動けなかった。 動けないまま、思っていた。 あの――――――無口な男のことを。 ああ…そうだ。 何をやっているんだ、こんな事をしている場合ではない。早く行かなければ。早くあの男のところに行かねば、約束が…。 そう心の中で思う中、隣に座っていた宝条は、ヴィンセントの髪にそっと触れ、それからその首筋に手を這わせていた。 「君のような存在が必要なんだよ、私には」 手は、シャツの合間をすり抜けて肌を弄り始める。やがて胸の突起に辿り着くと、宝条はそこを指の腹でクイと撫で始めた。それも数秒するとすぐにそこは硬くなり、宝条の顔は笑みで歪んでいく。 「君のような存在が欲しいんだよ、私は」 そう言いながら宝条はシャツのボタンを外すと、完全に曝け出された肌を万遍なく撫で上げ、そうした後にズボンと肌の間に手を滑りこませた。奥へ奥へと進入する手が、やがて性器に辿り着く。 そこまできてヴィンセントは初めてビクリ、と反応した。 下半部で蠢く感覚。 「…いや、正確には君を超える存在が欲しいんだが…」 囁く声が、頭の中に反芻する。それは、下半身からの刺激による麻痺と共に、ヴィンセントに眩暈を覚えさせた。
「逃れられないよ、私からは」
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