Shin-Ra Syndrome  [ 1st section ]

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- SECOND HOMETOWN - 消えない過去

 

 

 

銃声が響いた。

その銃声の後、一羽の鳥が地面に落ちた。見事、的中したのである。

その一部始終を隣で見守っていた男は、その的確な射撃に、ほう、と声を漏らした。

「さすがだな、ヴィンセント」

「いや…」

そう言いながら煙の上がる銃を丁寧にしまいこんだのは、黒髪の綺麗な青年だった。彼は射撃が得意だった。元々、得意だったわけではない。ただ、そうならざるを得なかったのだ。その過去を思い出すと、少しばかり胸が痛くなる。

過去―――――――思い出すのも忌々しいかもしれない事実。それはヴィンセント自身も誰にも口に出していない事実だったが、いつでも胸の中には根付いていた。

 

 

 

民間の医療系研究施設。

それはまだ幼い頃のことだったが、ヴィンセントはその研究施設に強制的に入れられ、研究の対象にされていた。その研究は当初、IQ値だとかいう、平たく言えば頭の良さだとかそういうものを測るものだった。そこに集められた人間は10人ほどいただろうか。

その10人は、確実に学習能力や運動能力に優れており、それを増強するトレーニングなどもさせられた。

どうしてそんなところに送られたのか…その理由は歴然だった。親が、子を売る。そんなことは、ヴィンセントの故郷では普通だったのだから。

街全体がそうそう潤っているわけでもないその土地は、その土地特有の植物も育たなければ、炭鉱などもなかった。つまり街としての収入が何も無かったのだ。当然、個々の家もそんなに潤うことがない。

そこに付け込んでやってきたのがその研究施設で、能力値の高い子供を研究材料として差し出せばそれだけの謝恩金を支払うという甘言を投げかけたのだ。

そうして、ふるいにかけられた上でそこに集まった10人。幼心に忌々しいと思った。この研究をして何が得たいのか、能力値の高い彼らにはしっかり分かっていたのだから。

普通の人間と何が違うのか――――――その答えを導き出し、その上、それ以上の人間を作り出そうという目的。

正に罪深い研究だった。

その研究は数年に及び、その中で色々な実験を施された彼らは、次第に能力を高めていったが、中には発狂するものもいた。能力値が高くなりすぎた上での発狂だった。

それを目の当たりにしながらも、彼には分かっていたのだ。その研究に依存して己を高めるのではなく、それを違う視点から抑える方法。何とか自分の中でそれを制御することで、発狂を逃れたのである。

しかしそれが限界になった原因といえば、一つだった。

完全な能力値を携えたその数人に、研究者はある日言ったのだ。

“殺し合いをしてみなさい。全力で”

―――――――何てことを言うんだ!

ほぼ同等と捉えられていた彼らの能力値の差を測るためだけの言葉。しかしそれだけは許すことができなかった。今まで数年も同じ苦痛を味わってきた仲間と、殺し合いなどできるはずがない。そこにはしっかりとした人間の命がある。しかしそれさえも研究の為の犠牲だとしか捉えていない施設の人間達。

許せない。ただ、そう思った。だからヴィンセントは決意をしたのだ。

施設内で教わっていた玩具のような射撃を完璧にマスターしたのはそのためだった。他のメンバーはその頃には5人ほどになっていたが、彼らと相談した上で各自が色んな技術を高めた。

そしてその日。

ヴィンセントはその研究所の人間を、一人づつ撃ち殺した。確実に心臓を狙って。

誰かはその施設に火を放ち、誰かは研究の詳細書類を切り刻んだ。

そうしてその研究もその施設も、この世から消え去ったのである。忌々しいものが消えたのである。

彼らはその後、約束をした。もう二度とこのことは口にせず、連絡も取らない。各地に散り、見ず知らずの人間同士として生きていこうと。新しい人生を歩もう、と―――。

 

 

 

「ヴィンセント」

呼ばれて、ヴィンセントははっとした。いつの間にかボーッとしていたらしい。つい過去のことを思い出すとこうなってしまう。

しかしそれは誰にも口外できないことだった。

「どうしたんだ、ボーッとして」

陽気な仲間に囲まれてバーで飲んでいる最中だったらしく、周囲の人間はもう既にほろ酔いでいた。

「ああ、悪い」

「またまた〜!ヴィン、そんなだから女に逃げられるんだぞっ!」

そんな言葉に微笑を漏らす。きっと先日のことを言っているのだろう。先日は誘われてベットまでいったものの、それ以上は結局手を出さなかった。別に彼女が嫌な訳でもないし、返って魅力的な女性だったと思 う。けれど、別に好きではなかった。それだから手が出せない。

「お前は真面目すぎるんだ、ヴィン。此処の町は自由も自由なんだからさ、もっとラフに行こうじゃないか」

「俺はこれでもラフにやってるつもりだけどな」

「そうかあ〜?」

全然そう見えないよ、等と笑いが起こる。それでも嫌な笑いじゃなく暖かい。余所者だったヴィンセントを受け入れてくれたのは、そういう陽気な部分があるからなのだろう。

ヴィンセントはつられて笑いながらも思っていた。こういう環境は有難い。彼らは何も聞いたりしないし、何も責めたりしない。

狩猟の腕が良いという事実だけを認めてくれ、すぐに仲間にしてくれた。本当に心根が優しい人々なのだ。故郷と比べると何と差のあることだろうかと思う。

彼らの話すことといったら俗的なことが多く、それに対しては少々苦笑いも漏れるところだったが、それでも嫌気などは全く無い。やれあの女は良いだの、そんな話ばかり。

ヴィンセントは街の中でも数少ない美貌の持ち主だったので、そういう会話で良くからかわれたりもした。

「そういやさ。ミッドガルの話、聞いたか?」

ふと、誰かがそう言い出した。俗的な話が好きな彼らも、たまにはそういった世界情勢の話をする。

「何でもホラ、昔、家具販売してた会社があったろ。あれがさ、武器の開発とかしてんだってよ!社名まで変わっちまって…神羅なんとかっていう…」

「ああ、知ってる。ここ最近じゃ紛争が絶えないみたいだしな。そういうところに武器、売り込んでるって話だろ?」

その噂は各地に飛んでいた。この街では紛争などという物騒なものは一切無い。その欠片すらない。だからそれはどこか遠い世界の話のようでもあったが、実際にその武器を使用して紛争を行っている地域が世間には数箇所あった。

紛争は数年前から絶えない。世界全体で見れば、あまり良い情勢とはいえない昨今である。

ヴィンセントはその話を聞きながら眉をしかめた。そう言う内容の話はあまり好きではない。あの忌々しい研究を思い出すからである。これはヴィンセントの予想でしかなかったが、あの研究所が最終的に求めていたのは、戦闘用の人間だったとしか思えないのだ。事実、施設を焼き払ったその当時ではもう、紛争が広がりつつだったのだから。

「でもその会社!入りゃ金が良いらしいぜ。俺も腕があれば入るんだけどさ」

「腕って何の?」

そう聞かれた男は、鳥を射撃するジェスチャーをして、ニッと笑った。つまり、射撃の腕である。

「何でもそういう奴を求めてるんだってさ。で、この街にお触れが出たわけよ。狩猟っていえばウチだろ?」

「ああ、なるほど」

そんな会話の中で、男達は「でも」だとか「やっぱり」だとか色んな言葉を交差させる。実際にはそこにいくつもりは毛頭無いというのが分かる。単なる話のネタでしかないのだ。

しかし、その会話が途中で切れると、ふっと視線はヴィンセントに集まった。

そして、男の一人が少し真面目な顔つきでこう言う。

「ヴィン。お前さん、どうかな。腕も確かだし、お前ならやっていけるって思うけどな」

「俺が?俺は今のままで十分だ」

話を振られたことに幾分驚いた様子だったが、それでもヴィンセントはそう返す。しかし珍しく男はそれに反論をした。

「いや、真面目に聞けよ。実は俺、前から思ってたんだけどさ。ヴィンは腕も良いし、できりゃずっと一緒に狩猟やってきたいとも思う。だがよ、勿体無いって思うんだよ。こんな街の狩猟だけで終わるような気がしねえんだよ、お前は」

「……」

「ミッドガルは可能性のある土地だ。ヴィンはまだ若いし、試す価値はあると思うぜ」

それは嫌味とかではない。本当にそう思って言ってくれているのだ。そう分かっているからヴィンセントには辛かった。自分自身が望んでいる環境は今のままでも十分なのに、常に周りがそれを許さない。嬉しいことなのだろうが、そういう意味ではいつも願いは叶わない――――――そんな感覚に陥る。

とにかくこの場は、そう思いヴィンセントは適当な言葉を返しておいた。

 

 

 

その夜、ヴィンセントは眠れなかった。どんなに目をつむったところで、眠りにおちることが出来ない。思い出されるのはバーでの話と、あと過去だった。

過去を思い出すと、決まって気にかかる事実に突き当たる。それはあの夜。綺麗な炎に包まれて、赤い瞳を更に赤くするように炎を眼に映し出した、その夜。

ヴィンセントは確かに施設の人間を殺した。研究対象の彼らが5人に対し、研究者の方が二倍はいた。それは年を追う毎に人が変わったりしていたが、それでもその日の時点で15人だった。気にかかるのはその数字である。確かに確実に息の根を止めたのだが、それは何度思い返してみても、14人にしかならない。

数が、合わない。

まだあの研究所にはもう1人いたのかもしれない。それにしたって焼死してしまったろうが、その事実が気にかかる。こうして過去のことを思い返した日には、決まってこれが気にかかってしまうのだ。

もう今となっては、どうでも良いことなのに…。

それはともかく、バーでの話も気になる。大方は行く気など起こらなかったが、神羅という存在が気にかかった。

「馬鹿だな…やっと抜け出したのに…」

目を瞑りながらヴィンセントは呟いた。安穏とした此処での生活。それは求めた環境のはずだった。過去を捨て、一からやり直す為の土地。それなのに、そういった話を聞いただけでこうも気にかかる。

認めたくはないが、過去は消せない。あの殺伐とした過去があって、今の自分がいる。それは狩猟の腕がここまでになったこともそうだが、こうも気にかかってしまうのも一つだった。

結局、安穏とした生活よりも、根底では殺伐とした場所に行きたいという事なのだろうか。いや、そういう場所が似合っているのかもしれない。そういう場所しか、今まで知らなかったから。

その次には、街の人々の顔が浮かび上がった。それは次々と現れては消え、やがて暗くなる。

「馬鹿だな…」

ヴィンセントはもう一度そう呟くと、そのまま眠りに落ちていった。

 

 

 

その翌日、その町にはもう、ヴィンセントの姿は無かった。

 

 

 

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