Shin-Ra Syndrome [ 1st section ]
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- OUT - 再会
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神羅がミッドガル市から反乱分子の排除を依頼されたことを、神羅の重役達はそれとなく悟っていた。基本的にはそれはプレジデント神羅とミッドガル市長ドミノの密談からの約束事だったが、ミッドガル市に籍 をおいている住民としてそういった噂は耳に入ってしまうのだ。 神羅という一企業、それが市と結託して“そういう事”をするのはどうなのか。そういう考えを持つ者が無かったわけではないが、しかし表面上は誰もそのことを口にはしなかった。ただ、心の中で舌打ちする程度の話である。 そして、宝条もやはりそのクチだった。 神羅製作所というこの会社に、宝条は興味がない。何故此処にいるのかと問われればそれは、単にそこに配属になっただとか、研究設備が整っているだとか、そういったことだけである。 しかし、少し興味があるものも―――無いではない。 それは、あの男。 宝条は以前、ある研究所に勤めていた。その研究所は民間の医療系研究施設で、表向きは医療関連の研究ということになっていたが、その実、行っていた実験は少し種の違う事柄だった。 人間の能力の限界を失くす…それが研究の課題。 敢えて閑散とした貧しい土地に建てた立派な研究所は、その環境を手玉にとって、まだ若い子供たちを集めた。それは卑劣ともいえるやり方で、貧しいのを逆手にとった所謂人身売買のような遣り方であった。平たく言えば、子供を引き渡せば金を出す、という手口である。その土地は昔、奴隷制度という歴史を持っていたので、そういうやり方が上手く使えると踏んだのだ。 結局そういった甘言に誘われ、金と引き換えに子供を差し出した親が数十人。その子供たちを吟味し、その中から平均より能力値の優れた子供を抜き出した。能力値とはいっても、その時点では記憶力だとか瞬発力だとかそういったものである。とにかくそういった元来持ち合わせているものが優れている子供を、その研究所は、研究材料として選んでいった。 研究は、実験から始まる。 筋の良い人間を、更に頑丈に育て上げる。勿論それは戦闘という舞台を想定しての実験である。本来人間が持ち合わせている数々の能力の限界というものを消し去り、ある意味では人間をも超える「存在」を作り上げようとしていたのだ。 戦闘を想定してというが、実際にそれがどこかの国や団体からの依頼で行われたということは聞いたことがない。ただ、その研究所が出来た理由自体がそこにあった。 宝条はそこの研究員の一人だった。 研究員は全部で15人いたが、今は宝条以外の研究員はこの世にいない。それが何故かといえば、研究材料たる子供たちが研究員を殺し、そして逃亡したからである。その研究は長岐に渡って行われていたため、実際にそのような事件が起こった時分には彼らは子供ではなくなっていた。 しかしとにかく普通よりも能力値の高い彼らが、研究員たちを殺し、そして脱走をはかるというのは良く考えれば予想できそうな話だった気がする。そうして反発をされれば、どんなに優れた頭脳を持っている研究員たちだろうと、研究材料たる彼らには敵わないのだから。 しかし彼らはごく一般的な遣り方でもってそれを実行した。しかし手を抜くことはさすがに無かった。何しろ、命を奪うだけでは飽き足らず、更にはその研究所から研究書類の全てを盗み消去し、最後には建物に火までかけたのだから。 確かに彼らにとってその研究所は、忌々しい存在だったろう。分からなくもない、そう思う。 しかし彼らの唯一の落ち度は、宝条の存在だった。 火が放たれ全てが消失したと思われたその日、その建造物の中に宝条の姿は無かった。つまり、宝条はその事件を免れたのである。何ということはない、単なる用具の買出しに行っていただけだった。帰ってきたとき、その場に何もなくなっていたことには驚いたが、宝条はさしてその事件自体には驚きをもたなかった。 どうせいつかはこんなこともあるだろうと、そう思っていたからである。 宝条はその研究所の中でも最年少の研究員だった。しかしながら、頭脳の点でいえば最高の域に達しており、それは他の年長研究員にとっては少し嫌な事実だったろう。それも宝条は分かっていた。だからそこは少しゆとりを持って、いうことを聞いていたのである。 とはいえ―――心の中では嘲笑っていることが多かった。 頭の悪い彼らには、うってつけの最期。 今までの研究の成果も台無しだが、宝条にとってはそれでも構わないことである。宝条はその研究で助手的な役割しかしなかったが、その実その研究の大部分を理解していた。どうすれば期待する結果が得られるか、その為の必要なものは何か、そういったことは分かっていたが、それでも宝条はそれを口には出さなかった。ただ、そこで得た知識をため続け、本当の己の研究のために利用しようと考えていたのだ。 その研究所がなくなり実際の働き口をなくした宝条は、その後他の研究施設を転々としていた。潜り込んでもレベルが低いと感じたり、己の目的に利用価値がないと判断した場合はすぐさまそこを去っていった。 そうして辿り着いたのが、ある小さな研究所である。そこは大して宝条の目的にあった研究をしていたわけではなかったが、研究所長は宝条の好むような研究に近いものをも理解する人間だった。ビルディとかいう男で、若いながらも研究所を設立した男である。 その男の口利きで、こうして今は神羅製作所内の研究所にいる。 悪くない環境。 しかし一番のネックは、その男の兄というこれまた研究員をしている男の存在だったろうか。実質的にそのガストという男が指揮をとることとなったこの研究所は、ガストの人柄のせいか少し緩んでいるような気がする。研究目的はいまいち希薄、ガスト自身も弟ビルディからの依頼でこの研究所の統率となったのだから仕方無いことかもしれないが。 そんな中で研究員として身をおいていた宝条に、少しばかりの興味を与えたものは、ある一人の男である。 その男は、かつて宝条が身をおいていた例の研究所―――金で子供を買ったあの研究所の、実験材料の一つだった。 その時集められた子供の中の一人。 能力値も高く、しかも彼は端正な顔立ちをした青年だった。 子供たちの中でも年齢が高かった彼は、実際に宝条と2つほどしか歳の差がない。研究の後半から携わったせいか、出逢った時にはもう彼は十八歳くらいだったろうか。 まさか―――――――その彼と、この神羅製作所で再会しようとは。 偶然で皮肉。 最初顔を合わせたとき、彼はとても信じられないといった目付きをしていた。それを見て宝条は心底悦に入ったものだったが、残念ながらこの神羅製作所は企業であり各部署で分かれているせいか、その後顔を合わせるといったことが無かった。この神羅のどこかにいることは分かっていたが、だからといってどこでどんな仕事をしているかということは分からない。それさえ分かれば、宝条にとってこの場所はもっと楽しいものだったろう。 そして今、ようやくその時がやってきたのである。 それは、例の反乱分子の排除の噂を耳にしたことがキッカケだった。 その話はどうせヘッド同士でひっそり行われたものと分かっていたが、その排除を実際に誰が行うのかという部分が最初、宝条には疑問だった。そもそも神羅というのは基本が家具販売の会社で、最近になって兵器開発という新事業を組み込んだのだから、そういった裏的な仕事を担うような人物はいないはずである。それが今こういった話がでて、それを実行しようとしているというならば、それなりの人物がいていいはずだった。 ――――――何でも神羅製作所は、調査課を立ち上げたらしい。 そんな事も聞き知ってから、宝条はかの青年のことを思い出した。 あの青年…ヴィンセント・ヴァレンタインという青年は、相当能力値の高い人間。その彼がこの神羅製作所で行うだろうと考えられる仕事は、兵器の開発か若しくは…それではないか。調査課というのが何の調査をするために立ち上がったのかは分からなかったが、紛争助長という現状ではそういった仕事に危険が伴わないとも限らない。しかしもし彼ならば、そういった危機を脱することは簡単なはずだ。 彼に会えれば…そう、思う。 彼に会えれば、もっと面白いことができる。
ほぼ研究所内から出ることがなかった宝条がそこを出た日、たまたまヴィンセントは仕事の現況報告をプレジデント神羅にしていた。その仕事はそろそろヴィンセントの心の負担になっていたが、それでもたまにはこうして報告しておかねばならない。 そうして報告を終え、社員用の休憩室で少し休もうなどと考えたのが、更なる苦痛の始まりだった。 その休憩室では数多くの社員が休んでいたが、その中でも白衣姿というのは妙に目立つ。 そういえば神羅製作所には何故か研究施設があるのだったか、そんな事を思い出しながらヴィンセントは周囲を見回していた。 しかし、ある男を見て動きが止まる。 「…!」 白衣姿の男――――あの顔は忘れもしない、宝条。 ヴィンセントは即座に顔を下に向けると、走った緊張を抑えるように呼吸を整える。 神羅に入ってすぐの時期、やはり一度その男を見たことがあった。その時は心臓が止まるかと思ったものだが、その後会うこともなかったのですっかり忘れていた。 あの宝条という男は、ヴィンセントが過去にいたある研究所で研究員をしていた男の一人である。その研究所はヴィンセント以下何人かの人間によってその成果も建物も、存在もすべて消し去ったはずだったが、そこには一つの落ち度があり、それこそがあの宝条の存在だった。 あの忌々しい研究は全てこの世から消し去ったはずで、被害者たる自分たちもそれは今後一切口に出さず、知らぬ人間同士として生きてくことを誓っている。連絡も取らない、それが約束だ。しかしそれ以外にも、あの研究や過去を記憶として持っている人間が、此処にいたのである。 それは正に、落ち度だった。 何とか自分に気付かずにこの場を去ってはくれないだろうか、そんな事を思いながらヴィンセントはチラチラとその方向をチェックする。 幸いこの場所には数多くの社員の姿があるし、こうして目立つようにしていなければ見過ごしていくだろう。 そんなヴィンセントの思惑通り、宝条は少ししてその部屋を出て行った。 ―――――――セーフ、か…。 ホッとする。 もしまた会ってしまったら、あの男はきっと過去を持ち出してくるに決まっているのだ。それが実際に今の状況でどう問題になるかということは分からないし、今あの宝条が行っているだろう研究があの頃と同種とも限らないが、それでも心に負担がかかるのは避けたいことである。 それに今のヴィンセントには、そんな事で悩んでいる暇はない。 自分に課せられた使命と、現実とのギャップ、それに悩むだけで精一杯なのだから。 宝条が去って暫く間をおくと、ヴィンセントは時計を確認してから立ち上がった。予定ではこの後、例の如く反乱分子と呼ばれている彼らに接触をはかることになっている。仕事上でそれは接触だとかいう固いもの良いになってしまうが、実際の彼らとの関係にあってそれは「約束」だった。この時刻に此処で、そんな軽い約束。 行かなければ――――そう思ってヴィンセントはその部屋を出た。 …が。 「…っ!」 するりとドアを抜けた、その先。 ゆっくりと上げた顔の、視線の先。 視界に映った姿にヴィンセントは言葉を失った。 ――――――何故…!? 「…宝条…」 思わず見開いた目の中で、予定ではそこにいないはずの宝条が笑みを浮かべていた。 あの頃と変わらない白衣姿で、奇妙な雰囲気をたたえながら。 ドクン…心音が高鳴る。 しかし感情を何とか押さえ、とにかくこの場を去らねばとヴィンセントは考えた。もう時間だし、約束を破るわけにはいかない。 そうだ、何の問題もないはずだ。この男は単なる神羅の社員に過ぎない。その男に会ったところで挨拶でも交わしておけばいいだけの話だ。 だから―――。 「どうも」 そんな陳腐な言葉をかけてから、その場を去ろうとすっと身を翻したヴィンセントに、声は容赦なく降り注いだ。 それはとても嫌な響きをもって耳に入り込む。 「――――少しは凡人の生活にも馴染んだのか、ヴィンセント・ヴァレンタイン君?」 動きは、止まっていた。 「……」 「大層な仕事を請け負っているそうだな。役立っているだろう、あの頃が?」 「……」 「しかし君には勿体無いが」 止まったような空間の中で、ヴィンセントは手に力をこめる。こんな煽り言葉の一つや二つに、動揺している場合ではない。時間がない。 しかし―――――――。 「君に会いたかったんだ」 そう言って腕を掴まれると、ヴィンセントは先の一瞬の動揺に後悔をすることになった。掴まれた腕からすっと力が抜け、そうしている相手の手には力が篭っていく。 腕にはめた時計は着実に時を刻んでおり、秒針は容赦なく動きを続けていた。 ―――――――OUT。
約束の時刻を告げる時間の中で、思い出していたのは……あの、無口な男の顔だった。
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